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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (2) ①TRT療法のガイドラインと”sound enrichment”
TRT療法(Tinnitus Retraining Therapy)をJastreboff博士とともに開発したDr.Hazellのウェブサイト <The Tinnitus and Hyperacusis Centre, London UK>は、TRT療法を実際に行う場合のガイドラインや実施方法などが詳しく記載されている。

Jastreboff博士のウェブサイト<Tinnitus & Hyperacusis Center>は理論的説明主体なので、TRT療法の適用の実際については<The Tinnitus and Hyperacusis Centre, London UK>の方が情報が多くて、わかりやすい。

TRT療法:ガイドラインと患者のためのエクセサイズ
まず、TRT療法を行う専門家向けのガイドラインとして、次の4点の説明。(ただし、文中の※は私の個人的なメモ)

1.耳鳴りの影響とカテゴリーを特定する
患者との問診から、耳鳴の発生から経過、影響などを把握する。

2.教育 : 脱神秘化(啓蒙)
耳鳴りに関する旧来の通説ではなく、Jastreboffモデルに基づいた視点で説明すること。
全く治療できない”病気”ではなく、自然な一つの現象であって、”慣れる、馴化する”ことができることを知り、理解できれば、好ましくない反応が徐々に解消していく。

この過程を、”新しく引っ越してきた隣人”という比喩的なストーリーで説明している。要約すると...
初めはその隣人に少し興味を持っていただけなのに、定期的に玄関口に配達される小さな小包を見かけるたびに、徐々に不安が増す。犯罪者ではないか...などと考え始め、ますます隣人の様子を観察し、不安感と気欝な気分がさらに増幅。偶然、その小包がホームレス救援活動のためだと知って、ようやく安心し、不安も解消。隣人の様子を見張ることもなくなる。
最初の評価を間違って、隣人が実際よりもずっと悪い人間だと考えることは、あまりにありがちだと理解する。

3. Otological and audiological diagnosis
簡単な治療で治るタイプの耳鳴を除外するため、耳鼻科医・専門家による診断が必須。

4.サウンド・エンリッチメント(音環境を豊かにする)
論文:Environmental sound enrichment(Jonathan Hazell,June 2001)(PDF)

”Environmental Sound Enrichment”はTRT療法の本質的な部分。適切な音、または、1日を通じてバックグラウンドに流す音を選ぶのは簡単ではない。
重要なことは、静寂(沈黙)を避けること。患者によってはこれが特に容易なことだとは限らない。
音環境を豊かにするには多くの方法があるが、イライラさせられたり、その音自体が”Intrusive”(邪魔になる、気になる)であってはいけない。
また、この音が耳鳴りをマスキングするほどの音量だと、”慣れる”訓練にならない。耳鳴りが聴こえる程度の音量に設定することが不可欠。

サウンド・エンリッチメントのタイプ
1)最良の自然音によるエンリッチメントは、自然そのもの。
農村部の住民ならずっと窓を開けていることも可能。
セキュリティや悪天候の問題があれば、室内でその音を再生すれば良い。

2)住宅設備機器から出る音
昔は、住宅設備(扇風機、天井扇、魚用の水槽など)から発生する音(※いわゆる”日常生活騒音”)が手軽な音源として推奨されていた。
この音源の難点は、音量のコントロールが難しく、耳鳴りがマスキングされてしまいかねないこと。

3)水の音
水の音は優れた音源。日本式の泉や滝の音は、屋内・屋外とも幅広く使える。
※「日本式」というのは、せせらぎとか小さな滝の音のこと? たしかにナイアガラの滝の音だと、轟音すぎて耳鳴りをマスキングしてしまう。

4)ラジオ、テレビ、音楽
いつもしている気晴らしや楽しみの一つとしてのみ聴くべきもの。
サウンド・エンリッチメントとして、一日中これらの音を流し続けるのは勧められない。
聴覚の反応を抑制するのが目的なのに、音楽や話し言葉には意味が含まれているので、逆に聴覚システムを刺激することになる。
ただし、放送局の周波数から外れたラジオなら、快適でコントロール可能な広帯域雑音を発生させることができる。これは数多くの周波数のスペクトラムを含み、かなり継続的に一定している。

サウンド・エンリッチメントの再生機器
これらの音を聴くときにHiFiアンプとスピーカーを使えば、リアリティのある良質の音が再生されるので、より聴きやすくなる。

全ての患者に対して、多目的の屋外用サウンドジェネレーター(デジタル化された自然音が複数入っている)の購入を推奨している。
コントロールが容易で携帯できるため、旅行中でも使用可能。
品質の良い製品は、HiFiに接続可能で音質の良い良質のスピーカーを備えている。
また、サウンドピロースピーカーも良い。
製品によっては、多種の音源を収録したサウンドカードをスロットルに挿入するタイプもある。
※iPhone、iPod、MP3プレイヤーなどに、自然音の音声ファイルを組み込めば、屋外用サウンドジェネレーターとして使える。その音声ファイルをCD-Rにコピーすれば、室内でCDプレーヤを使って、スピーカーを通しても聴ける。

CDやテープも役に立つが、中味を入れ替えるのに注意しなければならないし、自動的にリプレイするのも難しいかもしれない。
※これはかなり古い機種の話。今はオートリバース/リピート機能や連装型の機種があるので、問題ない(はず)。

