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ジェフスキ/『不屈の民』変奏曲
アメリカの現代音楽作曲家フレドリック・ジェフスキの代表作といえば《「不屈の民」変奏曲》(The People Unites Will Never Be Defeated)。
演奏時間は1時間以上というピアノ独奏曲の大作で、NAXOSの解説文によると「米国のピアノ音楽のランドマーク的作品で、最も重要な変奏曲の一つ」。アムランが録音しているのでも有名。
この曲のNAXOS盤(ピアニストはラルフ・ファン・ラート)が、日本のamaoznサイトで全曲まるごと100円でダウンロードできるそうです。
ただし、1トラックしかないので変奏番号がわかりにくいけど(これはかなり不便)、NAXOSサイトにある英文解説にはちゃんと変奏ごとの開始時間と終了時間が記載されているので、聴いている時にどの変奏が演奏されているのかはわかる。
変奏が36もあって1変奏は1~3分くらい。変奏パターンが多種多様なので、そんなに冗長な感じはしない。
現代音楽にしては、歪みのある不協和音とか、音が散らばって旋律としての流れがわからない旋律とかが、比較的少ないので、かなり聴きやすい。
現代音楽のピアノ独奏の変奏曲や数十分かかる曲をなんとか聴ける人なら、この曲もそれほど苦労せずに聴き通せる可能性は高い。

このダウンロード情報は、よくチェックしている<合唱音楽 聴いたり 弾いたり 振ったり blog>の記事”アマゾンMP3ダウンロードでジェフスキー”で紹介されてました。

NAXOS盤のラルフ・ファン・ラートのピアノは、タッチも音も柔らかめで響きが美しくて華やかだし、叙情性も強くて聴きやすい演奏。カデンツァも録音していて、これはとってもドラマティック。
People United Will Never Be Defeated WinnsboroPeople United Will Never Be Defeated Winnsboro
(2008/03/25)
Ralph Van Raat

試聴する(ダウンロードサイト)


フレドリック・ジェフスキのプロフィール(Wikipedia)がなかなか面白い。
ジェフスキのように、政治的思想と音楽が強く結びついた作曲家ですぐに思い浮かぶのは、イタリアのノーノ。若い頃のポリーニやアバドとともに共産党員だったので(今はどうなのか知らないけど)、チリの革命家ルシアノ・クルツの追悼曲でノーノの代表作《力と光の波のように》を一緒に録音したりしていた。

このジェフスキの『不屈の民』変奏曲は、政治闘争歌 "El pueblo unido jamas sera vencido!(団結した人民は決して敗れない!)"を元にした変奏曲。
この歌の由来は、1973年9月11日、軍のクーデターで非業の死を遂げたチリ大統領サルバドル・アジェンデの死を悼んで、人々が”l Pueblo Unido Jamás Será Vencido!”と叫んでいるのを、チリの作曲家セルヒオ・オルテガが聴き、曲をつけて歌にしたもの。
作曲後すぐにこのメロディをポップグループのQuilapayunが歌ってから、政治的独裁に対する抗議のシンボルとなったという。
その後、ジェフスキは作曲者のオルテガとイタリアで会っていて、思想的にも共鳴することもあってか、ピアニストのオッペンスから”現代のディアベリ変奏曲”となるような曲を委嘱された時に、この「不屈の民」変奏曲を書いたらしい。

この経緯を知っていても知っていなくても、歌詞がついていないので、特に政治的なメッセージが盛り込まれているのかどうかなんていうのは、ピアノの音からは連想しにくい。
ジェフスキは楽譜で多くの変奏について、"struggling","with foreboding","with determination","like a cry"と表記しているそうだし、冒頭のテーマこそ哀感のある綺麗な旋律でちょっとメロウな感じはするけれど、変奏に入るとかなりハードな雰囲気と緊張感が漂っている。
テクニカルにもかなりの難曲で、ピアニスティックな華麗さにメロディの美しさ、さらに闘争的な力強さとが相まって、かなりドラマティックな変奏曲。

最初と最後に出てくる主題を挟んで、変奏が36。現代音楽に出てくる技法がいろいろ織り込まれて、変奏パターンは多様。これはかなり面白い。
12音技法のような無調の変奏も入ったりしているけれど、第13変奏がジャズ風だったり、昔懐かしいフォークソング調もあったり。
ほとんどの変奏で主題旋律が織り込まれているのがだいたいわかるので、形式的にはかっちりと整った感じがして、錯綜感は少ない。
この曲を聴くと、現代音楽のピアノ独奏曲のなかでも傑作(の一つ)だと言われるのも納得。


これは、作曲者ジェフスキの自作自演ライブ映像。2007年3月、Miami international Piano Festivalにて。
冒頭の主題と最初の変奏部分のみ。全曲映像はVAIからDVDがリリースされている。
主題だけ聴いた限りだと、他のピアニストに比べて、ジェフスキはかなりテクニカル的に危なっかしいけれど曲に込められている感情が強く伝わってくる感じ。


