ポール・ジェイコブス 『Busoni ;the Legendary Recording』 ~ ブゾーニ/多声演奏の訓練のための6つの小品 

2011, 07. 02 (Sat) 09:00

ブゾーニのオリジナルのピアノ作品で有名なのは、長大な《対位法的幻想曲(Fantasia Contrappuntistica)》。
唯一の《ピアノ協奏曲》も演奏時間が長いことでは良い勝負だろうけれど、どちらの曲も聴いたことのある人は少ないに違いない。
ピアノ独奏曲なら”カルメン幻想曲”として知られる《ソナチネ第6番》は録音もわりとあるので、知られている方かも。

20世紀に入るとブゾーニはかなり現代的な作風に変わっていったらしい。
ピアノ作品に限って言えば、有名なバッハなどの編曲ものとは違って、調性感が曖昧になり、やや捉えどころない曖昧さと形式が自由な幻想曲風なタッチの曲が多い。

ブゾーニが書いた珍しい練習曲集が《多声演奏の訓練のための6つの小品/Sechs kurze Stucke zur Pflege des polyphonen Spiels》(1923年)
録音も少ない曲なので、ジェイコブスのアルバムで初めて聴いたところが、予想外に面白い。
練習曲といっても対位法の練習曲なので、メカニック用の練習曲とは随分違っていて、単に指回りを”練習”するだけではないピアノ曲。
ジェイコブスはバッハとブラームスの編曲ものを弾くときとは違ったタッチで、シャープな打鍵とクリアな響きでとても明晰。
幻想曲風の和声の響きを聴くと、ドビュッシーを連想するけれど、感性的にはずっと乾いている。
対位法を使っているので、かっちりとした構成感もあり、ドビュッシーの《エチュード》ほどに摩訶不思議なところは少ない。

Busoni;the Legendary RecordingBusoni;the Legendary Recording
(2000/07/24)
Paul Jacobs

試聴する(allmuisc.com)

                      

この小品集には、最初に5曲版、最後に7曲版、それにジェイコブスが録音した6曲版の3バージョンがある。
録音をよく見かけるのは5曲版。
6曲とも旋律がメロディアスで和声がやや不協和がかったところがあって、晩年のブゾーニらしい現代音楽風。
葉巻をくゆらしたようなもやもや感とふわふわした浮遊感が漂っている気がする。
ほんの少し、ショスタコーヴィチの《24の前奏曲とフーガ》に通じる現代的な不確実さのような雰囲気を感じる。

1. pledudietto
可愛らしいオープニング風の雰囲気のある練習曲。私にはカッコウの二重唱みたいに聴こえる。

2. Sostenuto
冒頭とエンディングの半音階が密やか。対位法で取り巻かれた息の長いパッセージの旋律も摩訶不思議な雰囲気。

3.Andante moltotranquillo e legato
前曲と同じく不可思議なもやもや感のある旋律の動きと和声。

4.Allegro
この曲集の中で唯一エネルギッシュな曲。
練習曲の典型のような曲とはいえ、波のように疾走するパッセージとその上を流れる主旋律との対比が鮮やかでダイナミック。
これがそれぞれ左手と右手(低音部と高音部)に交代して現れて絡み合っていくところがとても面白い。

Busoni / Paul Jacobs, 1976: Etudes 3 & 4,
from Sechs Kurze Stücke Zur Pflege Des Polyphonen Spiels




5.Preludio:‘Andante tranquillo’
冒頭はややスローテンポ。パッセージが細かくなると加速感があり、数パターンの旋律が現れて、これも面白い練習曲。

6.‘Nacht Mozart’:Adagio
モーツァルトのオペラ《魔笛(Die Zauberflote)》の"the Armed Men"が出てくるシーンの音楽。(Youtubeでリファレンスのために少し観た)オペラよりもずっと秘めやかな雰囲気。
声部の音色がそれぞれ違っているので、シンプルな旋律なわりに立体感もあるし、そもそもオペラは全く聴かないので、歌なしの劇伴音楽だけの方が聴きやすい。

Busoni / Paul Jacobs, 1976: Etude 6, from Sechs Kurze Stücke Zur Pflege Des Polyphonen Spiels


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4 Comments

アメーバの友  

曲の流れに心をまかせて

musicaさん、今晩は。

Paul Jacobsのピアノの曲、米amazonでのサンプル曲を全部聞いてしまいました。僕は、音楽にあまり詳しくないけれど、ゆったりとした流れリズムと音の強弱に心をまかせてぼーっと聞いておりました。なにか、とてもゆったりとした気持ちになり、思わずうたた寝しそうになりました。まあ、時間も今23時頃というのもありますが。。。
兎に角、曲がいいとか悪いとかではなく、なんか自然な物を感じました。疎い表現ですが、僕の感想です。

2011/07/02 (Sat) 23:17 | EDIT | REPLY |   

Yoshimi(musica)  

自然な趣きのある音楽

アメーバの友さん、こんばんは。

ジェイコブスのCDを聴かれて、心地良く感じられたのでしたら、それはとても良かったです。
ジェイコブスの演奏は個性的なのですが、とても自然なものを感じますね。
私はそこがとても好きなので、ジェイコブスの演奏にはすっかりはまって、入手できるCDはほとんど買いました。

