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ブラッド・メルドー 『エレゲイア・サイクル』
ジャズのソロ・ピアノのなかでは、クラシック的な風合いがあってちょっと現代音楽風(?)というか、理屈っぽいというか、頭の体操になって面白いのがブラッド・メルドー。
ソロアルバムは2枚。“哀歌”を主題にした『Elegiac Cycle(エレゲイア・サイクル)』(1999年)と、東京すみだトリフォニーホールで収録された『Live in Tokyo』(2004年)。

『Elegiac Cycle』は、エレジーをテーマにしてオリジナル曲を集めたアルバムで、作風といい曲の配列といい、ジャズ・ピアノのアルバムとしては、かなり異色。
ライナーノートには、哲学的めいた理屈っぽいメルドーの書いた文章が載っている。
あまり良くわからないところはあるけれど、メルドーの考え方やこのアルバムの意図らしきものを読み取ることはできて、これはこれで面白い。
でも、肝心の曲目解説がない。こういうコンセプト性の強いオリジナル曲の場合は解説をしっかり書いておいて欲しい気はする。

ライナーノートには、アルバムのコンセプトに関連する思索的な文章がいろいろ載っているけれど、形式については、”僕のエレジーの試みに最も近いモデルはベートーヴェンの後期やシューマンの、メモリー・ミュージックと呼ばれる循環的な作品群である。冒頭に現われる主題が、発展しながら延々言及され、最後に変形されて戻る。”
さらに続けて、”我々が得るのは二つある、時間が与えてくれた体験、そして我々のはかなさとは裏腹に、常に戻ってくる不可避的なものの慰め。...気味の思いがどうあれ、物事は永久に終ってしまうというのは錯覚だ。全ては幾度も幾度も周期をなして巡ってくる。”
最後は、”死ぬこと、思い出されること。音楽は、そのこと自体へエレジーを歌う。我々の周りにある”日々”の喪失を美化し、我々がいかに死と親密になれるかを教えてくれる。”


循環するのは、各曲のなかだけでなく、『Elegiac Cycle』というアルバムのタイトルどおり、このアルバムの中でも、主題が様々に形を変えて循環しているようで、構成からしてメルドーらしいこだわりが感じられる。
作風もモダン・ジャズというには、クラシックとの強い親和性を感じるものがあるので、クロスオーバー風(?)とでも言えば良いのか...。

Elegiac CycleElegiac Cycle
(1999/06/03)
Brad Mehldau

試聴する(米amazon)


メルドーのピアノの特徴は、キースやエヴァンスのように音自体が強い吸引力は持っていないけれど、微妙なニュアンスをもった色彩感のある柔らかな響きで、とても詩的な雰囲気が漂う。
6歳からずっとクラシック・ピアノを弾いていたせいか、ジャズ・ピアニストにしては、音色・響きや表現が多彩。
メルドーが、ルネ・フレミングやアンネ・ゾフィー・フォン・オッターのピアノ伴奏者として、CDをリリースしているのも、全然意外に思えない。

右手が主旋律を弾いているが、左手側の伴奏が単なるコード進行のようなものではなく、副旋律のように存在感があったり、副旋律が内声部に現われたり、いろいろな旋律が錯綜して絡みあうところが独特。
声部が錯綜するところでも、それぞれの旋律の動きが明瞭に浮き上がって、こういうところはフーガを聴いているような感覚。

和声もやや不協和的な響きが入って、かなり現代的というか、乾いた叙情感のある響きが詩的でファンタスティック。
この旋律やフレーズは何を表しているのだろうかと、いろいろ想像したくなってくる。視覚を喚起するのではなく、抽象的な概念とか事象を連想させるところが面白い。


《Bard》(放浪詩人)では、全曲に共通したある”雰囲気”が初めに現われてくる。曲によって旋律や音の配列、テンポなどは全然違っても、多分和声的に似通っているところがあるので、底流に同じようなものが流れている感じがするのかも。

