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アラウ ~ リスト/エステ荘の噴水 <巡礼の年 第3年>より
こう毎日暑いと、聴きたくなる曲もだんだん偏ってきて、数十分もかかるヘビーなコンチェルトや構成がかっちりしているピアノ・ソナタを聴くのを避けて、5~10分くらいの小品が多くなる。

特に、夏になると聴く回数が極端に減るのはブラームス。ブラームスは秋や冬になると無性に聴きたくなる。
ベートーヴェンとバッハは四季を通じてそれほど変わらない。
最近聴くことが増えたリストの曲は、聴いていて暑苦しい曲とそうでない曲とが(私には)はっきり分かれる。
音が膨大に多い超絶技巧華やかなピアニスティックな曲ではなくて、《巡礼の年》でも音の並びがシンプルな曲や晩年の宗教的な色彩の濃い曲は、すっきりとした響きと旋律の美しさがとても清々しく、夏に聴いても涼しい感じ。

イメージからいっても涼しげなのは、《巡礼の年第3年》の<エステ荘の噴水>。
<エステ荘の噴水>の作品解説では、たいてい後年の印象主義音楽(ラヴェルの『水の戯れ』やドビュッシーの『水に映る影』など)を先取りした、大きな影響を与えたということが書かれている。
実際に聴いても印象主義風の音楽のように聴こえるので、初めてブラインドでこの曲を聴けば、リストの作品というよりもフランスの作曲家が書いたと思ったかもしれない。

興味を魅かれるのは、ピティナの解説で、”曲の半ばには、ヨハネ福音書より引用された「わたしが与える水はその人のうちで泉となり、永遠の命に至る水が湧き出る」との標題がある”と書いてあるところ。
リストが滞在していた屋敷の噴水の様子を描写した(だけ)の曲ではなくて、宗教的な隠喩が込められているのだと思って聴くと、有機的な生命力が湧き出るようなイメージがしてくる。

噴水は人工的に作り出した泉なので、そういうメタファーが成り立つのだろうし、そもそも泉の語源は”根源なるもの”なので、”若返りの泉”(Fountain of Youth)なんていう伝説まで登場する。
これは、いわゆる不老不死伝説で、その水を飲むことで誰もが若返るそうな。(この不老不死の水が湧き出る泉の話は、ずっと昔からSF小説のテーマになっていた)

                                 

超有名な曲なので録音は山ほどあるけれど、リストのCDは意図的には集めていなかったので、この曲の録音で聴いたのはベルマン、アラウ、ハフのみ。

ベルマンの<エステ荘の噴水>は、明るく優しげな音色でとても優美な雰囲気。
ベルマンの《巡礼の年》は、曲にもよるけれど、そういうタッチで弾く曲も結構多いので、強いクセがないところは聴きやすいかも。
全盛期のスケール感とダイナミズムのある演奏を期待すると、それとはかなり違っていると思うけど。

ハフの演奏は夏の噴水の如く清々しく爽やか。
シャープなタッチと速いテンポで、水滴や水流の動きが浮かんでくるように細部まで克明で精緻な響きが美しく、とても流麗。アラウほど緩急の変化や起伏は大きくはなく、穏やかな表情と弱音の静謐さが印象的。
ハフの弱音の響きには時々敬虔さを感じることもあって、ハフのリストには(曲によっては)スピリチュアルなニュアンスが強くでている気がする。

ハフの《エステ荘の噴水》も好きだけれど、ハフよりも聴くことが多いのはアラウの1969年のスタジオ録音。いくつかのCDが出ていたけれど、今は全て廃盤。
アラウの演奏は、明るく暖かみのあるまろやかな音色が美しく、淀みなく流れるハフよりもややコツコツした丸みのある響き。
ハフよりもずっとテンポの揺れが大きく、まるで語りかけるような雰囲気のするタッチなので、噴水が生き物のように擬人化されているようにも思えてくる。
温もりのある音色と相まって、生き生きとしたダイナミズムを感じるのは、リストが引用した聖書の一節につながっているからかもしれない。
アラウのリスト(だけでなくほかの曲でも)を聴いていると、音がどれだけ華やかに散りばめられていても、オーガニック(有機的な)という言葉が良く似合うといつも思う。

