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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (5) ①Tailor-made Notched Music Training
2010年1月に公開された耳鳴りの新しい音楽療法に関する論文”Listening to tailor-made notched music reduces tinnitus loudness and tinnitus-related auditory cortex activity”について、多くのサイトで紹介されている。

論文全文(英文/PDF)

添付資料(音源説明および使用した3つの音源ファイル)
  Download Supporting Information (PDF)
  Movie S1. Example of target notched music (WMV)
  Movie S2. Example of placebo notched music (WMV)
  Movie S3. Example of original (non-modified) music (WMV)

この音声ファイル3つを聴き比べると、S1とS2は高音がカットされて全体的に低音が強くなっている。
・S1:被験者の耳鳴り周波数を中心にした1オクターブ分の周波数域を原曲の周波数スペクトラムから除去。
・S2:被験者の耳鳴り周波数域から外側で、1オクターブ分の周波数域をランダムに除去。
・S3:無加工版。S1、S2と違って、高音域がよく聴こえる。

日本語抄録(JST科学技術文献情報データベース)



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開発者のウェブサイト(Institute for Biomagnetism & Biosignalanalysis )
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The novel Tinnitus Treatment("tailor-made notched music training")の概要

この音楽療法の概要および研究の進捗状況を要約すると

<被験者>
 ・慢性耳鳴り患者(12ヶ月超)
 ・”tonal”な耳鳴り (例:ピーという音、ホイッスルのような音)
 ・重度の聴力損失がない(35dB未満)
 ・耳鳴り周波数が8KHz以下(使用したサウンドシミュレーターの限界値)[論文中に記載]
 ・比較的年齢が若い(18~55歳。平均年齢は約40歳代)

<新療法の目的と手法>
-音楽的トレーニングにより、耳鳴りの音量および不快さを低減させることを目的とする。
-患者は自分の好きな音楽を選択可能。
-個々人の症状に応じて、周波数スペクトルが変化するように音楽を修正・加工する。
-12ヶ月間に毎日1~2時間、カスタマイズした音楽を[所定のクローズド型ヘッドフォンで]聴くと、耳鳴りの音量を低減する神経生理学的プロセスが引き起こされる。

<未解決な点>
現時点では、この音楽的訓練が、被験者と異なる耳鳴り症状を持つ患者に対しても効果があるかどうかはわからない。
例えば、より高齢の患者、聴力損失のある患者、かなり高周波数の耳鳴りを持つ患者、noisiform[雑音型]耳鳴り患者など。

また、この新療法は耳鳴りを治癒するものではない。被験者の耳鳴りは、音量的に小さくはなったが、完全には消滅しなかった。


<フォローアップスタディの計画内容>
-さらに発展させた”tailor-made notched music training”の評価を行う。
-現在、短期・集中型バージョンのトレーニング法の確立を検討中。
-今後、高周波数域での聴力損失を持つ高齢を対象に、この手法を評価する。

<追記:フォローアップスタディの記事>
耳鳴り治療のための音響・音楽療法(5) ②Short and Intense Tailor-Made Notched Music Training


<今後の展望>
本手法を研究・開発したInstitute for Biomagnetism & Biosignalanalysis は医学研究組織であって、現在では限定した被験者に対してのみ、この手法を適応している。医療行為は許可されていない。
しかし、規模を拡大した臨床治験を通じて、新療法を多くの患者に提供するため、耳鼻咽喉部門との連携を模索中である。


Commercial plagiarisms(盗作ビジネス)
現時点で、この新療法は医療行為として実施されていない。
もし、この療法を売り込んできたサプライヤーを見つけた場合(インターネットなどで)、我々の持つ科学的経験・方法論・専門性に裏付けられたものではない。
また、サプライヤーが以下のことを明確に説明しているかどうか確認が必要。

○耳鳴り患者の条件
新療法は下記の限定された条件の耳鳴り患者に対してのみ、有効性が検証されている。
その条件に合致しない耳鳴り患者がこの新療法を行っても、今のところ肯定的な結果は得られていない。

 ・”tonal”な耳鳴り (例:ピーという音、ホイッスルのような音)
 ・聴力損失が35dB未満
 ・耳鳴りの周波数が安定し、8000Hzより低い
 ・年齢は18歳~55歳

○耳鳴り周波数を特定するための検査
絶対的に重要な点は、耳鳴り周波数を細心の注意をもって正確に特定することであるが、これは全く容易なことではない。
測定した耳鳴り周波数が間違っていれば、このトレーニングは無駄である。
検査には高周波用聴力計と防音室が必要で、聴力検査の専門技術者が行う必要がある。
検査は数回実施し(可能ならば日を変えて)、30~60分かけて行う。

○使用機器等について
音楽ファイルが、MP3ファイル形式などに圧縮されている場合は、効果が低下しかねない。
ヘッドフォンや音楽プレイヤーといった使用機器とその設定も非常に重要である。
ヘッドフォンの機種によって適合度が全く異なり、不適応な機器や誤った設定の場合、訓練しても無駄になる。

