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『レーゼルの芸術 ピアノ独奏曲編』 ~ ムソルグスキー /組曲「展覧会の絵」 (ピアノ独奏版)
ロマン派系のロシアものは不得手で、好きな曲が全然思いつかないぐらいに、体質的に全く合わない作曲家と曲がかなり多い。
それでも、名の知れたピアノ作品は一度は聴いておくことにしているので、このムソルグスキーの《展覧会の絵》も以前に録音をいくつか聴いたことがある。どうも大層ドラマティックで大仰な曲に聴こえて相性がかなり悪そうだった。
最近、この曲の<Kyushima's Home Page>さんのCD比較評を見ていて、レーゼルの録音の評価がとても良かったので、ちょっと興味を魅かれたところ。
1969年録音のプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番の2年後、1971年の録音。若い頃のレーゼルの演奏なら、この曲が違って聴こえるかも。

組曲系は曲想が曲ごとに違うし、いかにも標題音楽らしさのある曲なので、こういう時はイメージが湧きやすい作品解説を読むことに。
この曲はオーケストラが良く演奏しているし、小学校の音楽鑑賞で聴いた覚えがある。
管弦楽曲版はムソルグスキー自身の編曲ではなくて、ラヴェルやリムスキー=コルサコフの編曲だったと、初めて知ったし、ピアノが編曲版だったと思い込んでいたら、原曲がピアノ独奏曲の方だった。


レーゼルの録音は、Berlin Classicから、管弦楽曲版とピアノ独奏版が両方収録されている廉価盤が最近リリースされている。
ピアノ版のCDにカップリングされている小品(スケルツォ、子供の遊び、涙、古典様式による間奏曲、ゴパック)は曲想にバラエティがあって、たぶん珍しい録音。

Pictures at an ExhibitionPictures at an Exhibition
(2008/09/09)
Peter Rösel

試聴する(米amazon)[別盤にリンク]

レーゼルのソロ録音集BOXにも収録されている。

Works for PianoWorks for Piano
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴ファイルなし


ムソルグスキー : 組曲「展覧会の絵」 / Tableaux d'une exposition [ピティナの作品解説]

副題は<ヴィクトル・ガルトマンの思い出に>。39歳で早世した友人の画家ガルトマンの追悼展覧会へ行ったときの様子を音楽にしたもの。

プロムナード "Promenade"
冒頭の有名な主題は、ガルトマンの遺作展へ向かうムソルグスキーを表現したもの。
レーゼルの透明感のある音色とクリアで軽やかなタッチのプロムナードは、ゴテゴテした華やかさはなくて、清々しく爽やかな雰囲気。両手の和音の主題旋律は、フォルテでも弱音でも軽やか。
ここは、結構力を入れて華やかに弾く人が多かったような...。最初から以前聴いたイメージとはちょっと違っている。




No.1:小人 "Gnomus"
「グノームス」とは、こびとの姿をした「土の精」。
冒頭の低音域の両手ユニゾンの旋律は、不穏で不気味さが漂う。
かなり力感のあるタッチで、少しゆっくり目に重たく弾いていて、低音が良く利いている。
続く高音域の和音の旋律は、警告のような響き。
さらに、冒頭の両手ユニゾンを変形した旋律が何度もエコーし、その間に数種類のモチーフが織り込まれていき、全体的に緊張感が支配する。
終盤は、不吉さがひたひたと近づいてくるような左手低音のトレモロが入ってくる。

プロムナード "Promenade"
冒頭よりも、弱音で柔らかいタッチのプロムナードの旋律。
展覧会のなかを静かに歩きながら、絵を鑑賞するムソルグスキーの様子かな?

No.2:古城 "Il vecchio castello"
左手低音が通奏低音のように弱音でオスティナートする旋律の上を、右手が柔らかいタッチで弾く旋律は、静けさとレトロな雰囲気に満ちていて、とても綺麗。
レーゼルの澄んだ音色と柔らかい弱音と抑制のきいたさらりとした表現は、絵画の中で静かに佇む古城の雰囲気にぴったり。

プロムナード "Promenade"
冒頭よりも、華やかな音色と力強いタッチのプロムナード。
展覧会に人が続々とやってきて、にぎわっている様子なのかな?

No.3:テュイルリー, 遊んだあとの子供のけんか "Tuilleries - Dispute d'enfants apres jeux"
標題のイメージどおり、子供たちが楽しそうに遊んでいるような、軽やかで楽しげな旋律。左手が同じリズムをオスティナートする部分は動き回っている感じが出ている。
レーゼルはかなり優しいタッチの弱音で弾いていて、とても上品で可愛らしい感じ。
クレッシェンドしながら、続いて少し不安げな旋律が登場。でもけんかのようにも思えない。どちらかというと迷子にでもなった感じ。

No.4:ブイドロ(牛車) "Bydlo"
ポーランドの牛にひかれた荷馬車の音楽。
冒頭の4つの和音で弾く旋律は、音は違うだろうけれど、リストの《死の舞踏》の冒頭とそっくり(に聴こえる)。
全編左手の和音で刻むリズムと旋律が重苦しく、右手が叫ぶように苦しみを感情的に強く表していて、悲愴感が漂っている。最後はデクレッシェンドして静かに。
レーゼルのフォルテは、力を込めてバンバンと弾かずとも、低音は重く線も太く、どの音もよく鳴るので響きも厚い。こういう中味のつまった綺麗なフォルテを弾く人はとても好き。

