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カッチェン ~ バッハ&ベートーヴェン/ライブ録音集
カッチェンのとても珍しいライブ録音集は、カナダのDoremiレーベルから10月にリリース。
すべて1960年代前半のライブ録音で、スタジオ録音のあるベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番以外は、既発盤には収録されていない曲ばかり。
ソロ、コンチェルト、室内楽とバラエティがあって良いけれど、ライブだとスタジオ録音以上に気合が入ってしまうのか、ついつい止まるに止まれず加速してしまうのが、良くも悪くもカッチェンらしいところ。
ケース裏面のジャケットに「Volume1」と書かれている。ということは、この後もライブ録音がリリースされるはず!「Volume2」はいつ出るんでしょう?早くを出してくれないかなあ。

Beethoven & BachBeethoven & Bach
(2010/09/14)
Julius Katchen

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収録曲は放送用録音が音源らしく、60年代前半のモノラルにしては、協奏曲以外は聴きやすい音質。
特にバッハは小さなホールかスタジオでライブを聴いているように、近くてクリアな音。チェロソナタはちょっとくぐもった音で、途中でピアノの音の距離感が変わったりする。
協奏曲の音質は一番悪いけれど、ピアノの音はわりと明瞭に聴こえるので、カッチェンのピアノだけ聴く分にはそこそこ聴ける。

バッハ/パルティータ第2番ハ短調BWV.826(1965年9月25日,ルートヴィヒスブルク)
パルティータのなかでは一番好きな曲で、いつも聴いているのはソコロフ。
カッチェンはノンレガートは使っているけれど、ルバートや凝った装飾音は使わず、インテンポで骨格がかっちり。
アーティキュレーションに凝ってはいないので、クセの無いフレージングと歌いまわしで、流れはレガートな音楽。
音色の多彩さで声部を弾き分けるのではなく、主旋律と副旋律との強弱のコントラストをつけ、起伏の多い弾き方で、特に主旋律を弾く左手は力強くシャープなタッチ。
縦の線の揃い方がやや緩い感じで、複数の声部が絡み合うところ線を明瞭にして立体的に聴かせるようなバッハ弾きの演奏とは違う。
タッチの精妙さとか対位法の妙を味わうのではなく、構成感と叙情美の美しさがとても印象的。

いつもながら速めのテンポで、このパルティータでも、ロンドとカプリッチョでやっぱりテンポが加速している。
シャープなタッチのロンドは、初めはそれほどでもなかったけれど、段々テンポが速まって(何回か聴いたら慣れたけど、やっぱり速い)、細かいパッセージでタッチがやや滑り気味だったり、フレーズ末尾の打鍵が曖昧で音がたまに抜けたりするところが少し。
最後のカプリッチョは、ロンドよりテンポを落としているので普通に速くて、細部でちょっと粗いかなあという感じはするけれど、両曲とも勢いよく、前へ前へとぐいぐい進んでいく。速いテンポで推進力のあるのは、カッチェンらしいところ。

全体的に硬質の引き締まった叙情美がとても美しく、特に初めの3曲(シンフォニア、アルマンド、クーラント)のなんて綺麗なこと。特に柔らかく密やかな弱音が儚げでとても綺麗。
シャープで線のしっかりした音は冷んやりした水気のある蒼みのある(ように感じる)音色。これが曲想によく映えて、悲愴感のあるシンフォニアは情緒過多になることなく、アルマンドもクーラントも速めのテンポで、硬質の瑞々しい叙情感がなんとも言えません。


<追記 2012.9.12>
最初のシンフォニアのGraveで出てくる「16分音符」と「32音符の付点」の弾き分け方について、面白い記事を見つけた。
”パルティータ2番って難しいよねの巻” [音楽図鑑:近況報告]
シフとグールドの演奏映像を聴いてみると、たしかにシフの弾き方は楽譜とは違う。楽譜通りの音価・リズムで弾くグールドとは、耳から聴いても違いがわかる。
カッチェンは、テンポはかなり遅いけれど、楽譜どおりのリズムで弾いていた。


ベートーヴェン/創作主題による32の変奏曲WoO.80(1962年10月11日,パリ)
ベートーヴェンの変奏曲中、ディアベリ、エロイカについで(たぶん)有名なのが、この32の変奏曲。
もともと短調なのである程度緊張感のある曲だけれど、カッチェンが速いテンポと力強いシャープなタッチで弾くと、これ以上はないというくらいに緊迫感に満ちていて、かなりの迫力。
この曲で聴いていたのがアラウ、ムストネンにブレンデル。
いずれもカッチェンと方向性が違っていて、一番オーソドックス(と思う)解釈はアラウ。アラウは少し遅めのテンポが基調で(演奏時間は12分半くらい)、旋律・和声を色彩感豊かに描写して、物語風。
時々速いテンポのフォルテで弾く変奏が、全体を引き締めるようなアクセントになっているけれど、強い緊迫感はなく、ひたひたと不穏なものが静かに迫りつつあるような雰囲気。

