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アラウ ~ リスト/ピアノ・ソナタロ短調
今から来年の話はちょっと早いような気がしないでもないけれど、来年はリスト生誕200年にあたるリストイヤー。
今年がメモリアルイヤーのショパンとシューマンはもともと好みの方向とは違う作曲家なので、それよりもリストの方がずっと相性が良い。
リストは自作に加えて編曲ものも膨大なうえに、改訂魔だったので数種類の版が残っている。全集録音となると、レスリー・ハワードが60巻くらい(?)までは録音している。
それを全部聴くほどに凝るつもりはないので、手持ちのCDを聴き直そうと探してみると思ったよりもたくさん見つかってしまった。
リストを目的にCDを集めることはしていなかったのに、好きなピアニストのCDを収集していたら自然に溜まっていたらしい。
リスト作品集としてではなく、カップリング曲として収録しているCDも結構あるので、全部聴くとなるとかなり時間がかかりそう。

リストでよく聴くのは、《死の舞踏》(サン=サーンスの編曲ではなくリストのオリジナルの方)、《スペイン狂詩曲》、ベートーヴェンの交響曲(ピアノ独奏版)。
《愛の夢第3番》はずっと昔レッスンで弾いていて、メロディアスでリストにしては弾きやすくて、これはかなり好き。今弾いてもやっぱり良い曲です。(アラウもこの曲を1989年に録音している)
《メフィストワルツ》、《小人の踊り》、《葬送行進曲》とかの小品も、CDをかけていたらいつの間にか聴こえてくることが多いので、思ったよりも記憶に定着している。
超有名な《超絶技巧練習曲》や《ハンガリー狂詩曲》は好きではないし、編曲ものは膨大なので、両方とも後回し。

リストの最高傑作と言われるロ短調ソナタと《巡礼の旅》は、時々思い出したようにしか聴いていなかったので、まずはロ短調ソナタから。

昔は評判の良いツィメルマンの録音を聴いていた。ツィメルマンは音色が明るく煌びやかで陰影がやや薄いけれど、技巧が素晴らしく冴え、ピアニスティックで流麗で華やか。
ツィメルマンのリストは、ピアノ協奏曲でも《死の舞踏》でも似たような印象。リストはもっと線のかっちりした陰翳のある弾き方が好みなので、どうも相性が良くない。

いろいろ聴いたなかでは、ロルティは繊細な響きがまるでショパンを聴いている気分、アンダは明晰な表現で陰翳もあり繊細だけれど甘すぎない、コーエンの新録音は骨太のタッチは良いけれど技巧が目立ちすぎて大味な感じ。
ブレンデル(81年録音)は音がとても美しく、ピアニスティックな面を抑制した冷静さと細部まで綿密に練られた表現が独特。
やっぱりロマンティシズムの濃いアラウのロ短調ソナタ(旧盤の方)が私には一番自然に入っていけるし、アラウ以外ならブレンデルがかなり良くて、アンダもわりと良い感じ。

単一楽章のロ短調ソナタは、構成からしていろいろな意見がある。
形式的には3楽章または4楽章に相当するとか、展開部や再現部はどこからどこまでかとか、切れ目なく演奏されるので、余計に区分するのがややこしい。
私はブレンデルのロ短調ソナタの作品解説(著書『音楽のなかの言葉』所収)をベースにして聴いている。
ブレンデルは、主題として6つのモチーフをとりあげ、その主題がソナタの提示部・展開部・再現部などでどう使われているかを解説している。
これを読んで、楽譜でその主題と構成区分をチェックしておくと、この複雑に思えるソナタの構造がすっきり整理されて、かなり聴きやすくなる。
ゆったりとして内省的な冒頭の第1主題、急速で激しく荒々しい第2主題、一転して叙情的な第3主題、神々しいような輝きのある堂々とした第4主題、第2主題の叙情的変形のような第5主題と、最後は再び叙情的な第6主題。
単一楽章とはいえ、”闇”と”光”といった相反する要素が交錯しているので、一見構造的につかみにくいところはあるけれど、楽譜で主題とその展開・結合がどうなっているのか把握しておくと、かなり聴きやすい。
ただし、あくまでブレンデルの解釈であって、ほかのピアニストはまた違った解釈で演奏していると思うので、あくまで自分の頭の整理のため。(記事中の主題・構成の区分は、ブレンデルの解説に基づいている)


