エゴロフ ~ ショパン/エチュード Op.10 

2010, 10. 05 (Tue) 12:00

ショパンのエチュードは、昔は全然好きではなかったけれど、最近になってようやく普通に聴けるようになった。前奏曲集の方は相変わらず相性が良くないらしく、なかなか聴く気になれないけれど。

全集で聴いたのは、定番のポリーニ、詩的なロルティとペライア。Op.25だけならソコロフ。他にも聴いたような気がするけれど、記憶に残っていないということは全然印象的でなかったに違いない。
Op.25はダイナミックで表情豊かなソコロフが良かったけれど、Op.10は微妙。以前は繊細で美音のロルティが良く思えたけれど、堅実で大仰でない詩的なペライアも良くて、どちらで聴くか悩ましい。

つい最近聴いたのは、25歳頃のユーリ・エゴロフのライブ録音。Op.10だけがCDリリースされた。
このリサイタルは、1980年アムステルダム・コンセルトヘボウで行われ、Op.10とOp.25の両方を弾いていた。
CD化するときに、技術的な理由(収録時間と聴衆ノイズなど)から、Op.25はカットされてしまった。
Op.10が素晴らしい出来だったので、これはとっても残念。

エゴロフのエチュードは、メカニック的に凄い!というようなタイプではなくて、練習曲風とは違ってエチュードを"Moments musical"(ライナーノートの言葉)に変容させたように、音楽として聴かせるもの。
CDのライナーノートには、”各曲が音楽的に明快に弾き分けられて、詩的、時にリリカル、さらに叙事詩的あるいはヒロイック”と形容されている。
ライブ録音ということもあってか、自然に感情が湧き出てくるような伸びやかさと、ホールに響く絹のような高音の弱音の美しさがリアルに伝わってくる。詩的なセンスと躍動的なダイナミズムの両方を感じさせるところもとても気に入ったけれど、おかげで、残響の多いロルティの美音が人工的な響きに聴こえ繊細な表現もそれほど自然に思えず、魅力が薄れてしまったのが残念。
エチュードは一度聴くと疲れるものがあるのでそう度々聴かないけれど、エゴロフのエチュードは練習曲風なところが全然なくて美しい音楽になっているので、珍しく繰り返し聴きたくなる。

Legacy - Youri Egorov - Bach, Bartók, ChopinLegacy - Youri Egorov - Bach, Bartók, Chopin
(1993/08/19)
Youri Egorov

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メカニック的な凄さはあまり感じられないとはいえ、テンポはペライアとほぼ同じ。ルバートでテンポを落とすこともなく、ほぼインテンポで弾いている。
ライブ録音なのでミスタッチは残っているけれど、耳の方が技巧面ではなくて音楽そのものに自然に向かっていくので、あまり気にならない。
高速の細かなパッセージを弾くときも滑らかなレガートで、歌いまわしも柔らかく、軽やかで煌きと色彩感の豊かな音が本当に綺麗。
ライブ録音のせいか、自然に音楽が湧き出てくるような雰囲気と、ホールに広がる響きがとてもアコースティックな感じで、スタジオ録音でよく聴くエチュードとは全く違った響きと雰囲気が素敵。

Youri Egorov Chopin Etudes Opus10 Part 1(No.1~No.4)

"Part 2"があるのかなと思って探したけれど、Youtubeにはなかったです。

第1番のアルペジオは滑らかで、柔らかく伸びやかな響きはキラキラと煌くように明るく、とても開放的な雰囲気。

第2番はとても素晴らしくて、タッチの柔らかい軽やかさと繊細な弱音の美しさは驚くほど。
特に右手高音部の絹のように光沢のあるシアーな響きと歌うようになめらかなレガートがとても綺麗。
あまりの美しさに演奏が終ると聴衆から盛大な拍手。普通は曲集の途中で拍手はしないけれど、この録音を聴いていると拍手したくなるのも良くわかる。

第5番の《黒鍵のエチュード》。カーネギーホールのデビューリサイタルでもアンコールで弾いていたので、得意な曲らしい。
右手が蝶が羽をパタパタさせるように軽やかで、多彩な響きが瞬くように煌いて、これはとても素敵。

第6番はやや速めのテンポで、あまり感傷的にならずに、柔らかいタッチでさっぱりした哀感がほどよい感じ。

第7番や第11番も、第2番や黒鍵のエチュードと同じく、右手側旋律の高音の響きが柔らかく軽やかでとても綺麗。第11番はまるで小鳥が歌っているように流麗で愛らしく、歌心溢れるところが素敵。

第8番も高音部のレガートなアルペジオやトレモロの響きが煌くように美しく、左手側の旋律の柔らかいタッチと軽快なリズム感と相まって、優雅で楽しげな雰囲気。
第9番は抑制されたほの暗い情熱を感じさせるような叙情感がとても美しい。冒頭の速いテンポから急にテンポが落ちて弱音になる部分での緩急のコントラストが鮮やかで、まるで静寂な庭に響く「鹿威し」のように水気を含んだ突き刺すような響きが印象的。

最後の《革命のエチュード》はこの日で最もパッショネイトな演奏。
ほとんどペダルを踏み続けているのではないかと思うくらいに、左手アルペジオの響きが重層的で厚みがあって、うねるようにダイナミック。
右手側の旋律も弱音で弾くところは少しあるけれど、ほとんど直線的に力強く進んでいくので、かなりの迫力があって、この《革命》はフィナーレに相応しい演奏。

