カッチェン ~ ガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルー 

2010, 12. 23 (Thu) 18:00

ガーシュウィンと言えば、すぐに思い浮かぶのは《サマータイム》と《ラプソディ・イン・ブルー》。
《サマータイム》は、ポピュラーピアノ名曲集の類の楽譜によく載っているし、《ラプソディ・イン・ブルー》は、FMとかコンサートのプログラムに入っていることが多いので、条件反射的に曲名が浮かんでくる。
両方とも曲はよく知っていても、ガーシュウィンは好きではないので、CDで聴くことはまずない。
ジャズのCDに入っているガーシュウィンの曲もほとんど聴かないし、ブラレイがガーシュウィンの曲を録音していてもアルバムは買わなかったし。
唯一の例外として好きな曲は《ピアノ協奏曲ヘ長調》。これはとても好きなので、クラシックのピアニストの演奏ならもう何十回となく聴いている。なぜかジャズピアニストで聴いたことがないけど。

このピアノ協奏曲を初めて聴いたのが、カッチェン&マントヴァーニ/マントヴァーニ楽団のモノラル録音。1955年とかなり古いけれど、聴きづらさは全くなくて、この録音が大好き..なんて人もブログで時々見かける。
やたら勢いのあるスピード感とマントヴァーニ楽団独特のジャズらしい(ムード音楽風な感じもする)雰囲気が漂っていて、これが記憶のなかでスタンダード化してしまうと、クラシックのオケは重たすぎて聴けなくなってくる。

このCDに一緒に収録されているのが、《ラプソディ・イン・ブルー》。この曲は全然好きではないので、カッチェンが弾いているのに、珍しくも全く聴いていなかった。(聴いていたとしてもすっかり忘れている)
カッチェンは、ガンで亡くなる前年の1968年11月に、この《ラプソディ・イン・ブルー》をケルテス指揮のロンドン響と再録音している。
クラシックのオケとジャズ・ポップスの楽団の両方でこの曲を録音したピアニストはかなり少ないに違いない。プレヴィンやバーンスタインなら録音しているかも。

後年のスタジオ録音を聴いてから、比較するためにようやく聴いてみたマントヴァーニと録音した《ラプソディ・イン・ブルー》。
楽団がカスケード・ストリングスを入れたりしているらしく、かなり派手な演奏。
ムード音楽みたいな弦楽の音色といい、威勢よく茶目気のある管楽器といい、クラシックのオケではこういう演奏はまず聴けません。
それに合わせてか、はたまた煽られてか、カッチェンのピアノも力強くて躍動感のあるタッチで、楽団と協奏する部分はちょっとガチャガチャした雰囲気。
それにピアノがとっても控えめというか、録音の取り方がまずかったのか、音量が小さすぎ。楽団が賑やかなのと相まって、ピアノがとても聴き取りにくいし、どう考えても楽団の演奏が目立ちすぎのような...。
さすがにカデンツァでピアノソロを弾くときは、しなやかなタッチで音色も多彩になって、ロマンティック(でもやっぱりジャズピアニストとは全然違うけど)。

Rhapsody in Blue / Cto in F Major (Dig)Rhapsody in Blue / Cto in F Major (Dig)
(2004/07/01)
katchen, Mantvani and the Mantovani Orchestra

試聴する(国内盤にリンク)
カッチェン&マントヴァーニ/マントヴァーニ楽団の《ピアノ協奏曲イ長調》と《ラプソディ・イン・ブルー》を収録。1955年のモノラル録音。

                             

1968年に再録音した《ラプソディ・イン・ブルー》は、カッチェンの録音集『Decca Recordings 1949-1698』のBOXセットに収録されている。
たまたまプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を聴こうとして、そのCDの一番初めに入っていたのが《ラプソディ・イン・ブルー》。
ピアノ協奏曲の方と勘違いして、そのままぼ~っと聴いていたら、《ラプソディ・イン・ブルー》にしては、クラシカルな香りがするピアノとオケがとっても良い感じ。
曲自体は旋律もムードも好きではないタイプの曲なので、ジャズ風の雰囲気が薄めでクラシック側に寄っていた方が聴きやすい。
特にピアノパートがピアニスティックでかなり派手。これだけ聴いていても面白いし、ピアノがカデンツァで弾くところがかなり多い。

