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アラウ ~ ブラームス/ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ(シュヴェツィンゲン音楽祭リサイタル)
《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ変ロ長調Op.24》をアラウはスタジオ録音しているけれど、これはブラームスBOXを持っていないので、未聴。
その代わり、ライブ録音が2種類持っていて、1963年のルガーノ、同年のシュヴェツィンゲン音楽祭のリサイタルを収録したもの。60歳の時の演奏なので技巧的には問題なく、そこは安心して聴ける。
ルガーノのライブ録音は、CDが廃盤なのでitune storeでダウンロードできる。シュヴェツィンゲンの方は最近Hanssler Swr MusicシリーズとしてCDでリリースされている。

音質はシュヴェツィンゲンの方がはるかに良く、放送用録音のようにクリアで残響も適度で、ライブ特有の雑音はほとんど聴こえない。
以前に書いたルガーノ・ライブの記事を読み返していると、印象的だった変奏部分はやっぱり弾き方が同じ。
ルガーノのライブ録音も聴きなおすと、演奏内容に大きな違いはないけれど、明らかにシュヴェツィンゲン・ライブの方がずっと力強く勢いがある。ミスタッチも少ないし音も良いので、ヘンデルヴァリエーションを聴くならシュヴェツィンゲンのライブ録音になる。

ピアノ・リサイタル 1963年 & 1973年 - ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番ニ長調Op.10-3 他 (Piano Recital 1963 & 1973 - Beethoven, Brahms / Arrau) (2CD)ピアノ・リサイタル 1963年 & 1973年 - ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番ニ長調Op.10-3 他 (Piano Recital 1963 & 1973 - Beethoven, Brahms / Arrau) (2CD)
(2009/06/12)
クラウディオ・アラウ

試聴する(米国amazon)
カップリングは、全てベートーヴェン。ロンドとピアノ・ソナタ第4,7,23番。

ヘンデル・ヴァリエーションは、今までは聴いていたのはほとんどカッチェンの1960年代前半の録音。
技巧の切れ味がすばらしく、急速系の重音移動はインテンポでスラスラと軽やか。低音部をそれほど強く響かせてないので軽快に聴こえる。硬質のタッチの透明感のある音で瑞々しい叙情感がある。
それと比べるとアラウは、タッチに粘り気があり、リズムがやや重たく、強めで安定感のある低音と相まって、力感・重量感は充分。でも、弱音の柔らかくニュアンスの豊富な音がとても綺麗。
全体敵にややゆったりしたテンポで、演奏時間がカッチェンより3分近く長い。ルバートを多用し、テンポの伸縮や強弱の振幅も大きく、フォルテの力強さと響きの厚みもあって、カッチェンよりも重厚なタッチ。

カッチェンが水彩画なら、アラウは油絵で、それも、カラフルな絵柄が描かれた絵巻物を見ている(聴いている)ような気分になる。
カッチェンの演奏の叙情感には、少し儚げで夢想的で、瑞々しく爽やかさがあるけれど、アラウは表情はとても細やかだけれど芯のしっかりした包容力と深い情感がある。

楽譜とつきあわせてしっかり聴いていると、アラウの演奏は、タッチや響きの変化が多彩で、ルバートやディナーミクの細かな処理や、変奏間・変奏内の流れを考えたテンポのとりかたとか、細部まで丁寧に設計されている。
ヘンデル・ヴァリエーションくらいの規模と内容の曲になると、アラウの構成力と表現力の高さがよくわかる。アラウのブラームスといえば、2曲のピアノ協奏曲が有名だけれど、ライブ録音でこれだけ良い内容なら、他の独奏曲も聴いてみたくなる。


<メモ>
主題:アリア
ゆったりとしたテンポで、ルバートをたっぷりきかせて、弱音もニュアンスも多彩なアリア。語りかけるような歌まわしがとても素敵。いろんな録音を聴いたけれど、一番好きなのはアラウの弾くアリア。
とりわけ印象的なのはトリル。その愛らしい響きは、まるで小鳥がさえずっているよう。

