ソコロフ ~ ショパン/24のプレリュード
2010.08.17 18:00| ♪ グレゴリー・ソコロフ|
ショパンの作品のなかで、比較的よく聴いていたのは、ピアノ協奏曲、バラード、スケルツォ、ポロネーズ、ピアノ・ソナタ。最近はエチュードにも免疫ができて、苦労せずに聴ける。
逆に、まず聴かないのは、マズルカ、ワルツ、夜想曲、プレリュード、即興曲。
こう書き出してみると、どうも華麗でダイナミックでピアニスティックな曲が好きなのが今更ながらよくわかる。
ロクロク聴きもしないのに、プレリュードのCDは数種類持っていて(好きなピアニストのCDを集めていると自然に溜まってしまうので)、ポリーニ、キーシン、アラウ、ロルティの録音。
叙情表現が淡白なポリーニやまったりしたアラウはともかく、表情豊かなキーシンやロルティを聴いても、やっぱり最後まで飽きずに聴けたためしがないので、もうプレリュードとは曲自体の相性が悪いとしか思えない。
と思っていたら、最近買ったソコロフの2種類のBOXセットに、ショパンのエチュード、プレリュード、ピアノ・ソナタ第2番が入っていて、これがいずれも素晴らしい演奏。
いつも途中で眠くなるプレリュードでさえ、どの曲も退屈することなく、それも、面白く聴けてしまう。
表現が繊細かつ大胆なので、プレリュード24曲のそれぞれの性格がクリアになり、曲ごとに場面や色彩が工夫された一つの絵巻物のようにつながっているように聴こえてくる。
もともとこの前奏曲集は相反する曲想が交互にサンドイッチのように配置されているので、曲同士の緩急・明暗・硬軟のコントラストはつけやすいけれど、ソコロフはさらに各曲内部でのコントラストも強くつけて、表情づけがとても濃厚。
緩徐系のプレリュードは細部まで繊細な表現で平板さは微塵もなく、急速系の曲は煌くように鮮やかな技巧で、エチュードのように強靭で怒涛のような勢いがあったり、どの曲をとってもみても多彩な表現には退屈する方が難しい。
ソコロフのプレリュードは、透明感のある美音とカラフルな色彩感と響きのヴァリエーションの多さで、音自体がとても綺麗。
それに加えて印象的なのは、広いダイナミックレンジを生かした強弱の幅の広さとコントラストの強さ、微妙なニュアンスを持つ多彩な弱音、ルバートの多用、左手伴奏の存在感の強さ、大きく変化する緩急のテンポ、エンディングでのリタルダントや長めの休止、etc.。
こういう要素がいろんなパターンで組み合わされていき、細部まで精緻に設計された繊細さと、力強いダイナミズムとが交錯して、こんなに表情豊かなプレリュードはそうそう聴けない。(それでもこの曲集が好きかというと、やっぱりあまり好きではないのは全然変わらないけど)
これくらい大胆に静動・緩急のコントラストがついて圧倒的な迫力がないと、つい眠たくなってしまうので、(もともとあまり好きではない)プレリュードを聴くなら、個人的にはソコロフがあればもう十分という気がする。
といっても、ショパンのプレリュード自体を聴きたくなるかといえば、やっぱりNO。どうもこの曲集とは相性が徹底的に悪い。
<メモ>
第1番ハ長調 Agitato
テンポの細かな揺れが激しく、強弱も微妙に変化。ふわふわした膨らみを保ちつつ、曲全体が絶えず収縮しているような...。
第2番イ短調 Lento
左手伴奏がとても雄弁。伴奏だけ聴いていても面白い。
第3番ト長調 Vivace
左手のパッセージが蝶が舞うように軽やか。それに凄く速い。メカニカルに聴こえることなく、響きは柔わらか。
第4番ホ短調 Largo
昔からこの曲だけはなぜか好きだった。わりと平板な曲にしては、左手伴奏の表情が豊か。緊張感もあって叙情的。
第5番ニ長調 Molto Allegro
タッチが微妙に変わっていき、柔らかい響きと硬質の響きが交錯。
