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ポール・ジェイコブス 『Busoni ;the Legendary Recording』 ~ ストラヴィンスキー/4つのエチュード
ポール・ジェイコブスの『Busoni;the Legendary Recording』は、ブゾーニ作品の演奏が素晴らしいけれど、カップリングされている現代のピアノ練習曲集も刺激的。
練習曲は、ブゾーニ《多声演奏の訓練のための6つの小品》、ストラヴィンスキー《4つの練習曲》、バルトーク《3つの練習曲Sz.72》、メシアン《4つのリズムの練習曲》。
いずれもLP時代に録音したもので、あまり知られていない作品ばかり。
コンテンポラリーをレパートリーの中心としていたジェイコブスらしい選曲と演奏が煌いている。

20世紀以前に書かれた"練習曲"とは違って、現代音楽の曲には実験的な要素が多いので、何の練習かよくわからないところはあるけれど、"練習曲"というタイトルに関わらず、これが予想外に面白い。
現代音楽的語法が数分足らずの短い曲のなかに凝縮されているので、延々と長大な曲を聴くよりははるかに聴きやすい。

現代音楽を得意としたジェイコブスらしく、明晰でブリリアントな演奏。
ストラヴィンスキー、バルトーク、メシアンは作風が違うので、万華鏡のように次々と違う絵模様が現れてくるような感覚。
ストラヴィンスキーの練習曲には最も過去の時代の面影が残っていて、現代音楽といってもそれほど抵抗なく聴けそうな曲。
バルトークやメシアンの練習曲には、初期のストラヴィンスキーを連想するところがある。
打楽器奏法が有名なバルトークは、幻想的な和声の響きにドビュッシーの影響を感じるものがあるし、オスティナートと打楽器的奏法が多用されて、全てが織り重なっていくと、時々メシアンを聴いているような気になる。
メシアンのエチュードになると、初期の《前奏曲》とは全く違って、独自の和声とリズムですぐにメシアンだとわかる。
《みどり児イエスにそそぐ20の眼差し》を連想するようでもあり、時々《トゥーランガリラ交響曲》も思い出す。
こういう厳つい尖った雰囲気でカラフルな音の洪水のような曲の方が、メシアンの"鳥シリーズ"よりはずっと聴きやすい。

ジェイコブスの演奏は、現代音楽を得意とするのもよくわかるくらいに、どの練習曲も色彩感豊かでリズム感も明快。
練習曲的な平板さや無機的なところは全くなく、鋭い造形力と明晰さで現代音楽的な難解さを感じることもない。
作曲家ごとに、タッチと色彩感を変えているので、作風の違いもわかりやすい。
バルトークは音の線が太めで重厚感があり、波のように滑らかで幻想的な響きはドビュッシー風。
メシアンでは、鋭いタッチと尖った響きが氷柱が突き刺すような感覚がする。特に、高音の音色は氷のような冷たさ。
新古典主義や調性回帰した現代音楽は耳ざわりが良くて聴きやすいけれど、20世紀前半の前衛性が強かった時代の現代音楽がかえって懐かしく、面白く思えてくる。

Busoni;the Legendary RecordingBusoni;the Legendary Recording
(2000/07/24)
Paul Jacobs

試聴する(allmuisc.com)
作品解説は、ジェイコブス自身によるもの。ピアノ演奏をする上での書法の特徴がよくわかる。
ピアニストであっても、(ピアノ作品以外の作品も含めて)作曲もするハフやムストネンも、自ら作品解説を書いていることが多い。

ストラヴィンスキー: 4つのエチュード/4 Etudes Op.7(1908)
ストラヴィンスキーが、1908年、ロシアを離れてパリへ向かう直前に書かれたもので、彼のApprentice(修業)期間と考えられている頃の最後の作品。器楽的な光彩が輝くような書法で書かれている。

No.1 ハ短調 Con Moto
- ポリリズムの練習。2連符&3連符の旋律が、4連符で伴奏される。
- ポストロマン主義的な作風で、中期のスクリャービン的。

解説どおり、練習曲といっても、ロマンティックで濃厚な叙情感は、まるでスクリャービンを聴いている気分。

Stravinsky / Paul Jacobs, 1976: Etude No. 1, Con Moto, From Four Etudes, Op. 7 (1908)



No.2 ニ長調 Allegro Brilliante
- 他の曲よりも音色(tonally)に中心をおいた作品。
- 遅いテンポの和声変化、速い動きのパターンというところは、19世紀の作品に似ている。
- ストラヴィンスキーの特徴である、ノーペダルでドライな響きの和声で、弦楽よりも木管的。
- 最初の主要部分では、右手6拍子&左手4拍子、次の再現部では、左手5拍子&右手6拍子。

クロスリズムになっているので、各声部がややずれた感じで重なって、くっきりと線的に聴こえてくるところが面白い。

Stravinsky / Paul Jacobs, 1976: Etude No. 2, Allegro Brilliante, From Four Etudes, Op. 7 (1908)



No.3 ホ短調 Andantino
- ソフトペダルを一貫して使用。最もシンプルな曲で旋律はチェロ的。
- 左手はハーモニ。右手は波のようなアルペジオで伴奏される。

和声が少し幻想的でどこかノスタルジックな旋律。
《イ長のソナタ》を聴いていると感じるのと同じく、セピア色のようなくぐもった雰囲気が漂っている。
ストラヴィンスキーの古典回帰時代を連想させる。

Stravinsky / Paul Jacobs, 1976: Etudes Nos. 3 and 4, From "Four Etudes, Op. 7" (1908)



No.4 嬰ヘ長調 Vivo
- 最も演奏機会の多い曲の一つ。軽快でドライでウィットに富み、聴覚的というより視覚的に訴えるような奇妙なところがある。
- 小節の上をstaggered(ずらして。小節をまたがって、ということらしい)で書かれているので、最後に8分音符を挿入してエンディング。

いかにも練習曲風の細かく速いパッセージ。
たしかに、何かがちょこまかと慌しく動き回っているようで、視覚喚起力が強い。
規則的に拍子がとれるので、フレーズが小節を超えて書かれているというのは、聴いていてもよくわからない。

<関連記事>
ジェイコブス 『Busoni ;the Legendary Recording』 ~ ブゾーニ/多声演奏の訓練のための6つの小品


tag : ストラヴィンスキー ジェイコブス

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

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好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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