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レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 4 』 ~ ピアノ・ソナタ第12番「葬送」 Op.26
《葬送行進曲》付きなら、ショパンのピアノ・ソナタ第2番第3楽章が有名。
私にとって《葬送行進曲》といえば、このベートヴェンのピアノ・ソナタ第12番をすぐに思い出す。
ショパンの《葬送行進曲》は、陰々滅々と暗い雰囲気がお葬式を連想させるので、どうも好きになれない。
ショパンのピアノ・ソナタ第2番も、<葬送行進曲>の後の終楽章は、ベートーヴェン同様トッカータ風。
ベートーヴェンとは全く違った曲想で、摩訶不思議で空間に拡散していくようで、中心が空洞のような曲。木枯らしがあたり一帯をヒューヒューと舞って、一瞬のうちに通り過ぎていくような気がする。


レーゼルのライブ録音は2009年10月の東京・紀尾井ホールのリサイタル。カップリングは、第19番、第4番、第12番《月光》。

ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集4ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集4
(2009/12/09)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調「葬送」/ Sonate für Klavier Nr.12 As-Dur Op.26[ピティナの解説]

今までのピアノ・ソナタとは違った楽章構成が特徴的で、第1楽章が変奏曲、第2楽章がスケルツォ、第3楽章が葬送行進曲、第4楽章がトッカータ風のフィナーレ。

第1楽章 Satz Andante con variazioni
ピアノ・ソナタで変奏曲楽章のある曲といえば、第30番(第3楽章)。第32番の第2楽章も切れ目なく変奏曲で展開されている。
ヴァイオリンソナタでも変奏曲楽章があるのが、第1番、第6番、第9番、第10番。
ベートーヴェンの変奏曲は、ブラームスとは違って、変形されていても主題旋律とのつながりがわかる明瞭さがあるので、展開がわかりやすい。

第1楽章は、主題と5つの変奏で構成。
主題の穏やかで清々しい旋律が格調高くてとても綺麗。
第1変奏は、主題の雰囲気をそのまま受け継いだようにアルペジオがとても優美。
第2変奏は曲想が一転。重音主体で左右のリズムをずらしているので、重音ばかりなのにとても軽快。
短調に転調して8分音符主体に変わった第3変奏は重音の響きが重々しい。
長調の第4変奏になると、どこかしら諧謔で軽やか。
第5変奏は両手の八分音符の三連符や分散和音がとても優美。

レーゼルは少し速めのテンポ。木質系の温かな響きが伸びやかで、レガートはとても柔らかくて綺麗で、さらりとした語り口が優しく和やか。
和音は重たくない切れ良く軽快なタッチ。しっかりと芯のある重みのある響きがよく鳴っていて、レーゼルらしい充実した響き。

第2楽章 Satz Scherzo and Trio: Allegro molto
この曲の中では一番好きな楽章。
冒頭の跳ね上げるように上行する三度のスケールが粋な感じがするし、続いてデクレッシェンドするオスティナート的な音型は、次のステップに向けて息を整えているような雰囲気。
次にくる主題とシンコペーションの伴奏的な旋律はとても颯爽としている。聴いていてとても爽快。

レーゼルは軽快なテンポで、打鍵は一音一音しっかり。丁寧なタッチで、力強く堂々としたスケルツォ。
mfで入る第2主題は、左手のオクターブのsfやリズムが力強くて、左手がよく響くレーゼルらしい弾き方。
レーゼルの弾き方も好きだけれど、意外なことに(?)レーゼルより颯爽としているのが旧盤のアラウ。

アラウにしては珍しく、レーゼルよりもずっと速いテンポをとり、アクセントをよく効かせたリズミカルでシャープなタッチ。いつものアラウとはちょっと違って、軽快なのに力強く切れ味の良いこと!
47小節目から始まる右手の旋律は、テンポは速いけれどやや力を抑えぎみのタッチで、ちょっとダンディな趣き。
壮年期のアラウらしい力強さと躍動感もあって、こういうアラウのベートーヴェンを聴くのは楽しい。

Arrau - Beethoven sonata no.12 op.26 (II) - Scherzo (Allegro molto)


第3楽章 Satz Marcia funebre sulla morte d'un eroe
有名な《葬送行進曲》。
短調なので悲愴感はあるけれど、鬱々とした重苦しさはなく、厳粛で格調のある高貴な雰囲気が漂い、英雄を葬送するような情景が浮かぶ。
レーゼルの弾き方も、遅いテンポやフォルティシモなどで悲愴感や重苦しさをことさら強調することはせず、インテンポでわりと淡々としたタッチなので、余計にそう感じる。

エンディングでは、なぜかムソルグスキーの「展覧会の絵」の<古城>を連想。
低音のオスティナートや和声の響き、静寂な雰囲気がよく似ているせい? 
<古城>もレーゼルの録音で聴いているので、音色やタッチに似たところがあるのかも。

第4楽章 Satz Allegro
トッカータ風のフィナーレ。
この楽章に関する注釈で、”クラマーのような練習曲”と書かれているものがいくつかあるらしい。
確かに指回りが良い人なら、メカニカルな細かなパッセージが続くので、練習曲風に聞こえる曲ではある。
ラストは、徐々に下行しつつデクレッシェンドしてピアニッシモで収束。肩から力が抜けていくような感じがちょっとユーモラスかも。

バドゥーラ=スコダの第2楽章の解釈では、表面的にはクラマーに似た響きがあっても、驚くほどの技術的な難しさを除けば、練習曲などではなくて、葬送行進曲に対するに自然で味わいのある反歌。
『アラウとの対話』のなかで、クラマーのように弾くピアニストが多いとアラウも言っている。
アラウはゆったりしたテンポで弾いている。なぜかというと、この終楽章は、”新たな世代の発生を表象”し、”死のあとに生命の流れの再出発”であって、できるだけ遅いテンポを保つことで、葬送行進曲と終楽章との脈絡に意味が生まれるという。

レーゼルは、アラウと正反対の速いテンポで、メカニックな正確さと打鍵の切れの良さでとても機動的。
といっても、練習曲風なメカニカルな感じはなく、低音がよく響いてリズミカルで、ダイナミックで生き生きとした雰囲気。
特に、43小節目から始まる右手の下行スケールと、左手オクターブの力強いシンコペーションのリズムの組み合わせがダイナミック。同じ音型でも、冒頭部よりも再現部の方がずっと力強いタッチ。

主題部や中間部でsf、f のスタッカートのオクターブが強調されて、少し荒々しい跳ね上がるように弾いている。レーゼルらしくない(?)気がしないでもなくて、ちょっと面白いタッチ。
速いテンポであっても、全然練習曲風にはならず、力感と躍動感は充分。ダイナミズムと推進力を感じさせる終楽章。

tag : ベートーヴェン レーゼル

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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