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ハイドン ~ 短調のピアノ・ソナタ(1) Hob.XVI:34
ハイドンのピアノ・ソナタは60曲あまり。作品リストを見てすぐに気がつくのは、長調の曲が多いこと。数えてみたら、短調の曲は10曲ほど。
どの作曲家でも短調の方が好きな曲が多いし、長調の曲が多いモーツァルトで聴くのはほとんどが短調の曲。
ハイドンのピアノ・ソナタのイメージは”長調”。子供の時に練習したのがほとんど長調の曲だったからで(短調の曲もあったけど)、これがハイドンと疎遠だった原因の一つに違いない。

短調の曲で有名なピアノ・ソナタは、Hob.XVI:20、32、34の3曲。
ハイドンのピアノ・ソナタを抜粋したアルバムには、たいていこの3曲のどれかが収録されている。
Hob.XVI:44もたまに録音がある。
Hob.XVI:47his,2a,2eは録音が少なく、全集盤でも録音されていないこともある。
ピアノ・ソナタ以外でも、短調の曲が同じように少なく、有名な《アンダンテと変奏曲ヘ短調 Hob.XVII:6》(別名は、ピアノ・ソナタヘ短調「ピッコロ・ディヴェルティメント - 変奏曲」)くらい。


ピアノソナタ第53番ホ短調 Hob.XVI:34
この曲はソナタ・アルバムに入っているので、知っている人も多いに違いない。
録音は多数。聴き比べてみるとピアニストによって、テンポ、タッチ、ディナーミク、ソノリティがかなり違う。
ベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタに比べると、シンプルなつくりなので、弾き方の違いがわかりやすい。昔から馴染んでいた曲なので、これだけ違いがあるととっても新鮮な感じ。

第1楽章 Presto 
ベートーヴェンの短調のピアノ・ソナタを連想されるような激しさがあるので、昔から好きな曲。
この曲を思い出そうとすると、調性は違っても同じ短調で、冒頭の音の動き方と雰囲気が少し似ている(気がする)せいか、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第19番ト短調第1楽章の主題の方が先に浮かんでくる。

やや不安げな旋律で始まる冒頭から弾き方がいろいろ。
バックハウスはPrestoという指示通り、速いテンポで直線的に切り込むような力強いタッチで、もうすぐ嵐がやってくるような不穏な雰囲気。
飾りが少なく、弱音の繊細な表現にふけることなく、質実剛健とでもいうか、まるでベートーヴェンを聴いているような気がする。
ヤンドーも似た路線だけれど、テンポが速すぎてせかせかした感じ。

Wilhlelm Backhaus plays Haydn Sonata in E minor

珍しくバックハウスが録音しているハイドンの作品は、ピアノ・ソナタが3曲(Hob.XⅥ:48,52,34)、幻想曲ハ長調Hob.XⅦ:4、アンダンテと変奏曲ヘ短調Hob.XⅦ:6。
私の持っているのは、ハイドンとバッハがカップリングされた盤(廃盤)。ソナタはXⅥ:34のみ。


オルベルツとコロリオフは、冒頭はやや弱音よりで始まり、密やかでちょっと不安げな雰囲気。
全体的に弱音で表現するところが多く、フォルテは強めと、強弱・緩急の対比が強くなり、音も綺麗で色彩感も豊か。
こういう弾き方がハイドンのピアノ・ソナタらしい気がする。
違うところは、コロリオフはテンポが速めで、シャープなタッチに透明感のある音。オルベンツはやや柔らかいタッチで音色が温か。

ブレンデルはちょっと変わった弾き方。フレーズ末尾でリタルダンドやディミヌエンドをかなり使っているので、テンポはそれほど遅くはないのに、不安が迫りくるような急迫感や、暗雲垂れ込めるような雰囲気は稀薄。
逆に、凝ったソノリティで色彩感が最も豊かな上に、旋律を美しく歌わせているので、とても優美な曲にさえ聴こえてくる。

Youtubeにあったエッシェンバッハ、チェルカスキー、シフの演奏を聴いてみると、チェルカスキー、シフはテンポやアーティキュレーションにかなり強いクセがあって、面白くはあるけれど、これってハイドン?という感じがしてくる。
エッシェンバッハは、3人の中では一番ハイドンを聴いている気はするけれど、強弱のコントラストが強く、極めて鋭角的な表現で、やっぱり個性的。

Andras Schiff- Haydn Piano Sonata Hob. XVI: 34 Presto (1)


Eschenbach plays Haydn Piano Sonata in E minor, Hob. XVI.34[complete]


第2楽章 Adagio
ハイドンの長調のアダージョを聴くと、音と音の間に”間(ま)”を感じるせいか、呟くような、語りかけるような、親密感を感じることが多い。
この曲も同じで、この感覚はモーツァルトやベートーヴェンの曲とはかなり違う。ベートーヴェンでも初期のピアノ・ソナタだと少し似た曲もあるけれど、もっと感情的な面が強い感じがする。

