*All archives*



レーゼル ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」(旧盤・新盤)
《テンペスト》を聴く時はいつも第3楽章。
たまに第1楽章と第2楽章を聴くことはあっても、同じ譜面を表現しているにしては、ずいぶん違った演奏になるのが第3楽章なので、ピアニストの個性が一番よくわかる。

《テンペスト》で今まで印象的だと思ったのは、幻想的なリヒテル、音が舞踏するような運動性のポリーニ、物語的なアラウ。
それに加えて、レーゼルの2つの録音が、今一番好きな《テンペスト》。
特にレーゼルの新盤のライブ録音は、私の理想的なイメージにぴったり。何回聴いても飽きないくらい。
強い個性的な語り口ではなく、一見地味ではあるけれど、精密で安定したテクニックと過剰すぎない表現に加えて、多彩で美しいピアノの響きがとても美しい。
レーゼルの録音は2種類。Berlin Classicの1984年スタジオ録音と、現在進行中のベートーヴェン・ソナタ全集の2008年9月ライブ録音(東京・紀尾井ホール)。

Berlin Classicのベートーヴェン・ピアノ・ソナタ集。
第17番<テンペスト>と第18番<狩>が1984年録音。
第24番<テレーゼ>と第29番<ハンマークラヴィーア>は1979年録音。
この《テンペスト》を初めて聴いたときは、クールで瑞々しくて、余計なものが混ざっていないベートーヴェンを弾く人なんだろうと思ったもの。
それ以来、レーゼルのベートーヴェンにすっかりはまり、ピアノ協奏曲全集やライブ録音のピアノ・ソナタ全集など、ほとんどのCDを揃えてしまった。
Berlin Classic盤は全てNMLで全曲聴けるけれど、どうしてもCDで手元に置いておきたかったので。


独奏曲BOXに収録されている。
Works for PianoWorks for Piano
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴ファイルなし


これは分売盤。
Piano Sonatas 17Piano Sonatas 17
(1996/11/19)
Beethoven、Rosel 他

商品詳細を見る



ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集録音は、レーゼルが63歳からライブ録音(&セッション録音)を開始。これが初めての全集録音。
Vol.1の収録曲は、第10番、《テンペスト》と《ハンマークラヴィーア》の3曲。
第17番と《ハンマークラヴィーア》は、旧東独時代にも録音していたので、レーゼルが得意とする曲らしい。

ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集1ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集1
(2008/12/25)
レーゼル(ペーター)

試聴する



第3楽章に限って言えば、旧盤と新盤の解釈自体は大きく変わっていないと思うけれど、それでも聴いていれば違いがすぐわかる。

旧盤のスタジオ録音は、クリアで透明感のある澄み切った音で、冷んやりとして水気を帯びたような響き。
高音部は蒸留水のように濁りのないやや軽めの質感。新盤よりもやや硬質の音で、スタッカート的なタッチがやや強めだけれど、弱音は柔らかく少し憂いをおびたような響き。
全体的にそれほど速いテンポではなく、細部まで丁寧な打鍵と細やかなディナーミクの変化に加え、ところどころリタルダントを入れて緩急の変化があり、細やかに表情が移り変わり、清冽な美しい叙情感が流れている。
新盤と聴き比べていると、リタルダンドをかけているところで、一瞬流れが淀むような感じがしないでもないけれど、それでも、”あるべきところにちゃんと音のある”(かつてレーゼルのCDをプロデュースした人が彼のピアニズムを評した言葉)と言いたくなる。

レーゼルは若い頃からメカニックが安定して音の切れが良かったけれど、60歳を過ぎてもそれは全く変わっていない。
新盤のライブ録音は、旧盤(演奏時間が7'32")よりも速めのテンポ(同6'48")をとり、リタルダンドでテンポが伸縮することがほとんどなくなって、音楽が一瞬も淀むことなくとても流麗。
打鍵は一音一音明瞭で、和音も全ての音が良く響き、特に左手低音部がよく効いているので、安定感が抜群。
音に透明感はあるけれど、やや木質感のあるしっとりした音色で暖かみがあって、美しく深みのある響き。
高音の澄んだ響きが濁りのないピュアなものを感じさせるのは、昔からレーゼルらしいところ。
音の線がやや太くなり、特に低音部の響きに重みと弾力が増している。

旧盤よりも音の重層感が増し、響きのバリエーションがとても多くなり、表情の変化が多彩。
油絵的なカラフルな色彩感ではなく、落ち着いた音色がベートーヴェンの曲によく似合っている。
なによりもライブのせいか、生き生きとしたダイナミズムを感じる。

主題部冒頭から出てくる4音(3つの16分音符&8分音符)の音型に特徴があって、最後の8分音符がスタッカート的ではなく少し長め。これが良く響いて、第1拍目にアクセントがついているようにリズミカル。
9小節目から、パターンが異なる4音の音型が出てくると、3番目の16分音符がやや強めに響くので、符点がついたような軽やかなリズム感。

冒頭の基本音型が、左手低音部に現われると、弾力のある力強いタッチ。
特に最後の8分音符が強く響いて、底から立ち上がってくるようにずしっとした力感と弾力がある。
旧盤よりも、クレッシェンドとデクレッシェンドは波がうねるような流動感と躍動感がある。
スタッカートもそれほど短くは切ってはいないので、レガートな流れが途切れることなく、テンポの伸縮も少なく、全編に渡って音楽が滑らかに淀みなく流れていく。
特に印象的なのは、展開部に入って出てくる(99小節~)左手アルペジオ。
重なる響きの重層感と駆け上るようなドライブ感があって、まるで大きな波が打ち寄せてくるような感覚。

様々なかたちの波が交錯する様が見えて(聴こえて)くるようなリアルさと、生気のあるダイナミズムを感じるのは、昔よりもレーゼルのピアノがずっと深化しているからに違いない。
この《テンペスト》の演奏が、スタジオ録音ではなくライブ録音というのは凄いかも。
演奏にはピアニストの解釈や音色・響きの選択が入っているとはいえ、レーゼルは取り立てて変わったことはせずクセのない至極まっとうな音楽をつくるので、そういう音楽が好きななら聴くたびに充実感を味わえます。


tag : ベートーヴェン レーゼル

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。