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アラウ ~ ドビュッシー/ベルガマスク組曲より 《月の光》
昔から好きだった数少ないドビュッシーの曲といえば「ベルガマスク組曲」の《月の光》。
「ベルガマスク組曲」は「版画」以前に書かれた曲なので、わかりやすいロマンティックなところが気に入っていて、今でも「版画」と並んで好きな曲集。

最近手に入れたアラウのドビュッシーピアノ作品集BOXに収録されているのは、1991年の最晩年に録音した「ベルガマスク組曲」の《月の光》。
今まではカッチェンの《月の光》をよく聴いていた。弱音の響きが儚げで綺麗な主題部と、逆に勢いのあるダイナミックで中間部とメリハリが良くついたロマンティックな演奏。
ドビュッシーにしてはかなりドラマティックで多少変わっている気がしないでもなかったけれど、アラウの《月の光》は多少どころか、摩訶不思議なドビュッシー。

Debussy: Works for PianoDebussy: Works for Piano
(2003/09/01)
Claudio Arrau

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《月の光》を録音した最晩年の頃(1991年)のアラウの演奏は、指のコントロールがかなり苦しいというテクニカルな問題に加え、晩年のアラウ独特のゆったりとした時間感覚、強い情感を込めた歌う(語る)ような歌いまわしが特徴的。
同時期に録音したバッハのパルティータの録音もかなり特異な(感情がしみこんだような)パルティータで、このドビュッシーの特異さとは表れ方は違っているけれど、両方聴いているとやっぱり根元は同じ。

「ベルガマスク組曲」のどの曲を聴いても、ちょっと異次元や別の宇宙の音楽のような摩訶不思議さがある。
アラウは、ドビュッシーの音楽を”別の惑星の音楽”と言っていた。
アラウの《月の光》を聴いていると、本当に、時間がゆったりと流れる別世界の月の光を浴びているような感覚。

アラウは、普通は5分前後で演奏される《月の光》をほとんど7分かけて弾いている。
残響が多いうえにペダルがかかっているので、線の太い暖かみのある音が、絨毯のような厚いタペストリーになって、とても豊饒な響き。
冒頭と終盤の弱音部分は、軽やかなタッチと残響の長さが相まって、ふわ~とした浮遊感があって、幻想性が増している気もする。

特に独特なのは、すこぶる遅いテンポの中間部のかもし出す雰囲気。
普通はテンポを速めて流麗なアルペジオが流れるはずだけれど、アラウは旋律・伴奏ともやや粘り気のあるタッチで、一音一音丁寧に緩い起伏で弾いていく。
ゆったりと流れるピアノの音を聴いていると、暖かな夜のまったりとして静かな海の上に輝く月...のような情景が思い浮かんでくる。
アラウの暖かくぼわ~とした音色と細部まで書き込まれた表情が相まって、月の光が意思を持った生き物であるかのような生温かさと濃い情感を感じてくる。

再現部になると、冒頭よりもずっとしっとりした叙情感が出て、月の光で浄化されたように清々しさを感じさえるエンディング。

この独特な時間が流れている《月の光》は、後にも先にも最晩年のアラウしか弾けないとっても不思議な世界のドビュッシー。

Claude Debussy - Suite Bergamasque - Clair de Lune/Claudio Arrau



《月の光》に限らず、同時期に録音した「ベルガマスク組曲」の曲や「ピアノのために」などは、どれを聴いてもやっぱりとっても不思議な雰囲気。

「ベルガマスク組曲」の第1曲《プレリュード》からして、とってもゆっくりしたテンポとやわらかく粘り気のあるタッチが奏でる音楽。まるで異世界にいるような時間と空気が流れているよう。
まったりとしたフォルテの響きも丹念に一音一音を鳴らしていくような弱音の響きも、本当に不思議な雰囲気。これは聴いてみないと実感できない不思議さ。

軽快なはずの第2曲《メヌエット》と第4曲《パスピエ》は、指が良く回っていないので訥々としたタッチでポツポツ、ペタペタといった感触。テンポも微妙に揺れ続け、左右の拍子も微妙にずれているような...。
なぜかこれが、無垢な明るさやユーモア、軽妙さといったものが混在しているような不可思議さを醸し出している。(聴く人によって違うだろうけれど)
《メヌエット》終盤で盛り上がるところは、テンポが遅いうえに太く重層的な響きが相まって、これがかなりドラマティックで濃い情感が漂っている感じ。
《パスピエ》は、もともとちょっと調子が外れたような不思議な雰囲気を感じるけれど、アラウが弾くとそれがさらに増してくる。透明感のある音と重なり合う響きの美しさは、言葉にできないような独特のもの。
アラウの最晩年のこのドビュッシーには、独特の時間が流れていて、不可思議さがいっぱい。

Claudio Arrau - Suite Bergamasque - Passepied - Debussy

tag : ドビュッシー アラウ

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不思議なドビュッシー
「月の光」は元々それほど好みの曲ではないのですが…
…yoshimiさんとは逆に、分かりやすいロマンティックさがどうも…(笑)
でもパスピエは好きなんです。ゲーム音楽みたいですけど。
アラウのパスピエ、確かに不思議な演奏ですね。
最初の方もポツポツペタペタでしたが、後半、特に終盤はまるで違う曲みたい。
それでも、こういうのもいいかもって思えてしまうのが不思議です。(笑)
ベルガマスクのプレリュードも聴いてみましたが、こっちも不思議な世界!
共通してるのは、音色の暖かさでしょうか。

