2011_01
06
(Thu)13:00

アンダ ~ ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲 

アンダの録音のなかで、最も好きなベートーヴェンとブラームス。
残された録音は少ないけれど、演奏はいずれも素晴らしいものばかり。

ベートーヴェンのスタジオ録音は、このディアベリ変奏曲だけが残っている。
Auditeから出たライブ録音集には、ピアノ協奏曲第1番、ピアノ・ソナタ第7番&第28番が収録されていて、今入手できる録音はそれくらい。
この《ピアノ協奏曲第1番》が素晴らしく良くて、カッチェン、ケンプに並ぶ(というかそれ以上かも)私のベスト盤。
このベートーヴェンを聴いてから、アンダの録音をいろいろ集め始めたので、この曲にはとても思い出がある。
アンダの主要レパートリーはモーツァルトとバルトーク、それにショパンとシューマン。
こんな素敵なベートーヴェンを弾くのなら、スタジオ録音をもっと残してほしかったけれど、病気のために55歳で早世してしまったので、その時間がなかったのかもしれない。


DGのBOXセット。シューマンやブラームスのピアノ協奏曲、ショパン・シューマン・シューベルト・ベートーヴェンの独奏曲など、主要録音を収録。今は廃盤で入手は難しい。米国amazonではダウンロード販売中。
Troubadour of the Piano (Spkg)Troubadour of the Piano (Spkg)
(2005/09/13)
Geza Anda

試聴する(米amazon)


DGのBOXセットから、ピアノ独奏曲のみを抜粋収録したBrilliantのライセンス盤で現在入手可能。ディアベリ変奏曲も収録。
Art of Geza Anda: Solo Piano RecordingsArt of Geza Anda: Solo Piano Recordings
(2010/07/13)
Geza Anda

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ベートーヴェンの収録曲は、試聴しただけでもとっても魅かれるものがあった《ディアベリ変奏曲》。
アンデルジェフスキとソコロフの《ディアベリ変奏曲》を聴いてからは、もうこれ以上魅力的なディアベリは聴けないかなと思っていたら、アンダのディアベリもまた違った魅力があって、アンダらしい個性が煌めいている。
ディアベリはとても好きな曲なので、今まで聴いたのは好きなピアニストを中心に、アンデルジェフスキとソコロフ以外に、ゼルキン(2種)、カッチェン、アラウ(2種)、バックハウス、ムストネンなど。
そのなかで、音の色彩感が豊かで和声の響きも美しく、さらに力感と繊細な叙情感のバランスが良く、とても自然な趣きを感じさせるのがアンダのディアベリ。

アンダのディアベリは、緩急のコントラストが大きくて明快。
ソノリティも色彩感があって響きも多彩。時に愛らしく優美かと思ったら、ユーモラスだったり、厳しいかったり、アンダらしく表情がクルクルとよく変わる。
緩急のコントラストも明瞭、変奏ごとの性格を明確に弾き分けて、細部の表現の繊細さと相まって、詩的な雰囲気もあって、聴きやすい。

ブックレットの解説では”自然さ”は稀薄と評していた。
たしかに、ゼルキンやブレンデルのディアベリに比べるとそういうかもしれないけれど、アンデルジェフスキやソコロフのディアベリと比べれば、はるかに自然な趣き。
1964年の録音なので、当時定評のあったディアベリというとゼルキンあたりだろうか。確かにゼルキンのディアベリと比べれると、かなり個性的なのは確か。

アンダのディアベリでまず魅かれるのは音の美しさ。
アンダらしい煌きと色彩感のある品の良い音で、高音はどのテンポであっても、音がとても綺麗。
柔らかいタッチで弾く変奏の響きの美しさにはうっとり。
音質が軽やかなので弱音で弾くときはとても優美な雰囲気で、ペダリング時も濁りなく伸びやかで繊細な響き。
フォルテは打鍵はしっかりしているけれど、それほど強打せず丸みを帯びた響きで、ゴツゴツした厳つさがなくて、音色もとても明るい。
ペダリングで響きを重ねていくときの和声も美しくて、絹のベールが何枚も重なったように柔らかく光沢があり、鐘がエコーするようだったり、夢幻的な茫漠とした響きだったりと、多彩。
ペダルがかかった高音は宝石がキラキラと輝くようで、ときにはハンドベルがリンと鳴っているようにも聴こえる。

音の美しさや魅力という点では、ソロコフと良い勝負。
音質は全く違っていて、ソコロフの圧力の強い音には耳が否応なく吸い寄せられる引力があるけれど、アンダの音は軽やかで柔らかく伸びていくのでいつのまにかうっとりとして聴き入ってしまう。
音の美しさに加えて、変奏ごとの性格を明確に弾き分けて、細部の表現の繊細さと相まって、詩的な雰囲気も漂っている。
アンダのディアベリは、自然に耳に入ってくるようで、とても聴きやすい。

冒頭の<Theme>は、柔らかいタッチとリズムが優しく響いて、ちょっと他の演奏とは違った雰囲気。
まるで白いフリルのドレスを着た女の子が庭で遊んでいるようなイメージが浮かんでくる

第2変奏も柔らかいタッチで重なる響きが繭のようなふんわりした感じ。同じように和声の響きの綺麗な変奏は結構多く、第3変奏の子守歌風、第8変奏は柔らかい音が綺麗。
第19変奏や第26変奏のアルペジオが伸びやかに重なっていき、左手伴奏の細波のような同音連打と右手高音の持続音が煌くような響きが対照的。
第18変奏では、かなりゆったりとしたテンポ。問いかけるような右手と答えるような左手はもう眠りに落ちそうな感じ。これも音がとても綺麗。

