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ビル・エヴァンス 『You Must Believe in Spring』,『I Will Say Goodbye』
最近、夜中によく聴いているのがビル・エヴァンス。すっかり秋めいた静かな夜には、エヴァンスのピアノがとてもよく合うので。
10年くらい前にジャズ・ピアノばかり聴いていた頃があって、いろんなジャズ・ピアニストのCDを集めていた。エヴァンスCDはトリオとソロで10枚くらい。
そのなかでとりわけ好きなのが、1977年に録音したこの『You Must Believe in Spring』
この録音の数ヶ月前に、同じトリオで『I Will Say Goodbye』を録音しているので、この2つのアルバムが晩年の傑作と言われている。

You Must Believe in SpringYou Must Believe in Spring
(2003/10/27)
Bill Evans Trio

試聴する(米amazon)


ジャズ・ピアノを聴くときは、トリオやカルテットよりは、ソロの方が多い。
好きなピアニストは、エヴァンス、ジャレット、バイラーク、メルドーと、ピアノ・ソロも素晴らしいピアニストが中心。
エヴァンスのピアノ・ソロは3枚持っているけれど、エヴァンスに限ってはトリオもソロと同じくくらいに好き。
ピアノがベースと対話しながら展開していくところに独特の雰囲気があるし、特に晩年の録音の穏やかな静けさのある佇まいと叙情感がとても美しいので。

『You Must Believe in Spring』は、原盤に加え3曲のボーナストラックが収録されている。
この3曲、聴けばわかるとおり、アルバム全体の静かな哀感の漂う雰囲気とは違って、屈託なく明るい曲なので、アルバムの統一感を出すために収録しなかったらしい。
ボーナストラックが入っているのは別にかまわないとは思うけれど(結構不評だけれど)、ラストは原盤どおり《Theme from M★A★S★H》が相応しい気がするので、ボーナストラックは聴かずにプレーヤーはストップ。

このアルバムは、失われたものに対するレクイエムのように哀感のような深い叙情感が静かに流れているけれど、なぜか突き抜けた明るさも漂う不思議な雰囲気。
「死」にまつわるモチーフが多いけれど陰鬱なムードはなく、シンプルで甘美な旋律と洗練されたハーモニーの醸しだす、しっとりとした深い叙情感がとても美しくて。

エヴァンスの曲は、メランコリーに覆われていると言われるけれど、Fantasyに移籍後のアルバム(『アローン(アゲイン)』『トーキョー・ライブ』とか)を聴くと鬱々とした雰囲気はそれほど強くはない感じがする。
和声がますます洗練されて美しくなっているし、このアルバムに関しては、メランコリーというより追憶するような深い叙情感のなかに、さばさばとした悟ったような(もしくは諦観?)明るさを感じる。
情緒的な感傷に陥ることなく、限りなくリリカルな美しさを、レビューでは”破滅的な美”だと言う人もいる。
数年後に亡くなる自分自身の運命を漠然と予感していたのかもしれない。


冒頭は《B minor waltz (for Ellaine)》
録音の前年に亡くなった妻エレインに捧げられた曲。
彼女も麻薬中毒にかかって治療を受けてはいたが、エヴァンスとは数年前から別居状態で(法的にはもともと婚姻関係にはなかった)、結局エヴァンスと別れてから数日後、地下鉄で投身自殺したという。
右手が高音で弾き続ける旋律の硬質で凛とした響きがとても甘く哀しい、静かな短調のワルツ。

アルバムのタイトル曲《You must believe in spring》は、曲名がこのアルバムの意味を象徴しているかのよう。”must”というところに祈るような気持ちが感じられてくる。
前半は哀しげに微笑んでいるような物静なトーン。後半はテンポが上がってリズミカルで明るさが差し込むようなところはあるけれど、最後は元通り静かな雰囲気に。

第4曲《We will meet again (for Harry)》は、鬱病を抱えてこの録音の4ヶ月前に拳銃自殺した音楽の教師だった兄への追悼歌。
この曲名は“we may never meet again”という別の曲の歌詞に由来するという。
冒頭のピアノ・ソロが弾く旋律は、以前にどこかで聴いたことがあって、すぐに思い出したくらいにあまりに印象的。一度聴いたら忘れられない曲の一つ。
全編に兄に対する愛情と彼を失った淋しさが深く痛切に流れ、中盤からクレッシェンドして響きが重なっていくところは、抑えていた感情が溢れだしてくるかのよう。
エンディングは、追憶の中に消えていくかのように、ピアニッシモで静かに終っている。
エヴァンスの有名なモントルー・ジャズ・フェスティバルのCDで《I Loves YouPorgy》を聴いていると、アルペジオの使い方や和声の響きがちょっと似ているせいか、この曲をすぐに思い出した。
この曲には、トリオバージョンとピアノ・ソロバージョンがあり、ピアノ・ソロバージョンは、エヴァンスが1979年にスタジオ録音した最後のアルバム《We Will Meet Again》に収録されている。

