ベートーヴェン/ロンド・カプリッチョ”失われた小銭への怒り”

2010.07.28 18:00| ♪ グレゴリー・ソコロフ
ベートーヴェンの小品集に時々収録されている曲の一つが《ロンド・カプリッチョ ト長調”失われた小銭への怒り” Op.129》。
この曲は小学校の校内放送でよく流れていたので、いまだに良く覚えている。

元々ベートーヴェン自身は「幻想曲的なハンガリー風のロンド」とタイトルをつけていたのに、なぜかこの変てこな俗称の方が有名になってしまったという曲。
たしかに、この俗称の面白さと曲の内容があまりにぴったりと一致しているので、それも無理ないかと。
ベートーヴェンは左手部分をほとんど書かずに未完成のままにしておいたそうなので、それを補筆して演奏されている今の曲が、ベートーヴェンの意図に沿っているかどうかは不明。
それでも、右手部分は結構コミカルな雰囲気がするので、まあ当たらずと言えども遠からず...というところでしょうか。


この曲はテンポ設定でかなりイメージが変わる。
シフラはなぜかゆったりしたテンポで弾いていて、可愛らしいけれど、コミカルさがちょっと薄い。
お金を失くしてパニくっているような雰囲気がありありとするくらいに滅法速いテンポなのが、ソコロフとキーシン。この2人の演奏は何度聴いても面白い。本当に笑える曲です。


ソコロフの《ロンド・カプリッチョ》


ソコロフの方が、キーシンよりもずっとメカニカルなタッチ。打鍵が軽快でシャープなので、旋律が滑らか。響きも多彩。
低音がずしずし響いてかなりパワフルなのは、(熊さんのような)体格からくる腕力の強さがものをいっている?
スピード感が素晴らしく、いたるところで独楽鼠があたふた走り回っているようなユーモラスさと、お金をなくして気が動転しているようなイメージが浮かんでくる。
珍しくスタジオ録音らしい。ライブでも演奏はほとんど変わらないはず。


キーシンの《ロンド・カプリッチョ》


キーシンのライブ映像を見ていると、右手はほとんど単音の旋律とはいえ、フォルテの高速で弾くので結構な力技。
キーシンは表情豊かな表現をする人なので、この単純なパッセージが連続していても、アクセントを結構強く打鍵しているので、そこで一瞬流れが止まってカクッ、カクッとするところはある。
5分半ほどの曲とはいえ、これだけしっかりとした打鍵で延々と高速で鍵盤上を動き回るのだから、小品にしては筋力・体力の消耗度は高そう。


楽譜をみると、一見音の配列はシンプルなのでそう難しくなさそうに思えたけれど、左手分散和音は音の開きが結構大きいのと、これをすこぶる速いテンポで弾くとなると(フォルテで弾くところも多いし)、思ったほどに簡単ではなさそう。ソコロフやキーシンといった技巧の優れたピアニストが弾くくらいだから、それもそうかなあと。

ロンド・カプリッチョ”失われた小銭への怒り”楽譜ダウンロード(IMSLP)

タグ:ベートーヴェンソコロフキーシン

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コメント

ソコロフの演奏が、面白い!

この曲嫌いだったんです。だって私の大好きなベートーヴェンさまが作曲したとは思えない、単純な伴奏、単調なメロディー。
でも今回の記事を読んで納得。左手部分は書かれていなかったのですね。
タイトル同様の俗っぽい曲って思ってましたので、弾いてみようなんて思ったこともなかったです。
でも、ソコロフの演奏は驚きました。ユーモアたっぷり。なんて魅力的にこの曲を仕上げているのでしょう。ちょっと練習してみようかしらなんて思ってしまったほどです。(大変そうだから弾かないとは思うけれど・・・)。
音色にもいろいろ表情をつけて、クリアなタッチが、ホント、あたふたしているコマネズミのよう。コミカルに仕上がっていますね。ベートーヴェンもこんな風に弾いてほしいと思っていたのでしょうか。
キーシンの演奏は、この曲ってこんなにヴィルトーゾ的だったかしら?と、こちらも新たな発見のある演奏でした。

