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アラウ ~ シュヴェツィンゲン音楽祭ピアノ・リサイタル
アラウはスタジオ録音が大好きだったので、ディスコグラフィーは膨大。
好きな作曲家と曲が収録されているCDはほとんど収集したので、長い間チェックしていなかったけれど、最近調べてみると、復刻盤、ライブ録音、それにお蔵入りしていた録音やらが多数リリースされていた。
これも集めないといけないので、アラウのCDは増える一方。でも、没後20年経った今になっても、初出録音が聴けるというのはとっても嬉しい。

最近増えているライブ録音というものについて、アラウは消極的だった。
レコーディングにはそれ自体の約束ごとがあって、演奏の中ではうまくいくことが、レコーディングではよくなかったり、あるいは時々その逆のことがあるから、というのがその理由。
でも、”ライブが本領”という人もいるくらいにアラウのライブ録音は結構気合が入っていて、スタジオ録音とはまた違った一面が聴けるというのが楽しい。
アラウの録音は晩年のスタジオ録音が多くて、1960年代前後の壮年期(というのか)の演奏の方が好きな私には、ライブ録音はとても貴重な音源。

アラウのライブ録音で面白かったのは、クレンペラー指揮のショパン・ピアノ協奏曲第1番(1954年)、クーベリック指揮のブラームス・ピアノ協奏曲第1番(1964年)。
ルガーノでの1963年のリサイタルもわりと良かったけれど、それよりも好きなのが、最近手に入れたシュヴェツィンゲン音楽祭のリサイタル(1963年と1973年)のライブ録音。
音質がかなり良いので(雑音の入っていない放送用録音程度に良い)、臨場感があって、アラウの気合や集中力が伝わってくるよう。
収録曲は、ベートーヴェンのロンド&ピアノ・ソナタ3曲とブラームスのヘンデル・ヴァリエーションという、とても充実したカップリングの2枚組。ライブ録音は結構価格設定が高めなものが多いけれど、これは内容・価格ともバランスの良いアルバム。

ピアノ・リサイタル 1963年 & 1973年 - ベートーヴェン&ブラームスピアノ・リサイタル 1963年 & 1973年 - ベートーヴェン&ブラームス
(2009/06/12)
クラウディオ・アラウ

試聴する(米国amazon)

CD1枚目は、アラウ60歳の時の1963年のリサイタル。
ベートーヴェン/ロンド Op.51 No.2
これは旧盤のベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集にも収録されている曲。演奏は旧盤と同じく優美で優しげ。
アラウのタッチは、ちょっと粘り気のある柔らかいタッチで、弱音の表情が多彩。
全体的に濃い目の表情づけだと思うけれど、アラウのピアノで聴くと重たさは感じなくて、とても情感豊かに聴こえる。
ずっと昔は雰囲気で聴いていたので、そういうところには注意していなかったけれど、かなりの量の録音を聴いてきたので、聴くポイントもいろいろできて、演奏もずっと楽しめる。(逆に、晩年の録音を聴きなおしていたら、気がつかなかった方が良かった...なんてこともあったりする。)

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第28番 Op.101
ロンドに続いて、第1楽章はとても優美。第30番の第1楽章に少しだけ似た雰囲気。
次の第2楽章は、突如エンジンがかかったように、速いテンポとシャープなリズムで、冒頭和音が力強く鳴り響き、リズミカルな躍動感に溢れたとてもヴィヴィッドな演奏。

さすがに第3楽章冒頭は静かになって、物思いにふけっているか、まどろんでいるかのよう。
アタッカでつながる第4楽章は、再びダイナミックで勢いのあるタッチに。クレッシェンドは、本当に気持ちが高揚していくような盛り上がり。
この終楽章は、煌くような輝きがあって、開放感と喜びに溢れているような雰囲気がとっても爽快。聴いていても楽しくなってくる。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集のスタジオ録音を聴きなれていると、ライブ特有の即興性やテンションの高さが音や雰囲気で伝わってくる。両方を聴き比べるとそれがはっきりとわかる。"アラウの本領はライブにある”と言う人もいるし。
スタジオ録音のアラウは、穏やかで安定感やバランスのよさを感じさせるけれど、ライブ録音を聴くと気力漲るエネルギッシュな力強さと躍動感があって、この違いがはっきりわかるのが面白い。(これは、ブラームスのピアノ協奏曲第1番のスタジオ録音とライブ録音を聴いても同じ。)

面白かったのは、ブレンデルが”この第28番ソナタを情熱的に弾くのは問題外”と断言していたけれど、その”問題外”の情熱が湧き出るような演奏だったこと。
晩年のアラウの演奏しかほとんど知らないというCD解説文の筆者(日本ではアラウが晩年になって人気が出てきたので、こういう人は結構多い)は、このアルバムを聴いてアラウが”get excited”できる人なのだとわかった...とかなんとか書いている。

特に好きなピアニストの録音は、若いときから晩年まで、各時期の代表的なもの(1940年代以降のもの)をできるだけ聴くようにしているので、アラウのいろいろな年代の録音を聴いていると、芸風が随分変遷していった人なんだというのがよくわかる。
私が一番好きなのは、1960年代前後の演奏。安定した技巧をベースに、力強さと豊かな情感とがバランスよく表現されているので、演奏の切れ味も良く内容も充実している。
1940年代の若々しくスピーディで躍動感のある演奏を聴くのも楽しくて、いつものスローテンポなピアニストという印象は全くない。
アラウは、レコーディングは自分の演奏方法の記録だと考えていて、その録音が若い人に役立つこともあるだろうし、演奏家として生き残る方法でもあると言っていた。

