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ムストネン&オラモ/フィンランド放送響 ~ レスピーギ/ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲
オリ・ムストネンのベートーヴェンのピアノ協奏曲の一連の録音に続いてリリースされたのは、レスピーギの《ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲》

今度はレスピーギ!?と思ったほどに、意外な選曲。それも、ミクソリディア旋法の方のコンチェルトを選ぶとは。
でも、良く考えてみると、イ短調協奏曲よりはずっとムストネンに向いている。
ムストネンのレパートリーというと、ベートーヴェン、バッハ、ショスタコーヴィチ、シベリウス、ヒンデミット、プロコフィエフ、チャイコフスキー、etc.。
イメージとして、北半球の、それも寒い国の音楽が多いかなという感じ。
太陽が輝く南欧イタリアの作曲家レスピーギというと、ちょっとすぐにはイメージがつながらなくて。
でも、現代ものはかなり向いていると思うので、過去と現代が融合したようなレスピーギの演奏は意外と面白そう。
少し調べてみると、2004年11月のヘルシンキの演奏会で、今回の録音と同じくオラモ指揮フィンランド放送響の伴奏で、《ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲》をムストネンが弾いていた。どうもこの曲を以前からレパートリーにしていたらしい。

ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲、ローマの噴水ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲、ローマの噴水
2010年10月27日 発売予定
オリ・ムストネン(ピアノ)、オラモ指揮フィンランド放送交響楽団

試聴する(米amazon)
日本では10月末頃の発売。すでに米amazonでは販売されていて、米国NAXOSのNMLでも全曲聴ける。

レスピーギといえば「ローマ三部作」が有名。これはあまり好きでもなく、それよりは優雅で古典的な薫り漂う《リュートのための古風な舞曲とアリア》の方がずっと好き。あまり聴かれていないのではと思うけれど、ストラヴィンスキーの《プルチネルラ》と同じくらいに素敵な曲。
ピアノ独奏版もあって、シチェルバコフが『レスピーギ/ピアノ作品集』に録音している。

レスピーギのピアノ協奏曲は2曲、管弦楽曲としては《ピアノと管弦楽のためのトッカータ》や《スラヴ風幻想曲》などもあり。
2曲のピアノ協奏曲のうち、Op.40のイ短調協奏曲は古典的な雰囲気を持ったロマンティックな曲なので、とても聴きやすい。
Op.145の《ミクソリディア旋法によるピアノ協奏曲》は、全く作風が違っていて、かなり変わった構成のピアノ協奏曲。レスピーギらしい流麗で煌びやかなシンフォニックな音楽ではないので、あまり人気がないらしい。
録音も少なく、シチェルバコフのNAXOS盤かトーザーのCHANOS盤など数えるほど。

このミクソリディア旋法とは、教会旋法の一つらしく、音源と説明は<リコーダーと吹奏楽の部屋>という下記のサイトに載ってます。
教会旋法の試聴(教会旋法の種類の説明、実際の音がMIDI音源で聴ける)
ミクソリディア旋法の特徴は「響きの豊かな旋法です。明快、熱烈、感動、喜悦、飛翔、 熱狂的、飛躍、凱歌、躍動的、確信、荘厳、充満、充全のイメージを持ちます。基音の「ソ」と下の「ファ」、 「ソ」と上の「ラ」、「ラ」と上の「シ」がすべて全音の間隔なので開放的で明る印象を創り出します。」

《ミクソリディア旋法によるピアノ協奏曲》は、古典的な佇まいがあるところは格調高く、確かにミクソリディア旋法の特徴どおり、明るく華麗な響きはするけれど、第1楽章と第2楽章は即興風のいろんな旋律が現われては消えていくようで、とらえどころのなさがある。
和声自体はとても綺麗な響きなので、音自体は聴きやすいけれど、普通のピアノ協奏曲のように印象的な主題旋律をピアノが展開していくというわけではないので、一度聴いただけでは構成もよくわからない。

この曲のピアノパートを聴いていると、私はなぜかキース・ジャレットのソロリサイタルのインプロヴィゼーションを連想してしまう。
多分、モーダルな旋律がとめどなく流れていくようなところが似ているせい。
誰もいない湖を連想させるような静謐さや、いろいろと思いめぐらすような思索的なフレーズとかが、キースのソロピアノとオーバーラップして、まるでクラシック調のインプロヴィゼーションを聴いている気分がする。
このコンチェルトには親近感を覚えるし聴きやすく感じるのは、ジャズピアノを聴いていたおかげらしい。
クラシック以外の曲を聴くのも、意外なところでクラシックにつながっていくというところがなぜか面白く思えます。

Respighi: Concerto in modo misolidio P.145, (Mustonen)



                             

