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ポール・ジェイコブス ~ アメリカン・ピアノ・ミュージック・リサイタル
ポール・ジェイコブスは、ドビュッシー、ストラヴィンスキー、シェーンベルク、カーターなどの現代の音楽を得意のレパートリーとしていたので、ディスコグラフィには現代音楽の作品が多い。
米国人だったせいか、米国の現代音楽作曲家に知己が多く、レパートリーにも彼らの作品が並ぶ。
現代アメリカ音楽のピアノ作品を集めたアルバムが『Paul Jacobs Plays Blues, Ballads & Rags』。
コープランド、ボルコム、ジェフスキーの作品のスタジオ録音(Nonsuch盤のLP)。国内盤は廃盤らしい。
一番演奏時間が長く、内容も充実しているのが、ジェイコブスがジェフスキーに委嘱したピアノ独奏曲集《ノース・ アメリカン・バラード(North American Ballads)》。
ブルース、バラード&ラグ アメブルース、バラード&ラグ アメ
(1996/10/25)
ジョイコブス(ポール)

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現時点で入手可能なアメリカ現代音楽の録音は、『Stravinsky: Music for Four Hands』。
ジェイコブスとウルスラ・オッペンス(英語よみだとアーシュラ)の2人によるストラヴィンスキーの連弾/2台のピアノ曲の作品集(スタジオ録音)。
ウルスラ・オッペンスは、アメリカで現代音楽をレパートリーとする"草分け的存在"のピアニストらしい。ディスコグラフィにはエリオット・カーターなどの米国人作曲家の作品が多い。
オッペンスは、子供の頃から現代音楽が好きで、周囲からはあまりに現代音楽ばかり弾きすぎると言われた。しかし、ジェイコブスはそれは素晴らしいことだよ..と彼女を励ましたという。

このアルバムは、Nonesuch原盤のLPをArbiterが初CD化したもの。
タイトルはストラヴィンスキー作品集(だけ)のように思えるけれど、CD2には、珍しくもジェイコブスのリサイタル(1979年)のライブ録音が収録されている。
このリサイタルは、ジャズがクラシックに与えた影響に関するレクチャーコンサート風な構成。
ジェイコブスがストラヴィンスキー、コープランド、ボルコム、ジェフスキーの作品に関して解説しながら、実演する形式。ジェイコブスの解説がそのまま収録されている。
残響があまりないので、ややデッドな音質。その代わり、小さな部屋(ホール)で弾いているような身近さと聴衆のダイレクトな反応が録音されている。
稀少なのは、コープランド自身が舞台に登場して、ジェイコブスと語り合い、自作の《キューバ舞曲》をジェイコブスと一緒に2台のピアノで演奏しているところ。これがピアニストとして演奏したコープランドの最後の演奏だったという。

Music for Two & Four HandsMusic for Two & Four Hands
(2008/04/15)
Bolcom,Rzewksi Stravinsky

試聴ファイル(allmusic.com)


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ジェイコブスのリサイタル(1979年、ライブ録音)
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ストラヴィンスキー
1.Piano Rag Music
ストラヴィンスキーの3曲のなかでは、これが一番面白い。第1曲はリズム感が面白いのと、不協和音が調子っぱずれで、どこか間が抜けてユーモラス。
2.Tango
Tangoはたしかにタンゴのリズムなんだろうけど、猫がひそかに歩き回っているような軽妙さがなくて、カクカクゴツゴツ。よく聴くタンゴよりも硬くていかめしい。
3.Ragtime
Tango同様、明るくリズムミカルなジャズのラグタイムとは違って、現代音楽風というのか、とても理屈っぽいラグタイム。
 
ドビュッシー
 『前奏曲集第1巻』~第12曲「ミンストレル」(Minstrel)
 『前奏曲集第2巻』~第6曲「風変わりなラヴィーヌ将軍」(général Lavine eccentric)

