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トラーゼ ~ プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第2番
プロコフィエフのピアノ協奏曲はどれを聴いても、音が派手に動き回ったり、緩徐楽章は濃厚な叙情感があったりして、聴きやすくて面白い。
でも、聴き終わったらどんな曲だったっけ?といつも思い出すのに苦労する。
ピアノ協奏曲や戦争ソナタを聴いていると、時々楽想の背後に何か隠れていそうな気がすることがあって、一体何を表しているんだろう?といつも考えてしまう。
そのせいか、プロコフィエフはわかりたいけどなかなかわからない作曲家。

ピアノ協奏曲は、とっつきやすいので一番人気の第3番。
好きなピアニストがよく録音しているのでよく聴いているにしては、いつも記憶に残らないせいか、最近はあまり面白くも思えなくなってきた。
第1番と第4番も明るいタッチで聴きやすく、これはベロフで聴くことが多い。(でもトラーゼで聴くと、これがかなり面白く)
第5番はちょっとつかみどころがなくて、ピタッとくる録音を探しているところ。
第2番は全集中、一番暗く重い曲想なので、どうも曲の展開がもう一つよくわからないところがあって、敬遠気味。ベロフの第2番は、タッチが重々しいのは良いけれど、騒々しすぎてどういう曲なのか余計にわからなくなってくる。
調べてみると、この曲はトラーゼ&ゲルギエフ/キーロフ歌劇場管のピアノ協奏曲第2番の評判がとても良い。
この間聴いたトラーゼのプロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番のライブ録音もとても気に入ったので、ピアノ協奏曲全集を聴いてみたら、これがとても個性的で面白くて、ようやくプロコフィエフのピアノ協奏曲の定番に。

トラーゼのプロコフィエフは、ピアノ・ソナタ第7番でも重厚なタッチと濃厚な叙情感で迫力充分。ピアノ協奏曲はそれに拍車をかけて、トラーゼらしいプロコフィエフ。
とりわけ第2番の演奏が素晴らしく、これがすっかり記憶に刷り込まれてしまい、他のピアニストの演奏を聴いても物足りなくなるほどに強烈な印象。
トラーゼ自らがブックレットに第2番だけ解説を書いているほどなので、この曲には強い思い入れがあるのがわかる。
それだけあって、他の4曲よりも、細部まで神経を張り巡らしたような濃密さと奥深さ、それにトラーゼがこの曲のなかに深く入り込んで、共鳴しながら弾いているような強い集中力と緊張感を感じてくる。

この全集のブックレットには、専門家の全曲の作品解説があって、第2番については有名な楽譜消失事件とか楽曲構成を書いただけのもの。
トラーゼ自身が書いた第2番の作品解説によると、トラーゼとゲルギエフは、この曲をプロコフィエフの強い”personal statement”だと見なしている。
第2番を作曲中に、若いプロコフィエフの音楽院の同級生で一番親しい友人、"soul mate(魂の友)"のごときピアニストのマクシミリアン・シュミトゴフが、突然自殺してしまった。プロコフィエフは、シュミトゴフが生前投函していた自殺を知らせる手紙を受け取って、大変な衝撃を受けたという。
すでにこの曲の構想がスケッチされ、シュミトゴフともそれを共有していたけれど、苦悶で覆われたような最終版(焼失後の再現されたもののこと?)を形作っているものは、シュミトゴフの死の衝撃だった。
プロコフィエフは、この第2番をシュミットゴフに捧げていたらしく、自身の作品中最も愛していた曲だったことから、この曲のもつ個人的な意味(シュミトゴフにまつわるストーリーを辿った作品)は明らかだと、トラーゼは信じているという。

キーシンの録音についている作品解説だと、第2番のスコアを完成させた時に友人の悲報を知らせる手紙を受け取ったので、このコンチェルトにプロコフィエフの感情が反映されていることはありそうにない、しかし、プロコフィエフの自作自演の初演では、”恐ろしさに凍りつき、最後には髪の毛が逆立った”と当時著名な音楽家(評論)の感想を載せている。
『作曲家別名曲解説ライブラリー』では、曲が完成する少し前にマクシミリアンが亡くなったと書いている。
作曲経緯は諸説あるらしいのでともかくとして、トラーゼは全楽章について、シュミトゴフとプロコフィエフのストーリーのどの部分がどのように表現されているかという自身の解釈を説明していて、それを読みながら聴いていると、不思議とトラーゼの解説どおりに聴こえてくる。

第2番をアシュケーナージやキーシンとかいろいろなピアニストで聴いても、トラーゼのいうようなプロコフィエフの個人的な追憶や感情が深く込められているようには聴こえてこないので、独自の解釈と表現が一体化しているのがトラーゼの演奏の個性的で独特なところ。
歴史的な事実関係と多少ずれがあったとしても、トラーゼの演奏には強い説得力があって、聴けば聴くほど第2番の演奏解釈としてぴったりしているように思えてくる。
あまりに重苦しく陰鬱な演奏(と解釈)なので、他の演奏を聴き慣れているとかなり違和感を感じるかも。第2番のトラーゼと演奏が聴く人を選ぶ..というのはその通りだと思う。