ピアノ・ソナタロ短調の楽曲解説[ピティナ]

アラウの弾くリストは、一度聴いただけでアラウの弾くベートーヴェンと同じくらい、曲のなかに自然に入り込めてしまう。(そういえば、アラウの師はリストの高弟クラウゼだった)
ブレンデルの分析的・理知的な演奏と比べると、アラウの弾くリストはルバートもたっぷり、表現もかなり濃厚で深い情感のあるロマンティックな演奏。
ブレンデルのロ短調ソナタに慣れている人は、アラウの演奏を聴くとかなり違和感があるらしい。私はその逆で、ブレンデルのロ短調ソナタ(81年録音)の方が、ちょっと変わった表現に聴こえるところがある。
アラウよりも技巧が優れた録音なら他にもいろいろあるだろうけど、アラウは技巧が優先されて表現が霞むということがなく、フォルティシモでもピアニッシモでも、情感を込めて旋律を歌う(語る)ように弾いているのが一番好きなところ。

アラウのロ短調ソナタは、ツィメルマンのような技巧が冴えた華やかさや音色の煌びやかさはないけれど、逆に落ち着いた暗めの音色と、ちょっとゴツゴツしたところのあるタッチ。
フォルティッシモはそれほど強打してはいないけれど、線の太い低音の響きに重厚な安定感があるのが良いところ。弱音の表現はとても細やかでニュアンスも多彩。
アラウはテンポが遅いので有名だけれど、このロ短調ソナタはごく普通のテンポで演奏時間も30分くらい。ライブだと、少しテンポが速くなり、フォルテが強くなって急迫感も増している。

(a)提示部 第1展開部。第1擬似再現部
第1主題(Lento、ほぼト短調、1~7小節)は、さほど遅いテンポでもなく、わりと明瞭な響き。

第2主題(Allegro energico、ロ短調、8-13小節)
両手ともオクターブのユニゾン。リストはどの主題を繰り返して提示するので、主題のイメージが強く残る。

第3主題(Marcato、14-18小節)
マルカートな粘り気のあるタッチで弾く主題は、低音の響きが重くオドロオドロしく響く。
この主題に重なるように、右手の和音が柔らかいタッチで、幻惑するような響きを重ねるところが妖艶な感じ。
続いて疾走するようなアルペジオで、リストらしい技巧的なパッセージ。アラウの右手和音のクレッシェンドがよく効いていて、急迫感は十分。
右手と左手にアルペジオが交互に現れるなかを、左手バスに第3主題が何度も姿を見せるフレーズが続き、次に、第2主題のオクターブのユニゾンが華麗に装飾されて、疾風怒濤のような勢いが続く。
82小節あたりでようやく勢いが衰えて、ピアノで第1主題が左手に現れて、徐々に収束へ向かう。

第4主題(Grandioso、ニ長調、105-113小節)
両手和音の連打のなかを右手の上声部が主旋律を歌う。アラウは、この和音の旋律にもたっぷりルバートをかけて悠然と歌っている。
この前のセクションでロ短調の主題とその展開する部分が”闇”の力をあらわしているとすれば、この第4主題は堂々として輝かしく、”光”のフォースで満たされている。これは”闇”に勝利した”光”の凱歌にも聴こえる。
(ブレンデルは、ロ短調ソナタの作品解説で、全体的にファウストとメフィストフェレスを喩えに使っていた)

120小節あたりで、第2主題が単音の旋律に形を変えて密やかに登場し、さらに、第1主題が再び低音でエコーし始めるが、勢いがそがれたままで、途切れながら静かに消えていく。

第5主題(Cantando espressivo、二長調、153-170小節)
第5主題は、第3主題が叙情的に変形されたもの。主題の最初の8小節の低声部は、第1主題の下行音階。
。今までの光と闇の戦いみたいなパワフルで急迫感のある雰囲気は全て消滅して、レガートでとても甘美で優しげな旋律。柔らかい丸みのある響きがとても優しく響く。