「風変わりなラヴィーヌ将軍」については、青柳いづみこさんの連載「ドビュッシーとの散歩」解説が面白い。
てっきり軍人を揶揄した曲だと思っていたら、「ラヴィーヌ将軍」はフランスのマリニー劇場でデビューしたアメリカ生まれの喜劇手品師のことだった。
「ミンストレル」はアメリカの音楽演劇団「ミンストレルズ」のこと(「ドビュッシーとの散歩」)。
両曲とも米国の道化芝居がらみの曲なので、ドビュッシーの前奏曲集からこの2曲だけ抜粋してジェイコブスがリサイタルのプログラムに入れたようだ。


シェーンベルク/2つのピアノ曲 Op.33a&b
どうしてシェーンベルクがここに入っているのかというと、ジェコブス自身が書いた解説では、この2曲はジャズ的であるらしい。(「誰もそうは思っていないけれど」...と、ただし書きがついている)
シェーンベルクのピアノ作品は、最初はとっつきが極めて悪いけれど、ピアニストを変えて何度も聴くとそれぞれ違った弾き方なので、慣れれば意外に面白く聴ける。
ポリーニのシェーンベルクは殺伐とした雰囲気、グールドは微妙な音色の変化と落ち着いたトーンでクールな叙情感。グールドのシェーンベルクは美しくて、かなり好き。
ジェイコブスは、リズム感と強弱のメリハリをつけたフレージングで、まるで語ったり歌ったりしているような歌心があるし、声部ごとの音色と表情の違いが明瞭でポリフォニックな立体感。とても聴きやすくて面白い。
グールドの録音は、どちらかというと静的な感じがするけれど、ジェイコブスは正反対にダイナミック。
この2曲は、アルバン・ベルクのピアノ・ソナタと同じような旋律がよく出てくるし、音の間隔・密度やリズムも似ているところがあるので、ベルクの曲を聴き慣れた人ならすんなり入っていけるはず。


コープランド/4つのブルース Four Piano Blues
1.Freely Poetic
2.Soft And Languid
3.Muted And Sensuous
4.With Bounce

聴きやすい曲とはいえども、ジェフスキやボルコムのように流麗なソングフルな曲ではないところが、コープランドらしい。


コープランド/キューバ舞曲 Danzon Cubano(2台のピアノ)
コープランドとジェイコブスのデュオ。リズムがちょっと複雑なので、ピタっと合わせるのが難しいらしく、演奏はちょっと危なっかしい...。


ボルコム/Ghost Rags
1.The Graceful Ghost Rag
2.Poltergeist
3.Dream Shadows


38年シアトル生まれの作曲家ボルコムはピアニストでもあり、ラグ演奏者としても有名らしい。オムニバスのラグ曲集録音もあるし、自らも多数のラグを作曲している。
ボルコムが書いたラグのなかでは、《Ghost Rags》が一番有名で、比較的録音も多い。オムニバス版のラグ曲集のアルバムなどで、第1曲の”The Graceful Ghost Rag”が録音されているのをよく見かける。
"The Graceful Ghost Rag"は、タイトルどおり少し哀感を帯びた旋律がとても優雅。ジェフスキの《"不屈の民"変奏曲》の主題に雰囲気が似ていて、とっても聴きやすい。
CD2のなかで一番気に入った曲が、この曲とジェフスキの"Down By The Riverside"。
なぜか、《"不屈の民"変奏曲》と同様、"The Graceful Ghost Rag"を聴くと、ずっと昔に大原麗子が出ていたサントリーオールドのTVCMのBGMを思い出してしまう。

William Bolcom 'Graceful Ghost' Rag - Paul Jacobs, piano


"Poltergeist"も、ポルターガイストらしい、ちょっと落ち着きのないユーモラスなリズムで面白い。
最後の"Dream Shadows"はムード音楽風。あまり好きなタイプの曲ではないので、似たような旋律がずっと続くとちょっと冗長な感じがする。



ジェフスキー/《ノース・アメリカン・バラード》より 第3曲"Down By The Riverside"

