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アラウのインタビュー ~ デュバル著『ピアニストとのひととき』より
アラウの伝記・対話集としてもっとも有名なのは、ホロヴィッツ著『アラウとの対話』(みすず書房)。
アラウはこの本以外にも、インタビュー集には良く登場していて、私が知っている翻訳書で2冊、未翻訳書で1冊。探せばまだあると思う。
コンパクトにまとまって読みやすいのは、ちょっと古いけれどデイヴィッド・デュバル著『ピアニストとのひととき』のインタビュー。
FM音楽放送局のディレクターでありピアニストでもあるデイヴィッド・デュバルによるインタビュー集で、アラウが、師クラウゼに学んだ日々、演奏家論、レパートリーにしている作曲家・作品等について語っている。

ピアニストとのひととき〈下〉ピアニストとのひととき〈下〉
(1992/09)
デイヴィッド デュバル

商品詳細を見る(表紙は原書のもの)


以下は、アラウの語った内容の一部抜粋。

師クラウゼについて
クラウゼはヒンズー教の導師のようでしたね。私が食べるもの、眠り方をよく観察していて、私の健康全般に注意してくれました。[クラウゼは、毎日一時間以上一緒にアラウと散歩したり、アラウに世界文学の読み方を教えたり、博物館・当時の偉大な舞踏家の舞台・ワーグナーの「パジルファル」の公演にアラウを連れて行ったりしたという]・・・(クラウゼはアラウに)一般教養を身につけることを望んでいました。私は今日まで本当に感謝しています。

クラウゼは、毎日2~3時間教えてくれました。彼は本当の謙虚な精神というものを私の中に育てていくことに、大変熱心だったと思います。クラウゼは、自分の仕事に対して絶対お金を受け取らなかっということをぜひつけ加えて起きます。彼が亡くなったとき、私は17歳でしたが、ほかのどこへも行く気になれませんでした。
[その後、アラウは新しい師につくこともなく、クラウゼの教えを元に独力でピアニストの道を歩むことになる]

クラウゼは演奏家の厳しさについていろいろ教えてくれました。「きみは朝の4時に起こされて、指揮者の前でコンチェルトを弾けと言われても、即座に、文句を言わずにそれができるようになるまでに、その曲を知り尽くしてなければだめだ」と言ったことを覚えてます。....「いいピアノだったらだれだってうまく弾ける、問題は悪いピアノをどうやってうまく弾きこなすかということだ」とよく言っていました。


演奏家として
ピアノが私の一生の仕事であって、ピアノ以外にはないということは、いつも頭にありまして、このことに疑問を持ったことは一度もなかったですね。

演奏家は自分自身を変身させ、自分とは異なった世界に入っていく道をさぐれる人間でなくてはいけません。すぐれた演奏家は、いろいろなスタイルの曲を演奏する能力を伸ばすことができなくてはだめです。

私は実際死ぬまで現実に引き続けることになると思います。もちろんこんなことは、いま言うべきことじゃないでしょうけど。....(なぜなら)運命に挑戦することになるからですよ。

私は物事にやたらには動じませんね。演奏の前に絶対に恐怖感に襲われないとは申せませんが、それを排除するようになりました。恐怖感、不安感を取り除くことは重要なことです。

私は聴衆とは無関係であるようにいつも心がけています。聴き手がわたしがやっていることを理解してくれればうれしいんですが、そういうことで影響されることはまったくありません。音楽に対して自分がやらなければいけないことを続けるだけです。演奏会で注意しなくてはいけないことは、たんなる虚飾を排除することです。例えば、聴衆に受けようとして、より速いテンポで弾くといったようなことは絶対さけるべきです。


レコーディングについて
レコーディングは作品に対する私の演奏法の記録です。...それが私の方法であって、若いアーティスト達に価値があるだろうと考えてのことです。それはまた、演奏家として生き続ける手段でもあります。