サウンド・エンリッチメントは、どの音を使うとしても、全て継続的でなければならない。
就寝時に電源オフにするなど、短時間だけ行うものではない。

サウンド・エンリッチメントの要件
サウンド・エンリッチメントによって、耳鳴り音がマスキングされて聴こえなくなるのは不可。耳鳴りに馴化する訓練にならない。

当然のことながら、サウンド・エンリッチメントの音が聴きとれる必要がある。難聴者は補聴器をつけてテストしてみること。

サウンド・エンリッチメントによって、嫌悪感を抱いたり、聴覚機能を刺激してはいけない。快適でリラックスした気分になれる音を使うこと。(TRT療法の目的は、耳鳴りや外部音に対する聴覚の敵対的な反応を低減すること)

(聴覚過敏など)音や耳鳴りに対して強い拒否反応をもつ人は、サウンド・エンリッチメントをゆっくりとしたペースで、初めは小さい音量から行うこと。

1日24時間中、サウンド・エンリッチメントを行うこと。
睡眠中であっても、聴覚システムは”目覚めている”状態なので、特に夜に行うことを忘れないように。それをしないと、効果が1/3くらい(寝ている時間相当分)は下がる。
音無しの状態で寝ることに慣れている人は、サウンド・エンリッチメントの音源をいつもベッドルームで再生して、”家具の一部なんだ”と思えば良い。
夜に音を再生していると、家族の邪魔になる場合はピロースピーカーも有効。
サウンド・エンリッチメントは、(TCIなどの)治療機器の使用の有無に関わらず、TRT療法の本質的な部分。

5. Retraining tactics (10 second exercise)
※最後に書かれているのは、患者が実践できる日々の”10秒間”エクセサイズ。
※以下は要点のメモ(正確には本文を参照して下さい)

-耳鳴りや不快な外部音に対する自分自身の反応を感情面も含めてよく自己観察すること
-聴覚機能の活動を抑えるようなリラクゼーション方法を実践して、不安・いらだち・恐れなどの大脳内の活動を少しずつでもよいから、抑制していくこと。
-不快な耳鳴音に対して圧倒されてしまったり、攻撃的になるような過剰な環境音は、事態を悪化させかねない。
-最初から多くのことをやり過ぎないこと。変化が現れるのはスローペースに違いなく、忍耐強くあること。
再訓練期間の平均は18ヶ月、症状が重い場合はさらに長くなる。
-耳鳴りや外部の音に対して、ポジティブに考えること。
-焦らずに、エクセサイズの時間は少なくてもよいので、頻繁に行うことがベスト。


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[備考]
上記の文章は、Dr.Hazellが書いたTRT療法の原理・原則の個人的なメモなので、実際の医療現場で行われているTRT療法がこの内容と同じであるとは限りません。ここに書いているTRT療法の詳細については、直接原文を確認してください。
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サウンドエンリッチメントに関する個人的なメモ
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1)環境音
環境音楽CDや音声ファイルは使わず、音楽しか聴いていなかった。
今、環境音を試しにパソコンで聴きながら入力していると、音楽と違って意識的に注意が向かうことはなく、聞き流しているといった感覚。特に川・泉・波の音が、耳にも気分的にもとても心地良い。
小川のせせらぎなど自然の音が、音楽に比べて聴覚に対する刺激が少ないのは確かなのかもしれない。

Dr.Hazellのウェブサイトでは、フリーの環境音ソフト”AIRE FRESHENER”を推奨している。このソフトは同時に鳴らせる音が2音のみ。
同じフリーソフトなら、”Atmosphere Lite”の方が音の種類も組合せも豊富。録音機能があるので、音をMPファイルに録音すれば、ポータブルオーディオやCDでリスニング可能。

関連記事:
耳鳴りマスカーソフト(4/5) ~ Atmosphereシリーズ
環境音ソフト ”Atmosphere Lite”


2)睡眠時
入眠にそれほど苦労しなかったので、睡眠中に音は流さなかった。環境音を流しておけば、さらに効果的だったのかもしれない。
Dr.Hazellが選択肢の一つにあげている”ピロースピーカー”は、よく見かける快眠グッズの一つ。
製品を探してみると、睡眠用の小さなスピーカーと、スピーカーを内蔵した枕の2種類がある。
スピーカーだけのものは、枕元に置くか、枕の下や枕カバーの中に入れるだけ。
スピーカー内蔵の枕タイプの製品例は、"MusicPad""Sound Pillow"

3)日常生活騒音
室内・室外で発生する生活騒音はいろいろあるので、耳鳴りから気をそらすには便利。
パソコンのファン・モーター音、冷蔵庫のモーター音、ケトルでお湯を沸かす音、電子レンジ音、扇風機のかすかな風の音、エアコンの室外機のモーター音など。
たしかに音量がコントロールできないため、音が大きすぎて耳鳴りをマスキングしてしまう場合は馴化訓練にならず。(特に、私の場合はパソコンのファン・モーター音が大きすぎる)

4)サウンドジェネレーター、ポータブルオーディオ
外出していると、屋外騒音で自動的に耳鳴りが気にならなくなるので、医療用サウンドジェネレーターはもちろん、ポータブルオーディオの類は一切使用しなかった。
ヘッドフォンやイヤフォンでダイレクトに音を聴くのは耳に負担がかかる。ステレオでたまにヘッドフォンで聴く以外は、今後もイヤフォンで聴く携帯プレーヤーの類はほとんど使わないと思う。

5)ピアノを弾く
ピアノ演奏中は音楽を聴いていることにはなるが、聴覚機能だけでなく、脳内の言語、運動、記憶に関係する部分も同時に使っている。
電子ピアノだと音量をコントロールできるし、ヘッドフォンなしでもOK。
CDなどで音楽を聴くよりも、聴覚への負担は低いのでは?と思っているけれど、どうなんでしょう。

tag : 音響・音楽療法

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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