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ポール・ジェイコブス ~ ドビュッシー/忘れられた映像,版画
現代曲を得意としたポール・ジェイコブスのCD化されている録音には、ブゾーニを始め、シェーンベルク、ドビュッシー、メシアン、ストラヴィンスキー、バルトーク、ジェフスキ、コープランド、ボルコムなど、バラエティ豊か。

特に多いのがブゾーニとドビュッシーの作品。
ブゾーニの場合は編曲ものも録音しているので、オリジナル曲としては、ドビュッシーがCDにして4枚分と一番多い。
《忘れられた映像》(1894年)、《版画》、《映像Ⅰ・Ⅱ》、《前奏曲集Ⅰ・Ⅱ》、《12の練習曲》。《ベルガマスク組曲》と《子供の領分》以外の主要作品を録音している。

ドビュッシーの試聴ファイルを聴いた時から、直観的にぴたりとくるものがあったので、全曲CDで聴くとやはりその通り。
全体的に技巧的に安定しているわりにメカニカルな感じはないし、柔らかな暖色系の音色で、カラフルな色彩感というよりも、響きのバリエーションが多彩。
色彩感以外でドビュッシーを表情豊かにしようとすると、ダイナミックレンジを広くとって、特にフォルテを強く弾いて強弱のコントラストを強調する人が多い(気がする)。
ジェイコブスの場合は、極端なディナーミクはつけず、弱音の繊細さにも過度に拘ることなく、彼独特の生き生きとしたリズム感と柔らかいレガートでしなやかに歌うようなドビュッシー。(”songful”とレビューで書いていた人がいた)
綺麗な音が並んでいる絵画的な印象派風の音楽というよりは、いろいろな情景が生き生きとしたリアルさと情感を伴って連想されるような物語風。伸びやかで無理のない自然な趣きがあって、これを聴いてどういうドビュッシーを聴きたいと思っていたのか、よくわかったと思えたくらい。

同じような方向の録音を思い浮かべてみると、厚みと丸みのある響きで有機的な生命力や情動的なものを感じさせるアラウのドビュッシーにちょっと似た感じがしないでもない。
でも、ジェイコブスの方が、打鍵もずっとシャープで響きの濁りが少なく、曖昧模糊したところがない明晰さを感じるので、現代的なスマートさがある。
多彩な響きのバリエーションで和声的な感覚の鋭さを感じさせるところは、エゴロフに似ているけれど、エゴロフのドビュッシーはさらさらと音楽が流れていき、無色透明のような淡白さがあるので、和声的センス以外は正反対かも。
ジェイコブスは、現代音楽が得意なピアニストにしては、打鍵のタッチも音楽のつくり方も尖ったところが少なく、自然な情感が流れるリリシズムを感じさせるところがユニークかもしれない。

ドビュッシーの録音が好みに合うかどうか判断する曲は決まっていて、《雨の庭》(版画:第3曲)と《運動》(映像第1集:第3曲)。
youtubeで《雨の庭》を聴いても、試聴ファイルで《運動》の冒頭を聴いても、好みにぴったり。
経験的にこの2曲がぴったりとくれば、他の曲もたいてい気に入るので、CDを買っても外れずことがない。

Paul Jacobs plays Debussy Jardins sous la pluie



Apex盤に収録されているのは、《映像》(1894年)、《版画》、《映像第1集&第2集》。
原盤はNonesuch。Apex盤は廉価盤でリリース年が新しい。
作品解説はそれほど詳しくないけれど、独特の言い回しが入っているので、たぶんLPリリース時にジェイコブス自身が書いたものを転載しているのではないかと思う。

Debussy: Images/EstampesDebussy: Images/Estampes
(2002/08/04)
Paul Jacobs

試聴する(米amazon)[Nonesuch原盤にリンク]


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《忘れられた映像》 "Images oubliées" (1894年)
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1.レント(憂うつに、そしてやさしく) "Lent(melanolique et doux)"
2.ルーヴルの思い出 "Souvenir du Louvre"

同じ《映像》といっても、後年のような色彩感のある音のタペストリーで印象主義的な作風とは違って、ロマン派的叙情感のある旋律がとても綺麗。
何度も聴いていると、《子供の領分》や《ベルガマスク組曲》よりも気に入っている気がする。
"レント"と"ルーヴルの思い出"を聴いていると、淡いパステル画のような柔らかい響きとメランコリックで優しい雰囲気がするせいか、マリー・ローランサンの絵を見ているような気分。
やや押さえた悲愴感がそこはかとなく漂う"ルーヴルの思い出"は、《ピアノのために》として改訂されているので、かなり似ている。

3.「いやな天気だから、もう森には行かない」の諸相 "Quelques aspects de 'Nous n'irons plus au bois'"
ドビュッシーらしい一風変わったタイトル。(といっても、出版社がつけたらしい)
前2曲とは曲想が一転して、速いテンポで快活で躍動的、それにちょっとユーモラス。
どこかで聴いたことがあると思ったら、《版画》の"雨の庭"と同じ主題が使われている。この曲を元にして、さらに主題を追加して書かれたのが"雨の庭"だった。
冒頭しばらくしてから、"雨の庭"でも使われている主題旋律が登場して、それが何度も変形されていく。
元々はフランスの童謡のメロディで、原曲を聴くと、"雨"のイメージとは全然違って、とっても楽しそう。子供たちがピクニックに行く情景を思い浮かべても、全然違和感がないくらい。
 原曲の童謡”nous n'irons plus aux bois” [Youtube]

