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ハイドン ~ 短調のピアノ・ソナタ(2) Hob.XVI:20
ピアノソナタ第33番ハ短調 Hob.XVI:20 [ピティナの作品解説]
1771年作のハ短調ソナタXVI:20は、ハイドン中期のSturm und Drang期の代表的な鍵盤楽器曲といわれる作品。
当時、チェンバロからフォルテピアノへ移行しつつあったため、フォルテピアノを想定したのか、自筆譜には初めて多くの強弱記号が記入されているという。
芹澤尚子さんの「J. ハイドンのクラヴィーア音楽 ─フォルテピアノとの関わりを中心に─」という論文で、楽器の変遷が作曲法に与えた影響について書かれている。
たしかブラウティハムやシュタイアーがフォルテピアノで録音していたはずなので、ピアノ演奏との違いを知るには良さそう。

ハ短調というと、ベートーヴェンでは「運命」、ピアノ協奏曲第3番、悲愴ソナタ、最後のピアノ・ソナタ第32番とか、劇的で力強い主題・曲想の曲が多い。
その感覚で聴いてみたら、冒頭から物哀しい雰囲気で始まりはするけれど、展開部では速いテンポの細かいパッセージが入って緊迫感と疾走感があったりする。
ベートーヴェンの短調ほどに強い感情的なものやドラマティックさは薄くはあっても、やはり長調の曲とは随分違った雰囲気。

XVI:20を全曲楽譜どおりに演奏すると30分近く。この時代でもかなり長大な曲なのかもしれない。
楽譜は10数頁しかないのに、全てのパートにリピート指示があるので、同じ旋律が繰り返されて、聴き慣れないとかなり長く感じる。
バッハだと、リピート時に装飾音を多用して変化をつけることもできるけれど、ハイドンの場合はそういう余地はほとんどない。
全てリピートするとあまりに長いので、スタジオ録音であっても、録音時間の関係か演奏効果を考えてか、リピートを一部(またはほとんど)省略して録音しているものをよく見かける。ブレンデルのスタジオ録音では全てリピートされている。リヒテルはリサイタルでも全部リピート。
ベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタは、もともと短くはないのに、さらにリピートがかかっていることが多くて、なんでこんなに長いんだろうといつも思っていたら、その理由がよくわかって疑問が解決。


第1楽章 Moderate
長調に転調するところがこの楽章ではかなり少なくて、明暗ではなく緩急のコントラストが主体。
冒頭の主題旋律がとてももの淋しげであまりに印象的。
展開部に入ってしばらくすると、細かいパッセージのスケールやアルペジオが多用されて、動きが激しくなり、ときに左手低音部を利かせたシンフォニックな響きも入ってくる。
展開部にはいっても、冒頭主題を織り込んだ部分が多いせいか、急速部分の力強さよりも冒頭主題の旋律と雰囲気が印象が強く残る。

リヒテルは、第1楽章冒頭はブレンデルよりも遅いテンポで、タッチも粘着的でまったりと弾いているので、内省的な雰囲気が強め。24小節目のAdajoのリタルダンドはかなりテンポを落として、たっぷり時間をかけて弾いている。対照的に長調部分や展開部の急速部分はかなり切れ良いタッチ。

SVIATOSLAV RICHTER Haydn - Piano Sonata No.33 Hob.XVI:20 I. Allegro moderato



ブレンデルは、リヒテルと比べると、全体的にやや速めのテンポで、音がシャープでタッチも軽やか。それほど物悲しさは強くなく、それよりも優美な雰囲気が漂う。24小節目のAdajoのリタルダンドはややあっさり。
長調部分や急速部分はタッチも鋭く、リズミカルで軽快。長調部分は色調がかなり明るくなって、強弱のコントラストが強く、タッチの変化がいつもながら多彩で色彩感豊か。

オルベルツは、リヒテルとブレンデルの中間のような弾き方。タッチはやや重めで柔らかい響きで、哀感はそれほど強くなく、色調は明るい。24小節目のAdajoのリタルダンドはリヒテルと同じようにゆったり。
フォルテは強めで強弱のコントラストは明確。ブレンデルよりは線が太めで力感もやや強い。弱音部分の親密感が強めで、優美な雰囲気。

