2013_01
07
(Mon)18:00

カッチェン  ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 

年末年始になるとなぜか聴きたくなるのが、ベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第4番》と《合唱幻想曲》。
第4番のコンチェルトは、ずっと昔はアラウのPhilips盤のスタジオ録音(新盤の方)をよく聴いていた。
テンポが遅いことこの上ないけれど、静寂で聖母が微笑んでいるような包容力のあるピアノは、最晩年にさしかかったアラウでしか弾けない。
最近よく聴いているのが、ーンスタインの指揮によるアムネスティコンサートのライブ録音(1976年)で、アラウが73歳頃の演奏。
スタジオ録音よりもややテンポが速めで、技巧的な衰えもあまり感じないし、静けさと穏やかさを湛えた演奏がとても心地良い。
このライブは、CD以外にYoutubeのライブ映像で聴ける(見られる)のはとても貴重。

他の録音も数多く聴いてきたけれど、結局一番よく聴いてきたのは、アラウと並んでカッチェンのDECCA盤スタジオ録音。
彼のピアノ協奏曲や独奏曲のブラームス録音よりも、聴いている回数はずっと多いほどに、このベートーヴェンはとても気にいっている。
カッチェンの第4番の録音は、知っているだけで3種類。

1962年 ライブ録音(Doremi盤) (ヨッフム指揮バイエルン放送響)
1963年 スタジオ録音(DECCA盤)(ガンバ指揮ロンドン響)
1968年 ライブ映像[プラハの春音楽祭](DVDのレーベル不明)(ノイマン指揮プラハ響)


1962年 ガンバ指揮ロンドン響(DECCA盤/スタジオ録音)

Piano Concertos Choral Fantasy Diabelli VariationsPiano Concertos Choral Fantasy Diabelli Variations
(2007/05/15)
London Symphony Orchestra

試聴する(米amazon)

輸入盤の分売盤もある。国内盤のCDもあるけれど、ピアノの音が小さめなので、輸入盤の方を聴いている。

Piano soloのパート譜(IMSLP


DECCA盤のベートーヴェン録音は、カッチェンの代表的録音の一つ。
この録音のレビューでよく指摘される欠点といえば、テンポが加速すること。
もともと速めのテンポなのに、細かいパッセージで盛り上がっていくところになると、指が良く回ってテンポが走り、止まるに止まれぬ勢い。
その分、躍動感が強く、弱音部分との対比が鮮やかにはなっている。(そのパッセージが終わると、ちゃんと元のテンポに戻っている)

この”Rushing(突進する、急き込む)”するクセは、いろんな録音で聴き取れるので、若い頃からなかなかコントロールできなかったらしい。
それでも晩年の録音(といっても40歳くらい)のプロコフィエフやバルトークでは、年とともに自制できるようになったのか、カッチェンとの録音が多い指揮者のケルテスがテンポを上手くコントロールしていたのか、テンポが安定している。

テンポの点を除けば、第1楽章は弱音を基調に、カッチェン独特の強弱のバランス感覚が冴えて、明暗・静動のコントラストが鮮やか。
やや篭もり気味で丸みのあるコロコロと玉を転がすような弱音が独特で、弱音の醸しだす静寂な雰囲気がとても印象的。静かな微笑みを湛えた女王様のようなイメージ。
弱音で抑えた弾き方をしているので、フォルテに移るところは、直前のタメが良く利いて、力感と開放感が引き立ってくる。
その直後に弱音に変わると、さっきの勢いが一気に消え去り、何事もなかったように静けさが戻ってくる。

特に好きなフレーズは、”dolce e con espressione”が書き込まれている部分。(パート譜の9頁第2段。公出のライブ映像で言うなら、前半の7:14~)
トゥッティに入る直前、右手部分に装飾音記号が付けられた小節で、抑制した叙情感が切々と滲みでるような弾き方が素敵。感情を篭めてじりじりとにじり寄るように(とでも言おうか)弾くと、とても情感が強くなる。

カデンツァもテンポは速い。特にクライマックスの両手のアルペジオはアッチェレランドしていくので、そんなに速く弾かなくても..という気がしないでもないけれど、(情感たっぷりに弾かれるのも好きでないので)淀むことなく一気に走り抜けるスピード感は爽快。

テンポの速さやカデンツァでの力強さと勢いの良さはカッチェンらしいところではあっても、聴き終った時にはなぜか静寂さがとても印象に残る。

第2楽章は、カッチェンの弱音の陰翳と静寂さに加えて、沈み込んでいくような沈潜した雰囲気が全編に漂っている。
カッチェンの演奏の特徴の一つ”making time stand still"(時間を静止させる)する能力は、第1楽章だけでなく、こういう緩徐楽章に一番よく現れている。
第3楽章は快活に弾かれることが多いけれど、カッチェンの演奏は少し落ち着いたタッチ。
打鍵の切れ自体は良いけれど、威勢良く跳ね回ることなく、弱音で弾く旋律の柔らかい歌い回しにも品の良さがある。



