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レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 4 』 ~ ピアノ・ソナタ第14番「月光」 Op.27-2
このところ、ずっと聴いているのが、ペーター・レーゼルの 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 』のシリーズ。

レーゼルの演奏を初めて聴いたのが、Berlin Classicsのシューマンのピアノ五重奏曲。
安定した技巧と爽やかで明るい叙情感が素敵に思えて、ちょっと興味を魅かれたのでした。
最近、レーゼルのことを思い出して、ピアノ協奏曲全集を聴いてみたら、ドイツ風というか質実剛健で堅牢な構成と過剰な味付けのない表現が私の好みにぴったり。
カッチェンのピアノ協奏曲全集と同じくらいに気に入って、個人的ベスト盤。

同じくBerlin Classicsからリリースされているのが、レーゼルのベートーヴェンのピアノ・ソナタ集(第17,18,24,29番)。特にテンペストがアラウの旧盤と同じく良くて。
1980年代に録音したシャルプラッテンの国内盤の3大ソナタ(悲愴、月光、熱情)も、切れの良いテクニックと透明感のある音色が美しく、クールな叙情感がとても清々しい。
夾雑物のないピュアな趣きを感じさせる演奏で、こんなベートーヴェンを聴いたら、今のレーゼルが弾くベートーヴェンを聴きたくなってしまう。

レーゼルは2008年から4年間かけて、キングレコードにピアノ・ソナタ全集を録音しているところ。新日鉄文化財団とキングレコードとの共同プロジェクトらしい。
全8巻中、今はVol.6までリリース済み、日本の紀尾井ホールのリサイタルのライブ録音を収録したもので、一部セッション録音も入るらしい。
「プロジェクト発表時の記者会見」に関して

参考:Peter Rösel Homepage(英文)Peter Rösel: Short Biography (写真を数点掲載)

2008年から、毎年2つのプログラムのリサイタルを行っているので、ちょうど6回分が終了したところ。
今年が最後のシリーズリサイタルで、10月開催予定。12月くらいにライブ録音のCDがリリースされるのではと思うけれど。
全集盤も一緒にリリースしてほしいけれど、セールスの都合で分売盤が先行して、全集盤リリースはずっと後になるのかもしれない。
プログラムを見ると、最終回は第1・2・31・32番。リサイタルは東京でしか開催されないので(とっても残念)、ライブ録音を必ず手に入れなければ。

この全集録音のうち、リリース済みのVol.2~6の5枚は入手済み。
試聴しただけでピピっとくるものがあり、CDで全曲聴いてみると期待以上に素晴らしくて、すっかりはまってしまいました。
レーゼルのピアニズムの特徴というと、曲想にマッチしたほど良いテンポ感、粒立ちの良い滑らかなレガート、スケールとアルペジオのダイナミズム、暖かみをおびて尖ったところのない音色、過度に繊細になることない弱音、柔らかく透明感のある高音、強打せずに力強く充実した和音、微に細に穿つことも誇張することもなく過不足ない表現、というところでしょうか。
それに、ライブ録音の音質が良いので、木質感のある柔らかい響きと暖かみのある音色がとても心地良くて。

今まではアラウの旧盤がベスト。でも、一部の曲は新盤も良いけれど、もう一つ満足できない曲もいくつかあるし、もう一つ定番となる全集を探していたところ。
レーゼルの全集が揃えば、アラウと並ぶベスト盤になるのは間違いなく、もしかしたらそれ以上かも。これでベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の収集はとりあえず打ち止めにしても良いかと。
今までいろいろ集めてきたけれど、全集盤はアラウとレーゼルに加えて、ブレンデル(3度目の録音)とケンプがあれば、もう充分なくらい。

                                 

5枚集めたライブ録音は、どの曲の演奏も全く不満に思うところがないけれど、とりわけ聴き惚れてしまったのが、《月光ソナタ》。
この曲は、誰の演奏で聴いてもあまり好きになれなかったけれど、試聴してみたら、これは聴いてみなければ...と思ったもの。

2009年10月、東京・紀尾井ホールのリサイタルのライブ録音。カップリングは、第19番、第4番、第12番《葬送》
レーゼルは今65歳なので、これが最初で最後のピアノ・ソナタ全集になる可能性は高そう。
もし再録したとしても、技巧面がかなり落ちているだろうから、この全集がレーゼルにとってベストの録音になるのではないかと思う。

ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集4ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集4
(2009/12/09)
レーゼル(ペーター)

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緩徐楽章苦手の私としては、第1楽章はやっぱり眠たい。演奏云々というより、曲自体が好きでないので。
第2楽章は、ピアニッシモはやや柔らかいタッチと暖かい音色、フォルテは芯のある充実した響きで、優しさと強さがほどよくバランスして、明るく和やか。

第3楽章はバックハウス、グルダ、ギレリス、ゼルキン、アラウ、ポリーニ、ブレンデル、etc.と、名だたるピアニストのはほとんど聴いたけれど、どこかが物足りないか、過剰すぎるかで、ほとんど繰り返して聴いたことがない。

レーゼルが弾く第3楽章。これはすっかり目が醒めるくらいに素晴らしくて、気がつくとここ数日、この第3楽章だけもう数十回聴いている。
ライブ独特の生き生きとした躍動感やテンションの高さを感じさせる勢いと力強さで、滑らかな音楽の流れ、構造的な安定感、済んだ叙情感と緊張感が、私には理想的なバランス。

重みのある芯のしっかりした音が重厚ではあるけれど、切れの良い打鍵で、はじけるような弾力とスピード感があるので、力強く颯爽とした弾きぶり。
粒の揃ったパッセージには力感があり、鋼のように重厚な響きの和音、アルペジオでクレッシェンドする時の重層的な響き、左手の力強いタッチから立ち上がってくる低音部の安定感などは、若いころからのレーゼルらしいタッチ。左手の強拍の音がリズミカルに響いているのは、左手が強めに出るレーゼルらしい弾き方。

昔からメカニックの切れが良く、速いテンポで弾くところは変わっていないけれど、急速なパッセージでアッチェレランドしたり、弱音部ではリタルダントして、微妙なテンポの変化があり、和声の響きもタッチとペダリングの変化で、バリエーションがあって、全体的に一本調子にならず。
スケールとアルペジオは滑らかなレガート。粒の揃った粒立ちの良い打鍵で、勢いのあるダイナミズムが爽快。
波がうねるような滑らかな音楽の流れがとても気持ちよく、ライブ録音のせいか、とてもパッショネイトな高揚感を感じる。
ピアノの基本は、スケールとアルペジオ...と言ったのはバックハウスだったか誰だったか、よく覚えてはいないけれど、レーゼルのスケールとアルペジオを聴くと、基本的な奏法が本当にしっかりしている人なんだといつも思う。

レーゼルは1945年生まれ。このベートーヴェン全集の録音を開始した時にはもう63歳。
アラウが旧盤を録音したときよりも、少し年上だけれど、メカニック面はレーゼルの方が上だと思う。
若い頃とほとんど変わらない技巧の切れと安定感、透明感のあるソノリティに加えて、壮年期になって膨らみや奥行きを感じさせる表現が加わって、ほどよい叙情感。
細部の繊細さや凝ったソノリティに拘ることなく、技巧と表現が理想的なバランスで、過不足のないいわゆる”正攻法”と言いたくなるような堂々としたベートーヴェン。
何度聴いても惚れ惚れとする《月光ソナタ》の第3楽章でした。

tag : ベートーヴェン レーゼル

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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