《We will meet again (for Harry)》(Piano Solo Version / By Evans)



原盤の最後の曲は、《Theme from M★A★S★H》”Suicide is painless”(自殺は無痛)というサブタイトルで有名。
アルバムの解説によると、友人(たぶん作詞者)がエヴァンスを評して”the world's slowest suicide”と言ったという。
麻薬を常習していたエヴァンスはヘロインからコカインへとドラッグに染まっていったが、晩年はまともに治療を受けようともせず、飲酒・薬物の常用による肝硬変などが原因で、このアルバムを録音した3年後の1980年に51歳で亡くなった。

Bill Evans - MASH Theme (Suicide is Painless)


『M★A★S★H』は、はるか昔、深夜にTVで放送されていて、たまに見ていた映画。
記憶ではベトナム戦争が舞台だと思い込んでいたけれど、調べてみると朝鮮戦争だった。
軍服を来た軍医(女医さんもいたような)が何人か登場していたことと、戦争映画のはずなのにコメディっぽくて面白かった記憶がある。
テーマ曲をしっかり覚えていたので、このエヴァンスのアルバムで久しぶりに聴いた時には、とても懐かしい感じがしたし、この曲は結構好きだった。
コメディ映画のテーマ曲にしては品の悪くない明るさがあるし、エヴァンスのトリオバージョンだと、華麗で開放感のあるリズミカルな曲に仕上がっている。
しっとり深く美しい叙情が流れている背後に傷心が隠されているような曲が続くこのアルバムが、最後にはさばさばした明るい雰囲気で終るので、ほんの少し救われた気分になれる。

                             

『You Must Believe in Spring』より数ヶ月前に録音されたアルバム『I Will Say Goodbye』に収録されている《I will Say Goodbye》《Seascape》も、リリカルな哀感のある美しい曲。
《Seascape》の作曲者は、「M★A★S★H」のテーマ曲を書いたJohnny Mandel。

《I will Say Goodbye》は強い感情が込められたほろ苦い甘美な旋律が美しく、《Seascape》は穏やかさと激しさが交錯するようなところがドラマティックで、Seascapeというよりも、感情の揺れ動く心象風景のような気がする。
いずれもエヴァンスの厚みのある和音の響きが華やかで、憂いの漂うロマンティックな旋律と相まって、エヴァンス独特のリリシズムが濃厚。

I Will Say GoodbyeI Will Say Goodbye
(1996/02/12)
Bill Evans

試聴する(米amazon)




ビル・エヴァンスのディスコグラフィー(「ジャズCDの個人ページ」by K. Kudo)
バイラークのCDのレビューを探していて見つけたホームページ。CDを探すのにとても役に立っている。

tag : ビル・エヴァンス

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今宵もこんばんは
昨日の今宵でお騒がせします。
仕事の合間に記事を拝見するとなかなか止まらない状態。アマゾンのカートが随分増えてしましました。本も含めて。深謝。(昨夜の弊BLOGでのご示唆にも感謝しております)

このエヴァンスのアルバムはボクも好きで、数あるもののなかで10指の一つ。音だけ静謐なアルバムは数あれど、気持ちのなかを静謐にするようなアルバムは沢山はない。このアルバムを聴いていると、ボクもいずれ渡る路をエヴァンスが30年前に渡っていった事実を静かに想います。

実は同じ時期(9/25)にボクのBLOGにも書いていて,他のジャズブログの方も書いていて,秋が近づくと,ふと取り出すアルバムになっているようですね。独りで納得しておりました。
秋の静かな夜に聴きたくなりますね
ken様、こんばんは。

私がとりあげているCDは、個人的趣味の強い偏った傾向があるといいますか、あまり一般に有名でない録音も多いので、一度試聴してみてくださいね。

秋になるとエヴァンス...というわけでもないんですが、少し寒くなり始めた夜に聴きたくなるジャズのアルバムは、これとキースの『The Melody At Night, With You』です。
「アローン」も好きなんですけど、このアルバムはエヴァンスのCDの中では、一番良く聴いています。
《We will meet again》はトリオも良いのですが、ピアノソロバージョンの方がより内面的で痛切な感じがします。
《Theme from M★A★S★H》もサバサバした明るさがあって、同じくらい好きな曲です。

クラシックなら、秋になるとブラームス。そういう人、結構多いです。ブラームスには秋と冬が良く似合うと思ってます。
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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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