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『レーゼルの芸術 ピアノ協奏曲編』 ~ シューマン/ピアノ協奏曲
シューマンのピアノ協奏曲は、シューマンのピアノ作品の中では、一番よく聴いてきた曲。
ブラームスのコンチェルトほどに凄く好きというわけではないけれど、持っているCDは結構多い。もともと相性が悪い作曲家なので、このコンチェルトはいろいろ録音を聴いても、理想のイメージというものがもう一つよくわからないところがある。

持っているCDは、アラウ(スタジオ2、ライブ1)、カッチェン(スタジオ、ライブ)、ルプー、フライシャー、ポリーニ、ペライア、リヒテル、ツィメルマン、キーシン、グリモー、アンダ、レーゼル。まだ他にもあったかも。
その時々で好きだったピアニストのCDを集めていると、意識しなくても、この曲の録音は自然と集まってしまった。でも、ほとんどは1回か2回聴いただけで終っている。
少しずつ聴き直してみると、十人十色というのか、同じ曲でも随分違って聴こえてくるのが面白い。

これ以外に聴いたのは、CDでは持っていなくてYoutubeで見つけたリパッティの1950年のライブ録音。ハルくんさんのブログ<ハルくんの音楽日記>で紹介されていました。
重い病身のリパッティが最悪の体調で弾いていたらしく、それにしてはミスタッチも少なく、気迫に満ちたシューマン。
指揮者のアンセルメもオケの楽団員も、リパッティがこの曲を最後まで弾ききれるかどうか心配しながら演奏していたという。
リパッティの硬質なタッチで均整がとれた叙情の美しさと力強さが素晴らしく、全編に緊張感のような張り詰めた雰囲気が漂っている。
ピアニスティックで華やかな第3楽章終盤は、さすがに消耗してきたのか、打鍵ミスが増えてくるけれど、それでも力を振り絞って、渾身の力を込めて弾いているのが伝わってくる。
少しもテンポが落ちることなく、ひたすら前へ前へと進んでいく生気とダイナミズムは、ブザンソンの最後のリサイタルで弾いたバッハのパルティータのように、一度聴くとなかなか忘れられない。

Dinu Lipatti plays Schumann Concerto live in 1950 - 1st mvt part A


                               

いつもよく聴いているのはカッチェンのライブ録音。
ルプーのようにロマンティックに情感たっぷりに弾かれるのはあまり好きではないせいか、引き締まった叙情感とダイナミックな力強さの両方が味わえるので好みにぴったり。第3楽章は速いテンポで疾風怒涛のような勢い。
カッチェンのスタジオ録音も、同じようにロマンティックで力強いけれど、それよりもさらに勢いよくて、とても男性的なシューマン。
ベートーヴェンの第4コンチェルト同様、ライブになるとやっぱり気合が入りすぎるらしい。

レーゼルのシューマンも、カッチェンと方向性は違うけれど、とても好きなもの。
この曲に限らずレーゼルの録音を聴くとぴたっとくる曲が多くて、本当に相性が良い。
他のピアニストの演奏とはこれも一味違って、とてもレーゼルらしい演奏。
安定したテンポと隅ずみまで明瞭な打鍵、透明感のある音と粘りのない表現は、明晰で構造堅牢な安定感があって、シューマンを聴くときに感じる感情が浮き沈みするような不安定感を感じさせない。
弱音で弾くメロディアスな旋律は美しいけれど、情緒的な要素が音楽の中に昇華されたような、ウェットさのない爽やかな叙情感。第3楽章はピアノがよく鳴っていて、とてもシンフォニック。
精神世界が安定した人が書いた理性と感情のバランスが調和した堂々とした曲に聴こえる。

伴奏はマズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。
1980年ライプツィヒのパウル・ゲルハルト教会にて録音。カップリングは、《序奏とアレグロ・アパッショナートOp.92》、《序奏と協奏的アレグロ Op.134》
両方ともほとんど聴いたことがない曲で、感情の浮き沈みの激しさを強く感じる独奏曲よりも、協奏曲の方が聴きやすい。
《序奏とアレグロ・アパッショナート》はとても素敵な曲。序奏は優雅だけれど、アレグロに入るとドラマティックで技巧華やか。こういう構成はメンデルスゾーンの曲でよく見かけるし、旋律の動きとか雰囲気に似たところもある。ときどきシューマンの交響曲を聴いている気もするし、アレグロ部分で出てくる旋律は、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番第4楽章のララバイにほんの少し似ていたりと、いろいろ連想してしまう。
《序奏と協奏的アレグロ》は陰翳が濃くて、ちょっと重たい感じがする曲想。なぜか「赤とんぼ」の"夕焼け小焼けの~"のメロディが聴こえてくるのは気のせい?(調べてみると、これは有名な話だった)

