*All archives*



ブレンデル ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第1番(ライブ録音)
秋に似合う音楽といえば、ブラームス。毎年夏が終ると、いつも同じことを書いている気がする。
ブラームスが大好きな人は誰しも、秋になるとブラームスを聴きたくなるというくらい、秋はブラームスに良く似合う。

ブラームスは、大学時代に《交響曲第3番》をNHK-FMでたまたま聴いてから、ブラームスとクラシックの世界にはどっぷりはまったので、それ以来ベートーヴェンと並んで好きな作曲家。
最初は交響曲ばかり聴いていたけれど、ツィメルマン/バーンスタイン&ウィーンフィルの《ピアノ協奏曲第2番》を聴いてからは、ピアノ協奏曲を聴くことが多くなってしまった。
昔は第2番の方が好きだったのけれど、今は好みが変わって第1番の方を聴くことが多い。
交響曲と違って、ピアノ協奏曲にはいろいろこだわりがあるので、好きなピアニストの録音はかなり集めているし、他のピアニストの録音も試聴することは多い。(これは試聴どまりで終ることが多い)

ブレンデルの第1番の録音は昔から名盤といわれるものの一つ。
かなり以前に試聴したことはあるけれど、その時は音が軽くて線が細い気がして、もう一つピンと来るものがなかったような...。
最近になってブレンデルを聴き始めたので、やはりとても好きな第1番のコンチェルトのCDは手元においておきたいもの。
ブレンデルの第1番の録音は、今出ているもので3種類。

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(録音:1973年5月)
クラウディオ・アッバード指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(録音:1986年9月)
サー・コリン・デイヴィス指揮バイエルン放送交響楽団(録音:1985年2~3月)

Youtubeにあったのは1973年スタジオ録音(旧盤)の第3楽章。
速いテンポとシャープなタッチは好みにぴったり。
後年、ブレンデルがスタジオ録音したベートーヴェン、ハイドン、リストの演奏で感じる理屈っぽさやクセのあるアーティキュレーションなどが少なく、鋭角的なタッチでストレートに一気に弾きこんでいく。
若いブラームスの激しい感情が込められた、疾風怒涛のようなテンションの高さを感じるのは、今まで聴いてきたブレンデルの録音では珍しいかも。

Brahms / Alfred Brendel, 1973: Piano Concerto No. 1 in D minor, Op. 15 - Rondo (Vinyl LP)



試聴した感触といくつか読んだレビューをもとに、ちょっと悩んでから、結局、1985年のライブ録音のCDを購入。
1973年の旧盤のスタジオ録音も良かったけれど、これは廃盤で入手しにくい。(でも、そのうちこの録音は手に入れないといけない)
ライブ録音は、ブレンデル80歳の誕生日を記念してリリースされた過去の録音集。
ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第31番》とモーツァルトの《ピアノ協奏曲第25番》というカップリングが魅力的。
それに、ブレンデル自身、アバドとのスタジオ録音よりも、ライブ録音の方が"オケとピアノとの音のバランスが良い"と言っているので。(アバド盤は、ピアノが遠くから聴こえてくるという)

指揮者とオケには、もともとさほどこだわりはない方とはいえ、アバドは、若い頃のポリーニと録音したブラームス・ベートーヴェンのピアノ協奏曲など、少ししか聴いたことがなく、特に好きな指揮者でもない。
コリン・ディヴィスは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集などアラウとの録音で昔から馴染みがあるので、やっぱりこちらが良さそう。

ブレンデル・バースデー・トリビュートブレンデル・バースデー・トリビュート
(2011/04/13)
ブレンデル(アルフレッド)

試聴する(米amazon)


最も好きなアラウとカッチェンのライブ録音に比べると、音質が軽くて線が細く、好みとしては量感がもう少し欲しい気はする。
ブレンデル自身が対話録で言っていたけれど、若い頃は比較的音が小さく、強弱の幅が狭いと言われて、40代、50代になってから、デビュー当初と比べて音量が倍増した。この曲(ピアノ協奏曲第1番)をいつか弾きたいと思っていたので、努力して(訓練して)音を大きくしたという。
音質が軽くて音量が小さいと、フォルティシモでは鍵盤を叩いているような強いタッチになりがちなので、それが演奏にも出ているような気がするところはある。

1973年のスタジオ録音とライブ録音を比べると、第3楽章の録音時間はあまり変わらないのに、スタジオ録音の方がずっとスピード感があってシャープな演奏。(テンポが速いところで細かいパッセージを弾くと、ちょっとせわしない感じはするけど)
たぶん、タッチが切れ良く音質も軽めな上に、表現がやや直線的で一気呵成のような勢いがあって、その分、叙情性がやや薄いせいかも。

