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アラウ ~ チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
アラウが、ナチスが支配するドイツを離れて米国へ渡った後、1938年~62年にかけて、EMIへ大量の録音を残している。
今まで、分売盤でかなり多くの録音がCD化されており、それをBOXセットにまとめたものが『Claudio Arrau Virtuoso Philosopher of the Piano』

以前、新譜情報でも書いたことのあるこのBOXセット。ようやく入手して聴いてみたところ、やっぱり50歳代のアラウのピアニズムは、1960年代から晩年までPhilipsに残した録音とは違った煌きがあって、とても素敵。
アラウは、某著名評論家の影響かどうかは知らないけれど、1960年代くらいの技巧的に安定した録音よりも、1980年代の晩年の録音を聴いている人が多い。
晩年は技巧的な衰えが進み、それが録音にもはっきり現れているので、聴きづらいものはかなり多い。
といっても、独特な音の透明感や美しさ、純粋さ・本質的な何かを感じさせる演奏の魅力にも抗し難いものがある。

アラウのディスコグラフィを調べていると、EMIでアルチェオ・ガリエラと録音したベートーヴェン、チャイコフスキーのピアノ協奏曲の評価がかなり高い。
分売盤はすでに廃盤になっていたので、入手は難しそうと思って少し諦めかけていたところ、タイミングの良いことに、このEMI録音のBOX集がリリースされた。
これで廃盤探しをする必要もなくなったし、このBOXセットはCD12枚入りなので、プレミアムの載った廃盤の分売盤を買うよりははるかにお得。

すでに分売盤では、ショパン録音とブラームス、ウェーバーのコンチェルトは持っているので、重複は5枚。
残り7枚のうち、シューベルト、シューマン、1930年代の録音はあまり興味がない。
結局、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集とピアノ・ソナタ9曲、それにグリーグ・シューマン・チャイコフスキーのピアノ協奏曲が実質的な収穫。

Icon: Claudio Arrau-Virtuoso Philosopher of the PiIcon: Claudio Arrau-Virtuoso Philosopher of the Piano
(2011/02/28)
Claudio Arrau

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ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、やはり評判どおりの良さ。
Philips盤を上回る内容(4番を除いて)で、少なくとも私には、EMI盤のアラウのベートーヴェンの方をいつも聴きたくなる。

その上、あまり強い期待もせずに聴いたチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番がとっても気に入ってしまった。
そもそもチャイコフスキーは好きではないし、この超有名なピアノ協奏曲第1番も、やっぱり好きではないので、よほどのことがないと聴かない。
聴くとすれば、ハフ/ヴァンスカ/ミネソタ管か、カッチェン/ガンバ/LSOのスピーディな録音。いずれも速いテンポで、ベタベタとしたロシア的叙情感はなく、爽やか。
モノラル録音のカッチェンのチャイコフスキーは力感・スピード感のあるところが好きなので、昔からの愛聴盤。たぶん聴いたことのある人はほとんどいないに違いないけど。珍しくブログで感想を書いているのは、<ウォールのレコード部屋>さん。ほんとにその通りと、いちいち頷いてしまう。

アラウとガリエラのチャイコフスキーに興味があったのは、Schweizer_Musikさんの<鎌倉スイス日記>のブログ記事"B級?否!A級!名演奏家列伝 -4- アルチェオ・ガリエラ"で、「同じ南米出身でもアルゲリッチなどの演奏と正反対の気品あふれる演奏」と書かれていたから。
アルゲリッチを敬遠している私とすれば、彼女と逆方向の演奏なら、一度は聴いてみたくなる。

ガリエラ/フィルハーモニア管盤は、ディヴィス/ロンドン響の録音よりも演奏時間が少しだけ長いので、テンポも心持ちゆっくり。
といっても遅さを感じさせることはなく、力感・量感があり、音の切れも良く、強弱のコントラストもよく利いていて、晩年の録音とは全く違う。オケもピアノをかき消すようない威圧的な大音量で伴奏することなく、アラウのピアノを聴くのにも邪魔にならない。

  ガリエラ/フィルハーモニア管(1960年)  21:36 7:52 7:19
  ディヴィス/ロンドン響(1979年)      21:20 7:47 7:05
 ------------------------------------------------------
  リヒテル/カラヤン/ウイーン響(1962年) 22:11  6:55  7:06


『アラウとの対話』(みすず書房刊)で、アラウとピアノ協奏曲を録音することになった指揮者のディヴィスが、ボストンのホテルに滞在しているアラウの部屋に行くと、アラウは各種無数の版の楽譜を用意して、「20年もこの曲を弾いていないんですよ」と言っていたという。