ジェイコブスの依嘱により作曲されたのが、《ノース・アメリカン・バラード》。[Wikipediaの作品解説]
ジェフスキの作品のなかでは、《"不屈の民"変奏曲》と並んで有名な作品。
全部で4曲あるが、第3曲の"Down by the riverside"か第4曲の"Winnsboro cotton mill blues"だけ録音されていることも多い。
"Down by the riverside"はベトナム戦争時代に反戦運動歌で有名な曲をモチーフにしたもの。
"Winnsboro cotton mill blues"は、ミニマル的な奏法で、ピアノの音が紡績工場の紡織機のような音とリズムに聴こえてくるのがとても面白い曲。

この曲はアムランの録音もわりと知られている。全体的に流麗なレガートと豊かな残響がゴージャズな感じ。テーマの内容からして、やや華麗すぎる気がしないでもないけれど。
《不屈の民》変奏曲でも感じたのと同様、全体的にスタイリッシュでロマンティックな叙情感を感じるけれど、不協和音が醸しだす不安定感などはやや薄い。

ジェイコブスが弾く長調の冒頭主題は、まるで広々とした緑豊かな草原に吹く風のように、素朴な趣きがあってとても爽やか。
他の曲と同様、やがて不協和音が混じってきて、不安定感、不確実性など、現代音楽的な雰囲気が強まっていく。
アムランのような華麗さはなく、不協和音が入ってくると、平和な日常に亀裂が生じたように混沌としていく。
調和的な部分と不協和的な部分では、響きと雰囲気が一変して、コントラストは明瞭。不協和音は荒くざらついた音色でどこかしら焦燥感のようなものが漂う。
調性的に安定している主題を弾きつつ、不協和音の伴奏と対旋律を弾くところの扱い方が上手く、それぞれの旋律線がくっきりと弾き分けられ、クリアな響きと相まって、ジェイコブスらしい明晰さを感じさせる。


これは後年のスタジオ録音。ライブ録音がややデッドな音質なので、スタジオ録音の方がずっと良い。
Frederic Rzewski: Down By The Riverside (1979) (Piano:Paul Jacobs)




tag : ジェイコブス シェーンベルク ジェフスキ ドビュッシー

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疲れ
こんばんは。
今日は、少しだけ書ける気力が出てきました。
ジェイコブスの曲は、ほぼ毎晩聞いています。
The Six Sonatinas for Piano: Sonatina no. 5 "Sonatina brevis in signo Joannis Sebastiani Magni" (Busoni)
The Organ Chorale Preludes: Ich ruf' zu dir, Herr / I call on thee, Lord (Bach-Busoni)
The Organ Chorale Preludes: Durch Adam's Fall ist ganz verderbt / Through Adam came our fall (Bach-Busoni)
The Organ Chorale Preludes: Jesus Christus, unser Heiland, der von uns den Zorn, Gottes wandt (Bach-Busoni)
The Organ Chorale Preludes from Op. 122: Herzlich thut mich verlangen / My inmost heart doth yearn - 2nd version (Brahms-Busoni)
Andante molto tranquillo e legato
Allegro
Bartok: Three Etudes
Andante
Busoni: Sonatina no. 1
曲を並べるだけで、精一杯だけど。
なぜだか、今の僕の心にはロックよりもコブスの曲がしっくり入ります。
心の琴線に触れるもの
アメーバの友さん、こんばんは。

この猛暑のため、頭の中の音が増幅して苦労されている方が多いようです。
掲示板の書き込みも少なくなってますし、こういう時は無理に書き込まなくても良いですよ。

ジェイコブスのCD、お気にいられたようで何よりです。
ジェイコブスのピアノ演奏も波長が合うのでしょうが、それ以上に、ブゾーニやバッハ、ブラームスの曲自体が、今の好みや心情にぴったりと合っているのだと思います。