レコーディングは本当に楽しんでやっているんです。プレイバックを聴いていますと、アイデアが浮かんでも来ます。演奏のなかでうまくいくものが、レコードではよくなかったり、あるいはときどきその逆のことがあります。レコーディングには、それ自体の約束ごとがあります。私がライブ演奏のレコーディングに気が乗らないのはそのためです。


ベートーヴェンについて
ベートーヴェンの音楽は、闘争と勝利を表していまして、なにか非常に積極的なものです。ベートーヴェンにはいつも勝利がみえています。彼の音楽は精神の再生へと導いてくれます。誰にでも、われわれの時代に適切な話し方で語りかけてくるのが彼の音楽です。...そもそもの初めから、私は彼の音楽には完全にくつろぎを感じていましたから、ベートーヴェンが私の音楽の世界の中で、重要な力になるということが、すぐにわかりました。

べートーヴェンをオリジナル楽器で弾くことは必要ないと思います。ウィーンでベートーヴェン自身のピアノやそのほかたくさんのフォルテピアノを弾いたことがあるんですが、それらはベートーヴェンのサイズには不適当のように思えます。私は彼は近代ピアノを夢見ていたと思っています。モーツァルトでさえ、私の聞き方では、近代ピアノで最高の成果が得られます。
[ブレンデルも同様に、ベートーヴェンは現代ピアノで弾かれるべきものと言っていた]


バッハについて
(30年代に行ったバッハの鍵盤作品の全曲連続演奏会の後)バッハはハープシコードやクラヴィコードでもっとも良く響くことがわかったんです。そういうわけで私はバッハを弾くのをやめました。
[しかし、1942年に録音してそのままお蔵入りになっていた自身のゴルトベルク変奏曲の録音テープを晩年に聴いて、ピアノでもバッハは弾けるのだと考え直している。]


ショパンについて
ショパンの夜想曲は、大勢の人が考えているのとは反対に、大変重要な曲でして、ショパンの書いた最高の音楽に入ります。....彼は重厚で力強い作曲家でして、一般に言われているようなヴィクトリア朝風の夫人達のサロン作曲家ではまずないといっていいでしょう。もしピアニストがショパンを、あまりにも頻繁に弾かれているようなやり方でデュナーミクを抑えたりなどして弾くだけに終始しますと、ショパンは弱々しいものになって、彼の内的なドラマが大半失われることになります。


リストについて
私が再三、心を打たれるのは、リストがその音楽の中に示している神秘性です。たとえば愛の神秘主義がそうです。その中で彼は偉大な深さに到達しています。リストは取るに足らない作曲家と見られたり、誤解されることがあまりにも多すぎますね。私はブゾーニがリストのソナタを弾くのを聞いていますが、あのとき受けた啓示は絶対忘れることはないでしょう-あのような深い情熱と意味はだれにも想像できません。

クラウゼは、リストの曲は、楽々と弾いているように見せ、また響かせるためには、普通のピアニストに必要とされる以上のテクニックが要求されると言っていました。ただ指からだけじゃなくて、その演奏には完全な自由、からだ全体から出てくる音の響きがなくてはだめです。


アルベニスについて
子供のころラテン・アメリカでアルベニスはずいぶん聞いています。...「イベリア」組曲は驚くべき構成じゃないでしょうか?これはもっともむずかしいピアノ作品に入ると思います。ピアノによるオーケストラですね。


ドビュッシーについて
ドビュッシーの音楽は、ほかのどんな音楽とも違っています。それは芸術の新しい領域への跳躍でした。別の惑星の音楽のようです。....演奏家として、ドビュッシーの音楽のおとぎ話的な特性に興味があるのではありませんで、その音楽に潜在する精神的なものに興味を持っています。精神的な面のドビュッシーが非常にしばしば無視されています。彼はただその音の美しさだけのために演奏されることがあまりにも多すぎます。


奏法について
トリルはただきれいなだけでいいというものじゃありません。トリルはそれが入っているフレーズとその周辺の中にあるべきものです。

tag : アラウ 伝記・評論

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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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