第1変奏
全体的にやや粘り気のあるタッチで弾いている変奏が多いせいか、この第1変奏でも音が太めで明瞭でやや思い感じ。
速いテンポなのでリズミカルではあるけれど、左手はスタッカートで弾いていない音が入っているので、やや重ためのリズム感。

第2変奏
まったりとした優美な変奏。ややテヌート気味のタッチでテンポもゆったりしているので、クロスリズムなのが良くわかる。

第3変奏
軽やかなタッチで、スタッカートも柔らかく優しく響いても、とても優美。右手のアルペジオが軽やかな響きで綺麗に聴こえる。

第4変奏
打鍵がしっかりしているので、やや重たい感じはするけれど、速いテンポでフォルテの和音移動は勢いよく、わりとなめらかで、ミスタッチは少ない。ルバートを多用しているので、よけいに厚みを感じさせる。
(ルガーノ・ライブでは、ミスタッチと音の濁りが気になった変奏)

第5変奏
柔らかいタッチでルバートをたっぷりかけて、とても優美な雰囲気。

第6変奏
両手のオクターブ移動がとても柔らかいで滑らか。やや不安げで曖昧な雰囲気のする変奏。

第7変奏
一転して、かなり速いテンポ。歯切れの良いスタッカートで、ルバートはかけずにインテンポ。

第8変奏
第7変奏よりもさらに加速して、かなり速く、ほぼインテンポ。
左手のスタッカートのオスティナートはそれほど際立たせず、右手側の旋律の方がはっきりと聴こえ、上声部と内声部に出てくる主旋律の動きを明瞭に出している。

第9変奏
ゆったりしたテンポなので、クロスリズムが良くわかる。テヌート気味のタッチでもともと重厚な曲想がものものしさを増している。

第10変奏
速いテンポで軽やかに重音が鍵盤上を上行下降する面白いパターン。アルペジオが力強くて勢いよく、装飾音と旋律が滑らかにつながっている。

第11変奏
ルバートをつかいながら、まどろむような優しい雰囲気。旋律も和声もとても綺麗な変奏。

第12変奏
やや速めのテンポで、柔らかいタッチ。この変奏も少し眠たげな雰囲気が可愛らしい曲。

第13変奏
ゆったりしたテンポと粘り気のあるタッチにルバートの多用で、情感たっぷり。
アルペジオが明瞭に響き、起伏やテンポの伸縮が大きく、悲愴感らしきものがとてもよく伝わってくる。

第14変奏
速いテンポでフォルテで勢いのよい重音移動。テンポが速いのでつぶれて聴こえがちなトリルも、わりと明瞭に聴こえる。

第15変奏
第14変奏の勢いをそのままうけついで、フォルテで堂々とした変奏。

第16変奏
かなり速いテンポで、一転して軽やかなタッチ。高音のスタッカートが若干弱い感じ。(もう少し明瞭に響いて欲しい気はする)

第17変奏
テンポを落として、ここも軽やかで柔らかいタッチ。右手よりも、左手の重音の動きが明瞭。細かなクレッシェンドとデクレッシェンドもよくついて、内声部の旋律の流れもよくわかる。

第18変奏
ややゆったりしたテンポで、柔らかいアルペジオが綺麗に響く。この変奏も左手・右手に交互に出てくる重音の動きと内声部の旋律が明瞭。

第19変奏
やや静かに軽やかで柔らかいタッチ。のどかなパストラル風。

第20変奏
ゆったりと曖昧な雰囲気のある変奏。弱音主体のなかで、頻繁にクレッシェンドとデクレッシェンドをつけ、テンポも伸縮するので、細やかで濃い表情のつけ方がとっても上手い。

第21変奏
ここはアラウ独特の弾き方。速いテンポでとても軽やかなタッチと響き。右手の装飾音付き分散和音は、全部が装飾音のようも聴こえるくらいに、軽く素早く弾かれている。
綺麗なレガートで弾くととても瑞々しく叙情的に聴こえるけれど、アラウの弾き方だと心の中で何かが弾けているような叙情的ではあるけれど落ち着かなさを感じさせる。