第6番ロ短調 Assai lento
この曲も左手伴奏が雄弁。オスティナートの響きのニュアンスやパッセージの表情が豊か。
第7番イ長調 Andantino
太田胃散のCMに使われたので有名な曲(今でも流れている?)。この退屈で眠たげな曲でも、テンポやタッチが細かく変わっていく。ソコロフの弱音の繊細さと美しさが際立っていて、それだけで聴けてしまう。
第8番嬰ヘ短調 Molto agitato
華麗で雄弁な曲。右手の旋律が良く歌い、左手の伴奏もダイナミック。右手は柔らかなタッチ、左手は硬質なタッチなので、響きの質感が違う。
第9番ホ長調 Largo
とても伸びやかで雄大な雰囲気の曲。左手トリルが良く効いている。
第10番嬰ハ短調 Molto allegro
急速なテンポのなかを、左手の細かいパッセージが煌くように舞っている。
第11番ロ長調 Vivace
弱音のニュアンスが繊細。
第12番嬰ト短調 Presto
舞曲風でダイナミック。和音の切れの良さと、歌うような旋律が美しい。タッチ変化も多彩。
第13番嬰ヘ長調 Lento
左手アルペジオの表情が豊か。
第14番変ホ短調 Allegro
情熱的で、両手とも激しい動き。何かが差し迫ってくるような切迫感。
第15番変ニ長調「雨だれの前奏曲」 Sostenuto
かすれるような弱音から荘重なフォルテまで、弱音と強音のコントラストが鮮やか。右手と左手の音量のバランスが曲想に合わせて変化していく。
展開部は、弱音からクレッシェンドしていきフォルテにいたるところが、暗雲が垂れ込めたように暗い色調で、まるで葬送行進曲のように重々しくて、ドラマティック。規則的にオスティナートする左手が深刻さやオドロオドロしさを強めている。
本当に雨音が変化しているのが目に見えるようなイメージ喚起力で、ラストは雨がすっかり上がった清々しさ。
第16番変ロ短調 Presto con fuoco
急速なテンポのなかを、右手の細かいパッセージがキラキラと煌くように軽快に舞っている。左手は力強く推進力があり、迫ってくるような勢い。ラストへの盛り上がりも華やか。
第17番変イ長調 Allegretto
ワルツのリズム、強弱の微妙な揺れ、前半までは穏やか。前半最後の盛り上がりが爽やか。
第18番ヘ短調 Molto allegro
情熱的な雰囲気で、不協和音が鳴り響き、悲愴感と緊張感漂う両手のユニゾン。低音部は重たく強い響き。
第19番変ホ長調 Vivace
一転して、3連符で構成された旋律が流麗な曲。柔らかく軽やかな響きがとても優雅。
第20番ハ短調 Largo
冒頭和音の力強さは岩のように重々しく、弱音になると厳粛で荘重。低音がよく響き、弱音が支配する中間部とのコントラストが鮮やか。
第21番変ロ長調 Cantabile
平和的で夢想的な曲想。左手伴奏の表情が豊か。
中間部は左手アルペジオが鐘の音のような響きに聴こえてとても綺麗。
第22番ト短調 Molto agitato
ダイナミックで情熱的な曲。左手和音が迫ってくるような迫力。
第23番ヘ長調 Moderato
柔からかな響きでオルゴールのように綺麗。高音はキラキラと宝石のような輝き。
第24番ニ短調 Allegro appassionato
《エチュードOp.25》の終曲<Ocean>に少し雰囲気が似ている。
冒頭は激しく急迫感のあるパッセージで、波が迫りくるように激しい雰囲気。全編を流れるアルペジオ主体の左手伴奏が重々しく、右手の旋律は鋭く急降下して、ダイナミック。

プレリュードだけを収録した分売盤。
プレリュードに加えて、エチュード(Op.25のみ)とピアノ・ソナタ第2番を収録した分売盤で、こっちの方がコストパフォーマンスがよい。特に表現重視のエチュードの演奏が素晴らしいので、聴くのはほとんどエチュード。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