Rzewski Plays Rzewski: People United Will Never Be [DVD] [Import]Rzewski Plays Rzewski: People United Will Never Be [DVD] [Import]
(2008/02/12)
Frederic Rzewski

商品詳細を見る



DVDのジェフスキ自作自演盤以外の録音はいくつかあって、昔は高橋悠治の録音が有名だったらしい。(私は聴いたことがない)

※Youtubeの音源を追加(2014.3.31追記)
Rzewski- TPUWNBD (Takahashi)


ジェフスキー:不屈の民「変奏曲」ジェフスキー:不屈の民「変奏曲」
(1991/01/01)
高橋悠治

商品詳細を見る




今一番有名なのは、たぶんHyperionのアムラン。軽やかで滑らかなタッチでピアニスティックに美しく、力強さや厳しさは強くなく、わりとあっさりした叙情感。喩えていうなら、スタイリッシュな都会的な洒落た雰囲気がする。
People United Will Never Be UnitedPeople United Will Never Be United
(1999/05/11)
Marc-Andre Hamelin

試聴する(独amazon)


New Albionのドゥルーリーも技巧的には問題なく、個人的には一番印象が強くて好きな演奏。
ゴツゴツした力強い打鍵で音が硬くて骨太なタッチ。スタッカートやリズムが鋭く、甘さが薄めの厳しいトーンで、”不屈”という強い意志が現われているような感じがする。
叙情的な曲想の変奏は透明感のあるさらりとした叙情感があって、硬軟のバランスが良い感じ。
残念なのは、カデンツァを弾いていないこと。
The People United will never be DefeatedThe People United will never be Defeated
(1994/03/01)
Stephen Drury

試聴する



「不屈の民」変奏曲 The United People Never Be Defeated

NAXOSの解説文によると、36ある変奏は6つの変奏が1セットで構成された6つの変奏グループに分けられ、各グループの6番目の変奏は、直前5つの変奏(5本の指をあらわしているらしい)を要約するという、構造的にかっちりとした枠組みで作曲されている。
6つの変奏グループ自体も、同じマクロフレームに基づき、最後の6番目の変奏グループは、それまで出てきた5つの変奏グループを要約している。
変奏曲は”闘争”の各局面を象徴している。使われている語法もバリエーション豊か。
怒りでかなりエネルギーを増したモダニズムから、メランコリックなタッチのブルースまで。
密度の濃いポリフォニー、ノスタルジックなフォークソングにフリージャズ的パッセージなど。
現代音楽特有の奏法も使って、第11変奏では銃声のようなピアノ絃の音。第24変奏では警鐘のように20秒間オスティナートされる高音のキー。

元歌のメロディに加えて、Hanns Eislerの”Solidaritätslied”という別の革命歌が曲の前半に使われたり、
イタリアの革命歌”Bandiera Rossa”も何度か引用されている。
最後に再び主題へ回帰する直前には、ピアニストが自由に即興演奏(インプロヴィゼーション)することもできる。
冒頭のテーマと対称的に、エンディングのテーマは低音から高音域まで使って、主題を生気を吹き込んで”勝利”を表しているようなバージョン。



<メモ>(もう少し聴き直してみて修正するかも)

Thema: quarter note = 106, With determination
冒頭は力強い和音で弾かれる主題旋律。続いて、柔らかいタッチのピアノで同じ旋律を、美しく哀感の漂う力強い旋律。
この旋律を聴いていると、子供の時に見ていたサントリーのウイスキーのCM(大原麗子が出ていたバージョン。たぶんサントリーオールドのCM)に流れていた曲にちょっと雰囲気が似ているような...。

Variation 1: Weaving: delicate but firm
両手とも単音で、(12音技法的に?)飛び跳ねるようにポツポツとちらばる音で旋律を繋げている。
つぶやくような静けさがとても綺麗な変奏。Variation 2はこれに音が増えて、音量も大きく、躍動感が強くなる。

Variation 3: Slightly slower, with expressive nuances (quarter note = ca. 88)
Variation 4: Marcato - With determination
この2つの変奏は、やや不協和的なアルペジオや和声で、波が揺れ動くようにかなりピアニスティック。

Variation 5: Dreamlike, frozen
強弱の強いコントラストの和音が交錯する。

Variation 6: Same tempo as beginning
変奏1~6のパターンが詰め込まれた変奏。


Variation 7: Tempo (Lightly, impatiently)
不安げな和声で、これも第1変奏と同じく、両手が飛び跳ねるような単音で旋律を繋げている。

Variation 8: With agility; not too much pedal; crisp 
第7変奏に音が増えて、和音やアルペジオでレガート。音が多く、落ち着きなく音が錯綜して、さらに不安感が増しているような。

Variation 9: half note = 48, Evenly
左手の同音和音のオスティナートは、キース・ジェレットのピアノ・ソロのインプロヴィゼーションに出てくる旋律にちょっと似ている。