第2楽章 Andante Con Moto
全体的に弱音域のゆったりテンポで、とても穏やかで優雅な雰囲気の長調。
時々挟まれる息の長いトリルは小鳥が囀るように愛らしい響き。
左右の拍子の入りをずらした(縦の線をずらした)シンコペーション的な動きが特徴的。これがスローモーションのようなカスケードに聴こえてきて、とても面白い。
ときどきバッハの緩徐楽章に出てくる旋律や和声に似ている気がする。

リヒテルはテンポが速めで、かなりさらりと弾いていて、軽やかで開放感が強い。
ブレンデルは、逆にリヒテルよりも遅いテンポで落ち着いた雰囲気で、旋律をじっくり歌っている。トリルの響きがとても綺麗。
オルベルツは、リヒテルとブレンデルの中間のようなタッチで、テンポはやや速めで、明るさと開放感に加えて、優美な雰囲気も感じさせる。最後の方はまるで夢見るような柔らかな響きでとても優しげ。

Walter Olbertz Joseph Haydn - Piano Sonata in C-minor, Hob XVI:20 (2/2)



第3楽章 Allegro
速いテンポで力強さのあるフィナーレ。
やや哀感のある冒頭主題は、すぐに長調の第2主題に変わってしまい、全体的に短調ながらも明るい色調で、フィナーレらしい躍動感。
展開部分は、冒頭主題が長調に転調して顔を出し、長調だった旋律が短調に転調したりするし、さらに、右手が三度で分散的に段階的に上行するパッセージが続いたら、次は分散和音で徐々に下行していったりと、鍵盤上を行きつ戻りつし、明暗が絶えず交錯している。

リヒテルは、第1楽章の哀感を払拭するように、歯切れの良い(リヒテルらしい、切るように鋭い)タッチと速いテンポで、フィナーレらしい力強さと推進力のある弾き方。
オルベルツは方向性はリヒテルと同じ。リヒテルほどタッチがきつくないので、響きがまろやかで多彩。力強さにも尖ったところがないほど良い感じ。色調も明るく開放感があって晴れやか。

ブレンデルは、リヒテルとオルベルツとは対照的。曲想と構成から一般的に期待するところの逆を行くようなところが面白く感じる。
テンポは上がっているけれど、どこかしら第1楽章に引きづられたように、冒頭主題を弱音で密やかに弾いていて、少し不安げな雰囲気。
長調部分も柔らかいタッチと抑えた音量で、穏やかでくすんだような明るさ。なぜか長調の方が明るさのなかに哀しげな雰囲気が漂っている。
展開部分も、最初の方は軽快に始まるけれど、同じように抑えた抑えたトーンで陰翳が濃くなり、明暗が交錯して浮き沈みつつも、つねに下へ沈み込んでいきそう。フィナーレらしい力強さや開放感はなく憂いに満ちた雰囲気で、第1楽章の方が明るく感じるくらい。

Brendel plays Haydn Sonata No.33, Hob. XVI 20 - 3. Finale (Allegro)




曲想が曲想だけに極端な違いはないのでは..思っていたけれど、やっぱり随分違っていた。
違いをかなり感じる第1楽章と第3楽章を考えると、リヒテルとオルベルツは、方向性としてはオーソドックスな行き方ではないかと思える演奏。
リヒテルの方が楽章間の性格の違いを明確に出し、フォルテ部分は鋭く切れるタッチで力感もあり、ちょっとベートーヴェン風な趣きがあるかも。
オルベルツは、リヒテルような尖った鋭さのあるタッチではないので響きもまろやか。リヒテルよりはやや穏やかで自然な趣き。一番ハイドンらしい演奏なのかもしれない。
ブレンデルは楽章ごとの性格づけに面白いところがあって、第1楽章と第3楽章は、構成上普通に期待する方向とは逆のパターンになっているんじゃないかと思えてくる。
特に第3楽章の解釈と表現はブレンデルならでは。弱音のタッチと響きが多彩で、全体的に抑えたトーンのなかで移り変わっていく表情がとても魅力的。

tag : ハイドン リヒテル ブレンデル

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

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