キーシンとソコロフの共通点といえば

マダムコミキ様、こんにちは。

ソコロフは、クープランのティク・トク・ショクでもそう思いましたが、いつも核心を突いているというか、鮮やかな切り口で弾きますね。
この曲はケンプの小品集で聴いたことがあって、面白いとは思いましたが、これほど軽快なタッチではなかったので、ソコロフの演奏はとっても新鮮。

ベートーヴェンは、エロイカ変奏曲やディアベリとかを聴いていると、結構ユーモアのセンスがある人だと思っているので、こういう面白い弾き方でも気にしないでしょうね~。(たぶん)

速いテンポで弾くのは持久力がかなり必要になるし、指がもつれそう。聴いている分には面白いんですが、弾いていて楽しいというよりは、トライアスロンみたいな体力勝負のところもあるような...。結局、弾くのはパスして、これは聴くだけにしました。

キーシンとソコロフの演奏の共通点は、普段聴きなれている曲を、とても新鮮に聴かせてくれるところでしょうか。
キーシンのCDはほとんど持ってますが、パガニーニ変奏曲やリストの超絶技巧の切れ味は抜群で、ソコロフ並に技巧優れた人ですね。ただし、叙情的な表現意欲が強くて、ややロシア的情感過多気味になることがあって、そこはあまり好きではないんですが...。
この曲でも、ソコロフほどにメカニカルなタッチで弾かないところがキーシンらしいところではありますね。

失われた小銭への怒り!

yoshimiさん、こんにちは。
この曲、聞いたことがなかったんですけど
題名が題名なので、気になってたんですー!
一体どんな曲なんだろう?って。
ほんとコミカルな楽しい曲ですね。題名にぴったり。
俗称の方が定着してしまった理由が分かります。(笑)

ソコロフの映像は見られないけど
弾いてる姿が目の前に浮かぶよう~。
熊さんがコマネズミのように弾いてるんですね。(笑)
楽譜としては比較的単純なのかもしれませんが
この速さで弾くとなったら、やっぱり大変そう。
キーシンの映像を見てると、確かに消耗が激しそうだし…
そうでなくても、ベートーヴェンは譜面が単純そうに
見える割に弾いてみると案外難しい曲が多い気がします。

左手の伴奏、私にはぴったりのように思えます♪

スローテンポのケンプの演奏も良いですね

アリア様、こんにちは。

ソコロフとキーシンの演奏、どちらも切れ味鋭くて、聴いていても(見ていても)楽しいですね。

この曲、ケンプのベートーヴェンピアノ小品集に入っていて、全曲ちゃんと聴いたのはそれが初めてでした。(このアルバム、小品集ながらなかなか選曲が充実してます)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/140798

ケンプのロンド・カプリッチョの録音はこちら。
http://www.youtube.com/watch?v=rcLFDlWyKZo

今聴き直してみると、テンポが遅くて音が綺麗で響きも多彩なので、とても可愛らしく優雅ですね。怒っているというよりは、”お金を失くしちゃった、どうしよう...”と途方にくれている感じ。
タイトル&ソコロフとキーシンの猛スピードの演奏だと、商売人のおじさんのイメージがするのですが、ケンプが弾いていると、子供がお使いの途中でお金と落としてしまって、友達総出で探し回っているようなシーンが浮かんできます。

速いテンポでコミカルに弾いても、ゆっくりしたテンポで弾いても、左手の伴奏はどちらでもすんなり受け入れられるので、ベートーヴェンの書いたものでなくても、意外に良い伴奏ですね。コミカルバージョンには特にぴったり。