ブラームス/ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ Op.24
続くヘンデルバリエーションも気合の入ったダイナミックな演奏。さっきのベートーヴェンも良かったけれど、私が一番好きなのはこのブラームス。
同時期のルガーノのリサイタルでも、ヘンデルヴァリエーションを弾いている。
ルガーノの方は残響が少なくいかにもモノラル的な音がして、演奏内容自体はあまり変わらなくても、ダイナミズムやテンションの高さがよく伝わってくるのは、このシュヴェツィンゲン音楽祭のライブ録音。

最初のアリアを聴いただけでうっとり。小鳥がさえずるような長めのトリルの可愛らしいこと!ちょっとソコロフのトリルに似ている感じがする。
と思ったら、第1変奏は線の太い音がボンボンと響いて、力感・量感のある力強い演奏。
急速系の変奏はこういうタッチが多い。第4変奏の和音移動は力強く勢いよく。第7変奏から第8変奏に入るとさらに加速するのがとても鮮やか。
もともと低音の響きが太い上に、ブラームスらしく高速の重音移動が多いので、かなりパワフルに聴こえる。ルバートも結構かかっているので、表情づけは甘いケーキのように濃いめ。

第2変奏は夢見るような煌きとまろやかさでロマンティック。
緩徐系の変奏は、柔らかい弱音で表情豊かに歌うような弾き方に変わるので、繊細で情感豊か。
全体的に、緩急・静動のコントラストがよく効いて、ピアニシモからフォルティシモまでダイナミックレンジも広く、とても色彩感豊か。

アラウのタッチはやや粘り気があり、リズムもやや重たく、安定感のある低音と相まって、力感・重量感が強め。でも、弱音になると澄んだ音でとても軽やか。
演奏時間も約30分と結構長い。ルバートを多用し、テンポの伸縮や強弱の振幅も大きく、力感・量感も充分あるので、ブラームスらしい重みがある。
変奏ごとのテンポ、タッチ、ソノリティも、変奏間の関係や全体の流れを考えて起伏に富むようにいろいろ工夫しているので、カラフルな絵柄が描かれた絵巻物を見ている(聴いている)ような気分になる。
こういう表現重視の演奏はとても好きなので、私がいつも聴くカッチェンの録音とはかなりタイプが違うけれど、こういう濃い味のブラームスも良いなあと思えて、同じくらいに気に入っている。

CD2枚目は、アラウ70歳の時の1973年のリサイタル。
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第7番 Op.10 No.3
第7番は、初期のソナタの中では悲愴ソナタや第9番と並んで好きな曲。
やたらに長い第2楽章(それも緩徐楽章)はともかく、急速楽章は軽快なリズム感と勢いの良さがあるので、聴いていて楽しい。
ライブの演奏は、旧盤のスタジオ録音よりもライブ録音の方が多少軽快なテンポで勢いが良い感じ。表現はスタジオ録音の方が多少細やか。でも、大きな違いはないのでどちらを聴いても大丈夫。


ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番 Op.57<熱情>
この曲はあまり得意ではなくて普段はまず聴かない。一度聴いただけではピンとこないので、繰り返し何回も聴いたし、ついでに異聴盤もいくつか聴いて、ようやくこの曲に慣れて、少し好きになってきたのが良かったところ。

1973年のリサイタルは、前回63年の時よりも即興性や開放感が薄くなっている。これは7番も同じ。
ライブ録音とスタジオ録音では、若干スタジオ録音の方が演奏時間が短いけれど、テンポも演奏内容も基本的には大きく変わらない。
旧盤のスタジオ録音の方が10歳若いときに録音しているので、演奏の切れ味は多少良い気はするけれど、ライブ録音の方は集中力と緊張感が強い感じはする。
アラウの熱情ソナタは、フォルテを強打したりテンポを上げたり、見るからにあからさまに情熱を感じさせる弾き方ではないので、一見地味なところはある。
第3楽章だけ、ゼルキン、ポリーニ、ケンプの録音も聴いてみると、ダイナミックレンジの広さ、鋭く力強いフォルテ、大きな起伏、推進力の強さはかなりのもの。
ずっと昔はゼルキンやポリーニをよく聴いていたので、アラウとは全然違うのが、聴きなおしてみて良くわかった。
よくアラウの熱情ソナタのレビューに、情熱不足とかそういう類のコメントを見かけるので、何でだろうとずっと思っていたけれど、そう感じる人がいるのもよくわかる。

アラウの熱情ソナタは、感情が噴出しているような”情熱的”な雰囲気は薄め。
テンポは大きく揺らさず、一音一音を丁寧に打鍵していき、美しい音でじっくりと旋律を歌いこんでいくので、音楽が流麗に流れて、徐々にじわじわと核心へと着実に進んでいくような凝縮力を感じる。
熱情ソナタというと、テンペラメントに駆られたように勢い良く、フォルテでバンバン弾く人が多くて、ちょっとげんなりしてしまう。アラウの弾き方が好きなのは、そういう大仰さがないところ。今の私の好みにぴったり合っているので、当分熱情ソナタはアラウで聴くことに。

tag : アラウ ベートーヴェン ブラームス

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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