ハイドン ~ 短調のピアノ・ソナタ(3) Hob.XVI:32 

2011, 02. 25 (Fri) 18:00

ハイドンの短調のピアノ・ソナタのなかで、最も好きな曲が第47番ロ短調Hob.XVI:32。
ハイドンにしては珍しい調性のロ短調。
録音で聴いたのは、ブレンデル、オルベルツ、リヒテル、ヤンドー、ガヴリリュク。今回は、このうちブレンデル、オルベルツ、ガヴリリュクの印象について。

第1楽章 (Allegro) Moderato
冒頭の旋律は、装飾音が入って、凛とした強さが漂う美しい短調の旋律。
この楽章はこのトーンで続くのかなと思ったら、その後で長調の旋律が現れて、かなり明るめ雰囲気に。
短調と長調が頻繁に交代し、短いフレーズの中でも入り混じり、明暗が激しく交錯する。

オルベルツは少しノンレガートを交えているけれど、テンポは遅めで打鍵するタッチまったり、最初の方に出てくるフォルテの和音はかなり弱くて鍵盤を押し込むようなタッチ。
全体的に緩々した感じがして、私のテンポ感覚とはかなり違う。
テンポが遅い分、旋律がくっきり浮かびあがるのは面白いところ。弱音で弾くパッセージの響きが美しさが強調され、語りかけるような親密感が強くなっている。

ブレンデルは粒立ちの良い線の細めの音で、優美で軽やか。
装飾音の弾き方が多彩でニュアンスも豊か。装飾音の違いを注意して聴くと、それだけでもかなり面白い。
細かい起伏やアクセントもかなりつけて、いつもながら凝ったアーティキュレーション。

ガヴリリュクは、やや硬質なタッチで輪郭がくっきりしたコロコロと丸みのある音で、背筋をぴんと伸ばしたようなきりりとした雰囲気。
歯切れのよいタッチでフォルテのアクセントがよく利いて、刻むようなリズム感が気持ち良い。
弱音は微妙なニュアンスがあって多彩だけれど、華美な煌きはなく、神経質的な繊細さと粘り気もないので、自然な趣きがあって流れが淀みない。
ブレンデルの凝った演奏を聴いていると、少し息が詰まるところがあるので、こういう飾りの少ないすっきりした演奏が爽やかで新鮮に聴こえる。

Alexander Gavrylyuk - Haydn sonata No. 47 in B minor



第2楽章 Andante con moto
ゆったりとしたテンポで、穏やかで優しげな主題に変わり、左手は主に和音伴奏、右手は単音だけで構成した旋律。
右手のトリルがわりと多く、小鳥が柔らかくさえずるような感じ。
リズムが工夫されていて、右手と左手が半拍ずれて入るせいか、旋律自体はシンプルでも全然単調さを感じない。
トリオは短調に転調し動きも出て、雰囲気が変わる。ここは軽快なタッチで雰囲気を変えて弾く人が多いところ。

ブレンデルは、主題部分がかなり繊細な弱音の表現でとても優美な雰囲気。対照的にトリオはテンポが上がって、とても軽快。

オルベルツも柔らかい弱音で親密感が強いだろうと予想していたら、これが全然違って、一番軽やかなタッチ。
そよ風が流れるような開放感で明るく爽やか。中間部になるとブレンデル同様テンポが上がって軽快に。

ガヴリリュクは、主題部分は柔らかい弱音で表現はさりげなく、子守歌を聴いているような穏やかさ。
中間部は、ブレンデルとオルベルツとは正反対で、Andanteのテンポを変えずに、ゆるやかな重めのタッチでやや厳粛な雰囲気。
明暗の違いはあっても、音楽の流れが繋がっていて、この移り変わりがとてもスムース。

第3楽章 Allegro
同音連打のオスティナートとトリルが多用されて、冒頭主題は左右の旋律がカノン的な動き。この音型が繰り返し現れるので、記憶にしっかり定着してしまう。

ブレンデルは、主題部分はややゆったり目のテンポで(他の曲でも、急速楽章でテンポがあまり速くないことが時々ある)、タッチも鋭くはなく、ちょっと密やかな雰囲気。
リズミカルな躍動感といったものは薄めで、その代わりに、左右両手で呼応していく音型の動きがくっきり。響きも多彩。
細かいパッセージが続くところでは、タッチもシャープで軽やかになり、動きも速くして、少し躍動感が出ている。

オルベルツは、ガヴリリュクよりは少し遅いけれど、それでもかなり速いテンポ。スピード感はあるけれど、打鍵が強くシャープなので、同音連打がちょっと重たく、音も硬く感じる。

