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宮澤賢治 『春と修羅』
随分暖かくなって春らしくなってきたので、ふと思い出したのが宮沢賢治の詩集『春と修羅』。
この詩集は、今まで読んでいたどの詩集とも違った感覚の世界。
Kenさんのブログ<Kanazawa Jazz days>で以前に紹介されていた序文の冒頭の一文がとても印象的だった。
人間と物質と色彩のイメージが入り混じった独特の比喩で、幻想的でありつつリアリティを感じさせる不思議な世界。

  わたくしといふ現象は
  仮定された有機交流電燈の
  ひとつの青い照明です
  (あらゆる透明な幽霊の複合体)
  風景やみんなといつしよに
  せはしくせはしく明滅しながら
  いかにもたしかにともりつづける
  因果交流電燈の
  ひとつの青い照明です
  (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

 『春と修羅』(青空文庫)

『春と修羅』のおさめられている詩の文字から感じされる肌触りと色彩感は独特。
出てくる言葉は、詩的なイメージを喚起する言葉、心の動きを伝える言葉、いつもの生活で取り囲まれている馴染みのあるモノの名前、無機的な技術用語、自然界にある動植物や諸々の事象、宇宙空間に存在する天体、etc.
異質と思えるようなイメージや感覚を持つ言葉が連なっていくところは、感覚的にとても斬新で不思議な面白さ。

無機的なモノの世界は、ざらざら、ゴツゴツ、クール。叙情を拒否するような触感がある一方で、色とりどりのモノの世界でもあって、とても色彩感豊か。

そこに人間の表情、動き、感情が入り混じっているところは、比喩というよりも、有機的な生命体と無機的な物質とが渾然一体となって、強い視覚的イメージを湧き起させる。

絵画というよりも、映画やドラマに出てくるようなリアリティのある情景がくっきりと目の前に現れて、ときどき、幻想的な世界を見ているような不思議な感覚。

それに、旧かなづかいの詩は、空気を含んだような柔らかさとレトロな時間感覚をかもし出して、現代の詩とはちがった味わい。
こういう詩は、ざらざらとした紙に印刷された縦書きの本で読みたい。その方がこの詩集にはふさわしい気がする。

文字を見てこんなに魅せられる詩はいままで出会ったことがないのに、とても親近感を感じてしまう。
それはたぶん、『銀河鉄道の夜』など賢治の作品のなかに、この詩の世界とどこか相通ずるような空気や肌触りを感じるから。

宮沢賢治全集〈1〉 (ちくま文庫)宮沢賢治全集〈1〉 (ちくま文庫)
(1986/02)
宮沢 賢治

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『春と修羅』について検索していて、偶然見つけたのが、社会学者の野村一夫教授の「社会学感覚-自我論/アイデンティティ論」
『春と修羅』序詩を自我論という観点から解釈したもの。
賢治のこの序詩は、「「わたくし」=自我が流動的な現象であり、自然と他者の関数であり、それゆえ矛盾を内部にかかえこんだ複合体であるということ」を表わしているという。
ずいぶん昔に学んだ社会学と宮澤賢治の接点がこういうところにあったとは...。偶然の発見とはいえ、何かの縁があったのかも。


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(非公開コメント受付中)

宮沢賢治雑感
宮沢賢治雑感

おはようございます。
いよいよ春になってきましね。

「春と修羅」の記事を読みました。

>賢治のこの序詩は、「「わたくし」=自我が流動的な現象であり、自然と他者の関数であり、それゆえ矛盾を内部にかかえこんだ複合体であるということ」を表わしているという。

その通りだと思います。

詩集でなく心象スケッチ(mental sketch modified)と副題されています。
鉱物採集や土壌調査(彼の作製した鉱物標本など現在でも学問的に高く評価されています)などで野山を歩き回った自分を「春」とし、妹トシの死を泣きながら愛慕する自分・・・しかしこの生の世界は自分を「修羅」としてしまう現実!