主題とそれに続く展開は、単音のフレーズ主体で軽やか。息の短いアルペジオが右手に散りばめられて、宝石が煌いて舞っているような...。
ここの右手側の旋律はスラーがかかっていなくても、レガートなタッチで弾く人もあるけれど、アラウはスタッカート的なタッチ。
最後は数小節にわたる右手の高音部のトリル、装飾音的な華麗なアルペジオが続き、突如クレッシェンドしてフォルティシモへ切り替わる。
まるで一気に覚醒したように、206小節以降は、第5主題が和音に変形されて、力強く喜びと輝きに満ちた展開に。
第1主題が左手がわに度々登場すると、何かに追いたてられるような切迫感が出て、暗さが潜んでいるような雰囲気も。

280小節前後で第2主題、さらに第3主題が登場するので、再現部のように誤解するけれど、すぐにフォルティシモの和音のユニゾンによる連打、さらにレチタティーボに変わる。
甘いレチタティーボも長続きはせず、319小節以降は、左手バスに第3主題が連呼されながら、右手には息の長い和音で第1主題が現れ、両方ともゆっくりと静かに消えていく。

(c)「緩徐楽章」(アンダンテ)。第2展開を伴う中間部
第6主題(Andante sostenuto、嬰ヘ長調、331-346小節)
第6主題のセクションは緩徐楽章に相当するので、とてもロマンティックな旋律。
主題の最初の部分には第4主題(グランディオーソ主題)のクライマックスがパラフレーズされている。

アラウのリストで一番好きなのは、緩徐部分の演奏。
瞑想的な静けさがあったり、和やかで優しげな情感がこもっていたり、主題によって表現されているものは違うけれど、独特の”親密感”があるというか、心情的にシンクロしやすい雰囲気がある。
線の太めな丸みの響きは、甘美過ぎず、どこか懐かしげで包みこむような温もりのあるところが心地よい。ルバートや細やかな起伏がたっぷりついているので、とても情感豊か。

中間部のように、363小節では第4主題が現れて、やや悲愴感のある強いフォルテの和音の旋律へと移行するが、さらに弱音のレガートな第5主題に変わって、夢見るような綺麗で繊細なメロディに。

(d)フガート。同時に第2擬似再現部。第3展開と「スケルツォ」
最後は第1主題が厳かに低音部に現れ、第2主題と第3主題が散りばめられたフガートが始まる。
このフーガは、とても密やかな雰囲気。ここを、さらさらとあっさりと弾くか、明るく軽快に弾くか、いろいろ弾き方がある。
アラウのフーガは、弱音主体でちょっとした懐疑心や不可思議さとか、微妙なニュアンスを感じてしまうところが面白くてとても好きな弾き方。

(e)再現部とエピローグ
530小節あたりから再現部が始まり、左手第3主題と右手第2主題が絡み合って一気に終盤へなだれ込むような急迫感。やがて次第に勢いを失って、旋律も途切れがちになって、静かにフェードアウト。
結局、600小節手前のところで、ロ長調の第4主題が再び現れる。力強さはそれほどなく、”闇”との戦いに疲れてたように、やや鈍い”光”のイメージ。
さらに束の間の休息のように、叙情的な第5主題が登場して、それも力強いフォルテのパッセージに変形されて、再び速いテンポのフォルテ。まるで最後の戦いに挑むような勢い。

Prestoで第1主題が華やかなオクターブのパッセージで登場し、最後は第4主題が再び現れて、ようやく”光”に満ちたような賛歌の和音が鳴り響く。
ここで終るかと思ったら、嵐が去った凪のように、今度は第6主題が現れて、とても優しくまどろむように安らかな雰囲気。
再び第1主題が左手バスに現れ、弱音で力なくオスティナートし、やがて右手にも拡散し、最後は和音に姿を変えてゆっくりと弱音のなかに消えていき、左手低音部のロ音でエンディング。


ロ短調ソナタは、数少ない主題の性格が明確で、緩急・明暗を対比させながら、いろいろな形の中に織り込まれて、繰り返し登場していくので、一見複雑で錯綜しているように思える。
楽譜を見ずに初めて聴くと、構成が良くわからなくて、ちょっとつかみどころのない感じがする。
これを一度楽譜で主題がどう織り込まれているのか確認しながら聴くと、構成がよくわかるようになって、この30分あまりの単一楽章のソナタでも、集中力が途切れることなく聴けてしまう。
音で聴く以上に楽譜を見ると、数少ない主題を繰り返し使いながら展開させていくところは、まるでベートーヴェンのよう。