コロリオフの弾き方だと、その”間”が多くて、透明感のある音色と相まって、内省的な雰囲気を強い。
オルベルツは音色の温かさと柔らかいタッチで素朴な親密感が強くなるし、ブレンデルは音の色彩感が強いせいか、静けさのなかにも煌きがあって繊細で優美。
バックハウスは、やっぱりこの楽章でも速いテンポで、タッチは強めで、さらりとした叙情感。

第3楽章 vace molto
この楽章はあまり極端に違う演奏というのは少ない(と思う)けれど、それでもやっぱり違う。
バックハウスは、硬質のちょっと尖った音でリズムが軽快でも少し暗い翳りがさして、長調部分も相変わらずシャープなタッチ。
オルベルツはやや速いテンポと歯切れ良いタッチで、とても軽やか。音色も明るくすっきり。
ブレンデルも明るく軽快なタッチで、フォルテがやや強め。長調部分はほんの少しテンポを落としてタッチも重くして、落ち着いた雰囲気に。一本調子にならないように微妙な変化をつけていて、ブレンデルらしい緻密な構成だと思うところ。
コロリオフは遅めのテンポとマットな音色で、明るさと軽快さがかなり薄い。これはちょっと変わった弾き方かも。音がとても綺麗で澄みきった水のような透明感が清々しい。

昔はレコード(やCD)で聴いたことがないので、楽譜をみたイメージからバックハウスが弾いているような曲だと思っていた。(そのせいで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタをすぐに連想するのかも)
今になって録音をいろいろ聴くと、曲想と私の好みの両方を考えてぴったりくるのが、第1楽章と第2楽章はコロリオフ、第3楽章はブレンデル。
全楽章通しで考えるとちょっと悩ましい。第1楽章はブレンデルのテンポ感が、第3楽章はコロリオフの落ち着いたタッチが、それぞれイメージと違っているので。
それでも、この短いピアノ・ソナタでこれだけいろんな解釈があると、今まで気がつかなかったものが聴こえてくるところが面白い。


ブレンデルのハイドン作品集(4枚組)
Piano SonatasPiano Sonatas
(2009/01/05)
Alfred Brendel

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コロリオフの2枚目のハイドンアルバム
Piano SonatasPiano Sonatas
(2010/03/30)
Evgeni Koroliov

試聴する(米amazon)

tag : ハイドン ブレンデル バックハウス コロリオフ シフ

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短調のハイドンのソナタシリーズ、楽しみにしています
yoshimiさん、こんにちは。
XVI:34から取り上げるとは流石です。ブレンデルがアルバムの冒頭においたように、この曲には素晴らしい魅力がありますね。私はブレンデル盤が聴き応えがあると思いますが、実は一番好きな演奏はオルベルツです。短調の曲の情感を宝石のような美しい音色と軽いタッチで、美しいハイドンのソナタの枠の中で表現しているあたり、まさにハイドンの曲を弾きこなしているから出来ることでしょう。
私自身は同じ曲の演奏を多くの演奏者で比較するという聴き方が苦手です。yoshimiさんの記事を良く読むと奏者ごとの変化がわかってとても参考になります。
手元の所有盤リストではオルベルツの評価をちゃんとしたものにし損ねていましたので、慌てて直しました。昔は3段階評価だったんですが、5段階評価に変更したとき、なぜかオルベルツ盤のタグが検索に引っかからず直し損ねていたものです。
今回の記事が(1)ということで、(2)以降も楽しみにしています!
これだけ違いがあるのは意外でした
Daisy様、こんにちは。

XVI:20とXVI:32も好きなのですが、ソナタアルバムに入っているXVI:34と37が一番よく覚えている曲なので、何か書くにもすすっと進みます。
三つ子の魂....というわけではないんですが、子供の頃に覚えた曲は忘れないものですね。

オルベルツは他の曲もいくつか聴いていますが、柔らかいタッチで親密感が強く、古きよきウィーンの優雅な薫りのようなものがありますね。
ブレンデルの演奏は、楽譜をどう音に置き換えているのかという弾く側の興味を刺激するのではないかと思います。

全体的な方向性に加えて、部分的な弾き方の違いが気になるのは、ピアノのレッスンの名残りのようです。
いつもは好きな録音だけに集中して書くことが多いのですが、この曲は予想外に弾き方が違っていて、他のはどうなんだろうといろいろ聴いていたら、結局聴き比べ記事になってしまいました。

短調の曲は下書き済みなので、あと何曲か続きます。
次は40~50番台の曲にするか、アダージョ系でまとめるか、いろいろ考えているのですが、曲を聴きながら他のことを思いつくかもしれません。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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