第3楽章を聴き比べた限りでは、このライブ録音の方が、細部の表現が細やかになって、音の色彩感もずっと増して美しく、音楽のつくりとしてはライブ録音の方がずっと良い感じ。
打鍵が柔らかくなって、音に尖ったところがなくなって、音も聴きやすい。
特に、第1楽章と第2楽章は、ゆったりとしたテンポなので、ブレンデルの美音と優美な歌いまわしが映えて、叙情豊かでブレンデルらしいと思えるブラームス。
最初聴いたときは、両盤とも好みと全然違うというわけではないのに、良いとも悪いとも言えなくて、珍しくも何回も聴き直し。
初めはスタジオ録音の方がテンションが高くて好みに合いそうと思ったけれど、何度か聴くと、ライブ録音の方がソノリティと表現とも多彩で、曲に奥行きや広がりがあるように思えてきた。
どちらのブラームスもそれぞれの味わいがあって、聴けば聴くほどしっくりと馴染んでくる。
でも、ライブ録音の方が、速いテンポで疾走感は維持しつつも、ソノリティが多彩で弱音も柔らかく響き、なにより流麗さと叙情性が濃くなっているので、スタジオ録音よりもずっと好きになりそう。
初秋早々、こんな素敵なブラームスの出会うというのは久しぶりで、なんて幸先良いこと!
11月にはカッチェンのライブ録音がリリースされるし、ブラームスの音楽で実り多い秋になりそうな予感。



                       

『対話録「さすらい人」ブレンデル』(音楽之友社,2001年10月発行)で、ブレンデルがブラームスについて語っている。

ピアノ協奏曲について:
《ピアノ協奏曲第1番》は昔から弾きたいと思っていた曲だという。
しかし、右腕を故障して半年間休養してからは、体力的に特別きつい作品-このピアノ協奏曲ニ短調、《ハンマークラヴィーア・ソナタ》、リスト《ロ短調ソナタ》、シューベルト《さすらい人幻想曲》-をレパートリーから外している。

《ピアノ協奏曲第2番変ロ長調》は「それほど良い作品だと思ったことがありません。しかし、それでも弾いたのは、重要な義務であると思ったから、そしてどこまでこの曲を制することができるのかを知りたかったからです。自分の演奏には不満です。第1楽章は素晴らしいのですが、残りの楽章の質が劣るのです。逆に、《協奏曲ニ短調》ではどの音をとっても必然性があると思います。」

ピアノ協奏曲以外の作品ついて:
ブレンデルのブラームス録音は、2曲のピアノ協奏曲以外は、上記で言及されている《バラード集》など数少ない。

「若い頃のブラームスはひじょうに、「ダヴィット同盟」的です。シューマンに近い感覚があり、シューマンがなぜブラームスの音楽に感動したのか説明もつきます。しかし、すぐに《ピアノ三重奏曲Op.8》と最初の《弦楽六重奏曲Op.18》の間くらいに、もっとも美しい音楽を書いたと個人的に感じる時期がやってきます。《ピアノ協奏曲二短調》や《バラード集Op.10》がそうですが、私は録音で第4曲目を失敗しています。」

「《ソナタへ短調》は中間の3つの楽章だけ弾きたい気持ちになります。特に最終楽章が救いのない音楽だと思うのです。どのような弾き方をされても、あの楽章に説得力を感じることはないでしょう。あと、あそこで引用されているドイツのビアホールの歌が嫌いです。ベートーヴェンのソナタ《作品2の3》の最終楽章のような感じで始まるのですが、最後は学生組合の賛歌のようで、個人的に魅力を感じません。晩年[原文ママ]の作品で個人的によくできていると思うのが、一連の《ピアノ四重奏曲》です。」
※3曲のピアノ四重奏曲は、第1番&第2番が1861年、第3番が1875年の作品。ブラームスが生きていたのは1833年~1897年なので、「晩年」の作品とは言い難い。「後年」か「初期」の間違い?

後期のピアノ作品について:
「後期のピアノ作品はひとつの楽章が内容的に重すぎることがときどきあるのですが、初期の作品ではそのような曲は見当たりません。《ピアノ協奏曲二短調》の書法はのちの作品よりも明瞭で構造もはっきりしています。後期の作品では、なんらかの内声部や副声部にひっかかってしまって、ブラームスはなぜ11本か12本の指を持ったピアニストのための作品であることを明記しておいてくれなかったのだろうと感じることが多々あります。もっともレーガーとプフィッツナーにかかると13本の指が必要になりますけどね。」

「晩年のブラームス作品も好きですが、私としてはなぜかまだ充分な作品理解に達していないような気がします。ですから、忘れられていた50年代のケンプの録音が、再び登場してきたことを嬉しく思います。いまでもケンプの録音は尊敬の念をこめて聴いてます。」
(ケンプの後期ブラームス作品集は、50年代のモノラル録音と70年代のステレオ録音の2種類が残っている)


ブラームスについて:
「ブラームスは古典派の作品を研究しています。彼はとても教養のある作曲家で、のちに過去の多くの作曲家の作品を熱心に研究しただけではなく、教本もたくさん読んでいます。バロック音楽にも詳しく、編曲の才能にもたけていました。私は彼の人柄も尊敬しています。」


対話録「さすらい人」ブレンデル リストからモーツァルトへの道程対話録「さすらい人」ブレンデル リストからモーツァルトへの道程
(2001/10/09)
マルティン マイヤー

