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ブラレイ 『インプレッションズ』 ~ ドビュッシー・ラヴェル作品集
カピュソンと録音したベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集のピアノ伴奏が素晴らしく良かったので、ブラレイの一番新しいソロアルバムのドビュッシー&ラベル作品集も聴きたくなって、早速購入。

インプレッションズ~ドビュッシー、ラヴェル作品集インプレッションズ~ドビュッシー、ラヴェル作品集
(2008/11/05)
フランク・ブラレイ

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2008年8月、スイスのラ・ショー・ド・フォンでの録音。(ここはアラウが晩年によく録音していたホール)
録音音質がとても良い感じ。ピアノの音がホール中に伸びやかに響いて、残響は豊かでも混濁することなく、クリアで華やかな雰囲気。

ドビュッシーとラヴェルは昔はあまり興味がなくて、最近になってにわかに聴き始めた作曲家。
ベートーヴェンやブラームス、バッハと違って、それほどたくさんは聴いていないにしても、好みのタイプはやっぱりあって、有名なミケランジェリとツィメルマンのドビュシーとは全然合わなかった。
ドビュッシーなら、ベロフ、アラウ、チッコリーニあたりと相性が良く、ラヴェルは曲によって好きなピアニストがかなり違う。

ブラレイのアルバムは、ドビュッシーの選曲がちょっとユニークで、定番のポピュラーな名曲(「月の光」とか「亜麻色の髪の乙女」)を入れつつ、動的でいろいろ表現が工夫できる余地が大きい(と思う)曲が中心。
ラヴェルは、有名な《ソナチネ》、ダイナミックな《道化師の朝の歌》、《亡き王女のためのパヴァーヌ》。
なぜか、王女・乙女に妖精パック、将軍や道化師、ミンストレル(アメリカの音楽演劇団)と、”人”がからんだ曲が多い。

ブラレイのドビュッシーとラヴェルを聴いた印象は、音のタペストリーのなかから、構造がくっきりと浮かび上がるような造形力があり、ソノリティが多彩で表現意欲に満ちていて、とっても個性的。
両手に出てくるいろいろな旋律のフレージングやリズムが明瞭で、それぞれ独自の表情を持って主張しているようで、立体的で構造的な明晰さを感じさせる。
全体的にリズムや強弱の変化を強調していて、大小細かい起伏が多く、曲によってはかなりテンポが伸縮して、緩急の変化も細かく、これ以上はないというくらいに表情が多彩で豊か。
直線的にさらさらとは進まないけれど、恣意的なデフォルメ感は感じさせず、よく練られたアーティキュレーションの面白さは抜群。
ドビュッシーやラヴェルにしては、動的でドラマティックで、かなり賑やかな気はするけれど。

ブラレイの音も綺麗でとっても魅力的。この音を聴いているだけでうっとり。
クリアで軽やかな響きはまろやかで、どの旋律も曲線的な膨らみや柔らかさがあって、硬質で宝石が煌くような輝きのベロフとはまた違ったタッチ。
音色に暖かみがあるので、多彩でダイナミックな表情と相まって、どの曲も有機的な生気が溢れているよう。明晰という点では似ていると思うベロフは、やや直線的にクリアな表現でここはかなり違う。
”有機的”という点では、アラウとちょっと似ているけれど、アラウのベールをかぶったような厚みのある音とは違って、タッチがシャープで表現も明快。そのせいか、感情や生命力らしきような何かがずっとストレートに伝わってくる。
表現がかなり濃厚なので、印象派の絵画風に透明感と色彩感のある音が綺麗に並んでいるような演奏が好きな人には不向きかも。

ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集で弾いていたピアノが水彩画とすれば、こちらは油絵のように表現が濃くて、それだけ違ったタイプの演奏ができるというのが面白くて。
繊細でリリカルだと思えば、アクの強いと思えるほどに大胆にもなれるというところは、表現力が多彩というか、かなりカメレオン的(?)。

ドビュッシーは、『映像第1集』、『前奏曲集』から8曲、『喜びの島』、『月の光』。
《水に映る影》
この曲は単調な感じがして、たいてい途中で眠くなるせいか、最後までちゃんと聴いた記憶がない。
ブラレイで聴くと、個々の旋律がかなりクリアに聴こえ、さらに特定の旋律が強調されてくっきりと浮かび上がってくる。
ディナーミクの変化が激しく、水面が激しく波立っているよう。意志をもった何かが動き回っているような生気が漂っている。
視界がすっきりしたような見通しの良さと立体感があるし、クリアでまろやかで暖かみのある音質が生き生きとした生気を感じさせるようで、これはかなり面白く聴けました。

《ラモーを讃えて》

《運動》
ドビュッシーの録音を試聴するときは必ずチェックする曲。これでピタっと波長にあう場合は、他の曲でも外れることが少ないので。
あまりメカニカルにちまちまと弾かれるのは好きではなくて、とても面白かったのは生命が蠢いているようなアラウの《運動》。
ブラレイの《運動》は、明るい輝きと熱気を帯びた音で、極めてダイナミック。
かなり速いテンポでダイナミックレンジも広くて、躍動感たっぷりに激しく揺れ動くので、軌道を外れて危うくどこかへ飛び出してしまいそう。

《亜麻色の髪の乙女》
この曲も眠くなるので、似たような雰囲気のラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》の方がまだしも好き...と思っていたけれど、ブラレイの暖かみのある音色と柔らかい響きが好みに合うせいか、なぜかとっても素敵な曲に聴こえる。
中盤のクレッシェンドが急速でタッチも強く、穏やかな優しさのなかにも激しさが一瞬垣間見えてくるよう。