ユーリ・エゴロフのトッカータ、聴かせていただきました♪
なんだか抒情的なトッカータですね?
メカニカルな面もきちんとしてるんだと思いますが
綺麗な曲になってしまっててちょっとびっくり。こういうのも素敵ですね。
他のシューマンもますます聴いてみたくなっちゃいましたよ。
あ、ドビュッシーも。(笑)
これはもうボックス買いするしかないかも~。
面白い♪
私はyoshimiさんと同じで、「ベルガマスク」や「版画」あたりが好みです。
特に「ベルガマスク」は大好きなのですが、アラウの世界は、本当に不思議でした。
このテンポで聴かせる事が出来るのは、アラウしかいないのでは?
「パスピエ」のテンポは、私がまるで練習し始めた頃のテンポ・・・。
だいぶ遅いのに、でも音楽的。
独特の世界ですね~。
エゴロフのシューマン、とても良かったです
アリアさん、こんにちは。

アラウのドビュッシー、最晩年に録音した曲は不思議な世界ですよね~。
音の並びで指の動き具合が違うので、時々凄く冴えたところもあったりしますが、アラウが弾いているので何でもOK。
音色は昔からやや線が太く暖かいのですが、不思議な透明感は晩年特有のもの。この音が大好きという人、結構多いです。

エゴロフのトッカータ、ボゴレリッチのような刺激はないですが、詩的でメカニカルには弾いていないのが、彼らしい。
とっても綺麗に響くところが何ヶ所もあって、和声に興味があれば、面白いトッカータだと思います。
メカニックは問題ないと思いますが、こういう柔らかいタッチで音の粒を揃えてずっと弾き続けるのも、結構指が疲れそう。

エゴロフのシューマンは全部聴きましたが、いつも聴いていない曲が多くて、どこがどう良いのかはっきり言えないところが残念。
でも、「クライスレリアーナ」は昔からわりと好きで、これはとても良かったです。
ルバートをベタベタかけずに勢いと緊張感があって迫力充分。低音の太く強いフォルテがしっかり響いて、柔らかい弱音の響きもとても綺麗。ハープのようにエコーして、コラール的な透明感もあるところは、うっとり~。やっぱりエゴロフとは相性が良いようです。

「色とりどりの小品」は初めて聴きましたが、これも良い曲集ですね。
どこかで聴いた旋律だと思ったら、ブラームスの「シューマンの主題による変奏曲」を思い出しました。
それに「ノベレッテン」の1番&8番もとっても好みの曲。「ノベレッテン」は全曲を聴いてみたいです。

エゴロフのドビュッシーは、音も和声も綺麗で詩的なところが良いのですが、シューマンの方がずっと向いているような気がします。
シューマンを弾いているときは、音もリズムも表現も何もかも、とっても生き生きしてます。
BOXセットはとてもおすすめ。選曲・演奏、それにコストパフォーマンスも良かったので、私はとっても満足でした。
異世界のような不思議さですね
マダムコミキ様、こんにちは。

ドビュッシーは最近よく聴くようになったので、昔は「ベルガマスク組曲」か「子供の領分」、「アラベスク」と「夢」くらいしか知りませんでした。
それも、たまたまピアノで練習していた曲だからなので...。
どちらかというと苦手な作曲家でしたね。

ドビュッシーをいろいろ聴くと、版画はわかりやすくて、特に「雨の庭」が好きです。「パゴダ」もアジア的雰囲気が漂っていて、とっても良いです。
それにメカニカルな映像の「運動」も。ピアニストの弾き方の違いが良くわかって、面白いです。

アラウのベルガマスクは、なんと言ってよいかよくはわからない世界です。
テクニックがきっちりした演奏を求める人には、単に下手にしか聴こえないので(そういうレビューをいくつか見ました)、すすめませんが、この異世界のような不可思議さは、まずアラウでしか聴けません。

そういえば、アラウのパルティータも似たような世界ですが、不可思議さは薄くなって、叙情性がずっと強くなっています。
第1番の最後のGigueもスローテンポで、不思議な雰囲気がします。これはとっても面白くて、アラウでなくとも、こういう弾き方は好きです。
アラウのドビュッシー
LP時代、前奏曲集1,2巻の彼の演奏を聴いていると、視覚的な情景が思い浮かぶために、分かりやすいドビュッシー音楽として、愛聴していました。
ボックスセットで発売されているとか。久しぶりに聴いてみたくなりました!
前奏曲以外もアラウらしい演奏です
さすらい人様、こんにちは。

アラウのドビュッシーを聴いていると、生温かくて、どこかオーガニックな生命が潜んでいるような、ちょっと不思議な感覚がします。
響きに厚みがあって透明感が薄いので、一般的なドビュッシーのイメージとは少し違うように思いますが、個性的でとても面白く聴けるドビュッシーですね。

BOXセットには、「版画」、「映像」、それに最晩年の録音も入ってます。
この最後の録音がかなり変わったところのある演奏ですが、アラウのパルティータがお好きなら、好みに合う可能性は高いように思います。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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