アラウはリスト作品のなかでもこの曲がとても気に入っていたらしく、小品のなかではバラード第2番と同じくリサイタルで度々弾いていたので、ライブ映像・録音がいくつか残っている。
ニューヨークの80歳記念リサイタルの時は、ドビュッシー《水に映る影》に続けて、この《エステ荘の噴水》を弾いていた。
この2曲を続けて聴くと、やっぱりドビュッシーは、実際の水の動きが反映されたような流麗な曲だろうけれど、ちょっとつかみどころがない感じがする。もともとドビュッシーのそういうところが好きではないので、余計にそう思うのだろうけれど。
続けて聴いたリストの<エステ荘の噴水>は、タッチがずっと明瞭になって音にもしっかりと芯があって、旋律と和声の響きの美しさに加えて、ドラマティックな盛り上がりもある。
《水に映る影》と比べれば、やっぱりロマン派の曲だと感じるものがあって、これはなぜか聴き飽きない。

アラウ/エステ荘の噴水

ボストンでのリサイタル映像。80歳のリサイタルの時よりは若々しく見えるので、70歳代の頃の演奏?

tag : アラウ フランツ・リスト スティーヴン・ハフ

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何とも言えないいい演奏・・・
リストとドビュッシーの水の音楽について、全く同じように感じていたようで、おかしくなってしまいました。
「エステ荘の噴水」は確かに中ほどで、先のアッシジにも通じる宗教的な雰囲気を漠然と感じていたのですが、やはり、そうだったのですね。
アラウの演奏、ゆったりしていて、こんな風に弾いても素敵なんだと思いました。
遅いなりの味わいがありますね
マダムコミキ様、こんにちは。

やっぱり、水の音楽、そう感じます?私だけじゃなくて、良かった...。
ドビュッシー大好きな人はともかく、ドビュッシーは和声は綺麗なんですが、つかみどころがない曲が結構ありますね。
ちょうどドビュッシーも集中的に聴いているので、大分慣れましたが、この《水の映る影》は、やっぱりもう一つよくわかりません。
それでもドビュッシーはかなり面白いと思えるようになりましたが。

リストは、どんな曲でも構成がしっかりしてますね。
晩年のリストの作品には、宗教的な意図が込められている場合が多いようなので、初めて聴く曲は作品解説を読むようにしています。
知っている情報が多いと、いろんなイメージが湧くので良いですね。

アラウは、若い頃は別として、どんな曲でも概してテンポは遅い方です。
ライブだと少しテンポが上がるのですが、それでもきっちり旋律を歌いこんでいくので、どうしても遅くなるようです。(この頃はまだマシな方ですけど)
慣れてしまうと、あまり遅く感じなくなるのですが、困ったことに速いテンポの演奏についていけなくなりそうです。



ゆったりした演奏が好き❤
遅めのテンポでも聴かせる音楽になるのは、速く弾くよりずっと難しいことだと思うのです。ゆったりしていても、もたついて聴こえず、旋律や構造がはっきり見えてくる演奏って言うのが、私には理想。
速すぎると、どうしても乱暴に聴こえる時があるので。
もちろん、ゆったりがいつでもいいわけではないけれど・・・。

さて、いつもブログ楽しませて頂いているので、お気に入りにブックマークさせていただいちゃいました。事後報告でごめんなさい。
これからも、よろしくお願いいたします。
テンポ設定は結構難しいものですね
マダムコミキ様、再びこんにちは。

私はどちらかというと、速いテンポの演奏の方が好きなのですが(私の好きなカッチェン、ハフはかなり速いです)、遅いのはアラウとチェリビダッケで慣れているので、内容さえ良ければテンポはどちらでもOK。

でも、よく考えると、好むテンポは曲や楽章によって違いますね。
ワルトシュタインは遅いテンポのアラウ、ブラームスのバラード第4曲やショパンのエチュードOp.10-6は速いテンポの演奏が好きだったりします。
それにその時の気分によって、聴きたいテンポが変わるという気まぐれものなので、結局同じ曲をいろんなテンポの演奏で聴いてますね。

ゆったりした演奏がお好きなら、アラウのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ディヴィス指揮の方)はすこぶる遅いので有名ですので、機会があれば一度お試しを。名盤と言われていますし、内容的にもとても良い演奏です。

ブックマーク登録、全然OKです。私もよくお邪魔しているので、リンクを貼らしていただきますね~。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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