ガブリリュクは、かなりテンポが速くて、音の切れ良く一音一音が明瞭。超絶技巧の人なのでさすがに指回りは滅法良い。
目まぐるしく動き回る躍動感とスピード感が爽快。でも、ちょっとユーモラスな感じも。
これだけ速いテンポでも、単音の細かいパッセージから重音移動まで、タッチがきちんとコントロールされて、音も柔らかく軽やか。つい一本調子になりがちなところを、表情豊かに弾いている。
この第3楽章は、わりと端正で穏やかなタッチの第1楽章・第2楽章とはガラりと雰囲気を変えて、メリハリのある構成。

全楽章通して考えると、ブレンデルの第1楽章の演奏にはかなり魅かれるけれど、最も好みに合うのはガヴリリュク。解釈に奇抜さはないけれど、新鮮さや面白さがあるし、私にはとっても納得感がある。
第1楽章は粛々と端正、第2楽章は全体的な流れが一環してスムーズにつながり、第3楽章はタッチが良くコントロールされて、軽快でスピーディ。
全体的にアーティキュレーションやソノリティに強くこだわった感じがせず、過度な繊細さも極端なディナーミクもつけていないので、流れがなめらか。
独特の強い個性で聴かせるというタイプではないけれど、線がしっかりして飾りが少なく、端正で自然な趣きがあるところがとても気に入っている。

ガヴリリュクのプロフィール(2011年の演奏会用パンフより)
ガヴリリュクにまつわるエピソードはいくつかあるけれど、一番有名なのは、浜松国際コンクールで16歳で優勝した時に、審査委員長の中村紘子が激賞した「20世紀後半最高の16歳」というセリフ。

プロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番を聴くために買っておいたガヴリリュクのライブ録音のCD(DVDも出ている)。
若手ピアニストのライブ録音を買うことは滅多にないけれど、いくつかのサイトのレビューがかなり良かったので。
レビューどおり、ハイドンだけでなく、ブラームスのパガニーニ変奏曲、プロコフィエフの第6番ソナタ、それに珍しいメンデルスゾーンの結婚行進曲のブゾーニ=ホロヴィッツ編がとても良くて、若手ピアニストのライブ録音では掘り出し物だった。

Live in RecitalLive in Recital
(2006/04/25)
Gavrylyunk

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4 Comments

マダムコミキ  

NoTitle

yoshimiさま、こんばんは♪
ガブリリュクは若手の中で、とても気に入っているピアニストです。古典も上手だと思ってましたので、ハイドンも良いですね。
私はシューベルトの13番をライブで聴いてとてもよかったのを覚えています。
ところで、コメントでアンデルジェフスキの演奏会が話題になってましたね。
yoshimiさんのお薦めピアニストなので、リサイタルに行ってきます。
とても楽しみです。

2011/02/25 (Fri) 22:04 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

ガヴリリュク、ご存知だったんですね

マダムコミキ様、こんにちは。

ガブリリュクは、今までレコーディングしたレーベルがマイナーなので、実力のわりにはあまり知られていないように思いますが、このライブ録音はいいですね。
ハイドンは異聴盤と聴き比べると、ガヴリリュクの良さがよくわかりました。
CDの収録曲のなかでは、プロコフィエフの第6ソナタの演奏が、若々しくイキがよくて一番好きですが、ブラームスもかなり切れ味が良いと思いました。

アンデルジェフスキのリサイタルに行かれるなんて、いいですね~。
当日のプログラムは、ここ数年リサイタルでよく弾いている曲ばかりですから、好みに合うかどうかは別として、演奏は期待できると思います。
協奏曲よりもソロの方が彼の真価がよくわかるでしょうし、得意のバッハ、それもイギリス組曲が2曲も入っているのは、彼のプログラムとしてはかなり珍しいですね。

2011/02/25 (Fri) 22:55 | EDIT | REPLY |   

さすらい人  

リヒテルの演奏

この曲、以前「十字架上の7つの言葉」の後で聴いたせいか、ハイドンには珍しく悲劇的なパトスのみなぎった作品と感じました!今も強く印象に残っています。

2011/03/01 (Tue) 06:05 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

ハイドンの短調のソナタ

さすらい人様、こんにちは。

ハイドンは短調の作品が少ないですし、短調でも優美なものが多いようです。
リヒテルのシャープなタッチの演奏だと、悲劇的な雰囲気が強くなりますね。
同じく短調のピアノ・ソナタHob.XVI:20も、疾風怒濤的な雰囲気があって、初期のベートーヴェンを連想させるところがあります。

2011/03/01 (Tue) 10:39 | EDIT | REPLY |   

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