《もう森になんか行かない Nous n'irons plus aux bois》はフランスの童謡。
なおゆきさんという方のブログ<nouse>の記事”フランスの古童謡 "Nous n'irons plus au bois"”に、この童謡について詳しく解説が載っている。日本語に訳した歌詞もあります。
童謡のタイトルは"もう森には行かない"という意味で、 「いやな天気だから」という言葉は全く入っていない。
ドビュッシーの曲の正式タイトルが、"Quelques aspects de “Nous n'iron plus au bois” parce qu'il fait un temps insupportable”。
「いやな天気だから」にあたる"parce qu'il fait un temps insupportable"がついている。

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 《版画》"Estampes"(1903年) [ピティナの作品解説]
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1.塔 "Pagodes"
ドビュッシーが1889年のパリ万博でバリ島民の演奏するガムラン音楽を聴いたのがきっかけで書かれた曲。
"パゴダ"というと、日本ではなぜかミャンマーの仏教寺院を指すが、これは日本特有の使い方らしく、英語では単に仏塔を指すらしい。
英語の仏塔にはパゴダ(pagoda)とストゥーパ(stupa)の2つの言葉があり、パゴダは中国・日本風の仏塔、ストゥーパはインド風の仏塔を指すことが多い。

この曲では東洋の五音音階が使われているので、いかにもエキゾチックな響きと旋律。
モノトーン系のお寺ではなく、東南アジアにあるカラフルな仏塔(アンコールワットとか)のイメージ。
竜宮城のようなファンタジックな雰囲気もするし、煌くようなアルペジオは金銀の豪奢な装飾だったり、海中をおよぐカラフルな熱帯性の魚たちだったり。
いろんなイメージが沸いてくるところがとても楽しい。
ドビュッシーは寺院をテーマにするのがなぜか好きだったらしく、"沈める寺"、"そして月は廃寺に落ちる"など、タイトルに「寺」が入っている曲が数曲。

2.グラナダの夕べ "La soiree dans Grenade"
この曲やラヴェルの"スペイン狂詩曲"に使われている"ハバネラ"は、フランスの作曲家が好んだリズムらしい。
スペイン風に限らずラテン系の曲はあまり相性が良くない。ラテン系で好きな曲といえば、リストの《スペイン狂詩曲》やアルベニスの《イベリア組曲》、それにヴィラ=ロボスの《ブラジル風バッハ》のピアノが入った曲くらい。


3.雨の庭 "Jardins sous la pluie"
主題は《眠れ坊や眠れ Dodo, l'enfant do》というフランスの童謡がベース。
終盤(Tempo)には入ると、《もう森になんか行かない》の旋律が出て、主題旋律と交錯する。
原曲の童謡”Do do l'enfant do”[Youtube]

今まで聴いたことのある"雨の庭"は、雨の粒を表現するかのようなスタッカート的なタッチで同音連打を弾く人が多い。
ジェイコブスのスタッカートは、響きが柔らかく、音の粒が滑らかなスタッカートで軽やかなリズム感があり、旋律の流れがレガートのように流麗。
クレシェンドとデクレッシェンドは波のように寄せては弾くような連続したうねりでダイナミズムがある。
アルペジオや持続音の響きが層的に重なったり、同音連打の響きが平面的に拡散したり、色彩感というよりも響きが多彩なところが面白い。
ジェイコブスのピアニズムの特徴である生き生きとしたリズム感、鋭い和声感覚、それに歌うようにしなやかな音楽の流れが、"雨の庭"を聴いているとよくわかる。
線的な"雨"のイメージではなくて、雨が降り注ぐ"庭"の空間的な広がりがあり、タイトルどおり"映像"を見ているように、洒落たフランス庭園の庭の情景が音を通して移り変わっていくような感覚。


tag : ドビュッシー ジェイコブス

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CD購入しました
musicaさん、今晩は。

結局、ポール・ジェイコブスのファーストリリース版を米アマゾンで購入しました。Priority International Courierで出荷依頼しましたので、今週中には届く予定です。日本からの注文では、最悪1ヶ月くらい待たされるのが嫌で、断念しました。それでも、$45.98日本で購入した場合の+300円程度です。何度、聞くか分かりませんが、早く聞きたいと楽しみにしています。
一期一会
アメーバの友さん、こんばんは。

とうとうジェイコブスのCD、買われたのですね!
CDは欲しいと思ったときに買うのが一番...とよく言われます。
最近は廃盤になるペースが速いので、入手困難になるものも増えてますから。
偶然あるCDに出会うのも何かの縁だと思うので、繰り返し聴きたいと思ったCDは買うようにしてます。

この前のコメントのお返事のなかに、仏amazonの試聴ファイルのリンクを貼っておきましたが、これを聴いた時の感触が良ければ、それほど損な買い物にはならないと思います。
私はもう何十回と聴いたので、しっかり元は取れました。amazonギフト券を使ってかなり安く買っているので、本当に良い買い物でした。

1週間もかからずに確実に届くというのは、さすがにPriority便ですね。(私は使ったことがありませんが)
特急便でも日本で購入する値段とほとんど変わらないというのは、円高の恩恵ですね。
Standard便でも普通は航空便で発送しますから、日本amazonの海外業者に注文しても、米国・英国発送なら10日前後で届くことが多いです。
そういえば、23日に米国発送されたはずのCDがまだ届いてません。もうすぐ2週間にもなるのに。一体どこで迷子になっているんでしょう??
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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