レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 5 』 ~ ピアノ・ソナタ第22番 Op.54 

2011, 04. 12 (Tue) 11:00

ベートーヴェンのピアノ・ソナタは全部で32曲。
そのうち、有名なのは7大ソナタといわれる標題付きの曲(悲愴、月光、熱情、テンペスト、ワルトシュタイン、テレーゼ、告別)。
後期ピアノ・ソナタは、作風がかなり変わっていった時期の第28番~第32番。32曲のうち最大規模のハンマークラヴィーアは第29番。
ほかに標題の付いた曲といえば、第12番<葬送>、第15番<田園>、第18番<狩>。第4番は<グランドソナタ>、第13番は<幻想曲風ソナタ>とも言われる。
標題といっても、ベートーヴェン自身がつけたものは少ないけれど、さすがに定着している標題だけあって、曲のイメージに不思議とぴったり。

一般的によく聴かれているのが、7大ソナタと後期ソナタ。
他の標題曲は知名度が少し低くなって(<葬送>は有名だと思うけれど)、標題なしのピアノ・ソナタになると聴かずじまいの人も多いのではないかと。
ピアノを習ったことのある人なら、たしか第1,9,10,19,20番は、全音などのソナタ/ソナチネアルバムに収録されているので、有名曲ではなくても、知っている人は結構多いはず。

7大ソナタ&後期ソナタ以外の曲でも、聴いてみると素敵な曲が多い。
初期のソナタも、初めて聴いたときは、似たような曲想でリピートが多くて長いな~なんて思っていたけれど、1曲づつちゃんと聴けば、どの曲・楽章もそれぞれ個性があって、魅力的。
標題が付いていない一見地味めな曲でも、標題付きの曲と同じくらい好きな曲もできたし、全集のどの曲もそれぞれ個性的できらきらと煌きがあって、やっぱりベートーヴェンのピアノ・ソナタは良いなあと改めて思います。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタは楽章構成が数パターンあって、2楽章構成の曲は中期以降の作品になっている。(第19,20,22,24,27,32番)
そのなかで、第22番は《ワルトシュタイン》と《熱情》と大曲に挟まれている上に、2楽章で演奏時間も短い曲なので、ピアノ・ソナタ全集を持っていない人だと(持っている人でも)、あまり聴いたことがなさそう。

第22番は、一度聴いただけでとっても気に入った曲。
同じ2楽章構成の《テレーゼ》よりもはるかに好きで、短い曲なのにピアニストによってかなり違った弾き方をしているので、聴き比べるのがとても面白い曲です。

第22番は、レーゼルの『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集』のVol.5に収録。
2010年月10月1日~2日の東京・紀尾井ホールのリサイタルのライブ録音。カップリングは、第3番、第15番《田園》、第26番《告別》。
ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集5ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集5
(2010/12/22)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調 / Sonate für Klavier Nr.22 F-Dur Op.54[ピティナの作品解説]

パウル・バドゥーラ=スコダ著『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 演奏法と解釈』の作品解説がちょっと面白い。
第1楽章は、音楽学者ローゼンベルクが解釈していて、”おとぎ話の美女と野獣”を引用しているという。
ドイツでは、魔法にかかった竜とそれをやさしい心で救った少女の物語り..になる。
メヌエットは愛すべき少女の象徴で、だんだん装飾を施されてより豊かに愛らしくなる。
オクターブは竜の象徴で、荒れ狂った後に竜が疲れている様子が視覚的に。
最後は3連音符が2連音符になって、竜は王子に戻る、という展開を表現しているという。


第1楽章 Satz In tempo d'un Menuetto
右手側の主題旋律が装飾的に変化していくところがとても美しい曲。
レーゼルの冒頭の入り方は、ゆったりととても和やか。柔らかく伸びやかで暖かみのある響きがとても綺麗。
優美な第1主題とは対照的に、両手ともオクターブの和音で動く第2主題は力強いけれど、軽快。
再現部での第1主題の装飾的な旋律の動きが、少し変奏曲風で、とても流麗。
レーゼルの柔らかいタッチのシンコペーションのリズムやオスティナートが、まるで軽やかなステップでダンスをしているように優美。上行スケールもキラキラと煌きがあって、宝石の粒がコロコロと転がるよう。

第2楽章 Satz Allegretto
バドゥーラ=スコダの解説によると、あまり類例をみない転調の豊富さと斬新な和声で展開され、ベルリオーズ、リスト、ヴァーグナーのライトモチーフを先取りしているという。

ケンプとブレンデルの録音で聴いた時は、凝ったソノリティでハープのように重なる響きがとても綺麗でファンタスティック。
そのせいか、アンデルジェフスキの弾くシューマンのペダルピアノのための練習曲を連想した曲。

アラウやレーゼルの録音だと、和声の響かせ方がかなり違って、凝ったきらびやかな色彩感はないけれど、落ち着いたトーンでさりげなく。
それよりも、音型と音の動くパターンが面白く聴こえてきて、第12番《葬送》の第4楽章のようなリズミカルな運動性の方が強く感じる。
分散和音、シンコペーション、持続音など、音型・リズムのパターンが数種類。それが左右交代で現れたり、ユニゾンになったり、さらにffsfpもコロコロ交代して、その運動性がとても面白い。
それでも、主題旋律が優しく音楽的に聴こえるせいか、《葬送》よりもメカニカルな感じは薄め。
最後はPiu Allegro。ラストスパートのようにテンポが上がって、フォルテで堂々とエンディング。

レーゼルは速めのテンポと軽やかなタッチで流れるように滑らか。(アラウはコツコツしたタッチで、もっと素朴な趣き)
ffsfの力感・量感のある和音の響きもレーゼルらしい。
全体的に軽妙で諧謔、思わず笑みがこぼれおちるような軽やかさと明るさで、とても可愛らしい。
ベートーヴェンって、大曲の狭間になんて可愛らしくて素敵な曲を残してくれたのでしょう。


レーゼル『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 4 』~ピアノ・ソナタ第14番《月光》

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