Variation 10: Comodo, recklessly (quarter note = 96)
これは12音技法的に音が乱舞。でも、無機的な感じはせずに、かなり饒舌で音の跳躍がとても面白い感じ。

Variation 11: Tempo I (quarter note = 106)
ポツンポツンと音がまばらになってとても静かなトーン。
途中でピアノ線を叩いて(?)銃声のような音を出す内部奏法を使ったり、ピアニストが叫んだりと、現代もので時々使われる奏法が入っている。

Variation 12
第7~11変奏の音のパターンが詰め込まれた変奏。音が賑やかに飛び跳ねてから、静かになって、アタッカのように第13変奏へ。


Variation 13: quarter note = 72 or slightly faster
なぜか、主題旋律がごく普通に叙情的に演奏されて、ほっと一息。最後は消え入るようにフェードアウト。

Variation 14: A bit faster, optimistically
フォークソング調の変奏。響きはやや不協和的な感じで、どこか懐かしいような、それでいて目新しいような、一風変わった美しさ。

Variation 15: Flexible, like an improvisation
柔らかく少し崩したようなタッチと、やや不安定感のある和声と旋律が、ジャズっぽい即興風。

Variation 16
調性感が曖昧になったアルペジオやスケールが重なり合って、やや幻想的な雰囲気。

Variation 17: L.H. strictly half note = 36, R.H. freely, roughly as in space
左手は拍子を刻むように打ち込まれる和音、右手はかなり自由に動き回って、動きが対照的。

Variation 18: quarter note = 72
13~17変奏を回顧するように、各変奏の音のパターンが順番に登場する。
この変奏群は叙情性と即興的な雰囲気がかなり強い。


Variation 19: dotted quarter note = 144, With energy
スタッカートの変奏。

Variation 20: Crisp, precise, quarter note = 144
19変奏より高速のスタッカートで、音もさらに増えて鍵盤上を走り回っている感じ。さらに音が増えてピアニスティックになったのがVariation 21: quarter note = 108, Relentless, uncompromising。

Variation 22: quarter note = 132
スタッカートは同じ。かなり変わったリズム感。

Variation 23: As fast as possible, with some rubato

Variation 24: quarter note = 72
前半は19~23変奏の回顧するように、スタッカートで半ばまでは賑やかに走りまわっていたら、急にピアニッシモに変わって音もまばらに。


Variation 25: quarter note = ca. 84, with fluctuations
和音主体の変奏。静かなタッチでやや内省的な雰囲気。終盤からクレッシェンドして、アタッカで26変奏へ。

Variation 26: quarter note = 168, In a militant manner
和音に加えて、スケール、アルペジオが多用されて、ピアニスティックで動的。

Variation 27: (quarter note = 72) Tenderly, and with a hopeful expression
再び静かな変奏。これも第25変奏と同じく、内省的な雰囲気。
半ばからミニマル的なタッチに変わり、左手がオスティナート的にトレモロ・分散和音を弾いて疾走するような雰囲気。
途中で再び音がまばらで静かになったり、また分散和音や和音が入って力強く駆け出したりと、緩急の変化が激しい。

Variation 28: quarter note = 160
単音のアルペジオと旋律がとても綺麗に響いている。

Variation 29: quarter note = 144-152
吉松隆の「プレイアデス舞曲」を連想するような軽快でちょっと可愛らしい感じ。

Variation 30: (quarter note = 84)


これ以降の変奏は、いままで出てきた変奏パターンがパッチワークのように次から次へと登場して、落ち着きがなくて、とりとめない感じ。
音の飛び跳ねたような12音技法風、ジャズ風、フォークソング風から、スタッカート、スケール、アルペジオ、和音、オスティナートとかの音のパターンまで、総集編といったところ。ピアニストも叫んでたり、あ~~と歌ってたりする。最後は静かにフェードアウト。

Variation 31: (quarter note = 106)
Variation 32
Variation 33
Variation 34
Variation 35
Variation 36


Cadenza(Optional Improvisasion)
弾くかどうかは選択可能な”即興”カデンツァ。録音していない人もいるけれど、ピアニストによって全然違うので、聴き比べてみると面白い。
アムランのカデンツァは、現代的な無機性が強くて、旋律の歌謡性がかなり稀薄でつかみどころがなくてわかりにくい感じ。
NAXOS盤のファン・ラートのカデンツァが旋律・リズムも明瞭、幻想的な響きと力強くドラマティックな盛り上がりでわかりやすくて印象的。

Thema: Tempo I
最後に主題が登場してフィナーレ。本当に懐かしい感じがして、フィナーレに相応しいメロディ。
終盤は、両手が高音域で弾く旋律と伴奏がとても美しく、続けて左手が低音域まで広がって、力強く華やかにドラマティックなエンディング。
このテーマを再び聴くと、《ディアベリ変奏曲》のように、本当に長い道のりを歩いてきたような気分になる。

tag : ジェフスキ アムラン 高橋悠治

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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