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『レーゼルの芸術 ~ ピアノ協奏曲編』
旧東ドイツ出身のピアニスト、ピーター・レーゼルは、日本ではそれほど人気があるピアニストだったとは思えないけれど、最近は以前よりもずっと知名度も上がっているらしい。
現在、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を順次録音中。分売盤(国内盤)が次々にリリースされているので、小さなCDショップの店頭でも時々並んでいる。

レーゼルの過去の録音を集めたBOXセットは、Berlin Classicsから《ピアノ協奏曲編》《ピアノ独奏曲編》《室内楽曲編》の3種類がリリース済み。
数年前にHMVでかなり安価で販売されていて、このBOXセットのどれか(または全部)を買ったという人をあちこちのブログで見かけた。

この3つのBOXセットの中で、選曲と演奏の内容が良くて、さらにコストパフォーマンスも良いのは、《ピアノ協奏曲編》だと思う。(今ならHMVのオンラインショップで、CD10枚組が2600円くらい)

《ピアノ独奏曲編》は、ブラームスのピアノ作品集が一番定評のある録音だと思うけれど、ブラームスの方は別にBOXセットで発売されていて、これだけ持っている人も結構いそう。
もし、それを持っていないなら、この独奏曲編は収録枚数が多いし、作曲家もバラエティがあって、レーゼルのソロをいろいろ聴きたい人には良いとは思う。
個人的には、ブラームス以外だとベートーヴェンが良いと思うけれど、それ以外はあまり興味を惹かれない選曲だし、そういう曲はNMLでも聴けるので、《ピアノ独奏曲編》は買わないまま。

Piano ConcertosPiano Concertos
(2006/10/24)
Peter Rosel,Kurt Masur,Leipzig Gewandhaus Orchestra

試聴リンク(allmusic.com)



ピアノ協奏曲BOXの収録曲は、ピアノ協奏曲全集がベートーヴェンとラフマニノフ。
他にハイドン、シューマン、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ウェーバーのピアノ協奏曲&協奏的作品を収録。
1969年~1991年までの録音を集めたもので、曲によって指揮者とオケが異なる。

 -ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集
 -ハイドン:ピアノ協奏曲(Hob.18/11、18/4)
 -プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番
 -ストラヴィンスキー:ピアノと管弦楽の為のカプリッチョ
 -ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集&パガニーニの主題による狂詩曲
 -チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
 -シューマン:ピアノ協奏曲イ短調、序奏とアレグロ・アパッショナート、序奏と協奏的アレグロ
 -ウェーバー:コンツェルト・シュトゥック、ピアノ協奏曲第1番&第2番


ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は、至極まっとうな演奏で文句なく良い内容。
初めてベートーヴェンのコンチェルトを聴くなら、ファーストチョイスの選択肢の一つにあげたいくらい。

ラフマニノフのピアノ協奏曲については、第2番とパガニーニ狂詩曲くらいしか聴かないので、よくはわからない。
コンチェルトはテンポが遅めで、隅ずみまできっちりと弾きこんでいて、好みとは違ったタイプの演奏なので、ラフマニノフの方はあまり聴かないかもしれない。

プロコフィエフの第2番がとても素晴らしくて、個人的にはトラーゼの録音と双璧となる定番。
レーゼルにしては、暗くて厳つい音色とタッチがやや陰鬱な曲想にマッチしていて、物語性の強いトラーゼとは違った方向性の演奏としては、とても好きな弾き方。
<Kyushima's Home Page>に載っていたレビューで評価が高いので、かなり期待していた曲。このプロコフィエフとベートーヴェンに魅かれて、このBOXセットを買ったようなもの。

シューマンのコンチェルトは、ベタベタした叙情感や(女性的な)しなやかさとは無縁。
かっちりした打鍵と力強いタッチで、若者らしい爽やかさが清々しくて、こういうシューマンはかなり好き。カッチェン&ベームのライブ録音と並ぶ個人的な定番になるかも。

ハイドンは、明るく賑やかで陽気な演奏が多いなかで、レーゼル特有の明るく透明感のある音色とさらりとした叙情感があるせいか、清楚で愛らしいところがとても素敵。

チャイコフスキーのコンチェルトは、曲も演奏もどちらも好きではないので、聴くのはハフとカッチェンの録音ぐらい。
レーゼルの演奏は力感・スピード感とも充分で、低音の響きは力強く量感があるし、どの和音もよく鳴っている。克明で堅固なタッチと粘りのないロマンティシズムが融合して、とても爽やか。
ロシア的濃厚な叙情感ややたらに白熱する暑苦しさがないのは、ハフとカッチェン似ている。ロシア物を聴くときは、このタイプの演奏がほとんど。
録音音質のせいか、レーゼルの澄んだ音色のせいか、なぜか冷んやりした叙情感があるので、暑苦しい夏に聴いても涼しく感じそう。

