エレーヌ・グリモー/ワーナー・レコーディングスBOX 

2012, 04. 20 (Fri) 18:00

随分前に衝動買いしたのは、グリモーのワーナー録音集BOXセット。
グリモーのDG盤の《シャコンヌ》とブラームスの《2つのラプソディ》が、ルバートがたっぷりかかりベタベタ情緒的だったので、それ以来、新譜の試聴だけはしてもなかなかCDを買う気にはならない。
ワーナー時代の録音は、情緒過剰なところがまだしも薄めに思えるし、興味があったブラームスの後期ピアノ作品集とピアノ協奏曲が収録されていたので、珍しくも購入。

エレーヌ・グリモーの芸術~ワーナー・レコーディングス(6枚組)エレーヌ・グリモーの芸術~ワーナー・レコーディングス(6枚組)
(2008/01/01)
ベートーヴェン、 他

試聴する(英amazon)

このBOXセットが不親切なのは、録音年月と録音場所が記載されていないところ。廉価盤なのでブックレットがないのは理解できるとしても、最低限の録音情報くらいは書いておいて欲しいもの。


ブラームス(後期ピアノ作品集、ピアノ協奏曲第2番)

ピアノ協奏曲と後期ピアノ作品集が収録されているけれど、グリモー独特の響きに彩られている。
後期ピアノ作品は和声の響きが他のピアニストとはかなり違い、内声部もよく響いて、濃密でネットリまとわりつくような感覚。
"母性的な"雰囲気がするというか、男性ピアニストが弾いている感じはしない。

グリモーの音質は元々重くないので、力感・量感がやや弱い。それを響きの重層感でカバーしているので、華奢な感じは全くしない。
女性ピアニストにありがちな力を入れてバンバンと鍵盤を叩いてしまうところが無くて(ベートーヴェンでは違ったけれど)、しなやかでありつつ、しっかりした芯がある。
いくぶん情緒的なウェットさはあるけれど、このソノリティは他のピアニストでは聴いたことがない独特の美しさがある。

ブラームスのコンチェルトは楽章によって印象が違う。
第1楽章は、ブラームスはテンポを指定せずに、”Maestoso”とだけ楽譜には書かれている。
そのため、ピアニストによってテンポがかなり違ってくる。
グリモー&ザンデルリングは、テンポが非常に遅くて、緩急のメリハリも弱い。
重音が連続すると、テンポが遅いために、余計にピアノの切れが悪くて、重たい。
途中でテンポが速くなる強奏部分でも、あまりテンションが高くならずに、しなやかな雰囲気。
強奏部分では、テンポを上げて緩急のコントラストをつけた方が曲が引き締まって聴こえるだろうし、グリモーも弾きやすかったのではと思えてくる。
そういう部分では、ピアノが走ろうとしたけれど、オケ伴奏の遅いテンポのために走れず、和音のパッセージももたついた感じがする。

テンポが遅いのは良いとしても、メリハリが弱い演奏で長大な第1楽章を聴き続けるのは、かなり疲れるものがある。
この伴奏を”枯れた、老け込んだブラームス”という人もいて、確かに青年ブラームスらしい若々しさや瑞々しさはない気がする。
”Maestoso”であっても、青年ブラームスの激しい感情が横溢した疾風怒濤のような曲なので、重厚長大ではなく、パッショネイトなところが欲しくなる。
そういえば、定評のあるザンデルリンク&ベルリン交響楽団のブラームスは、ずいぶん遅いテンポでネットリとした響きがまとわりつくようで、ほんとうに黄昏ていた。
この響きがどうにも感覚的に合わなかったので、このコンチェルトの伴奏と相性が良くない理由の一つかも。

遅いことで有名な第1番の録音といえば、アラウ。
グリモーは、そのアラウと同じくらいの演奏時間をかけて第1楽章を弾いている。
アラウのEMI盤(ジュリーニ指揮)の場合は、曲想が変わってテンポを上げるところはかなり速くしているので、打鍵も切れ良くメリハリがよく付いている。

第2楽章はグリモーらしく叙情的。第3楽章はテンポも速くて軽快。第1楽章とは別人のように生き生きとした躍動感がある。


ブラームス以外
ラフマニノフは、テンポが速いところは、技巧的な切れが悪く、ちょっともたついた感じ。
音に力感があまりなく、指回りがもたっとした演奏はあまり好きではないので、たぶん聴き直すことはない気がする。

やたら元気なシューマンのピアノ協奏曲は、DG盤の方がはるかに叙情深くて、聴くならそっちの方。
ガーシュインのコンチェルトはジャジーな雰囲気も白熱感もないので、こういう弾き方もあるのかもしれないけれど、この曲自体を聴くのが目的なら他に良い録音がいくつもある。

ひそかに期待していたベートーヴェン。でも、私の好みとは全然違った演奏だった。
ピアノ協奏曲第4番では、ベートーヴェンは力強くあるべきだとでもグリモーは思ったのか、やや荒っぽいフォルテがバンバン響いていた。
粘り気のあるタッチで厚みのある響きが、やや濁り気味(ブラームスの響きを古典派で聴いているような感覚)、スケールのタッチもあまり洗練されているとはいえず、楽譜どおり音が並んで強弱もついているとはいえ、騒々しいベートーヴェンだった。
ベートーヴェンの後期ソナタ2曲も構成力が弱くて、とらえどころがないというか、曲が平板に流れていくような印象。
グリモーらしい厚みのある和声の響きで、しなやかなタッチと独特の叙情感が、面白いとは言えば面白いかもしれない。

youtubeでたまたま見つけた”Royal Albert Hall 2001”での第4番のライブ映像は、このスタジオ録音を比べると別人みたいに良くなっていた。昔のような気負いや力みがなくなっていて、やはり10年以上の年月がたつと、演奏スタイルも解釈も随分変わるものらしい。
この演奏なら、ソノリティもクリアで気品のある美しさがあり、何度聴いても大丈夫。

結局、グリモーファンでない私が、BOXセットの収録曲でまた聴いてもよいかも...と思えたのは、ブラームスのみ。BOXセットは内容がばらつき気味で外れることも多いので、このブラームスが聴けただけでも良かったのかもしれない。

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