Op.10がこの日の最後のプログラムではなくて、この後にOp.25も演奏するけれど、Op.10の演奏が終った途端、盛大な拍手歓声。何分間もそれが続いていた。

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6 Comments

マダムコミキ  

凄くいいですね~♪

今エチュードを中心に勉強中なので、とても参考になる記事でした。
エチュードの演奏はなかなかこれという、好きな演奏にめぐりあえないでいました。
中学生の頃に初めて知ったポリーニのメカニックな演奏は、そう好きでもないのに頭から離れないし、コルトーのCDは、音が悪いし・・・。ペライアも良いけど、しっくりこないなぁ~、とか。

この1から4は、とても良いですね。特に3と4が、私は好きです。

2010/10/06 (Wed) 13:57 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

音が綺麗な詩的なエチュードですね

マダムコミキ様、こんにちは。

エゴロフのCDを買ったのは、パルティータを聴くのが一番の目的でしたが、カップリングされていたエチュードが思いもかけず素晴らしく良かったです。
高音の響きの綺麗なところが好きなので、そういう点では2番(それに7,11番)が面白く聴けました。言われてみると、4番も良いですね。
別のCDのライナーノートで、エゴロフはレガートと柔らかな音で弾くことを大事にしていると言ってました。
ショパンのエチュードに限らず、他の録音もレガートと音の美しさが印象的です。エチュード的なシューマンのトッカータも詩的なところがユニークな演奏です。

ポリーニのエチュードは、聴いていてかなり疲れるものがあって、1度か2度聴いただけです。音楽として聴いて楽しいものではないですね。
最近ロルティとソコロフのエチュードを聴いてから、もともと好きではなかったエチュードが結構面白く思えてきました。
ペライアのエチュードも、メカニックがしっかりしているわりに表情豊かなのでわりと好きですが、ちょっと生真面目かもしれませんね。

2010/10/06 (Wed) 16:03 | EDIT | REPLY |   

マダムコミキ  

ありがとうございました♪

エゴロフのエチュードありがとうございました。
早速ダウンロードして、聴かせて頂きました。
どれも音楽的です。
ライブならではの、パッションも感じられて素晴らしいです♪
聴いたからと言って、こんな風に弾けるわけではありませんが、色々、インスピレーションを感じるので、少しは自分の演奏も良くなることを期待したいです。

2010/10/07 (Thu) 01:42 | EDIT | REPLY |   

アリア  

No title

yoshimiさん、こんにちは。
エゴロフ、すごいですね。何度聴いても飽きないです。
このエチュードも何度も繰り返して聴きましたが
シューマンも本当に素晴らしいです~。
(同じものばかり繰り返し聴いてしまって先に進めません…)

今度ペライアのブラームスが出るようですね。
パガニーニの変奏曲が入ってないのが残念なんですが
これは聴いてみたいです。興味津々。
http://www.hmv.co.jp/news/article/1010060100/

で、これも再録音なんですね。最近そんなのばっかり。(笑)
旧盤の方は聴いてないので比べようがないのですが
これも新盤の方がいいんじゃないかしら…
…と勝手に思いこんでます。(笑)

2010/10/07 (Thu) 06:37 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

どういたしまして

マダムコミキ様、こんにちは。

エゴロフのエチュードは、ライブらしい生き生きとした自然に湧き出るものが感じるし、とっても音楽的ですね。
スタジオ録音だとちょっと違った雰囲気になっていたかもしれません。
インスピレーションを感じるって、大事ですね。自分で弾かなくても聴いているだけで、こういう風に弾けるものなのねと、いろいろ発見することも多いです。

2010/10/07 (Thu) 06:47 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

ペライアのブラームス

アリアさん、こんにちは。

エゴロフ、すっかり気に入っていただいたようですね~。
エチュードも良いのですが、一番似合っているなあと思えるのがやっぱりシューマンでした。それに、ショパンのバラード第1番も良かったです。
クライスレリアーナはわりと好きなので、久しぶりに他の録音もあれこれひっぱり出して聴き比べているところです。

ペライアのブラームスは、ピアノ四重奏曲&ラプソディなど小品3曲の昔の録音を1枚持ってます。
ルパートをそれほど多用せず、明るい色調で、ややさっぱりした叙情感のブラームスです。
少なくともカッチェンよりはさらりとしてますし、蒸留水のようなレーゼルよりはコクがあります。
再録は、昔よりも音がずっと綺麗で、表現は繊細になっているはず(と期待してます)。
バッハを弾きこんできているので、内声部の処理が以前とは違うかもしれません。

選曲もペライアに向いた曲なので良さそうに思えます。
一度手を故障しているので、パガニーニは手にかなり負担がかかりそうですし、ヘンデルの方が曲としてペライアに向いている感じがします。(ヘンデルの方が好きなので、余計にそう思うのかも)
Op.117が入っていないのが残念ですが、ラプソディは好きなので再録大歓迎。
リリースされたら一応試聴してみますが、このCDも買ってしまいそうです。
....と思ったんですが、amazonなら予約価格で1000円と異常に安かったので、予約しました。
情報、どうもありがとうございました。

2010/10/07 (Thu) 07:23 | EDIT | REPLY |   

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