(以上は、ウェブサイトの要約)



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新音楽療法に関するレビューなど
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関連記事(英語サイト)
Notched Music Therapy May Diminish Tinnitus(MEDPAGE TODAY)(December 28, 2009)
Music therapy 'may help cut tinnitus noise levels'(BBC News)(29 December, 2009)



研究者が”Commercial plagiarisms”というページを設けているくらいに、便乗ビジネスが多いらしい。
少し検索してみると、セルフ・ヘルプサイトやYoutubeなどで、この療法を実践する方法が載っている。
神経学を応用した他の音楽療法は、複雑なアルゴリズムを使っているらしく、文献を読んでも使用する音楽の具体的なカスタマイズ方法がわからない。
それと違って、この療法は、”ローコストで簡単”というコンセプトどおり、音楽編集ソフトを使えば、音楽ファイルから特定の周波数帯を除去した”notched music”を作成すること自体は容易なので、個人的に実際に試した人もいる。(結果についてはわかりません)

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備考:”Tailor-made Notched Music Training”に関する正確な情報は、
     ウェブサイト・論文などで直接確認してください。
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以下は、個人的に関心のある点についてのメモ

(1)音楽の種類・パターンによって、効果の度合いが変わるのでは?
この療法の良い点は、自分の好きな音楽を使うため、精神的にプラスの効果も期待できること。
好きな曲といっても、あまり音が少なかったり、音域が狭い音楽だと、被験者の耳鳴り周波数周辺の音が少なくなり、除去する部分が少ないと効果が低くなりそうな気がする。

たとえば、8000Hzの耳鳴り周波数をもつ人が、音域が低く(低周波数の)音の数も少ないバッハの無伴奏チェロ組曲を聴くとすると、耳鳴り周波数付近の音は、管弦楽曲に比べてはるかに少なさそうに思える。
チェロは倍音が多い楽器とはいえ、基本音の音域はC1-G4と4オクターブで65.4Hz~659.3Hz。周波数スペクトルを見てみると、倍音は基本音から遠ざかるほど音量も低減していく。
逆に、耳鳴り周波数が低い場合は、音楽と耳鳴り周波数の重なりが多くなって、もともと音が少ないので、その周辺部分がごっそり除去されてしまうと、かなり聞きづらい音楽になるのでは?

クラシックは演奏のフォーマットが多種多様なので、個々人の耳鳴り周波数によって、効果の高さが曲によって違う気がする。
少なくとも、1つの楽器だけを使う器楽曲の独奏(と緩徐系の曲)よりも、オーケストラや室内楽曲など複数・多数の楽器を使って、音の数や周波数が広域にわたる曲の方が向いているように思える。
音楽のタイプの違いと効果に関して検証したデータは今のところ公表されていない。
同じ聴くなら効果が高い音楽を聴く方が治療期間(1年間)も短くてすむのでは?
ウェブサイトの情報では、治療期間を短縮したプログラムを開発中とのこと。

(2)Noisiform[雑音型]耳鳴り、音楽耳鳴りには適用できない?
今回の被験者は”tonal”型耳鳴りなので、比較的耳鳴り周波数が一定で安定している。
Noisiform[雑音型]やMusical[音楽型]耳鳴りの場合は、周波数が広い帯域で変動するので、原理的に考えて、この療法が適用できないように思える。
フォローアップ研究でも、Noisiform[雑音型]の耳鳴り患者に対して評価する予定はないらしい。
Musical[音楽型]耳鳴りについては、そもそもそういうタイプの耳鳴りがあること自体、全く言及していない。
それに、”tonal”型耳鳴りであっても、同時に数種類の耳鳴りが鳴っている場合、音楽から除去すべき周波帯域が増えるので、効果はどうなるのだろう?

(3)高周波数の耳鳴り患者にも適用できる?
今回の被験者は8000Hz以下の耳鳴り周波数に限定されていたが、これは使用機器の制約によるもの。
8,000KHz以上の高周波数の耳鳴り患者に対する効果については、今のところ研究データがない。

(4)高齢者の耳鳴り患者における効果は?
被験者は高齢者が少なかったので、高齢者に対する効果は未検証。フォローアップ研究では、高周波数の聴力損失のある高齢者に対する評価を実施予定とのこと。

(5)使用できるヘッドフォンは限られる?
”ヘッドフォンの機種によって適合度が全く異なり、不適応な機器や誤った設定の場合、訓練しても無駄になる”と説明されている。
この療法では、試験ではクローズド型ヘッドフォンを使っていて、それも機種が限定されるらしい。
スピーカーで聴くより、ヘッドフォンの方が音の細部がクリアに聴こえるというところは良いけれど、クローズド型のヘッドフォンは、長時間つけていると頭や耳が圧迫されてかなり負担がかかる。
オープン型やセミオープン型のヘッドフォンでは、効果が薄れるのだろうか?
ヘッドフォンの種類や、ヘッドフォンをつけない場合(スピーカー使用)の比較効果については、研究報告が記載されていないので、実際にどの程度効果の違いがあるのかがわからない。

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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