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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (4) Acoustic CR® Neuromodulation (アップデート版)
[過去に公開した記事に、2012年3月13日に公開された臨床試験報告の論文概要を追加したものです]

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Acoustic CR® Neuromodulation (CR® = Coordinated Reset) の概要
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ANM Adaptive Neuromodulation GmbHが開発した療法。
同社は、2005年12月設立のドイツの医療技術企業で、Jülich Research Centre (Forschungszentrum Jülich)からのスピンオフ。

適用対象とする耳鳴症
①音型耳鳴(tonal)
   tonal:whistling, ringing or humming sound(複数音でも対応可)
  (※非tonal:hissing, fizzing, clanging)
 
 不適な耳鳴タイプ:拍動性, 他覚的耳鳴、somatosensory tinnitus(SST)

②慢性耳鳴(6ヶ月超)
③自覚的耳鳴
④耳鳴周波数:200Hz~10,000Hz
⑤メニエール病患者、補聴器装着者など除外条件あり。

耳鳴りが発生するメカニズム:耳鳴りは、聴覚皮質の神経細胞の同期的で過剰な活動
耳で知覚されたあらゆる刺激は、聴覚皮質へ送られ、処理される。
聴覚皮質の特定領域に集中している神経細胞が、ある周波数に"tuned"される。(ピアノの鍵盤の配列に似ている)
雑音、薬、ストレスなどは、耳から聴覚皮質への信号送信を妨害する。(例:神経細胞集合のなかには、信号を受信しなくなる)

ピアノの鍵盤に喩えると、鍵盤のいくつかが動かなくなり、ピアニストが打鍵できなくなる。
しかし、その神経細胞集合は刺激の欠如に対して、単に沈黙したまま無反応でいるわけではない。
全く逆に、神経細胞は自発的に"chatter"(おしゃべり)し始め(いわゆる、自発的活動)、同期的に互いに敏感になる。
そうなってしまうと、神経細胞は脳が聴いた音をシミュレートする。それが”耳鳴音”。
言ってみれば、ピアニストが打鍵せずとも、壊れた鍵盤が勝手に自分たちで継続的に音を出している状態。

過剰で高度に同期化した神経細胞ネットワークの形成は、病的に強化された神経結合を持っているため、耳鳴りは永続的に固定化される。脳が”phantom sound”を生成する方法を覚えてしまったということ。

Acoustic CR® neuromodulation 療法の原理
複雑な数学的アルゴリズムに基づいた穏やかな音響刺激が、神経細胞に対して、同期的病理的状態に戻る方法を"長期にわたって”unlearn”(記憶から消す、忘れる)するようにし、病的同期性を妨害する。
この療法は脳全体を刺激することはなく、音響刺激が患者個人の耳鳴周波数にチューニングされて、病的に同期化された聴覚皮質の神経細胞結合へ耳から送信される。

治療ステップ
目立たないスティミュレーターを装着。毎日4~6時間。聴覚閾値よりわずかに高くする。
徐々に、必要なときだけ装着するようにする。
多くのケースでは、耳鳴りのピッチが変化し静かになる。この時点でスティミュレーターの再調整が必要要。

ノイズジェネレーターの場合は、"counter-noise"(通常は帯域雑音など)を使って、患者の耳鳴りをカモフラージュする。
おそらく脳のある領域における神経細胞活動を部分的に抑制しているが、 効果は短期間で、装置の電源オフすると一緒に効果も消滅する。
一般的に言えば、ノイズジェレネーターは馴化させる他の療法と特に組み合わせて使用する。

ノイズジェネレーターと対照的に、”acoustic CR® neuromodulation”は神経細胞の活動を短期間抑制するなどの馴化を目的にしていない。
聴覚皮質内の病的に活動過剰で同期的な神経細胞集合が対象。例えば、関連する神経細胞をアクティブ状態のまま、非同期化し、抑制しないこと。
脳の可塑性的性質により、高度に同期化した病理的に拡張された神経ネットワークをブレークダウンし、 ”phantom sound”を”unlearn”するようになる。

患者に使われるCR® stimulation tonesが同一のものではあることはなく、患者個人の耳鳴り周波数に正確に調節される。
神経変調療法(neuromodulation)のため、特定の音のシークエンスが聴覚閾値よりわずかに高めに設定される。
”Neurostimulator”には、患者ごとに適した神経的刺激シークエンスがプログラムされている。小さなマッチ箱サイズの音響ジェネレーターと医療用イヤフォーン付き。


参考文献
External trial deep brain stimulation device for the application of desynchronizing stimulation techniques
C. Hauptmann, J-C. Roulet, J. J. Niederhauser, W. Döll, M. E. Kirlangic, B. Lysyansky, V. Krachkovskyi, M. A. Bhatti, U. B. Barnikol, L. Sasse, C. P. Bührle, E-J. Speckmann, M. Götz, V. Sturm, H-J. Freund, U. Schnell and P. A. Tass
JOURNAL OF NEURAL ENGINEERING (2009)