この、「春と修羅」の中、目次「無声慟哭」があり、有名な「永訣の朝」があります。最大最愛のよき理解者だった妹トシ、その死に際しての賢治の叫びが美しく悲しく結晶しています。

けふのうちに
とほくへいつてしまうわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
  (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

冒頭の部分です。

賢治の世界は、人間世界の生と死の境界を自由に飛び越えて、宇宙空間の中で「矛盾を内部にかかえこんだ複合体」としての人間存在、その不可思議さを他の作品(例えば「銀河鉄道の夜」)にも散りばめているようにも思えます。
大正時代の詩とは思われない現代詩の感覚で読んでしまいます。

しかも、東北の大地の中でまじめでひたむきな生活者だった宮沢賢治!
日本の詩人としては異色で偉大な宮沢賢治です。
取り上げてくださったYoshimiさんに感謝です。
永訣の朝
すず子さま、こんにちは。

賢治の作品は、小説はほとんど買い揃えて読みましたが、「春の修羅」は今回初めて知りました。

「春と修羅」は、ぽかぽかのどかな春というよりは、東北のまだ寒い春を感じさせるような冷んやりした感触を感じます。
「永訣の朝」の全文と解説も読みました。
"天上のアイスクリーム"よりも"兜卒の天の食"の方が深い意味が込められていて、賢治の世界観と追悼の気持ちが伝わってきますね。
やはり作品解釈を読むと、文が書かれた背景や言葉に込められた意味を知ることができて、感じるものがより深くなります。
いろいろ解説していただいて、ありがとうございました。

「永訣の朝」の解説を読んでいて、思い出したのですが、作曲家の吉松隆氏も妹さんを若くして病気で亡くされています。
《サイバーバード協奏曲》は妹の病床の傍らで作曲した曲で、完成しないうちに亡くなられたそうです。
その第2楽章は「悲の鳥:悲しみの鳥の独白と、その横で夢を紡ぐように歌う鳥たちのアンダンテ」。
http://www.youtube.com/watch?v=KnIa_s9Iueg
このほかに、《鳥と虹に寄せる雅歌》という曲も妹に捧げた曲です。

また、ラトヴィア生まれの作曲家ペトリス・ヴァスクスも亡き妹を追憶した曲「Musica Dolorosa For String Orchestra」を書いています。(これはかなり現代音楽風ですが)
http://www.youtube.com/watch?v=D9k4Nh2oRwg

芸術家は、自分の思いを作品に託さないではいられないのでしょう。

大正時代の
宮澤賢治の世界は年齢を重ねるごとに、その不思議さに驚かされるような感覚があります。子供の頃に、科学に対する無垢の憧れを昇華させたような文章だと思っていました。それに、日蓮宗に対する激しい入れ込み(石原莞爾をはじめとする昭和初期の社会変革を目指した人々も)、また仏教への篤い思いからの西域への憧憬(当時は大谷探検隊が内陸アジアに向かった)。そんな渦巻くような混沌とした時代のなかで、あのような純度の高い表現に集約する力の不思議。
依然、春と修羅の序文の美しさは、理系たる私の気持ちを揺さぶり続けていますが。
言葉のリアリティ
Ken様、こんばんは。

ご紹介されていた『春の修羅』の序文は、一目で今まで見たことのある詩とは違った世界を感じました。
ああいう比喩で人間を捉えるのは、理系の人独特のものがありますね。
文系の私には思いつかない喩え方です。文系だと、自我論については哲学・社会学・心理学などでそれぞれ理論化されているので、専門用語で説明してしまいがちです。

賢治の小説も、自然の風景や生活のなかの情景描写にとても生き生きとしたリアリティを感じます。
独特の言葉に対する感覚・言い回しを通じて、物の動きや色彩が目に浮かんでくるようです。
昔はそれほどでもありませんでしたが、『春の修羅』の詩集を読んでから、小説を読み返していると、言葉・表現の鮮やかな質感・触感・色彩感を感じるようになりました。
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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