ブゾーニの《ソナチネ》は現代的な和声と曖昧な調性感が摩訶不思議で、綺麗ではありますけど、乾いた感性や浮遊感のようなものも感じます。
ブゾーニの《エチュード》なら私も「Allegro」が一番好きです。この疾走感と何かが迫りくる感覚が、何とも言えません。

バルトークの《エチュード》は、ドビュッシー的な和声がとても幻想的。
バルトークらしい厳つい雰囲気も漂ってますが、バルトークにしてはちょっと変わった作風ではないかと思います。

(ブゾーニが編曲した)バッハとブラームスのコラール前奏曲というのは、コラール自体が祈りの曲なので、前奏曲も心の奥深くの琴線に触れてくる何かがあるのだと思います。

>The Organ Chorale Preludes: Ich ruf' zu dir, Herr / I call on thee, Lord (Bach-Busoni)
この曲は私もとても好きですよ。
”主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる”という意味らしいですが、イエスに救いを求めているのでしょう。
ジェイコブスの切々としたピアノがそう感じさせます。

>Durch Adam's Fall ist ganz verderbt”と”Jesus Christus, unser Heiland, der von uns den Zorn, Gottes wandt ”
短調で静けさがあり、深い祈りが込められたような曲ですね。
私はどちらかというと明るい色調の方が好きな曲が多いので、こういう曲が続くとさすがに重いです。

>The Organ Chorale Preludes from Op. 122: Herzlich thut mich verlangen / My inmost heart doth yearn - 2nd version (Brahms-Busoni)
この曲はとっても良いですね!ブラームスのコラール前奏曲の中でもっとも好きな曲です。
この曲を聴いたがために、ジェイコブスのCDコレクターになったのでした。おかげで、ベートーヴェンのライブ録音が入っているCD以外は、ほとんど集めてしまいました。
他のピアニストの同曲の録音も聴きましたが、ジェイコブスのピアノの訴えかけてくる力がとりわけ強く、”Legendary Recording”というアルバムタイトルが納得できてしまいます。

その時々によって、聴きたくなる曲や演奏というのは変わりますから、今はロックよりも、このアルバムの曲の表現しているもの、篭められているメッセージが、たぶん今の心情とシンクロしているのだと思います。
もともと選曲も演奏も素晴らしく良いですし、これからも繰り返し聴くアルバムになれば良いですね。
ムジカさんへ
ムジカさん、いつもありがとう。

Paul Jacobs - Graceful Ghost Rag (William Bolcom).mov この曲大好きです。
「君の瞳に乾杯~」

掲示板見てくださいね。

   ゆり



カサブランカ
ゆりさん、こんにちは。

ここ最近、本当に暑いですね。さすがに、寝る時に1時間だけ、エアコン入れてます。

こう暑苦しいと、耳鳴りだけでなく、体のあちこちが変調をきたすようになりますから、無理せずゆっくり休養してくださいね。
掲示板ではいろんな方の投稿に対して、いつも丁寧に書き込みされていて、管理人並に大変だと思います。
ゆりさんはとても律儀な方なので、かえって心身両面で負担になっているのかもしれません。
私も耳鳴関係のブログ記事は直接掲示板でもお知らせするようにします。
それに、追伸の件、了解しました。

"Graceful Ghost Rag"、とっても素敵な曲ですよね!
私は一度聴いただけで、すっかり好きになりました。クラシックの作曲家が書いたとは思えないほどロマンティックです。

「君の瞳に乾杯~」 、カサブランカの名セリフですね。
バーグマンは大好きな女優さんなので、映画はかなり見ましたが、「カサブランカ」のバーグマンはとりわけ美しいように思います。

「カサブランカ」といえば、シナトラが歌う"As Time Goes By"が有名なんでしょうが、私はBertie Higginsの”Casablanca”をすぐに思い出します。
郷ひろみのヒット曲”哀愁のカサブランカ”の原曲ですが、歌詞が映画にぴったりだし、哀愁漂うメロディがとっても素敵です。

http://www.youtube.com/watch?v=Q4wyYybnams&feature=related
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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