5 Piano Concertos5 Piano Concertos
(1998/03/17)
Alexander Toradze (Piano),Valery Gergiev (Conductor),Kirov Orchestra

試聴する(米amazon)


ピアノ協奏曲第2番ト短調Op.16(第1稿1913年,第2稿1923年)

第1楽章 Andantino - Allegretto
冒頭は、弦楽のピッチカートがほとんど聴き取れないほど消え入りそうに微かな音の旋律(トラーゼの解釈だと”心臓の鼓動”のような旋律)。
やがてピアノソロが左手のアルペジオを伴奏に弾く主題は、強い悲愴感のあるとても美しいもので、この主題をピアノとオケが交互に弾いて何度もリフレインされる。
オケの厚みのある伴奏とピアノのアルペジオの響きが重奏的で、悲愴感を一層増している。

中間部は”親友たちの楽しい冒険”のような軽やかなandante。ちょっとおどけたような旋律が、まるでサーカスを見ているような浮遊感。
短い再現部をへて、すぐに長大なカデンツァに。
トラーゼのシャープで強靭なタッチは、音がクリアで引き締まった力強さがあり、どんな和音もピアニッシモからフォルテまで、濁りがなく響きが鮮明。
強い感情を感じさせるマルカート気味の重厚なタッチと響きでも、アクセントやスフォルツァンドを強くつけているので、旋律がくっきりと鮮やかに聴こえる。

ピアノが”これ以上耐え切れない苦悶の状態”に達してから、ティンパニがフォルティシモで弾く冒頭の”心臓の鼓動”の主題は、低音が轟くように強持てで恐ろしげ。このオケに救われたピアノが弱々しく主題を弾きなおしてフェードアウト。

第2楽章 Scherzo: Vivace
全編、ピアノは2声のユニゾンの細かいパッセージ。まるで何か(トラーゼの解釈だと”悲劇”)から必死で逃げようとしているような焦燥感が漂っている。
ここには他の演奏で時々感じるような軽妙さとか諧謔な雰囲気は全くない。
管楽器(トランペット?)が警鐘のような音を時々キキー!と鳴らしたり、ピアノのユニゾンに絡みつくように、いろんな楽器が断片的なフレーズや音で入ってきて、とっても目まぐるしい展開。

第3楽章 Intermezzo: Allegro moderato
”現実へ回帰した”Intermezzoは、グロテクスで冷笑的で皮肉に満ちている(というトラーゼの解釈)。
冒頭からバスがゴーゴーと低音の厳しい音を出し、管楽器もまるで刑場へ向かう囚人の行進曲のように重々しく暗い旋律。
ピアノもドーンドーンと和音主体の音ならびで重苦しく、時々ピアノが不安げなもやもやとした雰囲気の旋律になったり、スタッカートの和音と伴奏でメカニカルに拍子を刻んでいったりと、全体的に旋律には歌謡性と叙情性が強くない楽章で、そのうえ演奏が峻厳とした雰囲気。

第4楽章 Finale: Allegro tempestoso
フィナーレは、一転して”ヒロイックな”雰囲気に転換して、”力強さと成熟”へと向かう。
冒頭にオケとピアノが弾く旋律は、滑り台から転がり落ちてくるような下降調。まるでネジが吹き飛んで、急回転して、眩暈がしてきそう。
続いてAllegroで飛び跳ねるような配列の音をピアノを弾いていき、弦楽のオスティナートはまるで汽車が疾走しているようなリズム感と疾走感。

突如、弱音へとデクレッシェンドしテンポもかなり落ちて、叙情的な中間部に。静寂で呟くような旋律をピアノが弾き始める。
これはロシアの民謡の要素のあるララバイ。葬送曲にも似ていて、これは”個人的なお別れ(personal funeral)”。
レクイエムか失われたものへの追憶のような抑制された哀感が漂っていて、思い出と感情があふれ出るような叙情感がとても美しい。

再現部では、このララバイの旋律が織り込まれて、一度はまるでフィナーレが終ったかのようなエンディング。
この後にピアノソロが弾くのは、重苦しく断片的なフレーズや、あてどなく彷徨うような内省的な雰囲気の旋律。

やがて、第1楽章の主題旋律とアルペジオをピアノが弾き始めて、そこにオケがララバイの旋律を重ね合わせていくところは、全ての思い出と感情が交錯し、それを名残惜しみながらも、浄化されていくようにも思える。
ピアノの連続する下行スケールから、スローテンポでララバイのテーマへと移り、ここは”埋葬”のイメージ。
突然、フィナーレ冒頭の急転直下するようなけたたましい旋律が現われて、まるで過去と決別するかのように、ピアノとオケが掛け合いながら一気に駆け抜けていって、本当にエンディング。


最初から最後まで、演奏には緊張感が張り詰め、劇的なストーリー性と強い抒情性があるせいか、まるで小説かドラマを見て(聴いて)いるよう。
曲の構成と意味づけがしっかりと記憶に刻み込まれたほどに、トラーゼの解釈と表現が一体化したような演奏だった。

tag : プロコフィエフ トラーゼ

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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