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キース・ジャレット 『パリ・コンサート』
キース・ジャレットの評伝『キース・ジャレット 人と音楽』を読んでから、長い間聴いていなかったキースのCDをラックの中から引っ張り出してきた。
ちょっと涼しくなった静かな夜に、キースのソロ・ピアノをじっくり聴いていると、張りがあって艶やかな(セクシーだという人もいるくらい)音が、体のなかに浸みこんでくる。

キースのソロ・コンサートで一番有名なアルバムは、たぶん『ケルン・コンサート』。
他にもサン・ベア、ブレーメン/ローザンヌ、カーネギー・ホールなど、ライブ録音はたくさん出ているけれど、私が一番好きなのは『パリ・コンサート』。
明るい色調で現代音楽風なところもある『ブレゲンツ・コンサート』や、現代音楽風の印象派のような雰囲気のある『ラ・スカラ』も好きだし、箏曲のような日本的な旋律と和声が聴こえてきてエキティシズムを感じてしまう『サンベア・コンサート』も面白いけれど、どれか1曲だけ選べと言われれば、今は『パリ・コンサート』の第1曲《October 17, 1988》

まず鮮やかなのが、ECMらしくシンプルでセンスの良いデザインのジャケット。
フランス国旗と同色にしたのか、ベースが赤、文字は青・白という色彩が綺麗で、《ラ・スカラ》と同じように洒落ている。
Paris ConcertParis Concert
(2000/02/29)
Keith Jarrett

試聴する(米amazon)



キースのジャズに分類されるピアノ・ソロのアルバムはほとんどがライブ録音。
スタジオ録音なら『Facing You』『Staircase』『The Melody at Night, With You』くらいだろうか。(最近は新譜を買っていないのでよくわからないけど)
ライブ録音はほとんどがインプロヴィゼーションなので、数十分間、途切れなく筋書きなしに続く。
キースの長大なインプロヴィゼーションに関しては、あらかじめ主題とか展開の大筋を決めているのではないかと疑っている評論家もいるらしい。
そもそもキースに対する評価は、ポジティブ/ネガティブにすっぱりと二分されていて、好き悪いがはっきり分かれるのはタイプなのは明らか。『キース・ジャレット 人と音楽』の最後の部分では、キースに対してどのような評価がされているのか詳しく書かれている。

キースは「自分がほんとうに感じていることを表現すれば、人が言う構成とか形式とかは出てこない。また、形式や構成があるようなものを歌おうとすれば、それを歌っている瞬間のフィーリングを出すことはできない」と言っていた。(清水俊彦『ジャズ転生』)
作曲家でピアニストの高橋悠治さんは、キースのライブ録音は退屈だと言っていたし、同じような曲に聴こえるという人もいたりする。そう言われるのもよくわかる。
昔はそんなに良いのかなあ...なんて思っていたけれど、久しぶりに聴きなおしてみると、こういう長大なインプロヴィゼーションは、頭のなかで分析的に聴くものではなくて、特に初めて聴くときは何も考えずに音楽にシンクロしてその流れのなかに浸りながら聴くのが一番。
ライブのように筋書きのない予測不可能な音楽が聴けるのは、最初の1回目だけなので。


                                 

『パリ・コンサート』の第1曲《October 17, 1988》は、40分近くかかる長大な曲。(といっても、キースのピアノ・ソロのライブ録音ではごく普通の長さ)
冒頭からバロック風の古典的な佇まいのある静謐で和声と旋律が異様なくらいに美しい。
キースが弾くピアノの音は、ピンと張り詰めたように引き締まり、艶やかで瑞々しさのある美音。
この音を聴いているだけでうっとりするくらいに美しく、その独特の音がこの曲想にはとてもよく似合っている。
1988年は、バッハなどのクラシック音楽の演奏活動や平均律曲集などの録音を終えた後の時期。クラシック・ピアニストとしての経験や作曲家の影響が色濃く反映されているのだと思う。

冒頭の教会音楽のような透明感のある美しい曲想とは対象的に、続いて現れるのは、左手低音部の重苦しく重なるオスティナートが恐ろしげで厳しい旋律。
やがて沈み込むようなオスティナートの旋律に変わっていく。
泡のように響きが混沌としてもやもやした状態が続いて、一体ここからどこへ向かおうとしているのかわからないというところが、結構スリリング。
初めて聴いたときは、当然展開は予測がつかないし、久しぶりに(10年ぶりくらい?)聴くとかなり記憶があいまいになっていたので、ライブのように予測できない成り行きの面白さを再体験できたようなもの。

終盤近くになると、激しい細波のように細かく音が複雑に重なりあっていき、これから何かが生起していきそうにゆっくりとクレッシェンドしていく。
最後は、その湧き立つような響きのなかから、蝶がひらりと舞い上がるように、柔らかい響き晴れやかで明快な旋律がゆっくりと、遠くからエコーするように、聴こえてくる。
とても展開がドラマティックで、40分という長さが全然長いと思えなくなるほどに、集中して聴いていた。

キースの録音した平均律曲集は、蒸留水のように無色透明的な雰囲気はあったけれど、この《October 17, 1988》は、それとは違って、強く激しい叙情感や深く沈潜した内省的なものを感じる。
このインプロヴィゼーションは、他のライブ録音と比べると、比較的枠組みがかっちりと整っている方で、古典的な佇まいを感じさせるところがあり、深く瞑想するような曲想とコラールを連想するような旋律・和声の美しさは何とも言えないほど。
やはりキースが弾くクラシックを聴くよりも、ジャズ・ピアニストとしてのライブを聴いたほうが、強く魅かれる。(この演奏がジャズのカテゴリーにぴったりおさまるのかどうか良くわからないけれど)

Keith Jarrett/Paris Concert - 《October 17,1988》



次の《The Wind》は直前のバロック風な世界とは全然違うけれど、様式の堅苦しさが全くないので、叙情感は一層深くて、呟くような透き通ったピアノの音がとても美しい曲。
冒頭は明るくリズミカルなリズムだったので、明るいタッチのジャズになるのかなあと思っていたら、なぜかすぐに沈み込んでいって、感傷的とも言いたくなるほどに静かで叙情的な旋律に変わってしまった。
《October 17, 1988》にあまりに深く没入していたので、すぐに違った音楽が湧いてくることなかったのか(?)、続編的と思えるような静かで美しいロマンティックなインプロヴィゼーション。

最後は全く雰囲気が変わって《Blues》
力強くて弾力のあるピアノの音が朗々として、生気が蘇ったような感じがとても明るく晴れやか。


 イアン・カー著『キース・ジャレット 人と音楽』の記事

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サンベア・コンサート
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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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