逆に、まず聴かないのは、マズルカ、ワルツ、夜想曲、プレリュード、即興曲。
こう書き出してみると、どうも華麗でダイナミックでピアニスティックな曲が好きなのが今更ながらよくわかる。
ロクロク聴きもしないのに、プレリュードのCDは数種類持っていて(好きなピアニストのCDを集めていると自然に溜まってしまうので)、ポリーニ、キーシン、アラウ、ロルティの録音。
叙情表現が淡白なポリーニやまったりしたアラウはともかく、表情豊かなキーシンやロルティを聴いても、やっぱり最後まで飽きずに聴けたためしがないので、もうプレリュードとは曲自体の相性が悪いとしか思えない。
と思っていたら、最近買ったソコロフの2種類のBOXセットに、ショパンのエチュード、プレリュード、ピアノ・ソナタ第2番が入っていて、これがいずれも素晴らしい演奏。
いつも途中で眠くなるプレリュードでさえ、どの曲も退屈することなく、それも、面白く聴けてしまう。
表現が繊細かつ大胆なので、プレリュード24曲のそれぞれの性格がクリアになり、曲ごとに場面や色彩が工夫された一つの絵巻物のようにつながっているように聴こえてくる。
もともとこの前奏曲集は相反する曲想が交互にサンドイッチのように配置されているので、曲同士の緩急・明暗・硬軟のコントラストはつけやすいけれど、ソコロフはさらに各曲内部でのコントラストも強くつけて、表情づけがとても濃厚。
緩徐系のプレリュードは細部まで繊細な表現で平板さは微塵もなく、急速系の曲は煌くように鮮やかな技巧で、エチュードのように強靭で怒涛のような勢いがあったり、どの曲をとってもみても多彩な表現には退屈する方が難しい。
ソコロフのプレリュードは、透明感のある美音とカラフルな色彩感と響きのヴァリエーションの多さで、音自体がとても綺麗。
それに加えて印象的なのは、広いダイナミックレンジを生かした強弱の幅の広さとコントラストの強さ、微妙なニュアンスを持つ多彩な弱音、ルバートの多用、左手伴奏の存在感の強さ、大きく変化する緩急のテンポ、エンディングでのリタルダントや長めの休止、etc.。
こういう要素がいろんなパターンで組み合わされていき、細部まで精緻に設計された繊細さと、力強いダイナミズムとが交錯して、こんなに表情豊かなプレリュードはそうそう聴けない。(それでもこの曲集が好きかというと、やっぱりあまり好きではないのは全然変わらないけど)
これくらい大胆に静動・緩急のコントラストがついて圧倒的な迫力がないと、つい眠たくなってしまうので、(もともとあまり好きではない)プレリュードを聴くなら、個人的にはソコロフがあればもう十分という気がする。
といっても、ショパンのプレリュード自体を聴きたくなるかといえば、やっぱりNO。どうもこの曲集とは相性が徹底的に悪い。
<メモ>
第1番ハ長調 Agitato
テンポの細かな揺れが激しく、強弱も微妙に変化。ふわふわした膨らみを保ちつつ、曲全体が絶えず収縮しているような...。
第2番イ短調 Lento
左手伴奏がとても雄弁。伴奏だけ聴いていても面白い。
第3番ト長調 Vivace
左手のパッセージが蝶が舞うように軽やか。それに凄く速い。メカニカルに聴こえることなく、響きは柔わらか。
第4番ホ短調 Largo
昔からこの曲だけはなぜか好きだった。わりと平板な曲にしては、左手伴奏の表情が豊か。緊張感もあって叙情的。
第5番ニ長調 Molto Allegro
タッチが微妙に変わっていき、柔らかい響きと硬質の響きが交錯。
第6番ロ短調 Assai lento
この曲も左手伴奏が雄弁。オスティナートの響きのニュアンスやパッセージの表情が豊か。
第7番イ長調 Andantino
