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アラウ ~ アルベニス/イベリア第1巻&第2巻
ピアノ作品が多いラテン系の作曲家でポピュラーなのは、たぶんモンポウ、グラナドス。
あいにくモンポウを聴くとすぐに眠たくなるし、グラナドスはまるでショパンを聴いている気がするので、《星々の歌》以外はまず聴かない。

わりと好きなのはヴィラ=ロボス。有名なのはブラジル風バッハやショーロスだけど、ピアノ作品はかなり多くて、協奏曲、独奏曲とも、詩的で魅力的。
あとは、最近初めて聴いたアルベニス。有名なのは組曲《イベリア》や組曲《スペイン》。

アルベニスのプロフィールを調べると、ずっとスペインで暮らしていたわけではなく、23歳で結婚してからは、マドリッド、ロンドン、そして、30歳半ばからパリに定住していた。
当時のフランスで著名な作曲家であるショーソン、フォーレ、デュカスとも親交があったという。
アルベニスの曲を聴いていると、スペインの風土に題材をとっているにしては、スペイン風のエキゾティシズムはかなり稀薄な気がする。
それよりもずっとコスモポリタンというか、旋律や和声にフランス音楽風の洗練されたものを感じるけれど、このバックグラウンドを知って、それも納得。

そのアルベニスを初めて聴いたのが、アラウが1947年に録音した米コロンビアの復刻盤。
『ピアニストとのひととき』という対話集では、アラウは「子供のころラテン・アメリカでアルベニスはずいぶん聞いています。...「イベリア」組曲は驚くべき構成じゃないでしょうか?これはもっともむずかしいピアノ作品に入ると思います。ピアノによるオーケストラですね。」と言っていた。

《イベリア》は全部で全4巻12曲からなる組曲で、難曲として有名。
副題は「12の新しい印象(12 nouvelles "impressions")」。その副題の通り、印象主義音楽のように、南スペインの風景や風土を喚起するような、エキゾチックな旋律と色彩感豊かな和声が美しく、交響曲的な立体感のある響きとダイナミズムのある曲集。

ピティナの作品解説によると、「洗練された技法に、スペイン情緒あふれる感性が加わることによって、独創性あふれる最高傑作」で、ドビュッシーや、メシアン、グラナドス、ファリャなどもこれを絶賛したという。

アルベニス/組曲《イベリア》の楽譜ダウンロード(IMSLP)


                              

アラウが録音したのは、全4巻の《イベリア》のうち、第1巻と第2巻のみ。
子供の時、チリではアルベニスの音楽は日常的に聴いていたので、母国を離れてもレパートリーとして、リサイタルやスタジオ録音で弾いていた。
再録音もあるらしいけれど(ディスコグラフィーには載ってないので怪しい)、アラウの《イベリア》と言えば米コロンビアの47年録音。

ヴィラ=ロボスは、ラテン的な熱さとエキゾティシズムを感じるのに、アルベニスはそういうところは稀薄。
モダンというか、洗練された響きがとっても綺麗。長調と短調が混在しているような響きは、曖昧で不可思議な雰囲気も漂っている。
印象主義風の作風と和声が美しく個性的に感じられるところは、”スペインのドビュッシー”と言われるのもよくわかる。
時々、ドビュッシーの曲に出てくるような旋律や和声が時々出てきたりして、とっても聴きやすくて、ヴィラ=ロボスよりもずっと親近感が湧いてくる。
第1巻と第2巻を聴いた限りでは、パッショネイトな熱さはあまりなくて、どこか冷んやりした感覚がするところが面白い。
曲自体がそういう雰囲気を持っているのと、1940年代までのアラウの演奏が「きらきらと輝きのある洗練された音で磨きたてられている」(『アラウとの対話』)からだろうか。

《イベリア第1巻》
第1曲 エヴォカシオン Evocacion
エヴォカシオンは「記憶、心象、情感」という意味。
最初はモダン・ジャズのピアノソロを聴いている気がする静かで洒落た感じ。
抑えたトーンの短調で物憂げな旋律とアルペジオが不可思議な雰囲気を醸し出し、どこか意識をまさぐっているような感覚。
後でバセルガの録音を聴いてみたら、これはアラウの演奏が持つ独特の雰囲気だった。
起伏が緩やかでまったりした流れが延々と続き、少し夜想曲風なところもあり、平板といえば平板だけれど、旋律と和声の美しさで不思議に飽きさせないものがある。

第2曲 港(エル・プエルト) El puerto
躍動的なリズムと、港に漂う風や波を表すような緩やかで流麗なアルペジオで始まり、シンプルな旋律を和音で装飾しながら、躍動感のある曲想に移行する。
哀愁を誘うような短調と、爽やかさ港の活気を表すような明るい長調が交錯するところが素敵。
アラウの《イベリア》の中では、エヴォカシオンと並んで印象的で好きな曲。