商品詳細を見る



<An die MusikクラシックCD試聴記> "アルフレッド・ブレンデル 第6回 ブラームスの2曲の協奏曲を聴く"
執筆者は、実際にピアノ演奏で「定期収入を得ているアマチュア」演奏家。
ピアニストの経験に基づいた視点が入っているので、多少なりともピアノを弾く身としては興味を弾かれるシリーズ。

ブラームス以外のブレンデル録音に関する評論リストは以下のページから閲覧できる。
<An die MusikクラシックCD試聴記> "アルフレッド・ブレンデル ―誤解を受け続けているロマンティスト― 《真のブレンデルの魅力を探るディスクの紹介》"


tag : ブラームス ブレンデル

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
ブレンデルのブラ1
こんにちは。
ブレンデルのブラームスの1番は、イッセルシュテットとアバドのを聴きました。前者はダイナミックに溢れていて勢いがよく、印象に残っています。これは記憶が確かならば、イッセルシュテットの最後の録音でした。
アバドのは、オーケストラが神経質なところに違和感を感じました。もともと、アバドのブラームスが苦手なこともあり…。
デイヴィスのはよさそうですね。
ブレンデルのブラ1、とっても良いですね!
吉田様、こんばんは。

>前者はダイナミックに溢れていて勢いがよく、印象に残っています。
第3楽章だけ聴きましたが、これは全くその通りですね!晩年のブレンデルとは別人のようです。
この頃録音したベートーヴェンのソナタやピアノ協奏曲が聴きたくなってきました。
好みとしては、ちょっとタッチがきついのと、もう少し表現が細やかな方がいいかなあという気がしました。
その点、ライブ盤は表現が細やかになり、ソノリティの美しさが楽しめました。

>これは記憶が確かならば、イッセルシュテットの最後の録音でした。
その通りだと思います。この盤が注目されたのは、録音後に彼が急死したことが影響していると書いている人がいらっしゃいました。

>アバドのは、オーケストラが神経質なところに違和感を感じました。
>もともと、アバドのブラームスが苦手なこともあり…。
ブレンデルは音のバランスが悪いと言ってましたが、試聴した感じでは、ピアノが遠いとは感じなかったのですが...。
想像するに、オケの出来が悪かったけど、はっきりそう言うわけにもいかないので、録音の音質のせいにしているのかな?と勘ぐってしまいます。

デイヴィス盤は、ブレンデル自身がアバド盤よりも良いと言っているので、お勧めです。
もし、お気に召さなかったら、ブレンデルに文句を言ってください(笑)
No title
とても内容の濃いブログを拝見して改めて敬服する次第です。
私も2番を良く聴いていたのですが、最近は殆ど1番しか
聴かなくなっています。2番の臭み(?)が鼻につくようになって
来たからかもしれません。そんな中でもバレンボイムとクーベリックが
2番演奏したDVDはバレンボイムがブラームスの臭みを意図的に
消そうとしているように見受けられ聴き易かったです。
お勧めどおり良かったです!
こたさま、こんにちは。

お勧めどおり、ブレンデルのライブ盤を聴きましたが、とても良かったです!
それに記事をお褒めいただきまして、恐れ入ります。

2番は第2楽章が好きなのですが、やっぱり1番ばかり聴いてしまいます。
好みが変わったのか、1番の方が好きな録音が多いせいなのか、たぶん両方だと思います。

たしか、こたさまも、アバド盤は音のバランスがそんなに悪くないとおっしゃてましたね。
私も試聴してみましたが、そう感じました。
ブレンデルの好みのバランスとは違うのでしょうか?よくわかりません。

>そんな中でもバレンボイムとクーベリックが2番演奏したDVDは
>バレンボイムがブラームスの臭みを意図的に消そうとしているように
>見受けられ聴き易かったです。

バレンボイムのブラームスは聴いたことがないのですが、ほかの録音を何度か聴いた限りでは、かなりクセのある演奏をする人のように思えました。曲にもよるとは思いますが。
そのせいで、他のピアニストとは違ったブラームスになっているのかもしれませんね。

[追伸]
さっきYoutubeでバレンボイムのライブ演奏を2種類聴きました。
ブラームス風の粘りがなくて、テンポが大きく揺れるところや、左手低音部の重みが少なかったり内声部の扱い方が、ブラームス風の演奏とはちょっと違うのかなという気はしました。
全楽章聴いていないので、はっきりとは言えませんけど。
バレンボイム
Yoshimi様

こんにちは。[追伸]に気付くのが遅れました。Yoshimi様のご指摘の通りブラームス風の演奏では無いと思います。多分意識的にやっている事だと思うのですが、こればかりはご本人に確認しないと判りませんね(笑)
あれが彼のスタイルかと
こたさま、こんにちは。

わざわざコメント下さって、ありがとうございます。
バレンボイムの他の録音を聴いていても、○○風ではないことが多かったように思います。
ベートーヴェン演奏についても、同じ意見は聞いたことがあります。
ある程度、意識的にしている部分もあるでしょうが、逆に、○○風には弾けないという独自のピアニズムを持った人なのかもしれません。


カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。