リズミカルな変奏も、リズムの表現のバリエーション多彩で明確に表現されていて、第9変奏の調子が少し外れたようなリズム感。
第21&22変奏は粘り気のあるタッチでリズムを強調しどことなくユーモラス。
第23変奏はコマネズミのような軽快だったり、視覚的なイメージが湧いてくるようなところがある。

最後の第29~31変奏のところ。第29変奏と第31変奏はゆったりして叙情感深いが、中間の第30変奏は速いテンポで不安感が漂うようで、このテンポ設定は独特。

全体的に柔らかい響きで表現は一見穏やかだけれど、フレージングの輪郭が明瞭で緩急・強弱のコントラストで起伏も多く、構成感があるところが明晰。
繊細な表現は叙情的ではあるけれど、それに浸りこまない後味のさっぱりしたところがクール。
音もとても綺麗なのでフォルテも結構多いわりに聴き疲れすることなく、クルクルと表情が豊かに変わっていくところがとても面白く聴けるディアベリ。

タグ:ベートーヴェン アンダ

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4 Comments

さすらい人  

本年もよろしくお願いします

これまで聴いてきたアンダのブラームス、バルトーク、ショパン、モーツァルト等々、素直で美しい音と、繊細ながら極めて自然な呼吸感が大好きなピアニストでしたが、ディアベリは未聴でした。是非聴いてみたいディスクです!

2011/01/06 (Thu) 20:50 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

アンダのディアベリ、とてもお薦めです

さすらい人さま、新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

アンダのディアベリはとっても良いですね。アンダをお好きな方なら、ぜひお聴きください。
それに珍しいベートーヴェンの録音がAuditeから出てますが、これもご興味があればぜひ。
アンダは、理性と感情が拮抗しているバランスの上で弾いているかのようで、自然な趣きのなかにも緊張感がありますね。
ショパンのプレリュードやシューベルとのソナタを聴いていると、結構辛口というか厳しい音楽をする人ではないかと思います。

2011/01/06 (Thu) 22:12 | EDIT | REPLY |   

アリア  

アンダのディアベリ

yoshimiさん、こんにちは。
アンダの演奏ってあまり聴いたことがなかったんですが
ディアベリ、いいですね。とても素敵。
とは言っても、私、ディアベリに関してはアンデルジェフスキの
演奏しか知らないと言ってもいいような状態なのですが
この演奏なら、退屈とは程遠そうですね。
これはシューマンも聴いてみなくちゃ!です。

先日はチェンバロ奏法的なピアノ演奏について、ありがとうございました。
yoshimiさんが書いて下さったことを反芻しつつ
今はリュプサムの演奏を聴いてみているところです。
聴いてるうちに、なんとなく分かってきました~。
こうなったら、チェンバロの演奏も聴いてみなくちゃいけないですね。
結局のところ、今までチェンバロの演奏をほとんど聴いてこなかったのも
片手落ちだったってことですものね。
スコット・ロスかクリストフ・ルセで試してみます♪
本当にありがとうございました!

2011/01/07 (Fri) 22:59 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

アンダのディアベリはとても素敵です

アリアさん、こんにちは。

アンダのディアベリ、気に入っていただいたようで、嬉しいですね~。
まず音の美しさが素晴らしいし、表現も硬軟合わせ持って、知的で叙情豊かなところがとっても素敵。
最初にベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴いて、コロっと参ってしまいました。

アンダはシューマンも得意としてますので、聴いてみてくださいね。
一世代前のピアニストなので、今風ではないかもしれませんが、アンダの特徴は、理性と感情が拮抗する演奏と言われてます。

チェンバロは実際に弾いたこともないし、バッハも専門的に勉強していないのに、録音だけ聴いて(多少は文献も調べましたが)、あんなにいろいろ書いたものです。我ながらオソロシヤ。
しつこいようですが、必ずピアノの先生にも聞いてみてくださいね。

同じ曲でチェンバロ演奏を聴けば、ピアノと奏法が違うのはすぐにわかります。
チェンバロでも、奏者によって奏法も解釈もかなり違うので、自分の好みにあったチェンバリストまたは録音を見つけるに限ります。
ロスのバッハ録音はそれほど多くはなく、入手し難いものも結構あります。パルティータが凄く良いです。http://www.youtube.com/watch?v=XVhHXPntHJA

ルセの方は現役盤が多く、イギリス・フランス組曲のお得なBOXセットもあります。イギリス組曲はもしかしたらレオンハルトよりも好きかも。
http://www.amazon.com/Christophe-Rousset-Box-J-S-Bach/dp/B002ONGXV6/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1294426511&sr=8-2

他にアンドレアス・シュタイアもとても評判が良いです。録音を聴くと凄いと思いますが、私には個性が強すぎるというか、表現が濃すぎて苦手。でも、パルティータは聴き直そうと思ってます。

晩年のロスのお弟子さんで、若手の曽根麻矢子さんも人気があるようです。
いくつか試聴しましたが、チェンバロの音がとても綺麗で、イギリス・フランス組曲がかなり良い感じです。CDが欲しくなりそう。

チェンバロ録音を探す場合は、「朝歌」というサイトがわかりやすいです。
トップページの左下のリンクから、一部の曲について、主要な録音の紹介と評価・コメントが載ってます。
http://www.geocities.jp/choka_lute/

2011/01/07 (Fri) 23:38 | EDIT | REPLY |   

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