第3曲 セビリヤの聖体祭 El Corpus en Sevilla
行進曲風の面白いリズムと軽妙さのある旋律で、どこかユーモラス。
初めは短調でちょっとおっかなびっくり風。同じ旋律を長調に転調させてからアルペジオと和音で装飾して、とてもゴージャスで壮大な響き。
終盤部になると重音のトレモロが入ってキラキラ煌くように華やか。

Iberia - Livre 1 - 3. Corpus -Christi- in Sevilla



《イベリア第2巻》
第4曲 ロンデーニャ Rondena
ロンデーニャはタンゴの一種。6/8拍子と3/4拍子が交互に表れる変拍子の曲。
冒頭は重音とアルペジオが混在して、流麗でリズミカルで、爽やかなで明るいタッチ。
途中でスペイン風の短調の憂いのある旋律が挟まって、短調と長調が混在してきて、アルベニスに独特なエキゾチックで不可思議な雰囲気がする。

第5曲 アルメリア Almeria
アルメリアはグラナダの港。この曲も短調特有の憂いのある旋律で、アルペジオの和声もちょっと不安げな独特な響き。
全体的に、エル・プエルトと違って躍動感は強くなく、穏やかな海の波や爽やかな風が流れているような雰囲気。
中間あたりから、テンポが速まり、音も密度を増して、躍動感が強くなるけれど、最後はテンポが落ちてピアニッシモに変わり、眠りに誘うような高音の静かな旋律が現われてエンディング。

Iberia - Livre 2 - 2. Almeria


第6曲 トゥリアーナ Triana
トゥリアーナはセビーリャにあるジプシー居住地。
他の曲よりもリズミカルでやや情熱的な雰囲気の舞曲。
気分がコロコロ変っていくように、雰囲気の違ったモチーフが次々と現われて、軽妙で可愛らしくて、時にパッショネイトにも。
重音とアルベジオがいろんなパターンで出てくるのが面白く聴こえるので、楽譜みてみると重音とアルペジオにクロスリズムが入ってて、パターンがコロコロ変って入り組んでいる。
曲が素敵に思えても、楽譜を見たらすっかり弾く気がなくなってしまった。


やや似たような雰囲気の曲が多い気はするけれど、スペイン風の薫りが漂う旋律や独特の和声の響きには洗練された美しさがあって、短調と長調が交錯する響きも面白くて、最後まで飽きずに聴けてしまう。
《イベリア》の第3巻と第4巻や、他のピアノ作品も聴いてみたいと思わせられるほどに、アルベニスはとっても好みの作曲家。
ドビュッシーの初期の頃の作品が好きな人なら、アルベニスとはかなり相性が良さそう。

                              

アルベニスの《イベリア》が収録されているのは、1940年代後半にアラウが米コロンビアに録音した曲をまとめた復刻盤のCD。
CDの解説が資料的に面白くて、1940年頃に米国へ移住して以降、RCA、米コロンビア、EMIとレーベルを移っているアラウの当時のレコーディング事情が書かれている。

”驚異的な音質”という宣伝文句に違わず、素晴らしい音質。RCA盤の1942年録音のゴルトベルクのボケた音質に比べると、雲泥の差。
選曲はバラエティに富んでいて、ベートーヴェンのワルトシュタインと告別、ショパンの24の前奏曲、シューマンのクライスレリアーナとアラベスク、ドビュッシーのピアノのために・版画・映像第1集&第2集、ラヴェルの夜のガスパール(スカルボは未収録)、それに、このアルベニス。
後年の録音と聴き比べる面白さや、他に録音がほとんど残っていないラベルやアルベニスは稀少。
アラウは晩年の演奏が絶対良いという人は別として、どちらかというと1970年頃以前の録音の方が晩年のものよりも好きなので、40歳代の若いアラウの軽快で切れ良くスマートな演奏が聴けるのが楽しい。

Birth of a LegendBirth of a Legend
(2006/11/27)
Claudio Arrau

試聴する(独amazon)


アラウよりも音質が良い録音なら、《イベリア》の定番はラローチャ(DECCA盤)
私はラローチャよりも、バセルガの全集(BIS盤)の方が音が綺麗で表現もいろいろ面白くて好きなので、聴くのはバセルガ。
バセルガの全集の難点は、《イベリア》全曲が4枚のCDに巻ごとに分けて収録されていること。《イベリア》だけ収録した分売盤を出して欲しいものだと思う。

tag : アルベニス アラウ

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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