ウェーバーは、曲自体があまり好きではないので、なんとも言えず。ピアノ協奏曲2曲はかなり珍しいと思うけれど、どうしてウェーバーのコンチェルトばかり録音したんだろう?

この協奏曲BOXは好きな曲がたくさん入っているし、演奏自体も曖昧さのない精密で安定した技巧と、変なクセがない表現で、過剰な装飾と味付けが入っていないという点で曲そのものを聴くにはとても良い。
ただし、強烈な個性のピアニストが好きだったり、極めて表現豊かな演奏が好きな人には、さっぱりし過ぎて物足りなさを感じる可能性は高い。
個人的には、演奏内容は好みと違ったものはあっても質的には高いと思うし、レーゼルのピアニズムをいろんな角度から楽しめて、とても満足できたBOXセットの一つ。


このBOXセットのレビューで、わりとまとまった内容のものは次の2つ。
-HMVの紹介記事:「レーゼルのセット、裏の楽しみ方」
-ブログ<ピアノを想う365日>の記事:ペーター・レーゼルを聴く その3ペーター・レーゼルを聴く その4


レーゼルのインタビュー記事(asahi.com)
レーゼルらしく、とても真面目な人柄を感じさせるインタビューの言葉は、彼が弾くピアノと同じみたい。
レーゼルはメジャーレーベルの録音がほとんどないこともあるせいか、日本ではあまり知名度は高くなかった。(最近はそうでもないかもしれないけれど)
レーゼルの録音の大半をリリースし続けてきたBerlin Classicsは、廉価盤のCDがわりと多くて老舗のレーベル。イメージ的に地味なレーベルだと思うけれど、旧東独の著明な演奏家(マズア、ザンデルリンク、ブロムシュテット、ヘルビッヒなど)の録音も多い。

インタビュー記事を読むと、レーゼルの場合は、ある種の純粋培養的な音楽環境だったのか、旧東独時代ではいわゆる商業主義とは無縁で、同じ社会主義国のソ連とは異なって、演奏活動に政治的な介入や圧力を受けることもなく、幸運なことに彼自身のピアニズムを追及できたらしい。
レーゼルの演奏を聴くと、過剰な装飾や思い込みの激しい解釈は感じさせない。超絶技巧を持ちながらも、外面的な派手さをアピールすることなく、堅実で高度なテクニックと揺るぎない構成感に透明感のある叙情性とが揃っている。
曲によっては、好みとは違うところがあっても、演奏の質は常に高いので、安心して聴けるピアニストの一人。

tag : レーゼル

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いぶし銀のような・・・
ペーター・レーゼルは確かに以前よりも知名度があがっていそうですね。地味ですが、素晴らしいピアニストだと思います。10月の来日の折に、ラドゥ・ルプーの代役でベートーヴェンの第4コンチェルトを演奏した時聴きましたが、オケとのバランスがいまいちだったものの、良いピアノでした。これからも追っかけてみたいピアニストのひとりです。
ルプーの代役がレーゼルとは豪華ですね
岡本様、こんにちは。
コメントありがとうございます。

急病のルプーに代わって、レーゼルが急遽代役を務めた話は有名ですね。あちこちのブログで話題になってました。
突然だったので準備万端というわけではなかったようですが、レーゼルのコンチェルトの実演は日本ではそう度々聴けないでしょうから、当日生で聴くことができてうらやましいですね。
それもベートーヴェンの第4番とは!この曲、とても好きな曲なのです。
最近レーゼルが若い頃に録音したテンペストを聴きましたが、これが素晴らしく良くて、ピアノ・ソナタ全集が完成するのが待ち遠しいです。

ルプーのブラームスとベートーヴェンが特に好きだったので、昔はCDでよく聴きました。
いつの頃からか録音しない主義になり、ライブ放送もなかなか許可しないらしいですから、実演でないと聴く機会はそうないですね。

また、お時間のある時にお立ち寄りくださいませ。
今後ともよろしくお願いいたします。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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