エゴロフ ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第19番,楽興の時 

2010, 10. 21 (Thu) 12:00

まず聴くことがないシューベルトの音楽を久しぶりに聴いたのは、エゴロフのピアノ・ソナタ第19番。
シューベルトを聴くとしたら、後期ピアノ・ソナタの3曲と《3つの小品》の第1曲くらい。
聴かないわりにシューベルト関係のCDがいつの間にか20枚くらいは溜まっている。
昔は、ルプー、アラウやゼルキンの弾く即興曲やピアノ・ソナタ、ソプラノ歌手が歌う歌曲に交響曲も数曲とか、いろいろ試しに聴いてはみたけれど、シューベルトの世界とは全く合わず、まず聴こうという気が起こらない。遠い遠い距離感と異質なものを感じるので、どうもシューベルト的な心象世界とは無縁らしい。

Youtubeで見つけたユーリ・エゴロフの第19番のピアノ・ソナタの第1楽章。1982年のアムステルダム・コンセルトヘボウでのライブ録音。
第19番はアラウの晩年の録音しか聴いたことがなく、これが緩々として緊迫感にかけるところがあるので、どうもピンとこない曲だった。
でも、エゴロフの弾く第19番を聴いていたら、冒頭からベートーヴェン的な力強さと緊迫感に満ちていて、珍しく、違和感なく聴ける。(多分、例外的な曲のような気はするけれど)
特に、エゴロフのシューベルトは、リサイタルのライブ録音なので、なおさら緊張感が強く感じられて、この曲の曲想にぴったり。

Youri Egorov/Franz Schubert-Piano Sonata No.19 Mvt.1(part1)


Youri Egorov/Franz Schubert-Piano Sonata No.19 Mvt.1(part2)[Youtube]


Sonata Dv958Sonata Dv958
(1993/08/19)
Youri Egorov

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このエゴロフのシューベルトを収録したCDは廃盤。


まともに聴いたことがない曲なので、一応レビューもチェックしてみたけれど、レビューがほとんど見つからない。
そもそもエゴロフの録音を(シューベルト以外でも)聴いたことのある人は少ないだろうし、20年近く昔のCDなので、なおさらのこと。
しっかりとしたレビューが載っていたのが、いつもチェックしている<kyushima’s home page>の”CD聴き比べ”
今までの経験から言えば、ここで評価が高い録音を聴いてほとんど外れたことがない。

Youtubeにあったポール・ルイスの第19番(シューベルトらしい感動がないというレビューをあちこちでみかけたけれど、かえってそういうところが聴きやすくてこの演奏はわりと好き)と聴き比べてみても、エゴロフはライブのせいか音楽の流れが自然に感じるし、タッチが柔らかめのフォルテの充実した響きも好み。

第1楽章の冒頭の和音から充実した響きで始まり、線のしっかりした力強いタッチ。少しベートーヴェンの曲を聴いているような気がする。
と思っていたら、気分が躁鬱的に変化するように絶えず明暗が交錯し、中間部のもやもやしたやや幻想的な旋律が延々と続くし、やっぱりベートーヴェンとは全然違って、シューベルトの曲らしい(と思える)成り行き。
第2楽章はエゴロフらしい柔らかいタッチで、静かな沈みこむような弱音が美しく、内省的な雰囲気。
シューベルトとなると神経質なくらいの繊細なタッチで弾く有名なピアニストもいるけれど(ああいうのは聴いていて疲れてしまう)、自然な叙情感が流れているところがエゴロフらしい。
第4楽章はかなり速いテンポ(らしい)。確かにルイスのテンポよりも結構速くはあるけれど、そんなに違和感もなく、かえってこれくらい速いテンポの方がシューベルトの曲は聴きやすい。
この一気に突き進むような速さのおかげで、全編緊張感が緩むことがないように感じるし、なかなか終るに終われないようなシューベルトの曲でも、集中力が途切れることなく聴けたのが何より良かったところ。
それでも、シューベルトが好きにはなれないのは、やっぱり変わらなかったけれど。

                                  

カップリングは、シューベルトの《楽興の時 D.780》。1987年11月27日、アムステルダム・コンセルトヘボウでのエゴロフ最後のリサイタルのライブ録音。
このリサイタルの数ヶ月後に彼はAIDSが原因の合併症のため、33歳の若さで亡くなってしまう。
この後にもリサイタルのスケジュールが決まっていたけれど、彼自身これが最後のリサイタルになると思っていたらしく、《楽興の時》の演奏を聴けばそれが良くわかる。

