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アラウ&ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管 ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集.
アラウのベートーヴェンピアノ協奏曲の録音は、スタジオ録音、ライブ録音がいろいろ出回っているけれど、全集版はスタジオ録音が3種類。
 ガリエラ指揮フィルハーモニア管(1958年,EMI他)(これはめったに見かけない)
 ハイティング指揮コンセルトヘボウ管(1964年,Philips)
 ディヴィス指揮ドレスデン・シュタッツカペレ(1984年-87年,Philips)

一番有名で良く聴かれているのは、3度目のディヴィス&ドレスデン・シュタッツカペレとの最晩年の録音(新盤)。特に第4番は名盤とされているので、推奨CDカタログによく載っている。
この最後の全集録音は、ちょっと遠くの方からピアノの音が聴こえてきて、残響は長めで、やや暗い色調のしっとりした響き。
この音響のせいか、ピアノは細部がちょっとクリアでないところがあるけれど、逆にテクニカルな問題はこれでかなりカバーされているので、演奏そのものに聴きづらさは感じない。
この音響と超スローテンポのアラウのピアノが相まって、悠々とした大河のような深みのある落ち着きと時間の流れを感じさせるところが魅力的。
ピアノはやや力感が弱くて起伏も緩やかだけれど、オケの厚みのある響きとメリハリのある伴奏がそれを補っていて、(このスローテンポが許容できる人なら)平板さや演奏の緩みを感じさせない。

アラウのベートーヴェン録音は新盤・旧盤とも、ソロ・協奏曲が軒並み廃盤になっているけれど、まだ簡単に入手できるのは、ピアノ協奏曲第4番と第5番。これは新盤の方。
Piano Concertos 4 & 5: EmperorPiano Concertos 4 & 5: Emperor
(2001/03/13)
Claudio Arrau, Sir Colin Davis, Dresden Staatskapelle

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ガリエラと録音した1958年盤は聴いたことがないし、レビューもほとんど見かけない。レビュー評がいつも的確で信頼できる(と私は思っている)<鎌倉スイス日記>さんの評価が高いので、これは聴いてみなければと思って、ずっと探しているところ。

2度目(旧盤)のハイティンク指揮コンセルトヘボウ管との録音は、あちこちのレビューで”若いハイティンクの指揮が力不足”...なんて厳しくコメントされている。
伴奏はともかく、旧盤の60歳前後のアラウの演奏は、技巧的に安定して切れ味よく、明るい色調の伸びやかな響きで、調和のとれた安定感があって、全盛期の演奏はやっぱり安心して聴ける。
音質は残響が少なめで、ピアノパートの細部までくっきりと明瞭。やや木質感のあるピアノの音がまろやかで、アラウのタッチや多彩な音色と響きを伝えてくれるので、この音質も全然悪くない。

旧盤の廉価盤。第4番と第5番のピアノ協奏曲をカップリング。第1番&三重協奏曲の廉価盤もある。
ピアノ協奏曲全集はソナタ全集と一緒になったBOXセットがあったけれど、これも廃盤。
Piano Concertos 4 & 5 - EloquencePiano Concertos 4 & 5 - Eloquence
(2001/04/10)
Claudio Arrau,Bernard Haitink,Royal Concertgebouw Orchestra,

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旧盤のピアノ競争全集は、アラウの完全にコントロールされたタッチから出てくる音の美しさと響きの多彩。これはピアノ・ソナタ全集でもなかなか聴けないくらいに素晴らしくて、そこを聴くことができただけでも充分。
ペダルを使ったときのスケールやアルペジオの重層的で濁りのない響きは、ベートーヴェンというよりドビュッシーでも聴いているような気がするくらいに美しい。
弱音の繊細さとニュアンスの多さはソナタ全集でも感じたことで、やぱり協奏曲でも同じ。
ベートーヴェン弾きのイメージが強かったので、なぜ昔からドビュッシーを弾いていたのか不思議だったけれど、最近旧盤を聴き直していて、それがわかったような気がする。

旧盤でよく聴くのは、第1番、第3番、第4番。モーツァルト風の第2番はまず聴かないし、第5番もあまり好きではないので、思い出したようにたまに聴くくらい。


第1番は、急速系の両端楽章でも、アラウは慌てず騒がず落ち着いた穏やかなトーン。
マルカート気味の打鍵で線が太めの芯がある響きには、地にしっかり足がついたような安定感があり、弱音は柔らかくまろやかな響きで羽毛のようなふんわり暖かな感触。
この曲にしては、ちょっと大人しいすぎる気がするので、もうちょっと躍動感とか輝きが欲しいなあという感じはする。

面白いのは第1楽章のカデンツァで、普通弾かれているバージョンと違っている。
ベートーヴェンは3つカデンツァを残していて、1つは未完成(楽譜の最終小節には、この続きは紛失(missing)と書かれている)。
完成した2つのうち1つは、2頁程度の短いもの。残りの一つが、ほとんどのピアニストが弾く長いカデンツァ。
今まで聴いた録音のなかで、自作カデンツァを弾いているのは、バックハウスとケンプ、それにアンダ。

アラウが弾いているカデンツァは、楽譜を見ながら聴いてみると、まず未完成のカデンツァを全部弾き、その先の部分は自作らしい。
この自作カデンツァ部分は、完成版の長いカデンツァの一部をつなぎ合わせていって、さらにオリジナルらしき編曲を加えたもの。
未完成版と完成版はよく似ているので、未完成版からそのまま完成版へ繋いで弾いても、違和感なく聴こえる。途中からいつものカデンツァが聴こえてきたので、?と思ったけれど、最後まで聴くと、いつものカデンツァともちょっと違う。
アラウが弾いているカデンツァは、完成版カデンツァよりも、技巧的には控えめ。雰囲気的にも穏やか。


