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ブラッド・メルドー『Live in Tokyo』より ~ 《Paranoid Android》
オッターの新譜でピアノ伴奏をしているブラッド・メルドーは、若手のジャズ・ピアニストの中でもかなり個性的なスタイル。とても思索的で詩的なピアノを弾く。
タワーレコードの店内で流れていたジャズ・ピアノの演奏がとても理屈っぽい弾き方だったので、これ、もしかしてメルドー?と思って確かめるとやっぱりメルドーだった。(メルドーは日本ではあまり人気がないような気はするけれど)

メルドーのソロアルバムは2枚(国内盤も入れると3枚)あって、『エレゲイア・サイクル』と『Live in Tokyo』。
この『Live in Tokyo』は、2003年2月15日のすみだトリフォニー・ホールでのライブ録音。
当時、輸入盤(1枚組)、国内盤(2枚組)の2枚がリリースされていたので、私は迷うことなく国内盤を買ったけれど、今は輸入盤しか出回っていないらしい。

輸入盤の曲目は8曲。
メルドーが強くこだわりをもっているNick Drakeの2曲(《Things Behind The Sun》が特に良い)が最初と最後に並べられ、20分近くと一番長い《Paranoid Android》(これは傑作)や、メルドーの好きな《Monk's Dream》も入っているので、輸入盤でも全然悪くはない。
でも、メルドーのピアノがとても好きな人なら、曲数が多い国内盤の方がずっと楽しめます。

Live in TokyoLive in Tokyo
(2004/09/06)
Brad Mehldau

試聴する(米amazon)


2枚組の国内盤(今は廃盤らしい)。15曲収録。itunestoreでダウンロードできます。
ライヴ・イン・トーキョーライヴ・イン・トーキョー
(2004/09/23)
ブラッド・メルドー

試聴する


国内盤1枚目のラストは《Things Behind The Sun》。(これは輸入盤の最初の曲)
作曲したNick Drakeは26歳の若さで亡くなった人で、メルドーは彼の曲に対してとてもこだわりを持っているという。
複数のリズムが交錯するところが面白くて、メルドーのリズムも歯切れ良く、都会的な乾いた哀感のある曲。

メルドー自作曲も入っていて、叙情的な旋律が美しい《introⅠ》《introⅡ》、不協和的な和声が面白い《C tune》《Waltz Tune》
私はスタンダードはほとんど聴かなくて、たまたまカップリングで入っている場合はスタンダードでも聴くけれど、モダン・ジャズでもピアニストの作曲センスが明確にわかるオリジナルを聴くのが好きなので。
でも、同じスタンダードの旋律を使っていても、エヴァンスやバイラークのような素晴らしいピアノなら、もうスタンダードだろうかオリジナルだろうが、どちらでもよくなってくる。

このアルバムで一番良かったのが、《Paranoid Android》。作曲はレディオヘッド。(レディオヘッドが誰なのかも全然知らないけど)
メルドーのアルバム『Largo』にもこの曲が収録されているけれど、こちらはソロではなくて、メルドーの編曲によるピアノ&小編成バンドによる演奏。
2つの録音を聴き比べれば、圧倒的にピアノ・ソロの方が、この曲のタイトルからイメージされる雰囲気がよく出ている。
原曲は6分あまりの曲。メルドーのバージョンでは20分に拡大され、アンドロイドの内面の変化を描写しているような演奏。
冒頭の静かで幻想的な旋律と和声、徐々に妄想に悩まされていくように拡大する左手の低音部、急迫感のある執拗なオスティナート、アンドロイドの哀しみと天への祈りのような静かで厳粛な旋律(コラールのような...)、最後は、再び疾走するようなミニマル的旋律が現れてエンディング。
結局、アンドロイドは救われなかったのかもしれない。

20分の演奏のなかで、いろんなモチーフが展開されていき、次々に変転していくリズムと和声が面白いし、特に和声が不協和的であっても響きが美しいのがとてもメルドーらしい。
キースのライブで弾くソロ・ピアノに似ているところを少し感じはするけれど、キースのような強い凝縮力や求心力というのではなく、すっきりとした構成と淀みない流麗な展開。
標題音楽のようにイメージ喚起力があって、残酷だけれど詩的な美しさのある物語を聴いているような気がする。
このピアノ・ソロは、原曲のユニークなところが良かったし、メルドーらしい詩的なイメージを感じさせる表現と凝った和声の美しい響きで、アンドロイドの内面的な動きを表現しているところがとても印象的。

Brad Mehldau - Paranoid Android [Youtube](Part 1)



レディオヘッドの原曲(英文歌詞付)[Youtube]
英文の歌詞を読むとまさにタイトルどおり。曲の方も、錯乱気味のアンドロイドの頭の中のように、不安定に変化する和声と旋律が不気味。

                             

《Paranoid Android》を聴いていて、ふと思い出したのが、ロシア出身の現代音楽作曲家アウエルバッハが作曲した《LUDWIGS ALBTRAUM》
これは”LUDWIGの悪夢”という意味。LUDWIGはあのベートーヴェンのこと。
2つの曲自体はそれほど似たところはないけれど、不気味な雰囲気を感じるところは同じだし、悪夢も妄想の一つといえなくもないので、連想したに違いない。

LUDWIGS ALBTRAUM 2007 [ライブ録音の音声ファイル]

《LUDWIGS ALBTRAUM》はとても幻想的な曲。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番(幻想ソナタ)の第1楽章の冒頭主題の断片が、曲中に度々遠くからエコーするように聴こえてくる。徐々に不協和的に歪んだ響きになって現れ、これが不安定感や不可思議さを増幅している。
多彩なピアノの響きがとてもファンタジックで、悪夢のなかに現れる不吉さ、不安、切迫感などの要素を象徴したような感じ。
はじめは、曖昧模糊とした響きで幻想的な雰囲気が強いが、徐々に不安に駆り立てられ、何かに追われているような焦燥感や恐怖感のような雰囲気に変わる。左手のバスのオスティナートが不吉でとても効果的。

tag : ブラッド・メルドー アウエルバッハ

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(非公開コメント受付中)

やっと2枚組を入手
こんばんは.
先日,御茶ノ水でやっと2枚組を普通の価格で手に入れました.最近のライヴ・ソロで刮目したのですが,このすみだでのライヴのほうが思索的でいいですね.すっかり魅了されております.全部は聴いていないのですが,2曲目で目眩するほど惹き込まれたので,まずは,教えて頂いた御礼と思って!
メルドーのライブ、聴き直してます
ken様、こんばんは。

早速コメントいただいて、ありがとうございます。
2枚組の国内盤は中古でもあまり出回っていないようなので、無事に普通の価格(定価くらいでしょうか)入手できて良かったですね。
それに、とても気に入られたようで何よりです。

私はメルドーのアルバムでは、『エネゲイアサイクル』が一番好きなのですが、ライブで好きなのは、オリジナル曲と《Things Behind The Sun》、《Paranoid Android》あたりでしょうか。
長い間聴いていなかったので、今聴き直していますが、おっしゃる通り、最新のライブ録音よりも、墨田のライブの方が、テンポがゆったりした落ち着いたタッチの曲が多くて、じっくりと曲を味わうようなプログラムです。
昔はそう感じなかったのですが、《アルフィー》や《リバーマン》も良いですね。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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