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吉松隆 『すばるの七ツ』 ~二十絃箏の独奏曲・室内楽曲集
何台があるCDラックのなかみをたまに入れ替えると、聴いた覚えのないCDをいつも発見する。
今回は吉松隆の2枚のアルバムで室内楽曲ばかり。吉松作品は昔かなり凝っていた頃にCDをほとんど集めたはず。
2枚とも楽器編成に特徴があって、二十絃箏のソロと洋楽器とのアンサンブルの『すばるの七ツ』、ピアノとパーカッションの明るく楽しい『チェシャねこ風パルティータ』。
CDを買ったときに聴いたかもしれないけれど、その頃は室内楽曲はあまり好きではなかったので好みに合わなかったか何かで、全く記憶にない。
全曲聴いてみると、『すばるの七ツ』は二十絃箏は音色が美しく、曲も現代的で和風・洋風が混在していて、とっても気に入ったCD。
『チェシャねこ風パルティータ』はピアノの響きが薄いのが気になり、曲のタイプも好みに合わないものが多くて、残念ながらこれは再び長期保管用ラックに。

お琴といえば、一般には「琴」で通っているけれど、日本の和琴は「箏」。「琴」は別の楽器で奈良時代に中国から渡来したもので、やがて弦楽器全般を指すようなって、用法が混乱していったらしい。
一般的に知られている(思い浮かぶ)「箏」は弦の数が13本のもの。音域が狭くて音色も少ないので、コンテンポラリーの分野でよく使われているのは、新しく開発された「二十絃箏」の方。絃が21本に増えて音域が拡張されて、音色・音量も増強され、固定された7音階なので五線譜による記譜ができる。さらに音域が拡張されたのが二十五絃箏で、これを使った現代音楽の曲もある。(二十絃箏と二十五絃箏のどちらが良く使われているのかは不明)
二十絃箏の特徴については、二十絃箏奏者の中垣雅葉さんのホームページに詳しく載っている。

吉松隆は、二十代の頃に尺八と琵琶を中心にした変わった編成のバンドを組んでいたせいか、他にも邦楽器を使った作品をいくつか書いている。
アルバム『すばるの七ツ』には、二十絃箏の独奏用組曲が3曲、ヴァイオリン&チェロ&クラリネットとのアンサンブル用組曲が1曲が収録されている。
いずれも二十絃箏の美しく多彩な響きと、独特の緊張感がとても印象的。音域が4オクターブあり響きも多彩なので、洋楽器との相性も良い感じ。曲自体も吉松作品らしい旋律・和声の美しさと馴染みやすいモダンに加え、和洋が混在しているようなちょっと変わった雰囲気もある。人気のある『プレイアデス舞曲集』よりも、曲想も響きもヴァリエーションが多くて、これは面白い曲集。

二十絃箏奏者は吉村七重さん。この楽器の世界ではとても有名で、邦楽だけでなく現代音楽の分野で国内外とのオーケストラと演奏しているそうなので、邦楽器の中では尺八と並んで二十絃箏も人気があるらしい。

すばるの七ツ~プレイズ吉松隆すばるの七ツ~プレイズ吉松隆
(2000/02/25)
吉村七重

試聴する(米国amazon)

[吉松隆による作品解説(全曲)](左側カラムの「曲目解説」-<ソロ&邦楽>タブ)

夢あわせ夢たがえ Op.74(1998)
ヴァイオリン・チェロ・クラリネットという洋楽器とのアンサンブル。
「夢あわせ」とは、見た夢が吉か凶かを解読すること。「夢たがえ」とは、夢が凶夢だったとき夢あわせで吉夢に変えること。

絃の数が多い二十絃の響きが、洋楽器の音よりもずっと多彩。ハープ、ピアノ、パーカッションのようにも聴こえることもあり、色彩感がとても豊か。

1.水の夢:二十絃による波の音型にcl,vn,vcそれぞれの旋律が重なってゆくアダージョ
最初の方の二十絃は、ハープのような響きで幻想的。力を強めていくと、輪郭がしっかりした音になって箏らしい響きに変わる。
静寂で別世界のように時間がゆったりと流れている曲。スローなテンポのなかを二十絃が変則ぎみのアルペジオのような音型で規則正しくリズムを刻み、その上を弦楽器とクラリネットがいきの長い旋律を弾いていく。

2.木の夢:ピチカートの乾いた響きによる間奏曲風スケルツォ
二十絃のピチカートの響きは鋭いけれど、細かく強弱を変えていくと、すぐに響きが変化するので、起伏が多く聴こえる。
二十絃と他の楽器がこだまするように交互に断片的な旋律を弾いているところはあっても、この曲は二十絃のソロがメイン。

3.火の夢:二十絃の変拍子のオスティナートに全楽器が重なってゆくアレグロ
最初は静かに規則正しいリズムで始まり、このミニマル的な二十絃のリズムが不思議な疾走感。
そのリズムが徐々に熱を帯びたように力強くなり、楽器の響きが重層的になり、旋律も躍動感がでていく。
二十絃のグリッサンド(といえば良いのか)が少し入っていて、これが華麗でシャープな響き。

4.雲の夢:弦のロングトーンに二十絃のソロが静かに浮遊するアンダンテ
時々ピアノにも似ていたりする二十絃の響きの変化が多彩。
日本風の箏曲らしい旋律が混じっているように感じるせいか、誰もいない静謐な日本式箱庭風のイメージがする。