ロ短調ソナタは、曲自体がとても魅力的なうえに、重みと骨太さがあって情感豊かなアラウのピアノで聴くと、19世紀のロマン派の大曲らしいスケール感とロマンティシズムが溢れているのがよくわかる。
アラウのショパンやドビュッシーは、”~らしくない”ところを聴くのが面白いけれど、ベートーヴェンとリストは”~らしさ”を求めて聴くことになる。
そういう点では、変化球的ではなく構えずにストレートに聴けるベートーヴェンとリストの方が、充実感を味わえる。

                             

アラウのリスト録音は6枚組BOXセット(旧規格盤は最新録音が未収録の5枚組)にまとめられているけれど、これは廃盤。
今手に入るのは、ベスト盤として編集したのでは..と思うような曲を収録したCD1枚もののリスト作品集。
収録曲は《ピアノ・ソナタロ短調》、《詩的で宗教的な調べより~第3曲"孤独の中の神の祝福"》、《2つの演奏会用練習曲》、《オーベルマンの谷》。
特にロ短調ソナタと"孤独の中の神の祝福"が素晴らしく、他の2曲もそれほど多くの異聴盤を聴いたことはないけれど、アラウの録音だけでも十分良いかなあという気がするくらい。
このピアノ作品集の収録曲以外でアラウがよくリサイタルで弾いていた曲は、《ダンテを読んで》、《エステ荘の噴水》、《バラード第2番》。この3曲もスタジオ録音があるので、これも収録した2枚組のセットだったら、本当にベスト盤らしくなって良かったのに。

旧盤の国内盤(廃盤)。私が持っているのがこのCD。
リスト:ピアノソナタリスト:ピアノソナタ
(2004/06/30)
アラウ(クラウディオ)

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最近リリースされたSHM-CD仕様の国内盤(この価格なら最新録音のCD2枚くらいは買えてしまう)。
リスト:ピアノ作品集リスト:ピアノ作品集
(2010/06/30)
アラウ(クラウディオ)

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1985年の再録音盤。
82歳の時の録音なので、リストを弾くには技巧面がかなり厳しく、構成力も弱くなっている。1970年録音の旧盤の方が技巧&表現とも圧倒的に良いので、旧盤の方を推す人は多い。
カップリングは既出音源の《オーベルマンの谷》(1969年),《エステ荘の噴水》(1969年),《ダンテを読んで》(1981年)。
リスト/ピアノ・ソナタロ短調&「巡礼の年」リスト/ピアノ・ソナタロ短調&「巡礼の年」
(1996/06/05)
アラウ(クラウディオ)

試聴する(米国amazon)[別盤の作品集にリンク:track51-54]



ライブ録音は2種類。
1つはこのORFEO盤の1982年ザルツブルク音楽祭リサイタル。
カップリングは《ダンテを読んで》とベートーヴェンの熱情ソナタ。79歳でロ短調ソナタを弾くのは、テクニカルに厳しい気がするので、これは未聴。(そのうち聴くつもり)
アラウ:1982年ザルツブルク・リサイタル [Import]アラウ:1982年ザルツブルク・リサイタル [Import]
(2003/10/20)
クラウディオ・アラウ

試聴する(米国amazon)



ニューヨークとサンフランシスコで行ったリサイタルのライブ録音集。
クラウディオ・アラウ財団からのライセンスされた公式・正規盤。ただし、この年代にしてなぜかモノラル録音。
録音年月は《ロ短調ソナタ》1976年1月、《ダンテを読んで》(ダンテ・ソナタ)1981年2月、《バラード第2番》&《エステ荘の噴水》1979年2月、超絶技巧練習曲第10番が1970年2月。
ソナタ2曲はモノラルのライブ録音にしては音質はそれほど悪くはなく、アラウのテンションが高いのが演奏から伝わってくる。
ロ短調ソナタは73歳頃の録音。技巧&表現とも1970年の旧盤と大きな違いはないけれど、アラウらしくライブ特有の気合の入った勢いのある演奏。このライブ録音は安心して聴ける。
Arrau Plays LisztArrau Plays Liszt
(2007/09/18)
Claudio Arrau

試聴する(NAXOS)

tag : アラウ フランツ・リスト

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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