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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (3) Neuromonics Tinnitus Treatment (改訂版)
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Neuromonics Tinnitus Treatmentの概要
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豪州&米国に拠点をもつNeuromonics社が開発した療法。
同社は、画期的な耳鳴り治療法の開発を目的として、2001年に設立された。
"Neuromonics Tinnitus Treatment(NTT)"の開発者はオーストラリアの臨床聴覚学者(clinical audiologist)であるDr.Paul Davis。
1990年代初期から広範な研究が行われている療法で、多施設臨床試験と開業医の両方の試験で、その効果が認められている。
2004年に療法が導入されて以降、最初はオーストラリアで、2005年後半に米国で実際に使われ始めた。
現在、米国、オーストラリア、ニュージーランド、アジアで、2,000人以上の患者が治療を受けている。

治療プロセスとステップ
専用機器Oasis™ deviceを使い、ヘッドホーンを通じて、精緻に設計されたバロックやニューエイジなどの音楽(心地良い音響神経刺激が埋め込まれている)を聴く。
これらの音は各ユーザーの聴覚特性に応じてカスタマイズされ、聴覚路を刺激して神経可塑的変化を促進する。
時間が経つと、この新しい神経結合により、脳が耳鳴りの騒音をfilter out(透過、除去)するようになり、長期間の症状緩和をもたらす。

Neuromonics treatmentは約6ヶ月を超えると治療効果が現れるが、多くのケースではすぐにいくらかの緩和効果が得られる。
治療開始前に、耳鳴りと聴力を評価し聴覚特性を診断した後に、最も適切な治療手段と、Neuromonics treatmentが役立つかどうかを、患者と医師が相談する。
両者がこの療法が役立ちうると合意すれば、Oasis™器で聴く音源が、患者ごとの聴覚特性に応じてカスタマイズされる。
治療は、約6ヶ月間にわたり、5つのステップで実施される。
治療中は、神経学的訓練を受けた専門の医療技術者が教育とサポートを行う。

ステップ1:患者の聴覚・耳鳴特性の評価、最適な療法の選択肢を提示
ステップ2:患者個人の聴覚・耳鳴の特性に応じたOasis™ 器のカスタマイズ

ステップ3:<Stage 1>症状の緩和(治療期間:約2ヶ月)
耳鳴り症状の緩和を促進する。
日常生活(読書、料理、職場など)のなかで、少なくとも毎日最低2時間はOasis™器を装着して、治療用音楽を聴く。
やがて治療中に耳鳴りをコントロールすることを経験し始める。

ステップ4:<Stage 2>サイクルの打破(典型的には約4ヶ月間)
脳が耳鳴り音をfilter outすることを可能にする神経結合の構築促進。
これが達成されると、Oasis™器を定期的に使わなくても、緩和効果が持続する。

当初ステップと異なる音響的刺激に変更する。
Oasis™使用は、最初は少なくとも1日につき2時間。耳鳴の緩和度に応じて使用時間を減らしていく。
やがて、Oasis™を使用しないときでも、耳鳴症状の緩和を経験するようになる。

ステップ5:<Maintenance Stage>
治療プログラムの成功後、Neuromonics社の聴覚訓練士が患者自身で耳鳴りをコントロールし続けることができるように、患者と協力して治療効果を維持するためのメンテナンスプログラムを構築する。
患者の多くは、治療後もOasis™器を使う必要性を感じない。
短期間だけ使う人もいるが、それは治療効果を維持しやすくするためである。


The Oasis™ device
- 専用治療機器(処方箋が必要)。サイズ・重量は携帯電話並。特許取得済み
- 2005年にFDA承認済み:510(K)summary(masker,tinnitus)。さらに、オーストラリアのTherapeutic Goods Administration (TGA)の承認済み。
- スペクトル的(spectrally)に加工され精緻に設計されたリラクゼーション音楽の中に、患者ごとにカスタマイズ化した音響刺激が埋め込まれている。高性能イヤフォーン付き。
- 治療機器の購入費用は米国内で5000ドル。治療費用はほとんど保険対象外。(ただし、米国の退役軍人の場合は無料となることが多い。)