太田胃散のCMに使われたので有名な曲(今でも流れている?)。この退屈で眠たげな曲でも、テンポやタッチが細かく変わっていく。ソコロフの弱音の繊細さと美しさが際立っていて、それだけで聴けてしまう。
第8番嬰ヘ短調 Molto agitato
華麗で雄弁な曲。右手の旋律が良く歌い、左手の伴奏もダイナミック。右手は柔らかなタッチ、左手は硬質なタッチなので、響きの質感が違う。
第9番ホ長調 Largo
とても伸びやかで雄大な雰囲気の曲。左手トリルが良く効いている。
第10番嬰ハ短調 Molto allegro
急速なテンポのなかを、左手の細かいパッセージが煌くように舞っている。
第11番ロ長調 Vivace
弱音のニュアンスが繊細。
第12番嬰ト短調 Presto
舞曲風でダイナミック。和音の切れの良さと、歌うような旋律が美しい。タッチ変化も多彩。
第13番嬰ヘ長調 Lento
左手アルペジオの表情が豊か。
第14番変ホ短調 Allegro
情熱的で、両手とも激しい動き。何かが差し迫ってくるような切迫感。
第15番変ニ長調「雨だれの前奏曲」 Sostenuto
かすれるような弱音から荘重なフォルテまで、弱音と強音のコントラストが鮮やか。右手と左手の音量のバランスが曲想に合わせて変化していく。
展開部は、弱音からクレッシェンドしていきフォルテにいたるところが、暗雲が垂れ込めたように暗い色調で、まるで葬送行進曲のように重々しくて、ドラマティック。規則的にオスティナートする左手が深刻さやオドロオドロしさを強めている。
本当に雨音が変化しているのが目に見えるようなイメージ喚起力で、ラストは雨がすっかり上がった清々しさ。
第16番変ロ短調 Presto con fuoco
急速なテンポのなかを、右手の細かいパッセージがキラキラと煌くように軽快に舞っている。左手は力強く推進力があり、迫ってくるような勢い。ラストへの盛り上がりも華やか。
第17番変イ長調 Allegretto
ワルツのリズム、強弱の微妙な揺れ、前半までは穏やか。前半最後の盛り上がりが爽やか。
第18番ヘ短調 Molto allegro
情熱的な雰囲気で、不協和音が鳴り響き、悲愴感と緊張感漂う両手のユニゾン。低音部は重たく強い響き。
第19番変ホ長調 Vivace
一転して、3連符で構成された旋律が流麗な曲。柔らかく軽やかな響きがとても優雅。
第20番ハ短調 Largo
冒頭和音の力強さは岩のように重々しく、弱音になると厳粛で荘重。低音がよく響き、弱音が支配する中間部とのコントラストが鮮やか。
第21番変ロ長調 Cantabile
平和的で夢想的な曲想。左手伴奏の表情が豊か。
中間部は左手アルペジオが鐘の音のような響きに聴こえてとても綺麗。
第22番ト短調 Molto agitato
ダイナミックで情熱的な曲。左手和音が迫ってくるような迫力。
第23番ヘ長調 Moderato
柔からかな響きでオルゴールのように綺麗。高音はキラキラと宝石のような輝き。
第24番ニ短調 Allegro appassionato
《エチュードOp.25》の終曲<Ocean>に少し雰囲気が似ている。
冒頭は激しく急迫感のあるパッセージで、波が迫りくるように激しい雰囲気。全編を流れるアルペジオ主体の左手伴奏が重々しく、右手の旋律は鋭く急降下して、ダイナミック。



プレリュードだけを収録した分売盤。
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プレリュードに加えて、エチュード(Op.25のみ)とピアノ・ソナタ第2番を収録した分売盤で、こっちの方がコストパフォーマンスがよい。特に表現重視のエチュードの演奏が素晴らしいので、聴くのはほとんどエチュード。
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