”ゆったりとした流れ”と書いていらしたのですが、CD1のストラヴィンスキー、バルトーク、メシアンはそれと正反対の騒々しく前衛的な音楽が多いのです。
何か変だな~と思って試聴ファイルを確認すると、全てCD2の音源でした。CD1の音源は入ってません。
トラック21~40は、曲のタイトルと音楽が一致してます。
トラック1~20は、CD2の曲が順番に流れてます。曲名と音楽が全く違ってますので、ご注意を。

CD2(試聴ファイル:トラック21~40)の最初の4曲は、ブゾーニのソナチネのNo.3~No.6。
これは現代的な乾いた叙情感があって、ロマン派的押し付けがましさのない曲です。
ジェイコブスも不協和音を柔らかく響かせて、もやもやした不可思議感がありますし、ちょっとモダンジャズを連想させるかもしれません。
こういう曲は好みが分かれますが、気に入る人にはとても心地良い音楽だと思います。

続く5曲目以降は、バッハとブラームスのコラールを編曲したものです。
コラールの旋律や和声のもつ独特の透明感、清明な叙情感には、一種の普遍性がある(と私は思ってますが)ので、キリスト教文化のバックボーンが無くても、共感できるものがあります。

ジェイコブスはタッチがやや柔らかく、丸みがある音色が温か。残響がやや長めで、コラールの低音はオルガン的な篭もった音なので、リラックスした気分になれる音だと思います。
彼のピアニズムは、”内面から自然に湧き起こるような”、”歌心のある”などと評されていますし、実際、歌うようにしなやかな起伏のあるレガートと生き生きとしたリズム感があります。
おっしゃる通り、とても自然な感じで心地良いので、何回も(というより何十回も)繰り返し聴いてます。

2011/07/03 (Sun) 00:21 | EDIT | REPLY |   

アメーバの友  

bach-liszt

musicaさん、こんばんは。

今日は、夕方からPaul Jacobsのサンプル曲を何回も聞き入ってました。彼のファーストアルバムの曲は、すぐには手に入らない。英国からの輸入となるのですね。Apple storeにもファーストアルバムの曲はアップされていないので、ダウンロード出来ません。今は、amazonのcartに入れたまま保留状態です。なぜか彼の曲に引かれます。それから、今日はLise de la salleのアルバム bachi lisztの中の曲をいくつか購入しました。
Fugue en Ré Mineur BWV 903
Choralvorspiel 'Nun Komm, Der Heiden Heiland' BWV 659
Choralvorspiel 'Ich Ruf' Zu Dir, Herr Jesu Christ' BWV 543
Fugue en la Mineur BWV 543: II. Transcription by Liszt
彼女の曲は、Paul Jacobsと違い、とてもキー一つ一つの音がとても鮮明に聞こえる感じがして、その張りのある音に少なからず魅了されました。

2011/07/03 (Sun) 23:13 | EDIT | REPLY |   

Yoshimi(musica)  

リーズのバッハ、素敵ですね

アメーバの友さん、こんばんは。

リーズの演奏、とても気に入られたのですね!それは良かったです。
彼女のバッハは、清楚な叙情感と凛とした緊張感があって、特に好きなのは、前奏曲とフーガ、半音階的幻想曲とフーガ。
まだ20歳にもなっていない頃の演奏ですが、音楽性の高さは、若さとは関係ないですね。
ジェイコブスとは音質や表現の仕方が違うので、曲の雰囲気も変わります。
自分の好きな演奏や演奏家を見つけるととても嬉しいものです。

ジェイコブスは日本では有名ではありませんが、米国ではLP時代からの根強いファンがいますから、やはりそれだけ良い演奏なのでしょう。
生き生きとしたリズム感や自然でレガートな音楽の流れに加えて、深みのある多彩な和声の響きが特に美しいです。
私はブラームスのコラールを初めて聴いて、すっかり引き込まれてしまいました。

『Busoni;the Legendary Recording』のCDは、私は日本amazonでavatarmusicから購入しました。ここが一番安くて、10日以内に届きました。英国なら発送後7日~10日で着くことが多いです。
EU内のamazonではダウンロード販売してますが、残念ながら日本からは購入できません。
仏amazonでは試聴ファイルが全曲ありました。CD1も試しに聴いてみられれば、もしかしたら面白いと思えるかもしれません。
でも、バルトーク・メシアン・ストラヴィンスキーは、好みとは違うようには思いますが...。

http://www.amazon.fr/Enregistrements-Busoni-L%C3%A9gendaires-Paul-Jacobs/dp/B0027OQIGC/ref=sr_1_1_digr?ie=UTF8&qid=1309706360&sr=8-1


また、Youtubeには、Jacobsのバッハ&ブラームス(ブゾーニ編曲版)の音源が多数ありますので、こちらの方ならかなりの曲が聴けます。

バッハ=ブゾーニ
http://www.youtube.com/results?search_query=paul+Jacobs+bach+busoni&aq=f

ブラームス=ブゾーニ
http://www.youtube.com/results?search_query=paul+Jacobs+brahms+busoni&aq=f

2011/07/04 (Mon) 00:30 | EDIT | REPLY |   

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