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臨床試験:The RESET study
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臨床試験概要[第1&第2フェーズ](ClinicalTrials.govサイト)
Clinical Investigation on the Acoustic Stimulation in the Treatment of Chronic Tinnitus
試験実施機関:ANM Adaptive Neuromodulation GmbH
試験場所:ドイツのInstitute for Neurosciences and Medicine,Research Center Jülich
被験者数:63名、18歳以上の男女
試験方法:
CR療法群 G1 : 療法刺激音を4~6時間/日、4音のシークエンス
CR療法群 G2 : 療法刺激音を4~6時間/日 12音のシークエンス
CR療法群 G3 : 療法刺激音を4~6時間/日、4音のシークエンス(EEG測定値で信号を制御)
CR療法群 G4 : 療法刺激音を1時間/日、4音のシークエンス
プラセボ群 G5 : プラセボ音による刺激

臨床試験結果概要(ANM Adaptive Neuromodulation GmbHサイト)
Randomized Evaluation of Sound Evoked treatment of Tinnitus

試験結果報告論文(全文)(IOS Pressサイト)
Counteracting tinnitus by acoustic coordinated reset neuromodulation
Restor Neurol Neurosci. 2012 Mar 13. [Epub ahead of print]
Tass PA, Adamchic I, Freund HJ, von Stackelberg T, Hauptmann C.
-プロスペクティブ・無作為化単盲検プラセボ対照試験試験
-被験者数:63名(慢性トーナル(tonal)耳鳴り、最大50dBの聴力損失)
-効果測定方法:visual analogue scale(VAS),tinnitus questionnaire (TQ) scores、spontaneous EEG.
-耳鳴りの音量・症状が有意に緩和。プラセボは有意な改善なし。CR療法は安全で充分受け入れられる。
-12週間の療法実施中に現れた治療効果は、あらかじめ計画していた4週間の療法中断中も持続。さらに、療法実施から10ヶ月後も長期的に効果が持続。
-反応(例):少なくとも、被験者の75%で 7 TQポイントの低下。反応があった被験者中、TQの低下は平均で50%。
-CR療法は、耳鳴り周波数を有意に低下させ、耳鳴りに関連したEEGの変化を反転させた。
-CRによって引起された耳鳴りと根底にある神経的特徴(neuronal characteristics)の緩和は、他の神経的過同期状態にも適用できるかもしれない新非侵襲的療法であることを示した。

臨床試験概要[第4フェーズ](実施中)(ClinicalTrials.govサイト)
Acoustic Coordinated Reset (CR®) Neuromodulation for the Treatment of Chronic Tonal Tinnitus ("RESET Real Life") (RRL)
公式研究名:Prospective Clinical Study for Confirmation of Efficacy and Safety of Acoustic CR®-Neuromodulation by CE Marked ANM T30 CR®-System in a "Real Life" Patient Population With Chronic Tonal Tinnitus
被験者:約200人,ドイツ国内約20数ヶ所の医療機関が拠点
目的:慢性耳鳴り患者の実生活において、"ANM T30 CR®-System"を使った"Acoustic CR®-Neuromodulation"療法を行い、有効性および安全性を確認する。
手法:プロスペクティブ、無作為化、非盲検、非対照
医療機器:ANM T30 CR®-System(CE認証機器)、1日4~6時間の音響刺激を1年間与える。
研究期間:2011年11月~2013年7月(予定)
試験実施機関:ANM Adaptive Neuromodulation GmbH
協力機関:Ceres GmbH evaluation & research

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研究の進捗状況
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2010年2月
 CEマーキング取得、TÜV認証取得および欧州登録
   [acoustic CR® neurostimulator](慢性耳鳴りの治療法として]
 臨床試験によるRESETデータを国際的な科学分野の会議で発表。
 現在、RESET studyが順調に完了。分析も終了。
 国際的学術雑誌に論文掲載のため、完全なデータを提出済み。

2011年11月 ドイツ国内で臨床試験(第4フェーズ)開始(実生活で12ヶ月間の治療,被験者約200人)
2011年第4Q 多施設無作為二重盲検試験、ランダム化比較試験による長期間の研究を開始予定。(英国内の患者約100名が被験者)
2012年3月  RESET studyの試験結果報告論文をRestorative neurology and neuroscience誌に発表

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備考
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専門的な内容のため、訳文は厳密な正確さを期したものではありません。正確な内容は、出典原文(ホームページ、論文など)で直接確認して下さい。

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更新履歴
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2011.11.20 「研究の進捗状況」を追加
2012.3.22  「臨床試験結果論文」(2012年3月公開)を追記
2012.4.23  「臨床試験情報(第4フェーズ)」追加、進捗状況修正

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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