Piano ConcertosPiano Concertos
(2006/10/24)
Peter Rosel,Kurt Masur,Leipzig Gewandhaus Orchestra

試聴リンク(allmusic.com)


第1楽章 Allegro Affetuoso
冒頭の哀感をおびた主題旋律を弾くピアノは、わりとロマンティックな雰囲気。
弱音の高音には透き通るような透明感があり、それ以外のところは、線のしっかりしたタッチで安定感があって、フォルテもそれほど強打することはないわりに、硬質のタッチで充実した響き。
ルバートやタメを強くはかけないさらっとしたタッチで弾いているので、感傷的なところはなくて、持ち前の透明感のある音色と相まって、淡い情感がさらさらと流れていくよう。感情が激しく移り変わるような不安定感は全く感じない。
曲の1/3くらいにさしかかって長調の緩徐部分に入ったところは、まるでのどかな田園風景を連想させるように穏やかな雰囲気。
直後に続く強奏部分は力強く、緩急・静動のコントラストのバランスもほど良い感じで、第1楽章に流れる叙情感がとても清々しくて。

第2楽章 Intermezzo. Andantino Grazioso
さほど遅くはないテンポで、静けさや瞑想性は薄く、わりとリズミカル。ピアノの音色が明るく温かで、雄大な自然の風景をイメージするような大らかさと開放感。

第3楽章 Allegro Vivace
第3楽章は、終盤へ向かってひたすら進んでいく流れが湧き出ている感じがするので、とても好きな雰囲気。まるで列車が目的地へ向かって疾走しているような感覚。
ピアノは力強く歯切れのよいタッチと安定したテンポ。弱音もそれほど音量を落とさずに、どの音もきらきらと明るく輝いていて、芯のある響きがとてもよく鳴っている。
張りのある伸びやかな音なので、アルペジオには重層感があるし、和音も厚みと膨らみがあって、全体的にかなりシンフォニックに聴こえる。
インテンポで全ての音をきっちり打鍵していくけれど、音のキレが良いので、どのパッセージもリズミカルに淀みなく流れて、テンポは安定しつつ推進力のあるピアノがとても爽快。
ポジティブな雰囲気に満ちた広がりのある堂々とした演奏で、3楽章の中ではこの楽章の演奏が一番良いのでは。
もともと第3楽章が一番好きだったけれど、シンフォニックな響きと、ロマン派というよりは古典派のコンチェルトのような安定した構成感があるので、こんなに立派な曲だったのかとすっかり見直しました。


<レーゼルのCDレビュー>
<シューマン:ピアノ協奏曲イ短調 CDレビュー II>[リブラリア・ムジカ]
"シンフォニックでスケールの大きな演奏を求める方にお薦め"というのは、全くその通り。

tag : シューマン レーゼル

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沢山持ってらっしゃるんですねえ~
yoshimiさん、こんにちは。
シューマンのピアノコンチェルト、すごい数ですね!
私はシューマンは好きですがあまり持ってなくて…
今調べてみたら、キーシンとアルゲリッチのだけでした。
ペライア辺り持っててもおかしくないのに、なんとノーチェック。
好きなピアニストのピアノソロのCDは買うようにしてるんですけど
コンチェルトは抜けてることが多いです。
でも先日読んで奥泉光さんの「シューマンの指」がとても面白くて
ピアノ協奏曲も出てたので聴きたくなってたところなんですよ。
私も色々聴いてみようっと!

本といえば、「グルダの真実」を読みましたよー。
一人称が「俺」の文章に最初戸惑いましたが、それもじきに慣れて
内容的にはとても面白く読めました。
ブレンデルが可哀想な扱いをされてるのも可笑しかったです。
そんな言い方しなくても…!!
確かに「俺サマ」な人だからこれで合ってるのかもしれないですね。(笑)
なんだかものすごくグルダという人間が掴めた気がします。
ご紹介、ありがとうございました♪
やっぱり名曲でした
アリアさん、こんにちは。

この曲、ピアニストのレパートリーの定番なので、グリーグとカップリングされたCDがよく出てますね。(なので、グリーグも同じくらい持ってます)
意図して収集したわけではないのに、改めて数えたら、我ながら多いな~と。大好きなブラームス、ベートーヴェンと良い勝負です。
同じような演奏が多かったイメージがあったのですが、聴き直してみたら、かなり違いました。この曲の決定盤はなかったような気がしますが(あるのかな?)、いろいろ聴くと違いがよくわかって面白い曲です。
音質は悪いけど、最近Youtubeで聴いたリパッティのライブ録音、これはとても良かったです。カッチェン、レーゼルと同じくらい(かそれ以上に)にマイベストかも。

