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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (1) マスカー療法とTRT療法
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 マスカー療法
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耳鳴りという音に対して、音を利用した治療法というのは昔からいろいろ合ったらしく、一番知られているし、よく使われている(と思う)のがマスカー療法。

マスカー療法については、耳鼻咽喉科医師が開設した<耳鳴りホームページ>に詳しく書かれている。

日本では、リオン社発売していた海外製のマスカー装置が以前はよく使われていたらしい。
これは、旧式の補聴器のような箱型の専用装置でマスキング音を発生させ、それをイヤホンを通じて聴く方式。
今はこの装置は日本では販売停止。ポータブルの音楽プレイヤーが普及したし、TRT療法を導入する病院が増えてきたので、マスカー用の専用機器の必要性も低くなったようだ。
市販のCD音源や、マスカー用の音を発生させる有償・無償のソフトウェアを使って、パソコン、iPhone&iPod、MP3プレイヤー、CDプレイヤーのどれかで聴くことが普通になっている。
その場合は、単純に出来合いの自然環境音やホワイトノイズなどの雑音を聴くことになる。
また、耳鳴りマスキング用の専用ソフトや環境音楽ソフトを使えば、各種の音を合成した特殊音を作るということもできる。

”Sound masking therapy is of uncertain benefit when used alone to treat tinnitus”という記事によると、耳鳴りマスキングを目的とするサウンドセラピーは、単独で使われることは少なく、通常は他の療法(薬、認知行動療法などの心理療法、針治療など)と併用される。
この記事によれば、医師によってサウンドセラピーの位置づけは異なる。何もしないよりはマシで害もない、サウンドセラピー機器が他の治療法よりも優れているという信頼できる証明はないという見解から、目的は耳鳴を消すのではなく、”慣れる”ことであり、治療過程でカウンセリングと併用した時のみ有効であるという結論まで、様々。


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米国国立衛生研究所(NIH)の臨床試験DB”ClinicalTrials.gov”と耳鳴治療ウェブサイトのニュースなどで、マスカー療法とは違う原理による音響・音楽を利用した耳鳴治療法を調べてみると、主に以下の5種類のものがある。

 -Tinnitus Retraining Therapy(TRT)
 -Neuromonics Tinnitus Treatment (Customized Acoustic Stimulation)
 -Tailor-made Notched Music Treatment
 -Acoustic CR®neuromodulation
 -Tinnitus Phase-Out™ System


TRT療法は有名な療法なので、”ClinicalTrials.gov”に登録されている臨床試験が上記の療法中、一番多い。
”Tinnitus Phase-Out™ System”、”Customized Acoustic Stimulation”、”Acoustic CR® neuromodulation”も同じくNIHに治験情報が登録されている。
”Tailor-made Notched Music Treatment”は小規模な研究結果は公表されているが、独立した大規模な臨床試験は未実施で、現在計画中。

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 TRT療法
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概要
Dr.Pawel Jastreboffの神経生理学的耳鳴理論に基づく治療法。
Dr.Jonathan Hazellとともに、1988年頃に治療法を開発・実用化。(現在イェール大学に在籍しているが、当時はエモリー大学で研究していた)
治療法の目的は、耳鳴りを意識しない、慣れること。耳鳴りを消滅させるものではない。
サウンドセラピーとTRT療法専門家による面接カウンセリングから構成。
高度難聴者は適用外。(難聴のレベルによっては、補聴器を併用する医師もいる)

TCI使用について
症状に応じて、装着型ノイズジェネレーターを処方される場合がある。
長時間耳に直接装着可能で、補聴器タイプ。TCI器(シーメンス社製)が有名。
TCI器の場合1日6~8時間装着。定期的に微調整が必要。
訓練期間は12ヶ月~24ヶ月。通常6ヶ月を経過した頃から改善効果が現れると言われる。
耳鳴りよりも大きな音量でマスキングするマスカー療法とは異なり、耳鳴りが少し聞こえるレベルの雑音を使用する。
雑音はホワイトノイズが多い。その他にピンクノイズ、高周波、スピーチなども使用されている。
シーメンス社は補聴器とTCIが一体になった製品を海外で販売している。(なぜか日本では導入されていないらしい)