《楽興の時》は有名な第3番しか聴いたことがなくとも、全体的に恐ろしく穏やかで静寂な雰囲気が漂っているのは明らかに感じとれる。
特に第2番と第6番の静けさの異様なこと。柔らかな弱音は、常に深く沈み、消えてしまいそうな気がする。第5番は激しく感情が噴出するようで、最後の第6番はまるでこれから深い眠りに落ちていくように終っている。
ゆったりとしたテンポで、一つ一つの音を名残り惜しそうに丁寧なタッチで弾いているのが感じられて、彼がこのリサイタルが”Farewell Concerto"になることがわかっていたのだろうと思わずにはいられない。
シューベルトの音楽について、エゴロフは、苦しみはなくあるのはただ悲しみだけ、と言っていた。
《楽興の時》に流れている(ように感じる)来るべき死の予感と抑制された悲痛さと、ピアニストの投影している感情とが共鳴しているようにも感じられて、こんな《楽興の時》を聴くことは二度とないに違いない。

Youri Egorov - Schubert Moment Musicaux No.3

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3 Comments

アリア  

本当に悲しい…

yoshimiさん、こんにちは。

エゴロフのシューベルト、ようやく聴けました。
ソナタの19番がベートーヴェン的だというの、本当ですね!
私、即興曲 90-4 の1番なら好きなんですけど
その曲と出だしが良く似ていてびっくり…
(ソナタの方は、すぐにまるで転調したような和音が出てくるので
そこでびっくりさせられてしまったのですが)
こちらもベートーヴェン的だなあと思って聴いてました。
私もyoshimiさんと同じく、このソナタなら違和感なく聴けます。
あ、どちらもハ短調なんですね。(笑)

そして楽興の時の3番は… なんて哀しいんでしょう。
1つ1つの音が名残惜しそうだというの、本当ですね。
こんな楽興の時は初めて聴きました…

2010/10/23 (Sat) 06:50 | EDIT | REPLY |   

アリア  

勘違い…

ソナタ19番の冒頭に似てるのは、即興曲ではなくて
ベートーヴェンの「悲愴」の方ですね…
コメント書いた時、なんだかすっかり勘違いしてました。
ごめんなさい。

そして「悲愴」もハ短調ですね♪(←まだ言うか!)

2010/10/23 (Sat) 09:12 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

静謐で哀しいシューベルトですね

アリアさん、こんにちは。

シューベルトのCDは、聴きもしないのに結構持っていて、いくら聴いてもピタッとは合わないので、最近は買わないことにしてます。
エゴロフの19番ソナタは、第1楽章をYoutubeで聴いてとても気に入ったので、珍しくCDを買いました。
第1楽章は試しに弾いてみましたが、やっぱりシューベルトの曲だなあと思える展開と旋律のつくり方。ベートーヴェンのソナタを弾いている時の面白さとは違ってました。
この曲は(というか、この曲も)聴くだけにした方が良さそうです。
シューベルトの曲は、聴いていて良いなあと思う曲はいくつかあるのですが(3つの小品とか)、実際弾いてみるとたいてい途中で止めたくなるんですよね。

即興曲はずっと昔に全曲聴いたはずなんですけど、どれがどの曲か全然記憶になくて...。
Youtubeでツィメルマンやケンプの録音で全曲聴き直してみました。
即興曲なら、Op.142の第1番(ケンプが弾いてます)は、悲愴な雰囲気の旋律や展開が、19番ソナタによく似ているように思えます。こっちはヘ短調ですが。
すっかり忘れていた曲ですが、この曲はかなり好みのタイプ。長調ならOp. 90の第3番がなぜか好きな曲でした。

「楽興の時」は第3番しかよく覚えていないのですが、短調とはいえ少し元気なイメージがあるので、エゴロフの演奏はとってももの哀しくて...。
2番や6番になると、さらに沈む込むような弱音で不気味なくらいに静謐な演奏です。これを当時ホールで聴いていた人は、ただならぬものを感じたでしょうね。
内田さんの「楽興の時」も参考に聴いてみたのですが、こちらも2番はかなり陰鬱な演奏。
エゴロフの方が穏やかなトーンですが、深く沈潜していく重苦しさを強く感じるのは、これから未来のある人と、そうではないと悟っている人とのシューベルトの違いなのかもしれません。

2010/10/23 (Sat) 11:57 | EDIT | REPLY |   

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