1962年 ヨッフム指揮バイエルン放送響(doremi盤/ライブ録音)
録音状態がすこぶる悪く、歴史的資料としては貴重ではあっても鑑賞するには厳しい音質。
スタジオ録音よりもさらにテンポが速く、フォルテも強調されて、かなり騒々しい。

Live Performances: Beethoven/BLive Performances: Beethoven/B
(2010/09/14)
Katchen、Casals 他

試聴する




1968年 ノイマン指揮プラハ響(Youtubeのライブ映像)
カッチェンが何度か参加していた”プラハの春”音楽祭のライブ映像。
プラハ響を指揮しているのは、(少しだけ)若かりし頃の細身のノイマン。
この映像は放送用に録画したものらしく、全曲収録したDVDがあるようだけれど、かなり古いものなので市場には出回っていない。

Youtubeにあるのは第1楽章のライブ映像。doremi盤よりは音質的にまだしも聴きやすい。
それに、ピアノを弾いている姿を見ることができるのが何より良いところ。
指がよく回りすぎて困るんじゃないかと思うくらいに、いつのように速いテンポながらも、カッチェンにしてはテンポが安定していて、力感と透明感のある叙情感のバランスも良い。
(音質が悪いこともあって)スタジオ録音のような弱音の静けさや陰翳がやや薄いのかもしれないけれど、何度聴いてもスタジオ録音と同じくらいに聴き惚れてしまうので、全楽章聴くことができないのが本当に残念。

Katchen-Beethoven I (第1楽章前半)


Katchen-Beethoven II (第1楽章後半)


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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4 Comments

夜のガスパル  

シュタルケルの自伝の検索からこのサイトに来て、最近何件かの記事を拝見しております。
このサイトのおかげでカッチェンの演奏がとても好きになりました。これまで全くノーマークだったピアニストでした。気付かせてくださいまして有難うございます。
ブラームスの三重奏のCDは早速購入し愛聴しております。

2013/01/12 (Sat) 23:41 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

素敵なピアニストですね!

夜のガスパル様、はじめまして。
ご訪問とコメント、どうもありがとうございます。

図書館でシュタルケルの自伝を偶然見つけて読んでいましたら、カッチェンとの演奏に関する記述があるのを発見して、とても嬉しく思ったものです。
シュタルケルにとっても想い出に残るピアニストだったのでしょうね。

三重奏曲のカッチェンのピアノ伴奏は、スークとシュタルケルに寄り添うような柔らかさがあって、とても素敵です。
この曲集はスークトリオの録音も有名ですが、私が愛聴しているのはこのシュタルケルの録音です。

カッチェンの情報が少なく、忘れられていくにはあまりにも惜しくてブログに記事を書き始めたのですが、お役に立てて大変嬉しいです。

2013/01/12 (Sat) 23:52 | EDIT | REPLY |   

夜のガスパル  

yoshimi様、レス有難うございます。
私は中学高校の頃はまだLPを聴いておりました。ですので、yoshimi様は私より若い世代だと思います。にもかかわらず、カッチェンというピアニストを見つけられたことを素晴らしく思います。天才は若くしてあの世に行かれる人が多いですが、その一例かもしれないですね。
シュタルケル自伝は今読んでいるところですが、最近出会った一番面白い本ですね。
このブログ、雰囲気がとても良いですね。また拝見させていただきます。

2013/01/14 (Mon) 13:58 | REPLY |   

yoshimi  

カッチェンと出会ったのは...

夜のガスパル様、こんにちは。

小学生の頃に、「運命」&「未完成」のLPを買ったことがあります。同級生のお家がレコードショップだったので、カラヤンの録音を薦められましたね。
クラシックに嵌まったのが大学時代で、その頃はほとんどCD時代になっていました。

私がカッチェンのことを知ったのは、数年前にたまたま見つけたCDガイド(「クラシックは死なない」)に彼のDECCA録音シリーズの紹介記事です。直観的にとても魅かれるものを感じました。
ファン歴自体はとても浅いのですが、直観が当たっていたようで、思い入れは深く彼は一番好きなピアニストです。

音楽だけでなく芸術の世界では、天才的な才能を持ちながらも早世する人は多いですね。
そういえば、カッチェンの友人で作曲家のローレムが、”天賦の才能には高い代償を払わされる”という趣旨のことを書いていました。

音楽家の自伝は好きなので、ピアニストを中心にいろいろ読みましたが、ミケランジェリやリヒテルなど面白いものが多いですね。
シュタルケルの自伝は、カッチェンの部分以外は記憶が曖昧なので、読みなおそうと思ってます。

ブログは、個人的な記録&データベース的なものとして書いていますが、ご参考になることがあれば幸いです。
またお時間がおありの時にお立ち寄りくださいませ。

2013/01/14 (Mon) 18:31 | EDIT | REPLY |   

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