カッチェンは演奏時間が10分あまり。いつものようにかなり速めのテンポ。
厳つい岩に波が激しく打ち寄せるようにゴツゴツと荒々しくて、鉛色の暗雲が垂れ込めているようにモノクローム的。時々挿入される緩徐系の静かな変奏でほっと一息。でも、不穏な予感が漂っているような静けさ。
まるで最初から最後まで強い嵐が吹き荒れていて、時に風雨が弱まったり、一瞬凪がやってくるけれど、やっぱり嵐は吹き止まず...といった雰囲気。カッチェンは物語風ではなくて、嵐を実写したモノクロ映像的。
線のしっかりした量感・力感のある音で、低音のクレッシェンドは波が激しくうねるよう。高速のフォルテの変奏で細かいスケールや重音のパッセージや連続していくと、怒涛が渦巻くような勢いで、力強くて豪快なベートーヴェン。
緩徐系の変奏になると、密やかで柔らかい弱音に抑制された悲愴感が漂い、突き刺すような冷んやりした硬質の叙情感が美しく、硬軟・強弱・緩急のコントラストを明瞭にした、とてもカッチェンらしい弾き方。

32ある変奏は、同系列の変奏がいくつか続いてグループになっている。アラウは変奏ごとに細かく表情づけをしているけれど、カッチェンは変奏群ごとに表情が変わっていく感じ。
変奏ごとの微妙な違いを味わうというタイプではなくても、この曲でこれだけ張り詰めた緊迫感に満ちた演奏はなかなか聴けない。
叙情感が美しいバッハとは違って、力強く構造堅牢でありながら音のキレが良くスピード感もあって(それに加速して音抜けすることもないし)、テクニカルにはバッハよりも安心して聴ける。
このアルバムの中では、バッハの最初の3曲と同じくらいに良くて、CDを買って良かった~と思えた演奏でした。


ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番ト長調Op.58 (伴奏:ヨッフム指揮バイエルン放送交響楽団,1962年3月5日、場所の記載なし)

各楽章ともスタジオ録音より速めのテンポ。特に第1楽章が16分半と、おそらく数あるこの曲の録音のなかで最速。17分13秒で弾いていたスタジオ録音よりもさらに速い。(普通は、いくら速くても17分台。18~19分台が多い)
(アラウが巷の演奏を評して、”この第1楽章はいつも速く弾きすぎている。アレグロ・モデラートの「モデラート」の文字は赤インクで特記すべきです”...なんて言っていたのを思い出した。)

細かいパッセージが続くとテンポが加速してしまうので、初めはオケがついていけずにちょっとピアノとずれている。
その後は伴奏もテンポを上げていたけれど、指揮者とオケは止まるに止まれぬピアニストに合わせるのに苦労していたに違いない。それに、オケもピアノと似たように勢いよく聴こえる。
弱音部分は落ち着いた雰囲気でも、他のところが速くて元気なので、音質の影響もあってか、全体的にしっとりした叙情感はそれほど感じなくて、良く言えば明るくて快活。(悪く言えば、せわしなくて賑やか)

第2楽章は、一転してカッチェンらしい硬質の透明感のある叙情感が美しく、第3楽章も速いテンポだけれど、Vivaceなので良いとして、粒立ちの良い音とクルクルとよく回る指で軽快なタッチ。(でも、やっぱり時々テンポが少し上がってたりする)
このライブ録音に比べれば、途中で加速して速すぎると批評されていたスタジオ録音でさえ、そんなに速いと感じなくなる。
スタジオ録音を聴き直してみたら、テンポはずっと安定していて落ち着きもあるし、第1楽章はしとやかな弱音が美しく、フォルテへと盛り上がっていくところのタメもよく利いて、静と動のコントラストが鮮やかで爽快。なぜか以前よりも印象が(さらに)良くなって、ライブ録音を聴いたおかげらしい。

第4番はYoutubeに1968年のプラハの春音楽祭のライブ映像(ノイマン指揮プラハ響の伴奏)が残っていて、第1楽章だけを聴いた限りでは、テンポはスタジオ録音よりは少し遅めで、途中でいつものように加速することなく落ち着きがあり、引き締まったタッチと澄んだ叙情感が美しい演奏。颯爽としてとても良い感じの演奏なので、これをCDで出してくれたら良いのに..といつも思っている。


最後に収録されているのはベートーヴェン/チェロソナタ第5番ニ長調Op.102-2
チェロがカザルス、1960年8月6日、プラドで開催されたカザルス音楽祭のライブ録音。
チェロが入った曲はピアノ三重奏曲以外はほとんど聴かないので、ベートーヴェンのチェロ・ソナタはウィスペルウェイ&ラツィックの録音で数回聴いたのみ。それも第1番~第3番と変奏曲は好きだったけど、第5番はあまり記憶に残っていない。
カッチェンのピアノ伴奏といえば、スークとスタジオ録音したブラームスのヴァイオリンソナタ。冒頭を少し聴いただけで、その美しさにうっとり。
このチェロソナタでは、チェロよりほんの少しピアノが遅れ気味に入ってくることが結構あって、スーク(やシュタルケル)とのように呼吸がぴったり...というわけではなさそう。チェロの存在感が強くて、ピアノは印象が薄い気がする。
曲自体さほど好きというわけではないので、演奏がどうこうというよりも、カッチェンのピアノ伴奏が聴けただけで充分良かったというところ。

 Reissue CD Reviews :Julius Katchen, Volume I [AUDIOPHILE AUDITION]

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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