ベートーヴェンの曲は、後期ピアノ・ソナタは別として、見た目に音を拾いやすそうな曲が結構ありますね。
ベートーヴェンは、ロマン派のような感情表現に寄りかかれないので、タッチの多彩さや構成力がないと、なんだか平板に聴こえてしまったりして、いろいろと難しいです。
でも、音が押さえやすいだけに敷居は低いですし、曲想もバラエティ豊富なので、好みに合いそうな曲からどんどん弾いて行くのがおすすめ。
ベートーヴェンは実際に弾いてみると、聴いている時とは違う面白さや素晴らしさが実感できる(と思っている)ので、昔弾いた曲でも、また弾きなおすことが多いです。

ケンプのも聴いてみました♪

ほんとほんと、こちらはまた趣きが違いますね。

>”お金を失くしちゃった、どうしよう...”と途方にくれている感じ。

この言葉、まさにぴったりですね~。
友達が総出で落としたお金を探してるというのも。(笑)
それでもって、ケンプのを聴いてみると
やっぱりケンプはいいなあ好きだなあと実感してしまう私です。
キーシンやソコロフの演奏も、もちろんいいんですけどね~♪

それと
>ベートーヴェンは実際に弾いてみると、聴いている時とは違う面白さや素晴らしさが実感できる

これこれ! ほんとそうですよね。うんうん。
私も実感したんですよ。「月光」を練習してる時に。
CDで聴いてたら素通りしてしまいそうなところなんですが
「うわあ、ここいいなあ」「きゃあっ、可愛いっ」と、数か所で魅力を再発見。
そういうのって、他の作曲家の作品ではあまりないように思います。
そういうところもベートーヴェンの魅力の1つなんですね、きっと。^^

ベートーヴェンはなかなか奥深くて

アリアさん、こんにちは。

ケンプのロンド・カプリッチョ、私もとても好きですよ。
ケンプ独特の解釈と味わいがあって、ソコロフやキーシンとは違った”わが道を行く”的な個性がとても魅力的です。
やっぱりいろんな演奏を聴くことで、それぞれの個性がよくわかるようになりますね。

ベートーヴェンは職人芸的というか、数少ないモチーフが変形されていくところが面白いですね。弾いてみるとここはこういう風になっていたのね~と気がついたりすると、楽しいものです。
音がシンプルなわりに難しいところは多々ありますが、そういうところは、気長に練習していくとして...。

月光ソナタは昔レッスンで弾きましたが、第3楽章でかなり苦労しました。それ以来ほとんど弾いていませんね...。(トラウマ状態かも)
第2楽章は可愛らしくて、とても好きなのですけどね~。

ケンプの録音だと、第3楽章の両手の旋律の動きがくっきりと浮かび上がるように聴こえてきますね。
響きが薄めで透明感があることもあって、曲の構造が良くわかるので、これはとても面白い弾き方だと思いました。
この月光ソナタの録音がきっかけで、ケンプのピアノ・ソナタ全集を買ったくらいです。

ベートーヴェンは、理性と感情がほどよくバランスがされているので、心情的にシンクロしやすいけれど、常にコントロールされている感じがします。
どういう曲でも最後は調和的に収束していくので、精神的にも安心できるように感じます。

偶然です

こんにちは。

ご無沙汰しております。
偶然ですね。私も同じ日に、このメジャーともいえない小品をアップしていました。yoshimi様とはまったく違う他愛もない記事ですが(^^ゞ
初めてこの曲を聴いたのはキーシンのライブをFM放送で聴いた時でした。アンコールで演奏されました。名曲とは思えませんが何か心に残っていて時々その録音したMDで聴いています。

暑い時になぜか向いているような

天ぬき様、こんにちは。

ほんとに、偶然ですね~。でも、他のブロガーの方と、そういうことが何回かありましたので、意外とありがちなことだったりします。

書き溜めている記事をそのときの気分で選んでアップすることが多いのですが、ちょうどやたらに暑かったので、結構暑苦しいこの曲が向いているような気がしたのかもしれません。

キーシンのこの映像もライブのアンコールですね。キーシンが一生懸命弾いているわりには、ちょっと聴衆のノリが悪いような気がしないでもないですが...。
面白い曲なんですが、ベートーヴェンが未完成で残した曲なので、あまり演奏されないのかもしれませんね。

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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