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米国のピアニスト ポール・ジェイコブス
チェリストのイッサーリスの本『もし大作曲家と友だちになれたら...』を読んでいて、初めて知ったブラームスの《11のコラール前奏曲》。
オルガンで聴いてももう一つピンと来ないものがあったので、ピアノ独奏版があるのではないかと探してみると、やっぱりブゾーニが編曲していた。
このピアノ編曲版の録音を探していて、これまた偶然に知ったピアニストのポール・ジェイコブス。

Youtubeで聴いたジェイコブスの演奏があまりに良かったので(特に第10番”Herzlich tut mich verlangen(心からの願い)”、ディスコグラフィやプロフィールを探しても、日本語サイトではほとんど見つからない。(同姓同名のオルガニストがいるけれど、全くの別人)
ジェイコブスは米国人ピアニストで、1960年以降はアメリカが活動拠点だったので、amazon.comのCDレビューには、LP時代から聴いていたというファンの人が多くて、評価も高い。
プロフィールは、Wikipedia(英語版)の<Paul Jacobs (pianist)>の項が充実しているし、『Busoni;the Legendary Recording』のCDのブックレットにも詳しく載っている。

彼のプロフィールを見ていると、カッチェンとちょっと似たところがある。
1926年生まれのカッチェンも米国人で同じ世代。戦後、パリを拠点に演奏活動をしていた時期があるというところも一緒。
違うのは、カッチェンはDECCAと専属契約し録音も多数あり、比較的華やかなピアニスト人生でパリにそのまま住み続けたけれど、ジェイコブスは若い頃、9年間欧州で演奏活動を続けた後、米国に戻ったこと。
カッチェンは、当時パリに住んでいたアメリカ人作曲家のネッド・ ローレムと友人になり、彼のピアノ・ソナタやピアノ協奏曲を初演していたし、後にコープランドなどの米国人作曲家の作品を初演したことも度々あるので、ジェイコブスとカッチェンは面識はなくとも互いに知っていただろうと思う。

同世代のピアニストとはいえ、演奏内容は全く違う。
ジェイコブスのレパートリーは、当時の米国人ピアニストにしては珍しく、シェーンベルクやベリオ、ストラヴィンスキー、バルトーク、ドビュッシー、メシアンなど現代音楽が中心。
同じ世代のカッチェン、フライシャー、カペルなどが、古典~ロマン派を中心としたレパートリー(現代曲は少なく、プロコフィエフやハチャトリアン、ストラヴィンスキー、バルトークなどの名曲)だったのと対照的。
それに、ジェイコブスは現代音楽のソロだけでなく室内楽の演奏も多く、さらにはチェンバロ奏者でもあり(バロックも現代曲も弾いていた)、当時としてはかなり変わったタイプのピアニストだったに違いない。

ジャイコブスのことを今まで知らなかった理由の一つは、彼が1983年に53歳でAIDSが原因で亡くなっていること。当時はAIDSという病名がまだ知られていなかったという。
そもそもCD世代なのでLPはほとんど聴いたことがないし、ジェイコブスの録音は長い間CD化されなかったので、目に留まることがなかったので。
WikipediaとCDの解説文のプロフィールを読むと、彼は1930年生まれで、戦後の1951年にジュリアード音楽院を卒業してすぐにパリに渡る。ブーレーズと知り合ったのもこの頃で、以後長い交友関係が始まる。
ソロリサイタルでは、ストラヴィンスキ、ドビュッシー、シュトックハウゼンなどを弾いたり、室内楽ではベルク、ウェーベルク、バルトークなどを演奏していた。
国立パリ管弦楽団やケルン交響楽団(Cologne Orchestra)等と共演し、ヘンツェのピアノ協奏曲の初演をしたり、ラジオ放送用の演奏も多かった。フランス人画家のBernard Sabyと友人になり強い影響を受けたという。

パリ時代はそれほど余裕のある生活でもなかったらしく、1960年に米国に帰国。
タングルウッド音楽祭でコープランドのアシスタントをつとめたり、現代音楽だけのプログラムのリサイタルや、チェンバロ奏者としてカーネギーホールでデビューリサイタルを開いたこともある。
1960~70年代は、ソロ活動と同じく現代音楽の室内楽曲の演奏会も頻繁に行っていた。
1961年からニューヨークフィルハーモニーの公式ピアニストに指名され、1974年からは公式チェンバロ奏者となった。バーンスタイン、ブーレーズや作曲家エリオット・カーターの指揮でNYPOと録音していた。
特にカーターとは長期間に渡って協力関係にあり、彼のピアノ独奏曲やアンサンブル曲、協奏曲の録音を行ったり、ピアノ作品を委嘱している。(この録音はCD化されている)
また、クラム、ベリオ、メシアンなどの作品を初演したり、ジェフスキーへの委嘱曲『ノース・アメリカン・バラード(North American Ballads)』が残されている。
現代音楽がメインのレパートリーだったジェイコブスは、米国の作曲家との交友も多く コリリアーノもその一人。
コリリアーノは、AIDSで次々に亡くなっていく友人たちを追悼して交響曲第1番を書いたし、ボルコムはピューリッツァー受賞作”12 New Etudes”をジェイコブスに献呈している。

                          

同じ米国人ピアニストのGilbert Kalishが、ジェイコブスのピアニズムを評して、'知的な(intellectual)演奏者とはほぼ遠く、極めて直観的で内発的(spontaneous)なタイプの音楽家。そのパッセージの水しぶきのような輝き、煌くような打鍵、リズムとフレージングの気品(aristocratic)のあるセンスを忘れる人はほとんどいないだろうし、彼のようなしなやかな優雅さと敏捷さでもってピアノを弾く人を見たことがない。”
また、Nonesuchのプロデューサー、Teresa Sterneは、”機知に富み博識で、鋭い知性と洗練性(patrician)を持った”と評している。
ジェイコブスのピアニズムについて、”pontaneous”,”intellect”,”aristocratic”,”patrician”と形容されていることと、録音を聴いたときの印象を重ね合わせると、直観に優れて情感豊かで歌心があり、内発的な自然さと知性的な解釈とがバランスよく融合し、きりっと筋の通った品のある演奏...といったところ。

現代音楽を得意としたジェイコブスは、「なぜ演奏家が自分が生きている同時代の音楽に”at home”な気持ちを感じないのか、全く理解できないのです。私が青春時代に聴いた音楽で感動したのは今世紀(20世紀)初期からその後の時代の音楽で、ストラヴィンスキーの後年の作品も入っています。それらの音楽は、形式的な問題をもちだすこともなく、まるで新聞を読んでいるかのように言っていることが簡単にわかります。私にはどう向き合えば良いのかわかっているのです。」と言っていた。

ジェイコブスの録音で特に有名なのは、ブゾーニ、ドビュッシー、シェーンベルク。
それ以外にも、コープランド、ジェフスキー、カーターなどのアメリカ人作曲家の作品の録音が残っている。
ジェフスキーの《ノース・アメリカン・バラード(North American Ballads)》はジェイコブスの委嘱曲。
全4曲のうち第1曲”Dreadful Memories (恐ろしい記憶)”(Wikipediaの解説)

Frederic Rzewski: Dreadful Memories (1978) (Paul Jacobs, piano)





<関連記事>

 ポール・ジェイコブス~ブラームス=ブゾーニ/11のコラール前奏曲(ピアノ独奏編曲版)


tag : ジェイコブス ジェフスキ

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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