プロムナード "Promenade"
いつもの旋律の途中から始まるプロムナードの旋律。
<ブイドロ>のライトの雰囲気をそのまま引きづったように、このプロムナードだけ短調で哀しげ。

No.5:卵の殻をつけたひなどりのバレエ "Ballet de poussins dans leurs coques"
バレエといっても、優雅というよりは、リズムの面白さとちょこまかとした動きを表現した細かいパッセージがとても軽妙。
弱音ペダルを踏んだ高音域で演奏されているので、可愛らしく軽やか。
「一瞬の風のように通り過ぎていく」と解説にあるように、小さな鳥達が隊列を組んで、足早に走り去っていくよう。

No.6:ザムエル・ゴルデンベルクとシュムイル No.6 "Samuel Goldenberg und Schmuyle"
タイトルは裕福なユダヤ人と貧しいユダヤ人の名前らしい。
2種類の違った主題は異なる階層のユダヤ人の象徴。
最初の旋律は短調のユニゾンで鋭いタッチ。やや芝居じみたような大仰で怪しげ。
2番目の旋律はリズミカルだけれどちょっと物寂しげ。
次に、2つの旋律が片手ずつ割り振られて、フォルテで一緒に演奏。まるで対立しているようなトーン。

プロムナード "Promenade"
一転して雰囲気が変わる。3番目のプロムナードと似ていて、速いテンポのフォルテで弾く華やかで高揚感溢れるプロムナード。

No.7:リモージュの市場 "Limoges, le marche"
冒頭は<卵の殻をつけたひなどりのバレエ>の旋律と少し似ている気はするけれど、ずっと活気があって、音量も大きい。
ほとんど、重音の同音連打が音を変えてリズミカルに続くので、まるで運動会のように走り回っている感じ。
中音域から高音域が多いので、重音が延々続いても、とても軽快で陽気な雰囲気。

No.8:タコンブ-ローマ時代の墓 "Catacombae - Sepulcrum romanum"
カタコンブは地下に掘られた共同墓地。
長いインターバルで、厚みのある和音がジャーンとフォルテで打ち鳴らされ、和音の間には、弱音で別の和音がいくつか挟まれて、静寂で厳粛な雰囲気。

No.8:死者の言葉をもって死者とともに "Con mortuis in lingua mortua"
<カタコンブ>からアタッカで続き、右手高音のトレモロの響きがやや神秘的で、左手は弱音の低音で厳粛で不安げな響き。
初めは短調で、やがて長調に転調して、清明な雰囲気で終る。

No.9:鶏の足の上に建っている小屋 "La cabane sur des pattes de poule"
<バーバ・ヤーガ>というタイトルが有名。
バーバ・ヤーガとは、解説によると「森の中に住み、人をつかまえ手はその肉を食する痩せた妖婆のことで、鉄製の臼に乗り、杵で漕いで箒でその軌跡を消しながら進む」。
冒頭からフォルテの和音がかなり不穏な雰囲気。
続いて速いテンポで和音による伴奏と旋律が続き、左手低音の和音が杭を打ち込むように力強く響き、右手は目まぐるしく駆け回って、まるで戦闘でもしている雰囲気。
中間部は、音を変えて弱音で同音連打するオスティナートする伴奏を背景に、静かな動きの旋律が流れ、物陰に隠れて様子を覗っているのか、それとも森の中で目に見えない敵を探し回っているようなイメージ。
再び冒頭主題が現れて、終盤にリタルダンドしてそのままフィナーレへ。

No.10:キエフの大きな門 "La grande porte de Kiev"
<バーバ・ヤガー>からアタッカで続く。
プロムナードの旋律が一部使われて、華やかで重厚な響きの重音が多様され、フィナーレらしい堂々とした楽章。
弱音で弾く部分をいくつか挟みながら、フォルテの部分はオクターブやユニゾンによる華麗なスケールや、和音主体の旋律と伴奏などが使われ、登場するたびに華やかで明るく輝き、壮大な雰囲気のエンディング。


レーゼルの演奏は、情念過剰気味の濃厚なロマンティシズムや大仰な表現の白熱感とは無縁。
テンポを揺らすことなく安定し、弱音から重音を多様するフォルテまで、一音一音を明瞭に打鍵していくので、堅牢・緻密な構築性と明晰さを感じさせるもの。
外面的な煌びやかさやドラマティクな迫力というものはないけれど、ずしっと重みのある低音から軽やかな響きの弱音まで、曲想に応じてタッチも変わり、響きも多彩でクリアな色彩感が美しい。
それぞれの曲の性格づけも明確で、濃厚ではないけれど、叙情感も豊か。過剰な装飾のない均整のとれた表現で、曲の構成や曲ごとの性格もよくわかる。
以前はこの曲に芝居じみた雰囲気を感じたけれど、静的な絵画の世界からファンタジーが薫ってくるような端正で格調のある曲に聴こえる。
ようやくこの曲を聴く回路が頭になかに出来上がったので、いろんなタイプの演奏が聴けるようになる。それにしても、レーゼルが弾く《展覧会の絵》が好き...という人はそんなに多くはないでしょう。

tag : ムソルグスキー レーゼル

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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