「グルダの真実」、面白いでしょう!
ブレンデルは、この本が出た頃には、かなり世評が高くなっていたはずなんですけどね~。
私は、グルダよりもブレンデルのベートーヴェンの方が好きですし、最近ブレンデルのハイドンを聴いて、やっぱりブレンデルは凄いと思いました。
グルダは音楽院時代からいつも自分が一番だったので、そのイメージが記憶に刷り込まれているんでしょう。

グルダが醒めた人だと思ったのは、この本を読んでから。
クラシック業界に対してシニカルですし、若い頃と音楽の作り方が変わったのは、クラシック音楽の限界を感じてジャズの世界へ足を踏み入れた頃からではないかという気がします。
アルゲリッチとも仲がとっても良いですね。
天才肌のアルゲリッチの方がグルダよりも自由気ままで、練習しないアルゲリッチにグルダが結構てこずっていたのが面白いです。
リパッティのシューマン
私もシューマンってあまりピンとこないのに協奏曲だけは大好きなんです。
中でもリパッティの演奏は私の大のお気に入りです。
ぺライアの演奏も好きだったのですが、リパッティの方がずっと内なるものから込み上げてくるものがあって、録音は良くないのに、ものすごく感動しました。(とくに3楽章)
記事で取り上げてあったので嬉しく思いました。

前回のハイドンのバリエーションも思い出深い曲です。
大学生の頃に先生から課題で出された時は、どうしてこんな曲と思ったもので、その後弾いてみることもなかったのですが、3年ほど前、スコダの演奏会でこの曲を聴いたら・・・、
何とエレガントな曲だったのだろうと、改めて感激。
また弾いてみようと思ってます。
リパッティ、ライブ録音の方が良いですね
マダムコミキ様、こんにちは。

リパッティのシューマン、昔から名盤として有名ですね。でも、カラヤン盤の方を聴いている人が多そうです。
クラシックをかなり聴き込んでいらっしゃる方からライブ録音の方を勧められることが多くて、聴いてみるとやはり凄いものでした。
カッチェンとレーゼルが私の定番ですが、それにリパッティが加わってしまいました。

ハイドンの変奏曲は、ハイドン専門のブロガーの方に教えてもらった曲なので、聴くのは初めて。ベートーヴェンぽいところがあって気に入りました。
ハイドンは後期の曲と短調の曲が私の好みに合うようです。
スコダの演奏だと、ウィーン風で優雅な感じですね。
それと対極にあるのがプレトニョフ。あまりの元気さに、この曲をこういう風に弾く人がいるんだなあと面白く思えますが、好みは分かれます。
私はサインをもらってきました
2008年からペーター・レーゼルのベートーヴェンツィクルスも始まり、今年が最後です。今まで聴きに行き、大変素晴らしい演奏でした。CDも買っていまして、このシューマンにはサインもいただきました。
ベートーヴェンはゲルハルト・オピッツのものと聴き比べています。どちらも大変素晴らしいもので、ぜひ、お買い求めいただきますよう、お勧めいたします。
ベートーヴェンツィクルスは10月1,12日、紀尾井ホールです。
レーゼル、素晴らしく良いですね
畑山千恵子様、こんにちは。

コメントありがとうございます。
よく音楽ブログでコメントされているのをお見かけしております。レーゼルとオピッツが大変お好きなようですね。
レーゼルは最近いろいろ聴き始めて、私も大変好きなピアニストになりました。現役ピアニストのうちで、一番好きかもしれません。
ソロ・協奏曲は、Berlin ClassicsのBOXセットを買って全曲聴きましたが、とりわけベートーヴェン、ブラームス、ブゾーニ、プロコフィエフが素晴らしく思います。
室内楽曲ならシューマンのピアノ五重奏曲も良いですね。

今進行中のベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音も、まとまった全集版が出たら買おうと思っていたのですが、VOL.5と6は選曲が良いので近々買うつもりです。
今年、残り2巻がリリース予定になっていますが、待ち遠しいですし、早く全集版を出して欲しいものです。
レーゼルのリサイタルは、東京でしか開催されませんね。大阪在住なので、関西で公演があれば行くのですけど...。

オピッツをお勧めいただきましたが、ベートーヴェンとブラームスはすでに何曲か聴きました。
あいにく、ディナーミクのつけ方とか、フォルテのタッチとかが全然好みとは合いませんでした。
オピッツはサン=サーンスのヴァイオリンソナタとブゾーニのシャコンヌも聴きましたが、シャコンヌの方はなぜか好きですね。
私のベスト盤は、昔からベートーヴェンはアラウ(レーゼルも同じくらいに良いです)、ブラームスはカッチェンなのです。これはやっぱり不動です。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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