第22変奏
アクセントがついてオスティナートされる音がリズミカル。右手上声部の主旋律も動きも良く聴こえて、とても清々しく可愛らしい曲。

第23変奏
速いテンポで力強いタッチのスタッカート。クレッシェンドがよく利いて、勢いよくうねるような感覚。

第24変奏
クレッシェンドされるスケールが、第23変奏よりもさらに強い波のうねりのように聴こえて、響きにも厚みがあるので、とてもダイナミック。

第25変奏
変奏の締めくくりらしく、重音が跳躍して、力強くて開放感のある変奏。
かなりの力技なので、ちょっと打鍵が怪しいところもあるけれど、重厚な響きと勢いのよさで、堂々としたフィナーレ。

フーガ
メカニカルな音型が次々と展開していくので、単調になりがちなフーガ。
アラウは、フレーズによって、タッチや響き、強弱をいろいろ変えているので、音響的に変化していくところが面白い。
それに主旋律と副旋律(と伴奏)もくっきり分離されて聴こえてくるので、重音の響きのなかに埋もれがちな旋律の流れが良くわかって、立体感もある。
特に、和音を弱音のレガートで弾くところが柔らかくてとても綺麗な響き。このフーガだけでも、一つの物語を見て(聴いて)いるかのように表情は多彩。


 <アラウ/ルガーノライブ1963>の記事
アラウの《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》のスタジオ録音について

晩年の1978年にスタジオ録音された《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》は、2種類のライブ録音よりも良く聴かれているかもしれない。
でも、アラウのヘンデルヴァリエーション自体はそれほど有名ではないし、私がすぐに思い浮かべるのは、ゼルキン、カッチェン、ウゴルスキ。

スタジオ録音は、晩年のアラウ特有のゆったりしたテンポで、重厚ではあるけれど切れ味が鈍く、技巧の衰えや、ライブ録音とは違う穏やかさを感じる。
第4変奏や第25変奏など、高速の重音移動が多い変奏ではタッチの切れが悪くて重たいし、技巧的な問題からか、以前は入れていなかったルバートやリタルダンドがあちこちで入って、テンポが落ちて勢いがそがれたり、流れの悪さを感じる。
アラウの得意な第24変奏のアルペジオも、ライブ録音ではうねるようにダイナミック(これは何度聴いても迫力がある)だったけれど、スタジオ録音ではうねりが平坦になって躍動感が薄くなっているし、最後のフーガも勢いが弱かったりして、いろいろ気になってしまうところが多い。

スタジオ録音だけ聴いていると、若い頃(といっても60歳だけど)の演奏との違いはわからないけれど、それでも全盛期に録音したゼルキンなどのピアニストの演奏を知っていれば、技巧面や演奏自体の切れの悪さは聴こえてきてしまう。
テンポが遅いこと自体は気にならないけれど、重たくて切れの悪い演奏というのは誰の演奏でもあっても好きではないので、いつもライブ録音の方を聴くことになる。

概して、アラウの1960年前後から1970年前半くらいまでの演奏は、技巧的にほぼ安定しているし、構成力とスケール感があってダイナミックだし、表現も晩年にくらべてロマンティシズムが濃いものが多い。
晩年のゆったりとして重みのあるヘンデル変奏曲が一番素晴らしい!と思う人はともかく、当時60歳だった1963年のシュヴェツィンゲン音楽祭ライヴ(またはルガーノライブ)で弾いたヘンデル・ヴァリエーションは、技巧が安定して演奏の切れ味がよく、表現もずっと豊かで、生き生きとした躍動感と繊細な情感がこもっている。(気合の入りすぎで勢いあまったせいか、ところどころミスタッチがありますが)
何よりも、アラウはライブが”本領”という人もいるくらい、気力溢れる演奏が聴けるというところが私にはとても魅力的。

tag : ブラームス アラウ

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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