他療法との比較表
TRT療法、マスカー療法などとの簡易な項目別比較表によれば、TRT療法と共通点は多いが、それよりも短期間で効果が得られることになる。


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臨床試験結果
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過去の臨床試験結果概要

第2フェーズ
"Treatment of tinnitus with a customized acoustic neural stimulus: A controlled clinical study."
Davis PB, Wilde RA, Steed LG, Hanley PJ./Ear Nose Throat J 2008;87:330-9.
- 小規模なフィージビリティスタディ。2つの対照群に対して無作為化。
- 治療期間6ヶ月経過後、Neuromonics treatmentの被験者の86%が臨床医学的成功として設定した最小基準(=耳鳴りの煩わしさ[Tinnitus Reaction Questionnaire score]を最小40%軽減)をクリア。
それに対して、2つの対照群は最小基準をクリアしたのは各々47%と23%の被験者。
- Neuromonics treatmentの被験者群の改善スコアの平均は66%、対照群は各々22%と15%。療法被験者群と対照群の結果の差異は統計的に有意であった。


第3フェーズ
"The neuromonics tinnitus treatment: third clinical trial."
Davis PB, Paki B, Hanley PJ. / Ear Hear 2007;28:242-59.
- Neuromonics treatmentプロトコルの短縮版と標準版の効力比較が目的。短縮版は統計的に有意な効力がみられず、標準版の方が優れていた。
- 療法実施から6ヶ月後、全被験者の91%で医学的に意味のある効果(耳鳴りの煩わしさを最小40%軽減)があり、前回の臨床試験(86%)と一貫性のある結果であった。
- 12ヵ月後のフォローチェックでは、効果が持続しており、86%の被験者で医学的に意味のある効果を示していた。
- 6ヶ月後時点でのTROの平均改善度は65%。前回の臨床試験(66%)と効果の度合いがかなり一貫している。

一般の開業医での治療結果
"Treatment of tinnitus with a customized, dynamic acoustic neural stimulus: clinical outcomes in general private practice."
Hanley PJ, Davis PB, Paki B, Quinn SA, Bellekom SR. / Ann Otol Rhinol Laryngol 2008;117:791-9.
- 過去2回の臨床試験は、この療法に適用しやすい患者を対象としていたが、今回の臨床試験はきわめて多様な患者にまたがった実際の診療所での大規模な試験。(被験者数470人)
- 最も適応度の高い患者層(Tier1/237人)では、医学的に成功した(効果があった)被験者は92%、平均改善度(スコア)は72%を示した。
- 適応度が劣る患者層(Tier2/223人)でも、同様に被験者の60%で効果があり、平均改善度(スコア)は49%。

第4フェーズ(直近の臨床試験)
<試験概要>
”Customized Acoustic Stimulation for Long Term Medical Benefit for the Relief of Tinnitus and Hyperacusis (CALM)(PhaseⅣ)”
- 2007年6月開始、2010年12月完了予定。
- 18歳以上の男女、53人。医学的にかなり重い耳鳴り。
- 50db以上の聴力損失、抑うつ・不安度に関するHADSスコアが11超ある人は除外。
- 多施設・非無作為化・非盲検試験
- FDA承認済みのNeuromonics treatmentを実施後、6,12,24,36ヶ月後にその長期的効力を測定。
- 第1評価指標:(事前・事後)Tinnitus reaction questionnaire[6,12,24,36ヶ月後]
- 第2評価指標:Tinnitus Handicap Inventory, Hospital Anxiety and Depression Scale[同上]