Environmental sound enrichment(音環境を豊かにすること)
TRT療法=TCI器(またはiPodなど)使用と思い込んでいたが、開発者のウェブサイトでTRT療法の解説を読んでいたら、必ずしもそういうわけではない(と私は理解した)。

TRT療法の2本柱は、サウンドセラピー(サウンド・エンリッチメント)とカウンセリング。
サウンドセラピーは、TCIなどの医療用サウンドジェネレーターは使用せず、普通のオーディオ機器や屋外使用可能な多目的サウンドジェネレーター(今ならiPodやMP3プレーヤーなどが使える)で、自然音・雑音(可能なら日常生活騒音も)を1日中継続的に聴くもの。

TCI器のような装着型サウンドジェネレーターは、症状に応じて必要な場合に処方されるもので、TRT療法の手法の一つ。
それが不要な患者、または、装着対象者の未装着時(睡眠中など)には、サウンド・エンリッチメントを継続して行わなければならない。

サウンド・エンリッチメントの方法としては、例えば、夏に窓を開ける、ゆっくり動く大きな家庭用扇風機の音やラジオ放送局の受信周波数を外して広帯域雑音を聴く、などがある。
核心となる点は、環境音などが耳鳴りをマスキングしたりブロックしたりしないこと。耳鳴りが聴こえないと、それに”慣れる”ことはできない。
サウンドセラピーでは、不適切な音を使ってはいけない。例えば、歪みのある音楽テープ、完全に耳鳴りをマスクする装置などは、有害になることもある。
海・雨のような音を収録した市販品は非常に有益ではあるが、個々人の好みというものもある。
単に1日中つけっ放しにしたテレビやラジオは、常に音が刺激的であり、注意をひきつけ、耳鳴りをマスクしてしまうので、適切ではない。
会話を聴き取ることに問題があるような重い難聴の場合は、補聴器で増幅することが必要。
最良の方法で適合するように調整され、両耳が可能なかぎり同等のバランスであることが不可欠である。

TRT療法に関して収集した主な情報
Dr. Jastreboffのホームページ(Emory University時代)
TRT療法が基づいている神経生理学理論に関する解説など。

The Tinnitus and Hyperacusis Centre, London UK
ロンドンの著名な耳鳴専門家の一人であるDr.HazellによるTRT療法の情報サイト。
Dr.Jastreboffと共著で『Tinnitus Retraining Therapy: Implementing the Neurophysiological Model』(Cambridge Univ. Press, 2004)を出版している。
ウェブサイトには、TRT療法のガイドライン、患者向けエクセサイズ、”Environmental sound enrichment”に関する論説など、実践的な情報が多い。

「音響心理治療」(小林耳鼻咽喉科内科クリニック)
TRT療法とマスカー療法の概要と比較表が載っていて、わかりやすい。耳鳴りの発生理論の解説もあり。

「耳鳴訓練療法(TRT)用の治療音の選定と設定」(国立身体障害者リハビリテーションセンター、森浩一)
「Jastreboffら(2004)によると、「不快でなく,耳鳴を遮蔽せず,耳鳴の音色を変えない音で,それ自体が注意を惹くものでない」音とし、耳鳴と治療音とが混じって聞こえるような音圧に設定するのが良いと説明されている。」
そこで独自で作成したガイドラインによると、「治療音(通常は白色雑音)を出す装置を患者の生活に合わせて選定する。特殊な音色が必要な場合は、フィルターをかけた雑音、自然音のCD、環境音の録音などを工夫する。」ことになっている。


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備 考
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これは個人的な関心のある点について、自分なりに理解した内容をメモとしてまとめたものです。
ここで書かれている内容が、医療現場で行われている実際の療法とは異なることがあります。
開発者によるTRT療法の正確な内容については、論文原文や上記のウェブサイトで直接確認してください。


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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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