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フェルナー ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番、第31番、第32番(ライブ録音)
ティル・フェルナーの2010年6月10日ウィグモアホール・リサイタルのライブ録音が、ウェブラジオで放送されていた。
このリサイタルは、フェルナーが世界5都市(NY、ロンドン、ウィーン、パリ、日本)で行っているベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会の一環。今回はベートーヴェンの最後のソナタ3曲。
6月7日のウィーン・コンツェルトハウスの同じプログラムのリサイタルも数日前にライブ録音が放送されていたけれど、そっちは聞き逃してしまった。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタのなかでは、第31番と第32番が一番好きなことと、フェルナーのバッハの平均律集録音が素晴らしく良かったこととで、フェルナーの弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタにはとても興味があって、実演を聴きたいのに、日本公演は東京(トッパンホール)しかない。一応大都市とはいえ大阪はやっぱりローカル都市だとこういう時に実感していまう。
フェルナーのチクルスは、ウェブラジオでも良く放送されているので、初期・中期のピアノ・ソナタはいくつか聴いている。この最後の3つのソナタでは、どんな演奏をするのでしょう?

ウェブ経由なので音質はあまり良くないけれど、柔らかい音の響きがいろいろ変化していくのは感じられるので、実際にホールで聴けば、フェルナーの音はかなり綺麗に聴こえるに違いない。

第30番は苦手な曲ではないけれど、他の2曲ほどにいろいろ聴いてはいないので、詳しくはなんとも言えず。
速いテンポの第2楽章や、曲想の異なる変奏が多いので、他の2曲よりは強弱のコントラストがやや強めで、起伏が大きく、曲想の変化や躍動感などは、良く出ていた感じ。聴衆の拍手もわりと熱が入っていた。この曲もそのうち集中的にいろいろ聴かないといけない。

                              

第31番の第1楽章は、丸く柔らかさのある低音と澄み切った高音が絡み合って、響きの印象がとてもよい。フェルナーの音質はやや軽めで明るさと柔らかさがあって、とても心地良い響き。
テンポもやや速めで軽やか。ふわ~と夢見るような明るさと上品さで、とても綺麗で開放的な雰囲気。

第2楽章は、あまりフォルテを強打しないので強弱のコントラストは緩やか。軽やかなタッチだけれど、表現は微妙な明暗が交錯するような繊細さ。

第3楽章は、それほど遅いテンポはとっていないし、弱音もそれほど弱さを強調していないので、内省的に深刻そうな表情ではなし。柔らかい弱音の低音の和音にのせて、それほど大きく起伏をつけずに静かに流れるような叙情感。
続くフーガがとても素晴らしくて、バッハの平均律の演奏を思い出してしまう。弱音の柔らかい響きのなかでも、声部ごとに響きの違いをしっかり出しているので、声部の弾きわけが明瞭で、複数の声部がとても自然に分れて聴こえてくる。
2度目のアリオーソは、最初よりもやや旋律の起伏やテンポの揺れが大きくなり、ややウェットな感情的な強さは感じさせる。2つのアリオーソには、あまり感情移入の強い表現は避けてやや抑えたタッチで、静かだけれどなぜか芯の強い感情が流れているよう。

2度目のフーガもテンポはそれほど落とさず、柔らかい響きで始まる。
テンポが徐々に上がって、最後のフィナーレ部分はかなり速い。それでもバタバタとスピード感と強いフォルテで押していくタッチ(こういう弾き方になる演奏が結構多い)ではなく、この速いテンポの中でも、左手のアルペジと右手の旋律も起伏を細かくつけた表現がとても繊細で、引き締まったほどよい高揚感がとても爽やか。

全体的に、大仰な感情的な表現を抑制して、ゆるやかな起伏の中に繊細さを感じさせる表現がフェルナーらしく、響きの美しさと微妙な陰影のある叙情感がとても印象的で、品の良さを感じさせるところが素敵。

今まで聴いた第31番の録音のなかで、印象に残っているのはアンデルジェフスキのライブ録音。これは、一度聴くと忘れられないくらいドラマティック。
フェルナーの第31番は、そういうドラマティックさはないけれど、フェルナーらしい響きと微妙な陰影のある繊細さな表現が美しい演奏で、こういう演奏も全然悪くはなくて繰り返し聞いても良いなあ..と思わせてくれるくらいに良かった。
聴衆の反応もかなり好意的で拍手にも熱が入っていて、ブラヴォーの歓声が飛び交ってました。

                              

最後の第32番のピアノ・ソナタの演奏を聴くと、フェルナーらしい弾き方ではあるけれど、物足りなく思えてしまったというのが感想。

第1楽章は、フェルナーらしく、あまり大きく起伏や緩急の変化をつけていないし、フォルテもそんなに強い打鍵していないので、持ち前の響きの柔らかさもあって、陰影や急迫感が希薄。この曲にしては、ちょっと密やかな雰囲気で淡々と進みすぎる感じがする。

第2楽章の主題は、テンポはそれほど速くはないけれど、わりとさらりとしたタッチで響きも明るい感じ。強い内省的な雰囲気ではなく、静かにさらさらとした叙情感が流れていくよう。

第1変奏や第2変奏もテンポやリズムは変わっていくけれど、響きの柔らかさと深く感情移入するような表現をとらないようにしているせいで、雰囲気的には似かよってくる。

第3変奏は、フォルテもあまり強くはなく起伏は緩め。特に印象的なのは、かなり変わったリズム感。
符点のシャープなリズムがなぜか3連符的に緩やかで、フレーズによっては、符点ではなくほぼ均等な長さに聴こえる。
ここまで符点のリズムを緩くした弾き方を聴いたことがないので(”リズムが鈍い”と思う演奏はよくあるけれど)、わざとそういうリズムをとっているのはなぜなんだろうと、とっても気になってしまった。(もしかして、最近はこういう解釈が増えているのだろうか?)

(追記)ブレンデル(フェルナーのお師匠さん)の1995年日本公演のライブ映像の見ていたら、フェルナーと同じような弾き方をしていた。使用楽譜か演奏解釈かの理由で、こういう弾き方を意図的にしているのでしょう。

第4変奏以降は、弱音の響きとヴァリエーションが多彩で、ペダルで重なる響きの柔らかさもとても綺麗に聴こえる。
終盤にかけて、左手のアルペジオの起伏をかなりつけて波のうねりのような響きを出しているけれど、テンポがそれほど速まることなく、ゆったりと進んでいくので、高揚感があまり強く出てこない。

色彩感はあるけれど、もともと響きがまろやかで時々フェルトをかけたような感触なので、第2楽章のような弱音の多い変奏が続くと、強弱のコントラストが強くないために、音が均質な印象になる。
それでも、フーガだとポリフォニックな旋律の交錯するところを響きの違いを出すことで、弱音でも面白く聴かせることができるけれど、こういう左手伴奏・右手旋律でさらに音の厚みが薄いホモフォニックな曲では、平板に聴こえがち。

ホールで聴けば音の色彩感がずっと明瞭になるのだろうけれど、緩急・強弱のコントラストが弱いので、淡々と平板に進んでいく印象はあまり変わらないと思う。
この曲の演奏に対する聴衆の反応はあまり良くはなかったような...。少なくとも第31番よりは悪かった。拍手はあったけれど(ちょっと熱が入っていない感じ)、ブラボーの歓声はなく、ホールのざわつきが聴き取れる。

やっぱりこの最後のソナタは難しい。第31番の演奏の方はとても良かったので、リサイタルで実際に聴いてみたいもの。スタジオ録音が出たら必ずCDを買うでしょう。

tag : ベートーヴェン フェルナー

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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