《さえぎられたセレナード》
”セレナード”というにしては、かなりダイナミックな演奏。
突破的なフォルテや崩れたリズムなどが混じって、いろんな旋律が錯綜する。
強く太いスタッカート、崩れがちなリズムとか、ブツブツと旋律が分断されていくところを強調しているので、異質なものが邪魔している感じが強くするのがとっても面白い。

《沈める寺》
音色が明るいせいか、日本の仏教寺院のようなモノトーン的な寺院ではなくて、カラフルで華やかな東南アジアで見かけるパゴダのイメージ。
中盤のフォルテで盛り上がるところは、明るく輝いて、栄華に満ちて壮麗で堂々とした雰囲気。

《パックの踊り》
強弱のコントラストやリズムを強調したとっても躍動的なパック。
複数の旋律がそれぞれ明確に主張しあっているように、複数の旋律やフレーズがくっきりと分かれて、かなり立体的に聴こえてくる。

《ミンストレル》
大胆に強弱やリズムを強調したフレージングが、とても面白くてユーモラス。
タッチが多彩で、レガート、スタッカート、マルカートやテヌートなど細かく変化させて、リズムも間延びしたり収縮したりと、かなりのデフォルメ感。
こんなに派手なミンストレルはめったになさそう。

《ビーノ(酒)の門》
テヌート気味の冒頭の旋律からして、強いタッチでリズムに凄みがあって、全体的にちょっとうさんくさげな異世界的な雰囲気。

《奇人ラヴィーヌ将軍》
《ミンストレル》と同じく、アクセントを強く利かせたり、リズムの面白さを強調したりと、これもやっぱりユーモラス。

《交代する三度》
ブラレイは3分ほど弾いていて、アラウ並みに遅いテンポ。おなじメカニカルな曲でも、ダイナミックな《運動》の演奏の方がずっと面白い。
さすがに技巧派のベロフは2分10秒台で弾いていて、この猛スピードの演奏だとそのメカニカルな面白さが引き立っている。
ベロフのテンポに慣れていたので、ブラレイがいろいろ表情をつけていても、遅いテンポの演奏はどうも切れが悪く聴こえてしまう。(また、しばらくして聴きなおしたら、印象が変わるかも)

《喜びの島》
華やかな色彩感と躍動するリズムで、明るく派手なことこの上ない曲。
フレージングが明瞭で、それぞれ強弱、響き、タッチを明確に変えていくので、タペストリーのように隙間無く織り込まれているフレーズやリズムの違いが、くっきり浮き上がってくる。
ブラレイは"繊細"なイメージがあるけれど、実はこういうカラフルで複数の旋律が錯綜するダイナミックな曲が得意なのかも。

《月の光》
ブラレイの《月の光》は、春の暖かな夜のような雰囲気。明るく甘い響きがとても優しい感じで、柔らかな感情で包み込まれるような感覚。
でも、困ったことに、アラウのスローテンポの《月の光》を聴いてしまって以来、アラウ以上に個性的な演奏はありえないように思えてしまう。

ラヴェルからは、《亡き王女のためのパヴァーヌ》、《道化師の朝の歌》、《ソナチネ》。
ラヴェルのピアノ作品は、ピアノ協奏曲と比べて録音がずっと少ないし、ソロ作品はどちらかというとやや抑制的な静的な演奏が多い(気がする)ので、ブラレイのような動的なラヴェルはとっても素敵。

ロジェのラヴェルは透明感はあるのは良いけれど、蒸留水のように淡白で平板な感じがするのでちょっと眠たくなるし、あまり強い印象が残っていない。
ブラレイのラヴェルは、ドビュッシーと同じく、起伏が大きくダイナミックで、リズムがくっきり、響きも多彩で細部の表情も豊か。

ラヴェルといえば、《夜のガスパール》が難曲で有名だけど、一般的にポピュラーなのは《亡き王女のためのパヴァーヌ》の方(たぶん)。
ブラレイはかなり響きが重層的で、響きのなかに包み込まれるような広がりとスケール感があって、こういう静かな曲でも、強い追憶の感情を感じさせるようにドラマティック。(ちょっとラヴェルらしくないかも)

《道化師の朝の歌》
ややゆったりめのテンポで、ブラレイらしくリズムを強調して、”道化師”風のユーモラスな感じが良くでている。
中間の緩徐部分が終った後~終盤がとても華やか。

ラヴェルのピアノソロのなかでも、好きな曲の一つ《ソナチネ》。本当に主題の旋律が綺麗。
第1楽章は、冒頭から宝石のようにキラキラと硬質の輝きが煌いてで、瑞々しい感じ。Modereのせいか、ブラレイにしてはわりと穏やか。
第2楽章のMenuetは幸福感のある旋律が綺麗な曲。
第3楽章は、Animeらしく、ドビュッシーを弾いている時のように、とっても躍動的。響きのヴァリエーションが多彩で色彩感が鮮やか。
起伏も細やかで表現も凝っているし、どの旋律も流麗で華やかな雰囲気。曲も好きだし、ブラレイのピアノが素晴らしく素敵。
こんなにラヴェルが魅力的なら、ピアノ協奏曲はどういう風に弾くのでしょう? とっても聴いてみたくなる。

このブラレイのアルバムは、多彩な音と凝ったドラマティックな表現が詰め込まれているので、さらさらと聴きやすいはずのドビュッシーとラヴェルでも、全曲を通して聴くと、感覚がオーバーフローしそう。
ドビュッシーの作品全集をブラレイのピアノで聴いたら、一体どうなることやら...と想像してしまう。


<ブラレイの紹介記事>
 「フランク・ブラレイ、ピアノで読響と共演」(asahi.com)
 キング・レコードサイトのプロフィール

tag : ブラレイ ドビュッシー ラヴェル

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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