ライナーノートを読むと、カッチェンはケルテスと録音した《ラプソディ・イン・ブルー》の解釈が、自分でもとっても気に入っていた。
米国で生まれの米国育ちで、20歳くらいにパリへ留学(音楽ではなく哲学・文学の学業のため)して、間もなくクラシックピアニストとして活動し初めて、そのまま42歳で亡くなるまで定住していた”パリのアメリカ人”。
米国で暮らしていた頃は、ガーシュウィンに限らずジャズは日常的に耳に入ってきたはずだろうけれど、クラシックが専門なので、当然ながら《ラプソディ・イン・ブルー》を弾いた時のカデンツァは即興ではないし、スウィング感もない。
逆に、クラシックピアニストらしく、速いテンポでもテクニカルな切れは抜群。タッチも多彩なので音色・響きのヴァリエーションも豊富。
この曲がヴィルトオーソ向けのピアニスティックな曲に思えるほどに、ピアノが華やか。並みのジャズピアニストではこういう風には弾けない。

クラシックのオーケストラ伴奏で聴くと、伴奏に厚みとボリューム感のある音で、枠がかっちり固まって堂々とした雰囲気。
洒落っ気や羽目をはずしたような面白みがあるとは言えない気はするけれど、この曲はこういうタッチの方が好みに合うので。
旧盤と比べて、こちらのカッチェンのピアノはかなり落ち着いていて、鮮やかな技巧に加えてしっとりとした叙情感。
タッチも旧録より丁寧で、緩急の変化もより細かく、弱音部分のちょっとケだるい雰囲気も良くでている。
ステレオ録音なので音質がすっかり良くなっていることもあって、音が綺麗で色彩感も増し、細部の表現もずっと多彩。
終盤のカデンツァは、針のように細くシャープな音がキラキラと煌いているよう。
マントヴァーニの時は、ピアノに勢いと迫力はあったけれど(ちょっと荒っぽいし)、協奏部分では楽団のペースに巻き込まれている感じがする。
この新盤では、ピアノの音量も全体的にむらがなく、協奏部分でもピアノの存在感がしっかり。
余分な力がすっかり抜けて、思いどおりに弾くことを楽しんでいるように、自由に伸びやかに弾いている感じが伝わってくる。

ピアノ協奏曲の方は、なぜか再録音していなかったけれど、どうしてなんでしょう?
計画はしていたけれど、病気が進行していったために残された時間が無かったのか、それとも、マントヴァーニと録音した時の演奏があまりに圧倒的な迫力があったので、それを超える演奏はできないと思ったのか、今となってはわからないまま。

Decca Recordings 1949 - 1698Decca Recordings 1949 - 1698
(2006/01/02)
London Symphony Orchestra、Suisse Romande Orchestra 他

試聴する(国内盤にリンク)
カッチェン&ケルテス/ロンドン響の《ラプソディ・イン・ブルー》を収録。1968年のステレオ録音。


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この曲をジャズピアニストで聴きたいなら、おすすめはYoutubeで見つけた小曽根真のライブ録音。伴奏はクラシックオケで大植英次指揮の大阪フィル。
Youtubeにはバーンスタインやプレヴィンのライブ映像もあるけれど、バーンスタインはテクニカルに危なっかしい感じがするし、プレヴィンよりは小曽根の方が音が綺麗でカデンツァが素晴らしく思えるので。
小曽根はデビュー当時から聴いていて、若い頃に出したCDはどれも好きだった。(結婚してからオリジナルの作風がかなり変わって甘口になったと感じるので、今は全然聴かないけど)
彼はジャズピアニストの中でも技巧的にはかなり優れた人なので、この《ラプソディ・イン・ブルー》もテクニカルな切れも良く、わりと安心して聴ける。でも、やっぱりスウィング感のあるジャズピアニストらしいタッチと即興カデンツァを楽しむ演奏なんだと思う。


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