第1楽章 Moderato
冒頭は、レスピーギらしい典雅なピアノ・ソロ。
ピアノ協奏曲らしくピアノソロが主体ではあるけれど、協奏曲にしては伴奏なしの独奏が多い。
オケは時折ピアノの伴奏をしているけれど、この時はさほど存在感がなく、トゥッティになると主題を思い出させるように、突如壮麗なサウンドで主題(とその変形)を演奏している。
ピアノ協奏曲というより、管弦楽付きピアノ独奏曲と言った方が良いのでは..と思えてくる。

ピアノパートの旋律・和声とも美しいけれど、古典やロマン派の音楽のように主題旋律を軸に展開していく明快さがなく、主題がいろいろな形で組み込まれたモーダルな旋律が、脈絡もないように(実際は何かあるんでしょうが)次々とパターンを変えて現われては消えていく。
散文的というか、即興的というか、いろいろ思い巡らせながら音楽が湧き出ているような感覚。
こういうところが、キースのインプロヴィゼーションを連想させるに違いない。(当然、レスピーギの曲の方が構成感があるし、とめどなさは少ないけれど)

この一見とらえどころがないような第1楽章を、ムストネンらしいエッジの効いたアーティキュレーションと硬質で透明感のあるカラフルな音で、彫の深い立体感のある鮮やかな表現で弾いている。
緩急・強弱のコントラストがシャープで、多彩な響きには煌くような輝きがあり、静謐さとダイナミズムの両方が交錯するピアノ・ソロが素晴らしく、さらに伴奏がうねるようにダイナミックで壮大。
水気を含んだようなクリアなピアノの響きが瑞々しいし、いつもと違って軽妙さは全く感じさせず、この曲に相応しい引き締まった端正な美しさがある。
ムストネンのピアノは、人間のいない湖に広がる波紋や、その上を飛び交う色鮮やかな蝶々とか、視覚的なイメージを喚起するところが、とてもファンタスティック。

第2楽章 Lento - Andante con moto -
冒頭は大河ドラマ風の壮大な主題が出てくるけれど、主題とテンポが変わっただけで、第1楽章と同じく、ピアノが断片的な旋律を次々と弾いていく。

第3楽章 Passacaglia: Allegro energico
アタッカで繋がる第3楽章は、この曲のなかでは一番わかりやすい。
前2楽章に比べて、主題旋律が明快で、壮大で開放感のある曲。ようやくオケの存在感が出て、トゥッティだけでなく、伴奏でもフィナーレらしい華やかさ。

冒頭は少しファンファーレ風のピアノ・ソロで始まる。ちょっとブロッホの《コンチェルト・グロッソ》も似ているかも。
時々、オケのトゥッティが「アラビアのロレンス」のようなスペクタクルな歴史映画のサントラ風に聴こえる。(格調は高いけど)
その間に入るピアノソロは、直前のオケの演奏とは全然違った雰囲気で、相変わらず静かで思索的なところがアンバランスで面白い。
楽章半ばの協奏部分に入ると、終盤に向かってエンジンがかかったようにピアノもテンポが上がって、華麗でピアニスティックなパッセージに変わり、最後は量感と力感たっぷりのオケが主体になって壮大なエンディング。

第3楽章のムストネンのピアノは、ノンレガートでシャープな強弱のコントラストの独特のアーティキュレーションが良く映えて、生き生きとした躍動感があるし、オケの表情豊かで勇壮な伴奏も加わって、映画を見ているような臨場感のあるドラマティックな演奏。


《ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲》は、モーダルな旋律がするすると流れているようなとらえどころのなさがあって(特に第1楽章と第2楽章)、ピアノ・パートには即興的な自由さを感じる。
かなり変わった作風だと思うけれど、キースのインプロヴィゼーションや現代もののコンチェルトをいろいろ聴いてきたせいで、以前シチェルバコフの録音で聴いた時よりも、はるかに聴きやすくなっていた。
よく聴く古典やロマン派のクラシックのピアノ協奏曲とは趣きが違っているし、現代音楽のピアノ協奏曲としてもユニークなコンチェルトでとても面白い。

CDのPR文によると、ムストネンの演奏はサンデー・タイムズの批評では「夢が息づくピアニズムは、他のプレイヤーが乗り越えられない表現の壁をやすやすと突破した」と好評だったらしく、この録音を聴けばそれも納得。
ムストネンは作曲家でもあるし、こういう曲想と構成が錯綜した曲でも、彼独特のアーティキュレーションと色彩感豊かな美音に明晰な解釈で、鮮やかに聴かせてくれる。
ムストネンは現代ものが感性的にもよく合っているに違いない。ヒンデミット、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、それにこのレスピーギと、どの録音も個性的で冴えた知性と才気が感じられて、もっと現代ものを録音してくれたら良いのに...と思ってしまう。

tag : レスピーギ ムストネン

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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