その20年前に弾いたというのが、ガリエラ/フィルハーモニア管の伴奏によるスタジオ録音。
アラウの演奏は、タッチに切れと重みがあり、音が立ってキラキラと煌いている。
一音一音の輪郭ははっきりと粒立ち良く、晩年の録音と違って音には張りと生気ときらめきがある。
和音が連続するパッセージでも、重量奏法をとっているせいか、バンバン叩きつけるようなタッチではなく、ピアノに重みをかけたような音が品良く、深みがあって伸びやか。
オケが煩くなりがちなこの曲にしては、ピアノとオケのバランスがとても良くて聴きやすい。
フィナーレはテンポが上がって力強く、スケールも量感と力感豊か。
アラウらしいロマンティシズム豊かな表情には、ウェットで重厚なロシア的叙情感は薄くて、優美さとしなやかな力強さがほどよくブレンドされて、品の良さを感じさせる。
Philips盤のアラウとは全く別人のような演奏なので、この曲ってこんなに素敵な曲だったのかしらんとすっかり思い直したくらいに、アラウのピアノの惚れ惚れとするほどに素晴らしいこと。
この演奏を聴けただけでも、BOXセットを買って良かったととても満足。

第1楽章 Allegro non troppo e molto maestoso -- Allegro con spirito
やや速めのテンポで弾くピアノの和音の響きは豊かで深みがあり、力強くも優雅な感じ。
ピアニッシモは繊細で美しい人が多いけれど、フォルテを美しく弾く人はそれに比べて少ない気がする。
Philips盤のアラウは、リズム感がやや鈍く感じることがよくあるけれど、このチャイコフスキーではそういうこともなく、キビキビとリズミカル。

Tchaikovsky Concerto 1 in B Flat minor Claudio Arrau 1 mov Part1



第2楽章 Andantino semplice - Prestissimo - Tempo I
のどかな第2楽章は、かなりゆったりとしたテンポ。オケがほとんど伴奏に回って控えめ。
アラウのピアノは物語的/絵画的で、森のなかを散策しているような情景が浮かんでくる。
ピアノパートの表情がゆっくりと移り変わっていくところは、小動物が動き回ったり、小さな小川や滝があったりといったところ。
中間部の終わり(?)ででてくる細かいパッセージやアルペジオが、とてもリズミカルでダイナミック。

第3楽章 Allegro con fuoco
この楽章もテンポはゆったり。速いテンポで疾走するように弾くピアニストはかなり多いけれど、アラウの遅いテンポは全く重たくなく、落ち着いた優美な雰囲気。
一音一音明瞭で音が浮つくことなく、細かいパッセージの指回りも鮮やか。装飾音も鋭くリズミカル。
終盤はかなりテンポが上がって、スケールも弾力のある鋭いタッチと量感のある音で、力強く駆け上がっていく。

Tchaikovsky Concerto 1 in B Flat minor - Claudio Arrau 3 mov


                     
                          

アラウのチャイコフスキー録音といえば、1979年のコリン・ディヴィス/ロンドン響の伴奏によるPhilipes盤がある。
ガリエラ盤と演奏時間はあまり変わらないけれど、もともとそんなに速いテンポでもなかった。
やや力感が弱く、装飾音・符点のリズムや和音が連続する細かなパッセージのタッチの切れも悪く、76歳頃のアラウにとってはパワー&技巧面でつらいところがある。
ロシア的濃厚な叙情感は好きではないけれど、ロマンティシズムが薄く、まろやかな響きと淡白な表現で蒸留水のようにアクがない。やっぱり何か足らないような気がしてくる。

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
(2004/04/21)
アラウ(クラウディオ)

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チャイコフスキー
Yoshimiさん、こんばんは。

ピアノ協奏曲第1番、とても懐かしく聞かさせて頂きました。
有名な曲だけど、最近はめっきり聞いたことがありませんでした。
あと、第2楽章 Adajioは初めて聞きましたが、個人的には、穏やかで良い感じの曲だと思いました。
ダイナミックな曲です
アメーバの友さん、こんばんは。

この曲はホロヴィッツの演奏が有名ですね。第3楽章が特に面白いです。
私は、緩徐楽章はあまり得意ではなく、速いテンポで躍動感のある急速楽章の方が好きです。
これはチャイコフスキーに限らず、他の曲でも同じです。

バッハ=ブゾーニのコラールで一番好きなのは、
No. 2. "Wachet auf, ruft uns die Stimme"
クリスマスの朝のように爽やかで開放感がありますし、途中の短調もわりと明るめなので、一番気分的に合うようです。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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