《Resignation》(放棄)(「放棄」という日本語曲名はどこか変な気が)は、《Bard》の第2主題であるかのようなムードの主旋律、副旋律、それに左手の流麗な伴奏の3声部に分かれて、これが絡み合いながら展開されていく。

Brad Mehldau - Resignation (solo)

これは放送用のライブ録音なので、こっちの方が不協和的な和声をかなり使っていて、CDの録音とは随分違った演奏。ジャズの場合は、同じ曲でも毎回違った演奏が聴けるのが面白いところ。

《Memory's Tricks》(記憶の悪戯)の主題はシャンソンの”枯葉よ~”みたいな綺麗な旋律。
静かなゆったりしたテンポで始まり、徐々に加速していくところからが面白い。
記憶がデフラグされているように、いろんな旋律のフラグメントが現われては消えていき、旋律の調性が右手と左手が違ったり(ように聴こえる)、左手はある時は伴奏的な音を弾いたり、別の時には主旋律とは全然違った旋律を弾いたり。
それが速いテンポで目まぐるしく展開していくので、かなり分裂・錯綜した雰囲気。ちょっと現代的なフーガ風?
最後は記憶が断片化したように、バラバラと左手と右手が単音のまとまりのない音の塊を交互に弾いてエンディング。
確かに《Memory's Tricks》というタイトルどおり、記憶が混乱して支離滅裂になっていくような感じのとっても面白い曲。
なによりも、こういう展開なのに不思議と冒頭のエレジー的な雰囲気が失われていないところが、摩訶不思議。

アメリカのナイーブさ(純真さ)の喪失を嘆いたバロウズやキンズバーグに捧げる《Elegy For William Burroughs And Allen Ginsberg》は、ノスタルジーを感じさせるバラード調。

同じく叙情性の強い《Lament For Linus》(ライナスへの哀悼)は、冒頭の吟遊詩人の変奏曲風。
ライナスって誰だろう?多分、詩人なんだと思うけど。
97年のジャズフェスバルで弾いていたトリオバージョン[Youtube]もあり。

《Trailer Park Ghost》(トレイラー・パークの幽霊)は、デビューした頃の小曽根真のオリジナル曲を連想した曲。左手のアルペジオのリズムや音の動き方が似ている気がしたので。
右手の旋律は、あてどもなく徘徊しまわる幽霊のように、目まぐるしく鍵盤上を脈絡なく動き回っている。
左手側は主にオスティナート的に、和音が音型を変えながら展開していく。《Memory's Tricks》にちょっと雰囲気が似ている。
でも、どうして”トレイラー・パークの幽霊”なんだろう?

一転してゆったりとしたテンポの《Goodbye Storyteller (For Fred Myrow)》(さよなら、ストリーテイラー(フレッド・マイロウへ捧ぐ)) は静かなバラード風。
右手の旋律は、わりとメロディアスにまとまった旋律。左手は流麗なアルペジオの伴奏で、ノスタルジーを感じさせるしっとりとした叙情感のあるとても綺麗な曲。

《Ruckblick》(回顧)は、まるで時間の流れをあらわしているかのように、左手が伴奏的にトリル/トレモロを延々と弾きつづけるところが、不可思議な雰囲気。
その上を右手が思い巡らすような感じで断片的な旋律を弾き、時々、《Bard》の主題旋律が織り込まれている。
このアルバムの中で、一番多彩な響きと繊細な表現の曲。

珍しくアタッカでつながっている《The Bard Returns》(詩人の帰還)は、タイトルどおり、放浪詩人が帰還して冒頭の《Bard》が再現されている。

このソロアルバムは、トリオで弾くピアノよりも、音がはるかに綺麗で表現も繊細。
東京のリサイタルのライブ録音とは違って、全曲メルドーのオリジナルで曲・演奏とも完成度が高く、メルドーのピアノの魅力が良くわかります。

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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