第3番は、とってもロマンティックな趣きがあって好きな曲。この曲を聴くときは、ほとんどカッチェンとケンプのスタジオ録音。

アラウの弾く第1楽章は、微温的というかとても穏やかなタッチ。音色が暖かくまろやかで、フォルテもやや押さえ気味。注意して聴いていると、音色が煌びやかでないので気づきにくいけれど、微妙なタッチのコントロールで響きはかなり多彩。
過去の思い出を回想しているかのように、ほろ苦さや幸福感のようなものがさらさらと流れていくるような雰囲気を感じる。
第1楽章で素晴らしいのは、カデンツァ。ペダルをかけたアルペジオやスケールの響きは豊饒で、弱音の響きは繊細。
今まで抑えていた感情があふれ出るように、ルバートや強弱のコントラストが強くて起伏が大きく、とても情感豊か。

第2楽章も落ち着いた音色と木質感のある暖かく深みのある響きが心地よく、とても懐かしく和やかな雰囲気でまったり。
特に綺麗なのは、霞がかかったような柔らかくまろやかな響きのピアノのアルペジオ。まるで緩やかな波のなかで漂っているような感覚がする。

第3楽章はさすがに軽快。といっても、ちょっと粘り気のあるタッチで、リズミカルというよりもさらさらと川の水が流れるように落ち着いていて、とてもさっぱり爽やかな叙情感。

アラウの第3番は、いつも聴いている演奏とはイメージがかなり違っていて、とても穏やか。
もっとロマンティックな叙情感がある方が好みだけれど、アラウのピアノの響きがとても心地よくて、たまにはこういうまったりした第3番を聴くのも良いかなあという感じ。
ただし、1947年と53年にオーマンディ指揮フィラデルフィア管と2度録音した第3番は、テンポも速めで力強さもあり、若々しいエネルギッシュな演奏。(どちらかというと、こういうタイプの第3番の方が好き)
年とともに演奏解釈を変えたのか、指揮者との相性の問題なのか、よくはわからないけれど、年代の違う録音を聴くのはいろいろ発見があって面白い。


一番良いと思ったのが第4番。この曲が一番好きなせいもあるだろうけど。
この第4番を初めて聴いたのがアラウの新盤。なんて美しくて包容力のある曲なんだろうととても感動して、以来、ベートーヴェンのピアノ協奏曲は第4番を一番良く聴くようになってしまった。

旧盤の第1楽章は、冒頭のピアノソロは、和音が柔らかく、弱音は優しい響き。特に最後のスケールの響きが柔らかくてさりげなくて素敵。この冒頭部分は単純な音型だけど、本当に難しいらしい。
第1楽章のアラウのピアノは、やや線の太い音が明瞭に響いて、力強いフォルテにはしなやかさもあり、優美だけれど堂々とした雰囲気。
第5番が《皇帝》なら、第4番は包容力と気品を備えた《女王》というイメージ。
新盤がゆったりとしたテンポで静けさと悠然さと感じさせるのに、テンポがそう変わらない旧盤は、テクニックとリズムの切れが良く、演奏に張りと煌きがあってとても生き生きしているのが印象的。

再現部では、冒頭和音の音が増えて登場。ここはとても力強くて、明るく輝くよう。
第3番と同じく、この第4番もカデンツァが素晴らしくて、朗々と歌うようなアラウのピアノがとってもロマンティック。
テンポの揺れが大きく、緩急・強弱のコントラストを強くつけ、深い呼吸で旋律を良く歌わせているので、ベートーヴェンというより、ロマン派のピアノソロを聴いているような気がする。

第2楽章は、弱音主体の瞑想的な雰囲気ではあるけれど、新盤ほどに深くは沈潜してはいない感じ。テンポや音響面の違いで印象が変わるだろうし、そもそも演奏の底に流れている時間の流れが違うように感じる。

第3楽章は、霧が晴れたように爽やか。やや硬めのコロコロとしたタッチは、小気味良くて軽快。
この楽章は、響きがとても多彩で綺麗。柔らかく丸みのある弱音の響きには暖かさがあり、高音は透明感があってちょっと甘くて可愛らしく響くし、アルペジオはとても優雅。
この楽章は、速いテンポで勢い良く躍動感を強く出して弾く演奏が多いけれど、アラウは落ち着いたテンポとリズムで、とても品良くまとめている。


旧盤はどの協奏曲でも、ピアノの存在感が強くて(伴奏がやや控え目な感じがするせいか)、全盛期のアラウの安定した技巧と緻密な表現がしっかりと聴ける。
基本的にアラウの演奏解釈が、新盤と旧盤で大きく変わっているわけではないけれど、旧盤を聴いてから新盤を聴くと、20年の間に失われた技巧と表現の違うところがわかる。逆に、残された技術だけでつくりあげたなかで新しく生まれたものもあるので、どちらが良いとも言えないものがある。
特に新盤の第4番は、達観したような透明感と深い叙情感が美しく、悠然とした大河のような音楽。ここには技巧万全の旧盤にはない深い味わいがあって、何度聴いてもアラウの第4番は素晴らしいと思い直してしまう。

tag : ベートーヴェン アラウ

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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