<試験結果>
Evaluation of a customized acoustical stimulus system in the treatment of chronic tinnitus.
Otol Neurotol. 2011 Jun;32(4):710-6.
Wazen JJ, Daugherty J, Pinsky K, Newman CW, Sandridge S, Battista R, Ramos P, Luxford W.(Silverstein Institute)
- 多施設前向き試験(米国内9ヶ所で実施)
- 被験者数:52人。慢性耳鳴り(最低でも6ヶ月間)、以前に行った(他の)治療で効果が僅か/無し、および、併行して受けている治療がないこと。
- 治療方法:2段階方式。(Stage1)患者ごとにカスタマイズした音楽トラックおよび耳鳴りマスキング用のホワイトノイズを2ヶ月間、毎日2~4時間聴き続ける。(Stage2)同じ音楽トラックを使うが、ホワイとノイズは使用せずに、さらに4ヶ月間リスニング。両段階とも、教育、認知療法、定期的フォローアップを実施。
- 主要評価方法:Tinnitus Reaction Questionnaire(TRQ)、Tinnitus Handicap Inventory(THI))。他に、Hospital Anxiety Depression Scale(HADS)、loudness discomfort levels(LDL).
- 評価結果が得られたのは、6ヶ月後38人、12ヵ月後28人、24ヵ月後12人。14人がフォローアップまでに辞退または所在不明、残り(26人)は12ヵ月後または24ヶ月後の試験に到達しなかった。
- 試験結果:TRQは12ヶ月後で74%の患者で、24ヵ月後で84%の患者で、有意に低下。THIも同じくそれぞれ77%、50%の患者で低下。


過去の臨床試験のサマリー
"Treatment of tinnitus with a customized, dynamic acoustic neural stimulus: underlying principles and clinical efficacy."
Hanley PJ, Davis PB. / Trends Amplif 2008;12:210-22.
過去の臨床試験(第2&第3フェーズ、開業医)の結果概説、総合的な考察あり。
この療法に適応可能な耳鳴りタイプは、"not reactive, pulsatile, or multi-tone in nature"(反応性、拍動性、複数音でない(耳鳴り)"と記載されている。

(注記)"reactive tinnitus"という用語は、ネット上のサポートボードで使われている用語であって、耳鳴り関係の論文では一般的ではない。その代りに、"kindling"または"winding up"が使われている。
大きな音を短時間聴いたり、低い音を長時間聴き続けると、耳鳴り(場合によっては聴覚過敏も)が悪化して音量が大きくなる状態を言う。(出典:Tinnitus Support Message Board


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関連情報
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Neuromonics Tinnitus Treatmentを紹介している記事・TV番組(リンク集)

Ear Ringing Relief Can Be Hard To Find(7/19/2011、CBS Boston)
Sound therapy for anxiety from tinnitus(5/11/2011、CNN)

”Turn Off the Ringing Sound/Researchers Explore New Treatments to Silence the Persistent Din of Tinnitus”(2010.12.12,Wall Street Journal)
音楽療法の"Neuromonics Tinnitus Treatment"のほか、効果が期待できる治療法として、rTMSと認知行動療法が紹介されている。
記事によれば、認知行動療法は、耳鳴りそのものではなく、耳鳴りに対する患者の感情的な反応を治療対象とするもの。
その目的は、”耳鳴りを靴下と靴のような存在(身につけていてもそれについてわざわざ考えることのない)にすること”。
耳鳴りに対して反射的に持っているネガティブな考えを患者が自覚することからスタート。
”これでもう私の人生は終った”という患者に対して、この認知行動療法では、耳鳴りが人生を台無しにしてしまうことはなく、単に人生の一部でしかないと理解するようにする。
実際、頭の中の耳鳴りを無視するようになることが、結局は最も効果的な方法だという患者たちもいる。


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進捗状況
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Neuromonics社は、米国陸軍とNeuromonics Tinnitus Treatmentに関する70万ドルの契約を締結。
アラバマ基地で、耳鳴りをもつ現役・退役軍人を被験者としたプラセボ対照比較試験を行い、 この療法の効果と使用法について米軍が研究する。
(出典:"Neuromonics Receives U.S. Army Grant, Studies Non-Invasive Tinnitus Treatment – Iraq, Afghanistan vets benefit from FDA-approved device to treat tinnitus"(Neuromonics社のNews Release,Oct.18,2011))


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備考
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記事は英文情報を要約抜粋したものです。正確な内容については、英文原文(ホームページ、論文など)をお読みください。


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更新履歴
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2012.3.15 「進捗状況」追加
2012.3.30 全面改訂

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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