5.空の夢:協和音の大気の中に全楽器が穏やかに漂うフィナーレ
遅いテンポで、二十絃が規則正しく刻むリズムの上を洋楽器がとても息の長い旋律を重ねていく。
高揚感のある曲ではなく、現代音楽で多い静寂なフィナーレ。

すばるの七ツ Op.78(1999)
「すばる」はプレイアデス星団の和名。ピアノソロ曲集『プレイアデス舞曲集』の姉妹作のような性格の曲。
この曲集は、二十絃だけで和音伴奏と旋律を弾いているので、まるでピアノソロを箏で聴いている気がしたり、二十絃が響きが多彩なので複数の楽器によるアンサンブルにも聴こえたりするので、独奏曲だと二十絃の表現の多彩さがよくわかる。

1.月(MOON):七音の主題によるプレリュード
ハープのような響きがちょっとファンタスティック。

2.火(FIRE):いくぶん情熱的なアレグロ
和音伴奏と旋律の部分に明確に分かれていて、まるでピアノソロを聴いているような感じ。
旋律は短調で哀感があるけれど、二十絃の響きがシャープなので力強さがある。

3.水(WATER):水のように揺れるモデラー
水気のある響きはパーカッションのような感じがして、ちょっと箏で弾いているとは思えないような気もする。

4.木(WOOD):乾いた木質のスケルツォ
冒頭はちょっと木質感があるけれど、テクノっぽい響きのする音。
ギターやエコーのかかったヴァイオリンのような響きも入ったりして、タイトルどおり木のゴツゴツとした質感のある響きが面白い曲。

5.金(METAL):かすかに光沢のあるアダージョ
伴奏はパーカッションのような柔らかい響きで、旋律部分が二十絃らしいシャープで明瞭な響き。

6.土(EARTH):今までの楽想を回想するアレグロ
これは二十絃らしい輝きのあるシャープな響きがとても華麗。

7.日(The SUN):主題の提示と冒頭への回帰
二十絃の鋭く響く旋律が力強く、ややゆったりめのグリッサンドを挟んで、弱音の主題がエコーしてフェードアウト。


もゆらの五ツ Op.41(1990)
 「もゆら」は古語で「響き」の意味。吉松隆自身の解説では”人間の持つかすかな希望や、乾いた夢のような絶望、透明な諦感、遠い不安、そういったものたちの破片が、木に触れ、絲をかき鳴らす、そんな音の軋みの五つの情景。あるいは誕生から死までの一幅の変奏曲とでも言ったらいいかも知れない。”

1.調
これは使っている音階のせいか、箏曲でよく聴く風流な和風の雰囲気が漂う旋律。
2.急
ミニマル的でエキゾチックな雰囲気の漂う旋律は、スペイン風(?)の哀愁と情熱が入り混じっているような。
3.連
冒頭はペルト風の静寂でまばらな音がミニマル的に響いている。
時々和風の旋律が混ざっているけれど、それを除けば本当にペルトを聴いているような気がしてくる。
ご丁寧にも最後にチ~ンと鐘が鳴っているのは、”ティンティナブリ”の意味に聴こえる。(ちょっとパロディ的?)
4.緩
これもペルト風と和風な旋律と響きが混在して、最後は鐘の音で締めくくり。
5.舞
とても華やかな”舞”のイメージどおりの曲。
単音の主旋律と副旋律の異なる動きの旋律が絡み合っていく。締めくくりは力強く華麗なグリッサンドとトリル。やわらかなグリッサンドから静かなコーダへと移って、箱庭風旋律が流れて、最後はまた小さく鐘が鳴る。


なばりの三ツ Op.54(1992)
「なばり」は古語で「隠れる」の意。陰旋法ならぬ「隠旋法」(Re,Mi♭,Fa#,Sol,La,Si♭,Do)で編まれている。

1.緩:暗い主題(レント)
冒頭は和風の響きの入り混じったペルト的な静寂で瞑想的な主題。
ときどき絃を擦るようなざらついた響き(よく時代劇の効果音で出て琵琶のような音)が入ったり、典型的な和風(風流な箱庭的な風景で流れるような)の旋律も挿入されている。

2.急:展開(アレグロ~プレスト)
初めは序奏のように動きが緩く、駆け出そうとしては立ち止まるような動きの旋律を何度か反復。
ようやくエンジンがかかったようにテンポが上がり、ギターで弾くような動きの旋律は、スペイン風と和風が混在したような哀愁感と情熱的な雰囲気。
最後はオスティナートで徐々にテンポが落ちていく。再び疾走し始め、テンポの速いアルペジオの伴奏も入ったりして疾走感があり、最後は力強いグリッサンドとトリルでエンディング。

3.緩:暗い回帰(レント)
再び静かなペルト風の主題が始まる。第1曲の半分くらいの長さで主題の旋律が明瞭に再現されて、全体的にはソナタ形式のような構成。

吉松隆は《なばりの三ツ》のライブ演奏で解説をしていて「人生の荒波に翻弄され、苦悩する作曲家の姿とか、ベートーベンのピアノ・ソナタなどをイメージして聴いて下さい。」と言っていたそう。
<ミモザのおでかけ日記>の”CD「すばる」発売記念 トーク(吉松隆)&ライブ(吉村七重)”に書かれていました)

tag : 吉松隆 吉村七重 二十絃箏

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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